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彗星と遭う  作者: 皆川大輔
【第1部】
52/177

1-47「リベンジと答え合わせ(2)」

 真田は腕組みをして「さて、ここから延長戦だ」と呟いた。


 納得はさせられたが、結果としてはまだ一人の打者を打ち取っただけで乏しいことには変わりない。

 有無を言わせない結果が出せるかどうか。怪物の船出を見守る観客として、真田は視線を落とした。



       ※



 見逃し三振を喫した真司は「やられたやられた」とどこか嬉しそうな様子でベンチへ帰っていく。


 四番としてベンチで自身の打席を待っていた宗次郎はどこか嬉しそうな様子の真司に「どうした、らしくない」と問いかけた。


「いやぁ、してやられたっすわ」


「ついこの間の試合では打っただろ?」


「そのはずだったんすけどねぇ……」と、真司はマウンドで躍動している彗を見て「別人っすよ、アレ」と、呆れながら笑みを浮かべていた。


「別人?」


「はい……正直、この間はただの速いだけの棒球だったんで余裕だったんすけどね」


「今日はどう違う?」と問いかけると「うーん、なんと言うか……迷いが無い感じなんすよね」と首を捻った。


「迷いが無い、か」


「はい。変化球でかわす様子もなかったっすわ」


「……なるほど」


 ストレートだけかと思えば、今度はカーブとスライダーだけを投げて二番の嵐を打ち取っている。


 教科書通りの配球ではなく、意外性のあるリード。

 加えて、肘が下がるというデメリットを利用して、変化球なら変化球だけを投げると割り切ることで勝負に集中させることができる。

 どんな話し合いをしたのか定かではないが、新太と共に昨日の練習終わりで少しだけアドバイスをしただけでも、二人はたったの一日でその宿題をこなしてきたようだ。


  成長著しい二人の一年生。

 この先、どんな選手になるのだろうかという未来に微笑みながら、宗次郎はバッターボックスに入って剛球を投げ込む彗を見つめた。



       ※



「ナイスボール!」


 真司、荒を連続で打ち取って成果は上々。昨晩、真奈美の零したなんてことのない一言からたどり着いた答えに確信を持ちながら、一星はボールを投げ返した。

 受け取った彗も、上手く事が運んでいてすっかり上機嫌だ。

 当初のリベンジという目的はすっかり忘れた様子で気負いはまるで感じられず、寧ろ楽しんでいることがよく伝わってくる。


「うーし!」


 球を受け取った彗は〝次は何の球を投げさせるんだ?〟と言わんばかりに、早々にサインを確認しようと体をかがめる。

 三番に入っている新太はそんな彗を見て「小学生の頃を思い出すな」と感慨にふけりながらバッターボックスに入った。


 昨日の真奈美との遭遇後、新太が彗の肘が下がっているという欠点を教えてくれたお陰で、この強気で常識外れのリードがある。その一因となってくれた新太に「ありがとうございました」と話すと「なぁに、副キャプテンの役割だ」と笑いながら新太はバッターボックスに入った。


 あの真司や嵐クラスの打者を抑えてクリーンナップに座るということは、相当な強打者に違いない。


 ――試すなら、ココだ。


 導き出した答えが正しいのかどうか、その答え合わせのために、一星はサインを出す。

 球種はストレート。

 コースはアウトコースのボール球。

 真司に打たれた、第一打席の再現だ。


「……マジか」


 マウンドにいる彗の声は聞こえないが、口の形がそう動いているように思えた一星は「マジだよ」と同じく聞こえないくらいの声で呟き返した。

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