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オリエンテーション&オリエンテーリング

 オリエンテーションの会場には多種多様な学生が集まっていた。


 比率としては、いわゆる人間と獣人が半分ずつ。


 しかしそれらの中にも豊富なバリエーションがあり、どれかが『普通』だと決めることはできそうになかった。


 人間は髪の色も瞳の色も多種多様で、強いて言うなら茶色系統が比較的多いだろうかという程度だが、それすらも褐色から小麦色まで幅が広い。


 遥のピンク色に染めた頭髪も、本人の言う通りこの世界ではさほど目立つものではなく、逆に朔也のような黒髪は珍しい部類のようだ。


 そして、獣人の方は更に見た目の種類が多彩であった。


 大まかに分類するなら、学生全体の五割を占める獣人のうち、犬科、猫科、爬虫類の特徴を持つ三種類がそれぞれ一割ずつと、他の種類と比べると少々多いようだ。


 残り二割は、鳥やら兎やら牛やら、学年に一人や二人しかいないような種類が分け合っている。


 この上、同じ動物の特徴を持つ獣人であっても、二足歩行になった動物としか言いようのない者もいれば、耳や尻尾を見なければそれと分からない者もいた。


 あえて『存在しないもの』を挙げるなら、魚や海獣などの水棲生物の特徴を持った獣人だろう。


 学園が内陸部にあるせいか、それともこの世界には存在しないのかは知らないが、少なくとも陸棲の動物の獣人ばかりなのは間違いなかった。


 なお説明会の内容は、遥が言っていたように授業の開始に向けた様々な注意事項であり、朔也以外の生徒も真剣に耳を傾けていた。


「それでは、本年度の二年生オリエンテーションを終わりたいと思います。続きまして――」


 やがて司会進行役の犬獣人の女性が、オリエンテーションの終了と次のイベントの開始を宣言する。


「――アヴァル島()()()()()()()()()についての説明をいたします」


 オリエンテーリング。


 朔也の知識が性格なら、それは地図を頼りに山中や森の中を駆け回り、幾つかのチェックポイントを規定の順番で巡る時間を競う、ある種のアウトドア競技である。


 女教師の説明もおおよそ同じだったが、チェックポイントを巡る順番が順不同である点と、特に順位をカウントしない点が、通常のオリエンテーリングとの相違点であった。


「一年生の訓練場は湖の外にありましたから、島に来たのは入学式以来の人もいるんじゃないでしょうか。このイベントは、そんな皆さんに学園の敷地を巡ってもらって、大まかな土地勘を掴んでもらうことにあります」


 競争を目的としたイベントではないのだと、犬耳の女教師は重ねて強調する。


 正式な学生の数はおよそ四百人。


 さすがにそれほどの人数を抱え込むキャパシティは、この島にはなかったということなのだろう。


「では、自由に三人組を作ってください。このオリエンテーリング限りの班ですので、難しく考える必要はありませんからね」


 それを聞いて、朔也は露骨に身構えた。


 数多くの子供を苦しめた呪いの言葉『それじゃあ二人組作って』の亜種と、よもや異世界で対面することになるとは。


 班分けを生徒に丸投げする風習は世界を問わないのか。


 朔也が昔のことを思い出して戦慄(わなな)いている間にも、他の新二年生達は続々と班を組み始めている。


 このままだと余り物になると焦った朔也の視界に、誰からも話しかけられていない女子生徒の姿が映った。


 長く伸ばされた銀色の髪。吸い込まれるような紫色の瞳。


 間違いなく、この世界に転移したその日、帝都中央駅で遭遇したあの少女だ。


 朔也はオリエンテーリングの班を決めなければならないのも忘れ、しばらく銀髪紫眼の少女の横顔に見入ってしまった。


「……っと、そうだ。どこかの班に入らないと」


 偶然見かけた美少女に見惚れていて、オリエンテーリングの班に入りそこねましただなんて、とてもじゃないが他人に話せる経験ではない。


 朔也は周囲を見渡して、まだ三人揃っていないグループがないか探してみたが、そんな都合のいいものはどこにも見当たらなかった。


 こうなったらなけなしの勇気を振り絞って、銀髪紫眼の少女に声をかけるしかないのだろうか。


 自分から異性に声をかけるという不慣れな行動に躊躇していると、背後から慌てた様子の声が投げかけられた。


「お、おい! そいつは止めとけって!」

「……は?」


 思わず威圧するような声を漏らしながら、朔也は声のした方へ肩越しに振り返った。


 声を掛けた男子生徒は、朔也の睨むような眼差しに気圧されて、班の他の二人と一緒に後ずさった。


「いやその……何というか、あいつはヤバいというか、畏れ多いというか……とにかく凄すぎるからさ……」

「ご忠告どうも」


 関わるなという男子生徒の忠告は完全に逆効果、火に油であった。


 どんな理由があるのか知らないが、特定の誰かを除け者にしようという行動は、朔也に最大の不快感を与える()()である。


 嫌うのならば真っ向勝負で嫌えばいい。

 偉大だと思うならば避けたりせずに崇めればいい。


 理由が何であるにせよ、周囲の人間が足並み揃えて距離を置き、人の輪から弾き出すことで解決を図ることそのものが、朔也にとって不愉快な行動だったのだ。


 しかし、だからといって事情も知らずに周囲を非難するほど、朔也も常識のない人間ではない。


 あくまでこれは朔也個人の主義主張、趣味嗜好の問題なのだから、対応はもっとスマートにやるべきだ。


 だから朔也は、周囲が驚き慌てるのにも構わず、ごく自然な態度で少女に声を掛けた。


「そこのあんた、また会ったな。まだ班が決まってないなら……よかったら一緒に回らないか?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前回の遭遇時とは違って今は少女からは朔也への興味はないのか。 そういうフリか。 その内朔也も、組むには畏れ多いポジションにハマりそうですが
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