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彗星と遭う  作者: 皆川大輔
【第1.5部】
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1.5-2「敗軍の将は兵を語る」

 ――負けたチームを見ると、その高校の強さがわかる。


 森下の言葉を思い出しながら熊谷は、春日部共平の監督、松本武雄まつもとたけおに「まずは試合、お疲れさまでした」と勇気を出して話しかける。


 春日部共平を就任三年で二度、甲子園へと導いている采配も去ることながら、春日部共平の監督になる以前は大阪のNT学園でコーチとしても活躍していた。数々の選手をプロ野球の世界へと送り込み、名伯楽めいはくらくとしての一面を持っている。


 指導、采配どちらを取っても名将。醸し出す雰囲気は、そんな前評判に違わない厳かさが溢れていた。

 髪型はオールバックで固めており、きりっとした両目は勝負師のそれだ。


 体格も、大学時代にプロ野球のスカウトも注目していたという噂通り、ガッチリとしている。とても、ひょろひょろ体型の自分じゃかなわないな、と嘆いていると「お疲れ様です。……どなたですか?」と怪しんでいる視線を向けてくる。


 ――えっ……あ、やっべ!


 ここでようやく自己紹介を忘れていたことに気づいた熊谷は、支給されたばかりの名刺を慣れない手つきで取り出すと「速達スポーツの熊谷と申します」と差し出す。


「速達スポーツ……あぁ、森下さんのいるところだったかな」


「あ、はい。森下をご存じなのですか?」


「えぇ、何度か取材していただきまして……もしかして熊谷くん、入社したばかりかな?」


「えっ⁉ そ、その通りですが……」


「やっぱし。いやー、若々しくて羨ましいよ」


 身元を明かすと、警戒を解いてくれたのか先ほどの鋭い眼光が少し緩くなり、優しげな表情で話しかけてくる。


 ――思ったよりも接しやすい人だな。


 イメージとのギャップを覚えながら熊谷は「今日、惜しくも敗戦という形になりましたが……」と申し訳なさそうに言うと「いや、ホントにびっくりしたよね!」と食い気味に言い、顔をくいっと熊谷に寄せた。


「戦力を考えりゃ負けることはないと思ってたんだけど、去年の秋で苦しめられたし、エースで勝ちに行こうと話してたんだけどね。三年生も二年生も秋大会の時よりいい選手になっててびっくりしたよ。奇襲も混ぜながら、上手くウチも翻弄されてね。打順も考えられて組まれてて系統のタイミングも掴めなかったし、勉強になった。向こうの監督さん凄いね! 一度ゆっくりお話してみたいもんだ」


 マシンガンのように話す松本に気圧され、質問を差し込むタイミングを失っていると「あと、あの一年生コンビ!」と自ら話題を変えてきた。


「一年生コンビと言うと、空野くんと武山くんですか?」


「そう、その二人! いやー、地元の埼玉だだったし、注目していたんですよ。特に、武山くんには声かけていて、断られてからは詳しい情報入ってこなくてね……野球は辞めるみたいな噂が流れてたんだけど、いやぁ、情報戦でもやられたなぁ」


 こうやって相手を敬うことを忘れない点が、若くして名将って呼ばれる理由なんだろうか。


 感心しながら「そんな状況でも一点は返しましたね」と話題の方向性を変えてみた。


「そうだね。前のエースが変化球ピッチャーだったから、データもなくて球速差でやられてたけど、だんだん目も慣れてってところだったからね。最終回も行けると思ったんだけど……いやぁ、流石は怪物ってところかな」


 笑いながら話しているが、負け、という現実を感じながら目の奥は笑っていない。次の勝負を見据えているのだろう。


「次は夏の大会になりますが、対策などは」


「ま、練習あるのみってところですね。夏は〝チャレンジャー〟としてやらさせてもらいます」


 そう言うと、森下さんによろしく、と言い残して監督は部員を連れてバスに乗り込んだ。


 部員たちの乗り込んだバスを見送ると、緊張から解き放たれた熊谷は「はあぁ……」と情けない声を漏らしながらその場に座り込んだ。


 何とか、取材を完遂できた。無難だったかもしれないが、聞きたいことは聞けたはず。


 ――……これで怒られたら森下さんのせいにしよ。


 言い訳を考えながら、熊谷は空を見上げた。


「なーに呆けてんの」


 そんな熊谷に、彩星高校側の取材に向かっていたはずの森下が話しかける。


「えっ、森下先輩⁉ もう取材終わったんですか?」


「追いかけたんだけど、受けてくれなかった」


「受けてくれなかったって……」


「収穫ナシだったね。こんな悔しいの久しぶりだ」


 そう言いながらも、森下の目は燃えていた。

 新しいスクープに燃え、未知の才能に惚れ込み、なんとしてでも話を聞こうとする貪欲な姿勢は、記者としての特性と言っても過言ではない。

 自分もここは見習うべきところだな、と思いながら見つめていると「じゃ、怒られにもどろっか」とにっこりと笑みを浮かべながら森下は携帯の画面を熊谷に見せた。


 画面は、部署内のメンバーが自由に書き込めるチャット欄。そこに、編集長から短く〝早く戻ってこい〟とだけ書き込まれている。


 ――絶対怒ってるやつじゃん。


「……僕は関係ないですからね」


 そう言うと「ここまで来たら共犯でしょ?」と彼女は笑った。

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