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問題児と異世界転校

 その日の休憩時間、朔也は案の定というべきか、高校の教頭から生徒指導室に呼び出されていた。


「君ねぇ……入学式からたった三ヶ月なのに、これでもう九回目なんだよ? おまわりさんから学校に連絡があったのはさ。今回は四人も病院送りにしちゃったんだって?」

「手加減して魔力の塊をぶつけてやっただけですよ。あれくらい手を抜いたら、普通にぶん殴った方が痛いくらいだと思いますけど」


 朔也は投げ槍な態度で教頭に言い返す。


「そ、そんな魔法みたいなこと……ああ、いや、魔法なんだっけか……」

「国の研究機関だか何だか知りませんけど、俺のことを調べまくった人達はそう言ってましたね。問い合わせてみたらどうです? どうせ答えてくれないと思いますけど」


 頭髪が少々心許ない様子の教頭は、明らかに朔也のことを腫れ物扱いしていて、怖がりながらも最低限の見栄を張っているようであった。


「第一、あんなの誰だって不良を蹴散らして女の子を助けるシチュエーションでしょ。柔道部なら投げ飛ばして、空手部なら蹴り飛ばしてたんじゃないですか? それでも同じように説教とかしてました?」

「ええとねぇ……それはねぇ……時と場合によるというか……」


 煮え切らない教頭の態度に、朔也の苛立ちが一秒ごとに火力を増していく。


 教頭は怯えの色を顔に滲ませながらも、辛うじて教師らしい態度だけは保ったまま、一冊の冊子を朔也の前に差し出した。


「は、話は変わるんだがね。むしろこちらが本題なんだ。叱ろうとかそういうつもりで呼び出したわけじゃなくてね、うん」

「……何ですか、これ。連合帝国魔導学園、入学案内……暫定日本語版? 意味分かんないんですけど」


 朔也に睨みつけられた教頭は、額に脂汗を浮かべて視線を泳がせながら、この冊子を渡した理由を説明した。


「実はね、うちの卒業生の一人が魔導世界っていう異世界の学校で働いているんだけど、その学校が『魔法の才能がある日本人を特待生として受け入れたい』って言ってるそうなんだ」

「異世界の……魔法の学校……」

「君が希望するなら、なんだけどね。よかったら、異世界の学校に転校してみないかい? 文部科学省の方とも話がついていて、あちらの学校を卒業したら、高校を卒業した扱いにできるそうなんだけど……」


 教頭は露骨に朔也の反応を伺いながら、ぽつりぽつりと小刻みに言葉を付け足している。


 ――異世界の学校に転校しないか。


 この提案の主旨を理解するなり、朔也は大きな声を上げて笑い出した。


「ぷっ……! あはははははっ! 厄介者を学校どころかこの世界から追放するってわけですか! こりゃあいい! どうして今の今まで、誰も言い出さなかったんでしょうね!」

「い、いやいや、追放とかそういうのじゃなくってね?」

「誤魔化さなくてもいいですよ。ただ歩いてるだけで化け物扱いされる世界なんて、こっちから願い下げです」


 朔也はニヤリと笑って冊子を掴むと、勢いよく椅子から立ち上がった。


 魔法が当たり前に使われている世界なら、魔法を使えるというだけの理由で嫌悪されることはないはずだ。


 向こうにとっての異世界人だという理由で警戒される可能性も否定はできないが、それでも現状よりはずっとマシに違いない。


「異世界転校。いい響きじゃないですか。喜んでお受けしますよ。魔法が普通にある世界なら、俺みたいな奴だって普通に暮らせるはずですからね」


 千載一遇とはまさにこのこと。

 朔也は人生を仕切り直す好機を逃すまいと、すぐさま返事をしたのだった。






 ――異世界転校の提案を受けてから十日後。


 朔也は詳しい説明を受けるため、都内某所にある世界管理局の東京支部ビルを訪れた。


 真新しいその建物は普通のオフィスビルと変わらない佇まいで、受付の雰囲気も異世界(ファンタジー)らしさと無縁な普通さであった。


 折りたたみテーブルが一つだけ置かれた小会議室で待つように言われ、十分程スマホを弄って時間を潰していると、小柄な若い女性が急ぎ足で駆け込んできた。


「ごめんごめん! 遅れちゃった?」


 朔也は若い女性に視線を向け、その外見に目を丸くした。


 未成年でもギリギリ通りそうな背格好で、ボブヘアの頭は鮮やかなピンク色。


 もしや異世界の人間が来たのではと思わずにはいられない容姿である。


「初めまして、岩永朔也君。私は上代(かみしろ)遥。君と同じ高校の卒業生で、今は世界管理局所属の研究者と、魔導学園の教官を兼業してます。急な提案だったのに、快諾してくれてありがとね」

「ええと……日本人、なんですか?」

「もちろん! あ、この髪はただの趣味だから。あっちの人達は髪や目の色がバリエーション豊かだから、これくらいしても全然浮かないの。もちろん黒い子も普通にいるし、素敵だと思うけどね」

「あ……はい」


 朔也はすっかり遥にペースを握られてしまい、戸惑いながら話に耳を傾けていた。


 ――魔法を使えるというだけで怖がる者は珍しくなかった。


 ――研究対象として冷徹に観察してくる者も多少はいた。


 しかし、何もかも承知の上で普通に接してくる者は滅多におらず、どんな風に対応すればいいのかよく分からなかったのだ。

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