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場違いな魔法使い

 いわゆる『異世界』が発見されたのは、今から三十年前の二十世紀末のことだった。


 各国政府は混乱を避けるためという名目で、異世界に関するあらゆる情報を隠蔽すると同時に、国際的な研究機関を秘密裏に設立。


 二十年に渡る研究の結果、人類は安定した異世界転移技術を確立させるに至った。


 そして今から十年前、各国は満を持して異世界の存在を公表し、大規模な異世界転移装置の開発競争をスタートさせたのである。


 だが、一般市民の生活は驚くほどに変わらなかった。


 最初こそ異世界ブームとでも呼ぶべき賑わいをみせたが、政治・文化・環境への配慮という理由で、民間人の異世界転移は厳しく制限され、メディアの取材も規制されてしまったのだ。


 その結果、異世界は一般人にとって『実在することだけは知っているが、詳しいことは何も知らない存在』となっていた――






 ――西暦二〇三〇年七月、都内某所。


 今年高校に進学したばかりの男子高校生、岩永朔也は、通学路である裏路地を気だるげに歩いていた。


 両耳にはワイヤレスイヤホンを付け、適当なインターネット配信の音声を垂れ流しにしていて、通学中の他の生徒と関わる様子が全くない。


 そして他の生徒達も朔也を遠巻きに避けており、あえて話しかけようとする生徒は一人もいなかった。


 しかし、朔也が虐められていたり、あるいは嫌われていたりするのかというと、答えは(ノー)である。


 端的に言うなら、朔也は怖がられている。


 お世辞にも目付きはよくないが、威圧感を与える体格というわけでもない朔也に対し、通学中の生徒達は檻から逃げ出したライオンを見るような視線を向け、我先に距離を取ろうとしているのだ。


 朔也は周囲の反応に諦めの溜息を吐き、何もかも諦めたような顔で通学路を歩き続けていた。


「……ん?」


 ふと、朔也の視界の隅に、物騒な光景が飛び込んでくる。


「いいじゃねぇか。ちょっとくらい付き合えよ」

「ご、ごめんなさい……これから学校が……」

「一日くらいサボっちまえって! なっ?」


 他校の生徒と思しき不良の集団が、朔也と同じ学校の女子生徒を取り囲み、明らかに不健全な遊びに引き込もうとしている。


 朔也はさっきよりも更に深い溜息を吐いてから、不良達に近付いて不機嫌そうに声を掛けた。


「おい」

「あん? 何だテメェ」


 不良達が朔也を睨みつける。


 女子生徒は助けが来たことに喜びの表情を浮かべ――それが朔也だったと気が付いて、不良に囲まれていたこと以上の恐怖に顔を歪めた。


 その場違いなリアクションに、さすがの不良達も困惑を露わにする。


 しかし朔也はどちらの反応にも構うことなく、淡々と自分の要求だけを押し付けた。


「目障りだから、他所でやってくれないか?」

「んだとっ!? 喧嘩売ってんのか!」


 不良グループのリーダー格が警棒型のスタンガンを取り出し、威嚇するように火花を散らしながら振り向ける。


 だが、朔也の反応はどこまでも冷めきったものだった。


「……それで?」

「テメェ、後悔しても遅ぇぞ!」


 警棒型のスタンガンが容赦なく突きつけられる。


 しかし朔也は、火花を散らす先端を平然と掌で受け止めてしまった。


「は……?」

「こういうのってさ、当たると痛いから脅しになるんだよな」


 スタンガンの表面を駆け巡る高圧電流は、朔也の左手の表面を覆った透明な壁に遮られ、肉体に一切届くことなく完全に防がれていた。


 朔也が少しばかり気合を入れると、左手を守る透明な壁が瞬間的に膨れ上がり、スタンガンを不良のリーダーの腕ごと弾き返す。


「うわっ! こ、こいつ、まさか……」


 不良のリーダーが恐れ(おのの)いて後ずさる。


()()使()()だ!」

「嘘だろ! マジで実在したのかよ!」

「やべぇぞ逃げろ! 化け物だ! 殺される!」


 少女を置き去りにして逃げ出そうとする不良達。


 しかし朔也が右腕を前に向けた瞬間、拳大(こぶしだい)の魔法の弾丸が少女の真横を猛スピードで突き抜けて、不良達の背中や後頭部に何発も直撃した。


「げふっ!」

「弱い奴には強気なくせに、相手がヤバい奴だと分かるや否や一目散……そういうの見てると、かなりムカつくんだよな」

「ば、化け物……」

「まぁ、化け物呼ばわりの方がもっと腹が立つんだけどね」


 朔也が右腕を横に動かすと、無様に転倒した不良達に追撃の魔法の弾丸が降り注いだ。


 これは純粋な正義感からの行動ではなく、むしろ八つ当たりの意味が強い。


 遠巻きに避けられたり、怪物を見るような目を向けられてストレスが溜まらないはずがなく、それをちょうどいい相手にぶつけただけ。


 朔也もそれは自覚していたので、腰を抜かした少女を格好つけて助け起こすような真似はせず、路上で気絶した不良達を置き去りにして、相変わらずの不機嫌な顔で通学を再開したのだった。







 ――異世界の発見から三十年、存在が公表されてから十年。


 一般市民の生活はこれっぽっちも変わっていないが、大きく変わったことが一つだけある。


 極稀に、魔法らしき力を使える人間が現れるようになったのだ。


 朔也もその一人であったが、周囲の扱いは通学風景を見ての通り。


 望んで得た力ではなく、気が付いたら得てしまっていた異能――そのせいで周囲から恐れられ、疎外感のせいで心が(すさ)み、何かと攻撃的になって余計に人が遠ざかってしまうという悪循環。


 このままではいけないという自覚はあるが、一体どうすればいいのか分からない。


 焦りばかりが空回りする現状に、朔也は軽い絶望すら覚えそうになってしまうのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 気がついたら連載が増えてました(*´∀`)♪
[良い点] コレが古代魔法文明の日常(違う
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