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少女の名はセレスティア

「そこのあんた、また会ったな。まだ班が決まってないなら……よかったら一緒に回らないか?」


 銀髪紫眼の怜悧な少女が、整った顔にうっすらと笑みを浮かべて朔也と向かい合う。


 長袖のワインレッドの上着に短めのグレーのスカート、脚を覆う黒いタイツ、あるいはストッキング――朔也の服飾知識では区別を付けられない代物だ。


 それらを身に纏った細身のシルエットの背中側では、これまた目を見張るほどに美しい銀色の髪が首の後ろで纏められ、腰どころか太腿に届くのではと思えるほどに長く伸ばされている。


「おや、久し振り。列車にはちゃんと間に合ったかな?」

「あー……それはひとまず置いとくとして……」


 朔也はバツが悪そうに言葉を濁し、話題を逸らすかのように本題を繰り返した。


「そんなことより、早いとこ班を決めちまわないと、置き去りくらいそうだからさ。迷惑じゃなかったらでいいんだけど……」

「迷惑なものか。喜んで同伴させてもらうとも」


 勢いのままに話しかけたものの、いざ少女と向かい合うとしどろもどろになりかける朔也。


 少女はくすりと笑みを浮かべ、両手を広げて朔也の提案を承諾した。


 周囲から遠巻きにされていたことについて、さほど気にかけているようには思えない様子である。


「そうと決まれば、お互い名乗っておいた方が良さそうだ。ボクはセレスティア。フルネームはセレスティア・ドナーだ」

「岩永朔也。岩永は苗字で、朔也の方が名前だ。こっち風に言うならサクヤ・イワナガかな」

「サクヤ・イワナガね。うん、覚えた。同郷というだけあって、カミシロ教官と名前の響きが似ているね」

「……似てるか?」


 岩永(Iwanaga)上代(Kamishiro)朔也(Sakuya)(Haruka)


 苗字はともかく、名前の方は母音が一致しているので、こちらは響きが似ていると言えなくもないのかもしれない。


 そんなことを考えていると、まさに噂をすれば何とやら。


 宣言通りに入学式を切り上げてきた遥が、急ぎ足で朔也のところに駆け寄ってきた。


「ごめんごめん! 思ったより時間が……って、あれ? セレスティアちゃん?」

「おはようございます、カミシロ教官」

「えっと……正直、ちょっと意外な組み合わせかなって」

「オリエンテーリングの班分けに困っていたところを、彼に声を掛けてもらったんです。最悪、一人で回るしかないかなと思っていましたから、まさしく渡りに船でした」


 翻訳魔法の仕様かもしれないが、セレスティアは先程の中性的な口調ではなく、普通の敬語表現で遥に状況を説明している。


 遥は朔也とセレスティアを交互に見やり、心の底から安堵した様子で微笑んで、胸の前で両手をぽんと打ち合わせた。


「よかった。二人が仲良くなってくれたなら一安心ね」

「ぼっち確定だなって思ってたからですか?」

「え、いやいや、そういうわけじゃなくってね!?」


 妙にからかい甲斐のある反応を見せる遥に、朔也は思わず笑いを溢してしまう。


 そして三人組の最後の一人を探そうと周囲を見渡し、もう既に自分達以外の全員が講堂を後にしようとしていることに気がついた。


「……あれ? 何かもう取り残されてね?」

「おかしいな。二年生はキミ含めて百五人だから、ちょうど三人組が三十五個できるはずだ」

「うん、そのはずなんだけど……ちょっと他の先生と話してくるね」


 遥はオリエンテーションの進行役をしていた犬獣人の女教師に駆け寄り、その他の教官も含めて何事か話をしてから、大慌てで朔也のところに駆け戻ってきた。


「えっと……あのね? ほら、朔也君の飛び級って急な話だったでしょ。だから『二年生は()()()で二人余るはずだ』って勘違いした班があったみたいで……」

「勝手に三人以外で班を組んだ奴らがいたと」


 朔也は遥が言おうとすることを呆れた声で言い当てて、同じく呆れ顔のセレスティアと顔を見合わせた。


 単純明快だが迷惑千万。


 どうせ二つは四人組ができるんだろうと思い込み、意気揚々と四人組で出発した班がいたせいで、朔也とセレスティアは三人組を組むことができなくなってしまったわけだ。


「大変申し訳ないんだけど……今日のオリエンテーリングは二人で回ってもらえないかな」

「えっ……!?」

「ボクは構いませんよ。ただチェックポイントを巡るだけですし。もちろん彼が嫌がるようなら無理には……」

「いや、その、俺も嫌とかいうわけじゃ……」


 ほぼ初対面の美少女と二人きりで島を巡るというのは、正直に言って朔也の勇気の上限ギリギリの行動だ。


 相手が同年代の少年ならまだ良かった。


 もう一人でも同行者がいれば誤魔化しも利いた。


 けれど見目麗しい美少女と二人きりになるだなんて、考えれば考えるほどにプレッシャーが大きくなっていく。


 しかし、セレスティアに対する周囲の態度に反発したからとはいえ、自分から一緒に行こうと声を掛けてしまった以上、二人きりならやっぱり嫌だと掌を返す真似などできるわけがない。


 この流れで拒否できる者がいるとすれば、よほど空気を読まない能力に長けているに違いなかった。


「……分かりました、分かりましたよ。しょうがないから二人で行ってきます」

そろそろ書き溜めのストックがなくなるので、のんびり更新にシフトしていこうかなと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自由ですね、もうスタートしてる組があるとは。 しかし、初デートかぁ
[一言] 思い込みで確認もせず4人組を作っていくのはね・・・(ただ回るだけなら2人組を1つ作るかも知れないのに)。ここの校風が自主行動を重んじるのかその人達が勝手なのかはちょっと分かりませんがどうも面…
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