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2前世の私

 私こと、上柳千代子です。


 階段を踏み外して、ただ今絶賛療養中です。ちなみに昨日、やっと自宅に帰ってこられました。

 

「お嬢様、どうなさったんです?」


 傍らには、心配そうにしているマネージャー兼大切な友人の朝月久美ちゃんがいます。

 通称久美ちゃんです。


 久美ちゃんは、目の前のあれをぼ~とみている私を心配してくれています。


「久美ちゃ~ん、私あれ着て入社式にいくつもりだったのね」


 寝ているこの部屋の奥にはもう一部屋あり、そこは洋服などが置いてある衣裳部屋です。

 といっても十分な広さがあり、前世で私が過ごしていた部屋より広いぐらいです。


 その衣裳部屋は、今ドアが開けられていて奥が見えます。



 そこには、『フリフリのピンクのスーツのようなもの』が、ハンガーにかけられています。


 ちょうど久美ちゃんが、私の着替えを取りに行ってた時、私の目が覚めてとんできてくれたので、ドアが開けたままになったのです。


 そのピンクの物体はどう見ても、私の黒歴史としか言わざるをえません。


 前世の記憶が戻った今、どうやったらあんなものを、会社の入社式に着ていこうなんて思ったのか訳が分かりません。

 あれは、もうスーツとは呼べないものです。

 一応上下に分かれていますが、上はフリフリのフリルがいっぱいついていて、ボタンはパールのようです。

 下のスカートはフレアーでひざ下までありますが、きれいな刺繍が施されていて、まるで結婚式かパーティに着ていく洋服です。


 どうして誰もアドバイスしてくれなかったのでしょう。


 理由も思い出しました。

 家族やここにいる久美ちゃんも、私が清徳グループの会社に行くことを反対していたからです。

 前世を思い出してからは、穴があったら入って埋まってしまいたいくらいに、恥ずかしいことをしていた気がします。


 私上柳千代子は、いいなずけの清徳正樹さんが大好きで仕方がなかったようです。といえば聞こえはいいのですが、あからさまに嫌われるくらいつきまとっていました。

 そんな嫌がらせにとられるぐらいのひどい行動を、いくら家族や久美ちゃんが諭してくれても、私千代子はガンと受け付けませんでした。

 いったい何だったんでしょうね。


 そうです。過去形ですよ、付きまとっていたのは。


 前世を思い出した今となっては、もうまさに黒歴史です。


 なぜ家族や久美ちゃんがあんなにも反対していたのか、それはいいなずけの彼には『思い人』がいたからです。

 しかも両想い、彼は私にはもちろんの事、自分の家族や私の家族にも再三言っていました。

 

 今の関係を解消したいと。

 だから婚約もしておらず、宙ぶらりんの状態だったんです。

 私だけ一人、婚約者(仮)だと思っていたようなんですがね。


 私の家族、特に兄は、私が彼を忘れるようにいろいろ努力していたようです。


 彼以外にもパーティーで、ほかの人と合わせたりとかです。もちろんイケメンさんですよ。

 中には、彼よりカッコいい人もいました。家族が会わせようとするのですから、もちろん品行方正な人ばかりです。


 なのにです。

 千代子は、彼以外目もくれずというか、彼一筋に頑張って空回りしていました。


 可哀想ですね~。当時の私。

 自分で自分を慰めてあげたいくらいです。

 なぜあんなに彼に固執していたのでしょう。家族は、不思議がっていました。


 でも前世を思い出した今となっては、わからなくはないのです。



 前世では、私、名前は思い出せませんが、貧乏でした。


 いえ、はじめから貧乏ではありません。前世の家も会社を経営していました。

 今世のように大企業ではなく中小企業でもなくどちらかといえば零細企業ですが。

 けれど父と母が頑張ってくれていました。


 しかしながら、景気が悪くなってしまったのです。

 世間では、次々に会社が倒産していきました。うちも御多分に漏れす、青色吐息状態になってしまいました。


 ちなみに私は長女でした。下に弟妹があと4人もいます。


 私は大学卒業後、はじめ会社勤めをしていましたが、会社を辞め町工場を手伝うことにしました。

 家族総出で、倹約といろいろ頑張りましたが、後は倒産しかないというところまで追い込まれました。


 そこにヒーローならぬ、ひひ爺の登場です。


 どこで私を見染めたのか、ひひ爺のくせに私に求婚してきたのです。

 私の父よりはるか年上です。ひひ爺は結婚してやるかわりに、町工場を援助してやるといいました。

 もちろん家族命の両親は、大反対しました。

 けれどです。私の下に4人も弟妹がいるのです。


 会社は立ち行かないにしても、借金があるのは大変です。


 うちは毎日が自転車操業でしたので、借金の額は多くはありませんが、すぐに払える額ではありません。


 私は両親の反対を押し切って、結婚することにしました。


 そして最近休みを取っていなかったので、休養と食糧確保を兼ねて大好きな釣りに一人で出かけました。

 自分への最後のご褒美です。

 釣りは父から教わったのですが、最近では余裕がなくて父も私もいっていませんでした。

 私が結婚して少し余裕ができたら、父に弟妹を連れてあげてほしいと思っていました。


 そして前世のお別れの原因となる、釣りへ行ったのでした。

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