15歓迎会です
そうしているうちに歓迎会の日がやってきました。決まってすぐ久美ちゃんには、きちんと歓迎会の事を報告しておきました。
「そうですか。羽目を外さないようにお願いしますね」
「はあい!」
わかってますとも。これでも社会人経験者なんですよ。前世ですが。でも今世では初めてなので楽しみです。ああ、会社のパーティーは何度も出席してたことがありますが、やっぱり歓迎会とは違いますからね。
久美ちゃんの衣装チェックも終えて、会社に出社します。その前に言い忘れたことがありました。
「久美ちゃん、今日は金曜日だし婚約者さんとのデート楽しんできてね!」
久美ちゃんが後ろで、もう~と牛さんの鳴き声を出しているのが聞こえました。
会社に行き着替えていると、桧垣さんがやってきました。
「おはようございます」
「おはよう。そういえば今日なのね、歓迎会」
「はい」
「楽しみね。頑張って」
桧垣さんに激励でしょうか、肩をたたかれました。何をどう頑張るのかわかりませんが、いえなんとなく桧垣さんの言いたいことはわかっております。残念ながら私では、皆さんの希望にそうことはできませんが。つい苦笑いが出てしまい、慌てて更衣室を出ようとした時です。
ぷ~~~ん。
更衣室のドアが開き、何やら香水の匂いが漂ってきました。と同時に杉さんが現れました。
「おはようございます」
「おはよう」
私は杉さんとすれ違いました。香水の匂いは、杉さんから漂ってきます。洋服は、まるでパーティーにでも出るような華やかなワンピースを着ています。
ちらりと桧垣さんを見ると、挨拶も忘れて杉さんをガン見しています。杉さんも見られても平然としていてモデルのように歩いています。ここは更衣室ですけどね。髪の巻きもきっちりとなっているので、お休みした日にちゃんとお手入れに行ってきたようですね。それにしても杉さん、後輩なんですから桧垣さんにちゃんと朝の挨拶をした方がいいですよ。
私はといえば朝から久美ちゃんのチェックが入り、上は普通のブラウスに下も普通のスカートです。プチプラでまとめています。久美ちゃんは抜かりないのです。
杉さんの歓迎会も今日だったのですね。お昼休みにはまた杉さんの話題で盛り上がりそうです。杉さん、話題を提供してくれてありがとうございます。
私が席に着くと、もうすでに出社していた鈴木課長が聞いてきました。
「柳さん、今日歓迎会行けそうかな」
「はい。よろしくお願いします」
「そうか。よかった」
鈴木課長は、ちょうど出社してきた青木さんにも確認をとりました。
「はい。今日はよろしくお願いします」
そのあと皆といっても残りあと二人ですが、その二人も大丈夫とのことで今日は歓迎会があるようです。
やはりというべきかお昼には、杉さんがいつものように食べ終わっていなくなるのと同時に杉さんの事で盛り上がりました。やはり今日のお洋服の事でした。
その話題が一段落した時です。近藤さんが杉さんと同じ庶務の新山さんに聞いています。
「今日はどこでやるの?」
「ああ、本社近くの割烹九十九よ」
「あの割烹九十九? またすごいところでやるのね。あそこテレビでたまに見るけど、お値段もいいのよね」
「そうなの。でも会費はいつもの値段だったわよ。誰かのポケットマネーかしらね。それとね、今日はタクシーで行くのよ。あそこまで」
「「「そうなの?」」」
これには、聞いていたほかの人たちも食いついてきました。ここからだと距離もあるので、タクシー代も結構かかりそうですよね。
「そうそう。だから私今日楽しみなの。だってあんなお店行ったことないし」
「ふう~ん」
近藤さんは、私の方を見て申し訳なさそうな顔をしました。
「ごめんなさいね。この前も言ったけど、私たちはここの近くにある『居酒屋あるある』なのよね」
「いいですよ。そこって皆さんの行きつけのお店なんですか?」
「そうそう。いつもそこで歓迎会や忘年会やるのよ。安くておいしいの」
「『居酒屋あるある』もいいわよ。とにかくお料理がおいしいの。お刺身も新鮮だしね」
桧垣さんも押しています。
「楽しみです」
私が心から言ったのが、みんなに伝わったのでしょうか。近藤さんをはじめ皆さんがほっとするのがわかりました。肩ひじ張らなくてお酒を楽しめる場所もいいものですよね。
仕事が終わり着替えて会社の玄関に行くと、近藤さんや私たちの部署の人たちが集まっていました。といっても私を除いて4人ですが。玄関前にはほかにも人が集まっています。今日本社近くの割烹に行く人達の様です。その輪の中にひときわ目立つドレスのような洋服を着た杉さんが立っていました。その横には、この前見た支店長さんもいます。
私が近藤さんたちの方に行こうとした時です。ちょうど支店長さんと目が合いました。頭を下げて挨拶すると、支店長さんが手招きしました。私が仕方なくそちらに向かうと支店長さんはにこにこしていってきました。
「君も行かないかね。ちょうどいい。君の歓迎会も一緒にどうだろう」
「あっ。いえっ、私は部署で今日歓迎会を...」
「柳さん!!」
私がお断りの返事を言いかけた時です。私を呼ぶ声がして、青木さんが走ってやってきました。
「皆が待ってるよ」
青木さんがなぜか大きな声で私に言ってきました。
「失礼します」
「そうかね。悪かったね。また君たちの歓迎会もしよう」
青木さんは支店長に頭を下げてから私の腕をつかんで、皆のところへ引っ張っていきました。私は正直ちょっと強引に支店長さんとの会話をぶった切った青木さんにびっくりしていました。私はつい支店長さんの顔色をちらりと窺いましたが、当の支店長さんは少しも気にしていないようで、離れていく私たちに声をかけてくれました。私はほっとひと安心しました。
私と青木さんは頭を下げながら、皆が待っている方に急いでいきました。
その様子を一部始終見ていた近藤さんが、やってきた私たちを見て目を丸くしています。しかも青木さんがつかんでいる私の腕ををまじまじと見ているではありませんか。青木さんは、その視線で自分が何をつかんでいるのか、やっと思い出したらしく慌てて私の腕を離しました。
近藤さんがにやりとわたしたちに笑いかけてきました。いやいや、誤解しないでくださいね。近藤さん!




