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最初のチェックポイント

 事前の説明の通り、オリエンテーリングの進行はとてものんびりしたものであった。


 順位を決める競争ではなく、チェックポイントを巡る順番も決まっていないということで、どの班も散歩気分でゆっくり島内を歩き回っている。


 朔也とセレスティアもその例に漏れず、地図と周囲の風景を照らし合わせながら、マイペースにゴールを目指すことにしていた。


「それにしても、さっきからすれ違う奴らにジロジロ見られてる気がするな」

「気の所為じゃなくて、実際にまじまじと見られているんだよ。異世界からの転校生とカエレスティスの神子(かみこ)が二人きりで歩いているんだ。注目を浴びて当然だよ」


 カエレスティスの神子(かみこ)――朔也は聞き慣れない単語に怪訝な顔をした。


 セレスティアはそんな朔也の表情の変化に気が付き、念の為の確認だと言わんばかりに問いかけた。


「ボクがどんな立場なのか、他の生徒から聞いていなかったんだね。それなのに声を掛けてくれたなんて、正直に言って驚きだ」

「どうせ俺には関係ないことだろうしな。ひょっとして、あんたも王侯貴族だったりするのか?」

「あはは。残念ながらハズレだよ。普通の家庭じゃないのは間違いないんだけどね」


 朔也はこの流れで『カエレスティスの神子』について説明してもらえることを期待したのだが、セレスティアの興味は本題のオリエンテーリングの方に戻ってしまっていた。


「おっと! このランドマークはあそこじゃないかな?」

「うわっ……!?」


 手元に広げた地図を不意打ちで覗き込まれ、朔也は上擦った声で身を(よじ)った。


 綺麗な銀髪がこんな至近距離に近付くなんて、さすがに想定の範囲外だ。


 いくら冷静に立ち振る舞えと自分に言い聞かせても、セレスティアの横顔を目の前にしたら落ち着きを失いそうになってしまう。


「一つ目のチェックポイントは向こうの森の中だね。さっそく通過してしまおうか」

「あ、ああ……のんびりしてたら日が暮れるしな」


 そこは森の中に口を開けた洞窟であった。


 周囲の草木は綺麗に刈り払われており、生徒が訪れることを想定した準備が丁寧に整えられている。


 さっそく洞窟に踏み入ろうとした矢先、何やら奥の方で人の声が響き渡ったかと思うと、何故かずぶ濡れになった一団が大わらわで走り出てきた。


「うわぁ!?」

「くそ! なんて奴らだ! さっさと次に行くぞ!」


 朔也は先頭の生徒と危うくぶつかりそうになったのを、ギリギリで身を翻して回避した。


 相手も外に誰かがいたのは想定外だったらしく、驚いて転びそうになりながらも、何とか踏み止まって振り返った。


「あ、危ないな! ぼうっと突っ立ってるんじゃない!」

「そっちこそ、いきなり飛び出してきたり……ってお前は……アッシュ・フェニックス!」


 洞窟からずぶ濡れで飛び出してきたのは、入学直前に朔也と一悶着を起こした貴族の少年であった。


「全員揃ってそんなずぶ濡れとか、一体何があったんだ?」

「ふん! 答える義理はないね。これもオリエンテーリングの一環だと思って、無様を晒すがいいさ」

「それ、今の自分が無様って言ってるようなものじゃ……って、おい。ちょっと待った!」


 朔也はマックスが率いる班の違和感に気がついて、立ち去ろうとするアッシュを呼び止めた。


「ひぃ、ふぅ、みぃ……やっぱり四人いるな」

「……それがどうした? どうせ割り切れない人数なんだから……」

「お前かぁー!」


 アッシュに飛びかかってヘッドロックを仕掛ける朔也。


 あまりの不意打ちにアッシュも対応しきれず、為す術もなく首を抑え込まれてしまう。


「ア、アッシュさーん!?」

「のわっ! な、何をする!」

「お前が勝手なことしたせいで、こっちは一人足りてないんだよ!」


 慌てふためく三人の取り巻き達に、朔也の腕に捕まえられたままジタバタともがくアッシュ。


「くそっ、外せない……この馬鹿力め!」

「魔力の強化って腕力も上がるんだよな? ほら、どうせこうなる運命だったんだから、諦めてついて来いって!」

「止めろ! 引っ張るな!?」


 朔也とアッシュは騒がしく揉み合いながらも、じりじりと洞窟へ踏み込んでいく。


 一方のセレスティアは、まるで子供の喧嘩でも眺めるように、少し離れた場所から困った顔で微笑を浮かべていた。


「やれやれ。男子は波長が合うと途端に精神年齢が下がるね。異世界人も同じなのは安心したというか何というか……おっと、君達。悪いけどリーダーを借りていくよ」

「借りていくって……ええっ!? カ、カエレスティスの神子……!」

「あの転校生、どんな度胸してやがるんだ!?」


 アッシュの取り巻き達はセレスティアに気付くなり大いに動揺し、逃げるようにこの場から走り去っていく。


 セレスティアはその背中を感情の薄い目で見送ってから、再び視線を洞窟の方に戻した。


 そして心なしか楽しげな雰囲気を漂わせて、一足先にチェックポイントを目指して洞窟に入った朔也とアッシュの後を追ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きはいつ更新されるのでしょうか?
[良い点] 異名・二つ名が通る世の中なんですね。 朔也もそのうち何か手に入れますかね。 そして、運命で引っ張られるアッシュがいい感じになってくれますように
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