7.
時折実家から届く手紙。内容はいつでも「助けてほしい」ばかり。比較的豊かな国に生きていても、貧困に苦しむ者がいないわけではない。実家も、そういう家だった。
とはいえ、ぽこぽこ子供を増やさなければもう少し余裕はありそうなものだが、子供が好きだという父親の望みらしい。だからといって、娘に負担をかけるなと思いはする。
「ティナ、ご実家からお手紙が届いたわ」
「ありがとうございます、マーサさん」
女性使用人を纏める侍女長マーサ。やせぎすで神経質そうな顔をしているが、勤務時間外には悩み事を聞いてくれるような女性。オンとオフの切り替えが上手い人なのだが、若い使用人からは恐れられていた。
「最近よく手紙が来ているわね」
「妹が結婚することになりましたので。お手数おかけいたしました」
「あら、おめでたいじゃないの。お祝いには行かないの?」
「…奥様のお傍を、離れたくないのです」
その言葉に嘘はない。家を出てからもう十五年、一度も戻ったことは無い。大人になるにつれ、親なりの愛情だったのだと理解できるようになっても、今更会いたいとは思えないのだ。
顔もよく覚えていない妹。それが結婚と言われても、心の底からおめでとうと言う気にもなれない。どうせ他の妹や弟たちも、顔を知らない姉に会いたいとは思わないだろう。
そもそも、会いたいならば会いにくれば良いのだ。ティナは会いたいと思わない。だから会いに行かないし、最低限の事しかしない。
これ以上家族の事をどうこう言われたくない。上司相手に不躾かとは思うが、軽く頭を下げてその場を去る。
握りしめた手紙をエプロンもポケットにねじ込むと、ティナは静かに主の元へ急いだ。
◆◆◆
一日の仕事を終え、自室で手紙を開く。
どうやら妹は無事に結婚式を終え、嫁ぎ先に迎え入れられたらしい。小さな式だったそうだが、幸せそうに微笑んでいたと記されていたが、正直興味はない。
主の結婚はあんなにも心が躍ったのに、血の繋がった妹の結婚にはこんなに興味を持てないなんて。流石に薄情すぎるだろうか。
「お前の主も妹も結婚した。そろそろお前も良い年頃なのだから、結婚相手を見つけなさい」
そんな内容で締めくくられていたが、余計なお世話だ。
自分が結婚し、夫を支えながら子供を育てるところを想像してみる。勿論セレスの侍女からは外されるだろう。そんな未来を想像してみても、ただ気分が悪くなるだけだった。
最近何だか可笑しい。セレスが嫁いでから、居場所を奪われてしまったような、一番近い場所を取られてしまったような気になって、子供のように嫉妬している気がする。
らしくないということは分かっているが、環境が変わった事がまだ受け入れ切れていないのだろうと自分を納得させた。
明日も早い。そろそろ眠らなければならないのに、無性にイライラと落ち着かずに眠れない。ベッドに潜りこんでみても、目を閉じてじっとしていても、必要のない「家族」という言葉が頭の中をぐるぐると廻って止まってはくれない。
明日の化粧は少し濃くしなければならなそうだ。