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18.5

デイル視点番外編です。読まなくても本編に支障はありません

このところ、毎日毎日退屈だ。騎士が暇を持て余すということは、平和な日常という事で良しとするが、最近は侍女目当てに上官の屋敷へ訪ねて行っても、侍女は姿を現してくれなくなった。

先日街中を追いかけまわしてしまったことが原因なのだろうが、だからと言って完全に避けて逃げ回る程悪い事をしてしまっただろうか。多少怯えさせてしまった気がしなくもないが、こんなにも徹底的に逃げられる程悪い事をしたとは思えない。


「また溜息か」

「溜息も吐きたくなりますって…上官は仕事ほっぽり出して身重の奥方の所にさっさと帰るし、その分俺の仕事は増えたし!気に入ってる女の子には避けられるしもう散々ですよ」


少々大げさに不満を露わにしたところで、アランは大して気にもしない。最近はそれ程仕事を放り出すことは無くなったが、それでもきっちり定時にはいなくなる。たとえどんなに急ぎの仕事があったとしてもだ。

おかげで相変わらず仕事のしわ寄せが来ているし、現に今はアランの執務室で書類整理の手伝いをさせられている。


この先いつ生まれても可笑しくない時期になればまたそわそわと仕事にならない日々が続くのだろう。生まれたら生まれたで、どうせまた仕事にならないのだ。可愛い子供の自慢をしては、でれでれと締まりのない顔を晒すに違いない。そう思うと、デイルは既に頭が痛む気がした。


「何だ、ティナには振られたか」

「振られたというか…避けられてて顔も見てないです」

「それは振られたんだろう」

「顔見て断られるまで粘ります」


それは流石にやめておけとアランは苦笑するが、デイルは大人しく諦めるのは惜しくてならない。


いつも団子状にきっちりと纏められたくすんだ金色の髪。オフの日に降ろされた髪は、風や動きに合わせてサラサラと揺れた。ティナにとっては何ともない、ただのオフモードなのだろうが、なんだか特別な姿を見ているような気がしていた。あの姿がもう一度見たいのに、こうも避けられていては休日のデートに誘うことも出来やしない。上官の幸せそうな惚気話を毎日のように聞かされては、癖の無いあの髪と、深い緑の瞳を思い出す。


「あまりしつこくすると、嫌われるんじゃないか」

「嫌われるのは流石に…」

「押して駄目なら引いてみるというのは、よくある手なのではないか?」


引いた途端向こうから寄ってくるかもしれないぞと言われても、本当にそうなるかは分からない。あっという間に他所の男に掻っ攫われてしまったらどうすれば良いのか。


「侍女殿俺じゃない男にも誘われてるらしいんですもん…」


うじうじとぶすくれながら、山積みになった書類たちを仕分けていく。そろそろ指先の油分が紙に吸われすぎてカサカサしてきた。アランも目頭をぐりぐりと指先で揉みながら天井を仰いでいるが、ここまで仕事が溜まったのは、幸せを享受しすぎているからだ。もう少し真面目に仕事をしてほしい。


「チャーリーか。確かきっちり振られたらしいぞ」

「本当ですかそれ?」

「ハロルドからの情報だ。確かだろう」


いつも不機嫌そうな顔をしたあの執事かと思いつくが、あの執事からの情報ならば確かなのだろう。恋敵が一人減ったことに安堵したが、だからと言って自分は振られないという事にはならない。


「お前はこういう話は面倒なんだな。普段はもっとこう…短絡的だろう」

「それ悪口ですか?」

「そうじゃない。小難しく考えるよりも、とりあえず行動する男だろうが。色恋沙汰となると、こうもうじうじと面倒だとは思わなかったが」


後半は完全に悪口だろう。じとりと睨んでみても、アランは全く気にする様子もない。セレスと婚約するまでは、アランとデイルの立場は逆だったのに。それを言わないでいてやるのが、良い部下というものだろう。


「別に俺はお前とティナがどうなろうと構わん。だがティナはセレスの侍女なんでな。侍女を泣かせれば主が黙っていないからな」

「…奥方が怒ったら怖そうだ」


全く想像もつかないが、これはアランなりの励ましなのだろうと結論付ける。もう少し何か言い方というものがありそうなものだが、妻以外に優しくするつもりはないのだろう。


「そろそろ口より手を動かせ。今日の仕事が片付かんと帰らせないと団長殿からのお達しなんだ」

「自業自得じゃないですか!」


今日も今日とて帰りは遅くなりそうだ。あの美しい侍女に会えるのはいつになるだろう。深い溜息を大きく吐きながら、デイルは渋々アランの手伝いに戻るのだった。


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