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3ここは少女漫画の世界でした

 釣りは、まだ我が家が貧乏になる前には、よく家族で行っていました。

 前世の父が、好きだったのです。

 おかげで私も、釣り好きになりました。


 貧乏になってからは、釣りどころではなかったのですがね。


 そしていざ一人で釣りに出かけました。


 ひひ爺との結婚を控え、たぶん自分でも逃避したかったんでしょうね。

 あと、食糧確保の意味もあったんです。新鮮な魚はおいしいですからね!


 両親も弟妹も、皆笑顔で見送ってくれました。

 特に弟妹なんかは、絶対に行きたかったと思うんですが、父母に言われたんでしょう。それに大きい弟妹が、下の子たちに言い聞かせてくれたんでしょうね。


 今思い出してもなんだか泣けてきます。


 そして家族に見送られ、川に釣りに行ったのはいいんですが、なかなか釣れなくてあせっていたのかどんどん深いほうに行ってしまいました。


 親切にも釣りをしていたおじさんたちに注意されたのですが、聞かなかった罰ですね。


「大丈夫ですよ。よくここには来ていたんで」


 なんてほざいた気がします。


 なのに気づいた時には、足を滑らせて水の底へ___。



 水の底から見た太陽が、きらきら光って綺麗だなあって思ったのが最後の記憶です。



 両親や弟妹がさぞ悲しんだことでしょう。

 本当にごめんなさい。


 ひとつ救いなのが、私の生命保険です。

 会社勤め時代に入った保険があるのです。


 事故だから多分おりるでしょう。

 借金もすごい額ではなかったので、たぶんこれで足りるでしょう。


 本当によかったです。

 途中で何度も保険を解約しようかと思ったのですが、のばしのばしにしていたんです。

 美容院代や洋服代をケチって保険料に回していたんですが、いや~頑張ったかいがありました。


 どうかみんな、元気に暮らしていってね。遠くから祈っています。



 そして私が、今世なぜあんなにもいいなずけさんに付きまとったのか。

 たぶんひひ爺との結婚のせいではないかと思うんです。


 私にも夢がありました。ごく普通の恋愛をして、ごく普通の結婚をする。

 なのに現実は恋愛経験ゼロどころか、ひひ爺との結婚です。


 それがトラウマだったのかもしれません。


 いいなずけさんは、ずいぶんイケメンさんです。たぶんそれが執着してしまった要因でしょうね。

 彼は、前世での私の好みのど真ん中の人だったので。小さい時に紹介されてロックオンしてしまったんですね。前世でも何事もよく言えばいちず、悪く言えばあきらめが悪いといわれていましたっけ。


 今は、違いますよ。

 

 今世でもあんないいなずけさんに執着するあまり恋愛経験はゼロですが、記憶がよみがえった今となっては、恋人がいる人に未練なんてありません。


 パーティーでも恋人をこれ見よがしに連れていて、いちゃいちゃしていて家族が反対するわけです。


 誕生日にもプレゼントはないのはもちろんの事、今回お見舞いにも来ていないのです。

 もちろん私は、誕生日やバレンタインデーには、一生懸命に悩みに悩みぬいてプレゼントをお送りしました。


 あ~あ、もったいない。今思えば、あのプレゼント返してほしいくらいです。



 いいなずけさんなんて、お相手の方にのしを付けてあげちゃいましょう。


 なんせ私千代子は、お金持ちのお嬢様なんで。おほっほっほっ!




 前世を思い出して、今世の今までの黒歴史にのたうち回り、家族には白い目でみられた私千代子です。


 おかげさまで怪我も治りました。一か月もかかりましたが。

 あの時目が開かなかったのは、顔特に目を打ってものすごく腫れていたからなんです。

 鏡で見た時には、びっくりしました。

 まるでボクシングの試合の後のように、顔は腫れ色は紫色になっており、それを見てまた顔色がよけい土色になってしまいました。


「お嬢様がおいたわしい~」

 

 いつも私と一緒にいる久美ちゃんなんて泣き通しでした。


「よくなってよかった」


 私の大好きな慎一郎お兄様もすごく心配してくれました。


「心配したんだよ~」


 お父様はダンディーなお姿で、お忙しいのに何回もお見舞いに来てくれました。

 おかげでお部屋は、お見舞いのお花でいっぱいです。


「女の子が、顔に傷をつけるなんて」


 お母様は跡が残らないように、いろいろパックやらお高い美容液やら持ってきてくれました。少し久美ちゃんに横流しをしましたが。


 今世の家族にもすごく心配されました。恋愛運には恵まれていませんが、前世を含めて家族運にはめぐまれているようで、本当によかったです。


「久美ちゃ~ん、顔の腫れも引いたし怪我も治ったし、美容院行きたいわ」


「そうですね、では予約してきますね」


 久美ちゃんが部屋を出ていきました。そうですね。美容院で、エステもしていただきましょうかね。

 髪も切ってしまいましょうか。

 

 鏡で見るたびに思うんです。

 私の髪は、きれいに縦巻きカールを施してあるんですが、なんだかへんてこです。

 今だって、ちょっと美容院に行かなかっただけで、カールが緩んでいますしね。

 どうしてこんな髪型にしていたんでしょうね。久美ちゃんにそれとなく聞いてみましたが、どうも私がこの髪型をものすごく気に入っていたようなんです。なんででしょうね。不思議です。

 

 そう思いながら、一人部屋の鏡でいつものへんてこな髪型を見ていた時です。不意に頭の中にいろいろな映像が浮かび上がりました。

 上柳千代子? 清徳正樹? 朝月久美? なんかどこかで聞いたことがある名前です。いえっ違う、見たことのある名前です。どこだっけ、あっそうそう、うちにあったマンガじゃん、あ~あ、すっきりした。

 

 えっ___漫画!

 

 なになに? 私は上柳千代子だよね? そうだ、このへんてこな髪型。漫画を見ては、地味な顔なのに髪型だけお嬢様だ! って笑っていました。私が上柳千代子になってしまったの? ただのへんてこな髪型の地味子じゃん!

 

 そうそうヒロインさんは朝月久美じゃなかった? その周りには確かイケメンがずら~りいたよね!

 確か清徳正樹に上柳慎一郎そして香村航。いやだ~。この人たち知ってる~!!! って当たり前だよね。

 いいなずけ(元)に兄に親戚さんじゃない!

 そうか、そうだったのか。

 

 でも漫画と違うよね。私上柳千代子は、朝月久美もとい久美ちゃんをいじめてなかったし、久美ちゃんもう香村航さんと婚約してるじゃん!

 やったね! 確か漫画では、ただプライドの高い千代子が、どこかのパーティーでさんざんにこき下ろされて終わっただけだったけど、久美ちゃんにはもうお相手決まってるしね。ただ漫画では、確か兄の慎一郎と結ばれたんだよね。

 私が前世の影響で、漫画と違う行動をしたから、変わっちゃったのね。ごめんね、お兄様。

 まあ久美ちゃんが幸せならいいよね。

 

 それにしても私グッドジョブじゃない?

 漫画じゃあ、みんなに好かれていた久美ちゃんに意地悪しまくりだったよね。

 でも前世の記憶が戻ってなかったのに、前世貧乏だったおかげで千代子の性格も変わって、久美ちゃんに意地悪どころか、感謝されちゃってさすが千代子! これからは、好きにできるね。お金持ちだし! あ~あ幸せ。

 

 漫画が過激な終わりじゃなくてよかった~。さすが昔の少女漫画だね。

 確かあの漫画は続編も出ていなかったし、もうこのへんてこな髪型やめていいよね。性格は変わっても、髪型は漫画に引きずられたのかしらね。怖~い。

 早く髪型変~えよう!



「髪型変えたいんです。このカール伸ばしていただけませんか。あと色も元の色に直してほしいんです」


 行きつけの美容院でそういうと、お店の人も久美ちゃんも口を大きく開けて固まっています。


 そうですよね~。私千代子は、この髪型が大のお気に入りだったのですから。

 マンガの影響ですが。


 でもです。さすがにこれはないでしょう。ずいぶん頭が大きく見えます。

 こんなへんてこな髪型は無しです。もったいないです。時間もお金も。


 それに現実問題、やっぱり私には似合ってないんです。

 父にも母にも兄にもいいところはちっとも似ていない、このぼんやりした顔の作り。

 無駄に髪ばかり悪目立ちしています。


 残念です。顔はなぜか前世に似ている気がします。どうせなら顔は今世の家族に似たかったです。


 まあここは潔く封印しましょう。このへんてこな髪型を!

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