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彗星と遭う  作者: 皆川大輔
【第1部】
17/177

1-12「たったひとつの冴えた決め方(2)」

「あ、そうそうそんな感じ。まだそんな若いのか」


「一回戦負けが続いて、前の監督が責任を取る形になったみたい」


「へー……」


 彗は、先日挨拶に行ったときのことを思い出していた。何年も床屋に行っていないだろうぼさぼさな長髪で、無精髭を蓄えており、とても二十代とは思えなかった風貌。よろしくね、と話す言葉もだみ声だった。

 シニアの時の監督に〝優しくて事情も分かってくれる〟と言われたことが最後の決め手。風貌や采配や指導は二の次、とは考えていたものの。


 ――程があるよなー……。


 どうしてあそこまでホームレスチックなのかと疑問になりながらも「まーいいか」と、情報を仕入れることに従事した。


「去年の秋季大会から指揮を執って、準々決勝まで残ったのが最近だと一番いい成績だね」


「一応、腕はあるんだな」


「え?」


「いや、なんでもねー。続けてくれ」


「あ、うん。えっと……部員数は去年まで六十四人だって」


「なるほどね」


 人数は多いけれど、数年は弱小校。監督が変わり、芽が出かけているという微妙な立ち位置。もし他のチームが対戦するとなると〝ラッキー〟と思われてしまうレベルの高校。

 改めて、甲子園とは程遠い高校であることを認識した彗は「やっぱ無理だよなぁ」と地面に寝転がった。


「無理って何が?」


「そらもちろん、甲子園」


「あー……」と言葉を無くす音葉。やはり考えていることは同じようで、しばらくの沈黙の後「ま、今のままじゃ夢物語だね」と吐き捨てた。


 野球は、九人でやるスポーツ。一人だけ突出していても、全体のレベルが高い強豪校がガチガチに研究すれば、容易く打ち倒すことができる。

 これまで、様々な怪物が甲子園の土を踏まずに高校を卒業してきた。

 現役のプロ野球選手でも甲子園未出場な選手は沢山いるし、日本で一番勝利した選手も、日本で一番投げた試合が多かった選手も、高校時代に甲子園の土を踏んだことはない。


「ましてや埼玉だもんなー……」と、彗は携帯で去年の夏の大会に参加した高校数を調べてみた。


 埼玉県は人口も多く、高校数もそれに比例して多い。それは即ち、夏の予選に参加する高校の数が多いことを示している。

 検索結果が表示された。

 案の定、埼玉は日本で五番目に多い県だ。

 競争が激しいのは必至。

 ましてや、一発勝負の世界。例えば試合当日に車に跳ねられたり、大会前の練習試合で死球を喰らい、骨折するかもしれない。

 そんな運も作用する高校野球。

 勝ち抜くためには、一人だけの力では難しい。


「やっぱ必要だよなぁ、アイツ」


 世界一の捕手、武山一星。

 そのピースがあれば、確率はぐっと上がる。


 彗の考えていることと同じなのだろう、音葉も「だね」と頷いた。


「……なんでアイツ野球辞めたんだろうなぁ」


「え、聞いてないの?」


「同じ埼玉って言ったって、世界大会で一緒になったくらいだったからな。しかもアイツ、携帯持ってなかったし」


「そ、そうなんだ」


「お前何か知ってる?」


「ううん。でも多分、真奈美……木原さんが知ってると思うよ」


「あー、そう言えば昨日よろしくやってたもんな」


「よろしくって……ま、学校行ったら話聞いてみようよ」


「そうだな」


 話し込んでいる間に、もうそろそろ八時前。始業にはまだ遠いが、そろそろ校門が開く頃合いのはず。

 そろそろ向かうか、と練習着から着替え始める彗。


「あのさ、この間も言ったけど……一応女子がいるんだからさ、気遣ってよ」


 口を尖らせてから背中を向ける音葉に向けて彗は「野球やってたんならもう男みたいなもんだ」と笑い飛ばした。

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