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第88話『重なる影』

お久しぶりです!

まだ6月、されど6月ですね。

年が明けてからもう半年が経ってしまいました。

実感ねぇ〜と思ってますが暑さでやられそうです。

皆様も熱中症や風邪に気をつけてくださいね!

ティリアの想いが実を結んだ時、塔の床で微睡んでいた男は夢を見ていた。



「ねぇねぇブレイズ。

聞いてもいーい?」


黒髪の男は涼やかな顔で俺を見て首を傾げた。

人間の割に整った顔の彼は青く見える。

体調不良とかそんなものではなく、俺を閉じ込めている障壁を挟んでいるからだ。

殴っても蹴っても中で魔法を放ってもビクともしないこの障壁は虫籠のようだ。

存在そのものが嫌なのに敵わない事実とあの顔が相まって俺のストレスは最高潮。


「嫌なこった!」


今の俺に出来る事はとても小さな蟻レベルの言葉の反抗だけ。

それが効くのなら今頃アイツをボコボコすることが出来ただろう。


「あのさぁ、恋って何だと思う?」


ほら見た事か、全く聞いていない。

しかも突拍子もない馬鹿な事だ。

真面目に話す方がおかしい話題に溜息しか出ない。


「知らない。どうでも良い。」


「えー?キミの契約相手で居なかったの?

この人と結ばれたい〜とかさ。」


無かった訳ではない。

昔はあったさ。

けれどお前が考えているようなモノではなく、愛人から奪い取るようなモノとか、人間として否定されるようなモノだけだ。

愛人の存在を消して自分が伸し上がろうとする奴、今の愛人達の出会った過去や記憶を無くして自分の記憶に書き換える奴、想い人を殺して自分も死ぬ奴、そんなものばかり。


勿論、全て叶えた。


何が良いか分からなかったけどそれが望みなら造作もない。

沢山契約した中でも恋を叶える人間は他の欲に囚われている人間よりも狂気が違うタイプだった。

だから魂が割と不味かったんだよな。


「ブレイズ、私は恋を知れると思う?」


「は?」


目の前の男は灰色の透き通った瞳で俺を見る。

その顔に冗談やいつもの薄ら笑いは無く、真剣に純粋に聞いてきているのだと分かる。

何故俺に聞く?

答えない俺の足元に彼は足を揃え折り曲げて座り障壁を消した。

丁度良い。蹴り飛ばしてやる。

右足を引き片足立ちになった途端、身体が押し潰されるような強い圧を上から受ける。


「ぐッ!?重力操作してんじゃ…ねぇッ!!」


コイツは全ての魔法が化け物級に強く、重力を操る魔法に抗うことが出来ず膝をつかされる。


「まぁまぁ、座って喋ろうよ。

立つの疲れちゃった。」


魔法を使っている素振りすら見せず涼しい顔をしているアイツに直ぐにでも触れられる距離に居るのに何も届かない。

力の差を見せつけられているようで殺意が膨らむが敵わない事は事実だからもうどうでも良くなってしまった。


「チッ…わぁったよ。」


観念すると彼は満面の笑みを向けてきた。

腹が立ちすぎて一周まわって殺意が消えてしまったようで胡座をかくも俺は落ち着いていた。

彼は俺が座った事を確認すると徐に口を開いた。


「私、喜怒哀楽を僅かながら持ち合わせているのに恋というモノを理解出来ないんだ。文字だけの知識しかない。」


「何で理解したがる?

俺からすればまずそこが理解出来ないね。」


俺も純粋な疑問をぶつけた。

彼は大きな目を丸くし、足元へ視線を落とした。


「人間の助けになった時にね、結婚したとか新しい家族が出来たとか報告してくれる子が沢山いてさ。」


彼は人間界での生き神だ。

祈りを捧げられればそれに応える者。

人間からすればなんて都合の良い神だろう。

コイツだって人間なのに、人間として生きられず、人間として死んでいくのに。

利用されるだけされて死ぬ運命が待っているというのに、いつもヘラヘラして恐れることもなければ楽しんでいる。

そんなコイツは知識も豊富なのに恋を知らないとは。

と、普通なら思うが正直そうだろうなと思う。

コイツは人間として生きられないからか、本人も気付いていない感情か何かの一部が欠落している。そのうちの一つが恋愛感情だろう。


「結婚とか、家族が増えるのって嬉しいんだよね?

皆揃って嬉しそうだから。」


判断基準は皆かい。

自分の考えじゃないのか。


「まぁ子孫を残すだけじゃなくて一緒になりたいと思う気持ちがあるらしいからね。」


答えると彼は首を傾げた。


「ふぅむ…一緒になりたい、か。

ブレイズには居る?」


見つめてくる彼の視線を避け、嫌味っぽく言う。


「居たらお前に構わず寄り添うさ。」


「それもそうか。」


な、何か張り合い無いなぁ…。

やけに素直と言うか…静かで気味が悪いとさえ思う。

彼は立てた膝に顎を乗せ、口を尖らせた。


「多分、私には得ることの出来ない気持ちだ。

良いなぁ。どんななんだろう。」


「…俺と契約してまで恋を愛に変えたいと思う奴が居る。

今のお前だったら散々苦しむかもね。」


どうしてだろう、別に知る必要が無いと思っている訳では無いが遠回しにそう言っている自分が居る。

彼は俺の気持ちを理解したのか、少し驚いてからくしゃりと笑った。


「ははは…そうかもしれないね。

運命というものが本当にあるのならばいつか私も誰かと恋に落ちる事が出来るのかな。」


眉を下げてあまりに悲しそうに笑うものだから


「俺と契約して叶えるのも手だよ。」


普段では有り得ないことを口走ってしまった。

慌てて口を押さえるが、彼が頷けば超絶美味な魂が手に入るのでは…?と思い真剣な表情に変える。

彼が驚いてこちらを見るも、目を伏せて儚く笑う。


「それも良いかもしれない。

でもね、私は運命の相手と恋に落ちてみたいんだ。」


言うと思った。

僅かな希望は消え去ったが、不思議と意地にならない自分に驚きつつ頬杖をついて話を続ける。


「俺と契約して手に入れるのは運命でも何でもない訳ね。」


「そーゆーこと。

ふふ、どんな人が運命なんだろ。

私の事を愛してくれる人だといいなぁ。」


両手で頬杖をついて笑みを浮かべる彼は想像する未来に期待を膨らませていた。

その未来は所謂…来世というヤツだろう。

今の彼が恋に落ちる事は有り得ない。

だからこそ願っているのだろう。


「あ、つまりブレイズみたいな人が良いってことかな?」


ゾワゾワと悪寒が襲ってくる。

気持ち悪い寒気に腕を擦ってしまうほどに。


「突然きっしょいこと言わないでくれる?

誰がキミを愛してるって?

キミみたいな我儘野郎はこっちから願い下げさ!」


「あ〜んひどぉーい。

謙虚だよ、私。自分に関しては。」


「まぁキミって自分の願い言わないよね。

他の沢山の人間の願いを代弁するくらいでさ。」


「それが私の願いだからね。」


コイツはそういう奴だ。

他人の願いは自分の願いだと言う変な奴。

こんな奴の運命の相手ってどんなのだろうな。

少し、ほんの少しだけだけど…

キミは報われるべきなんじゃないかなって思うよ。

対価交換なんて全ての摂理だ。

他人を軸にせず、自分を軸に生きても良いのに。


「ねぇブレイズ、私の運命の相手ってどんな人だと思う?」


この答えに凄く期待されている。

何を求めているのやら。

俺は溜息混じりで適当に答えた。


「…ぞんざいなキミを咎めない奴。」


「あはは!それは大事だ!」


今の言葉に嘘は無い。


「私も願いを込めよっと。」


彼は両手の指を絡ませ目を伏せる。

前に人間界へ降りた彼を観察するべく遠くから見ていたけれど、多くの人間から崇拝されている彼はまさに神のような存在に思えた。

同じ人間のはずなのに格が違うのはひと目でわかる。

あの時も今と同じ格好をしていたんだ。

人の願いの代弁者だった彼は願いを具現化し、人々を救っていたのにキミは自分の願いを叶えられないんだな。

哀れに思った俺は意味も無いことをしているようにしか見えない彼に口を出した。


「…キミが願うの?」


「来世がどうなるか分からないじゃないか。

だから今願ったって良いだろう?

それに、願う事はどんな者でも罪じゃない。」


「キミって急に貪欲になるね。」


俺が思うキミの運命の相手は、


キミの事をちゃんと理解して、愛して、どんな時も傍に寄り添ってくれる人が良いんじゃないかって思うよ。

それが相手との対価交換だと思う。


言わないけどね。

今思えば言っても良かったかも…いや、ダメだ確実に調子に乗って暫く擦ってくる。

けど、楽しかった。

殺そうと思って殺せなくて、腹立っているのにどうでもいい事を話しちゃって。

キミと居ると料理のインスピレーションが湧くんだよ。

実は美味しそうに食べてくれるのが嬉しくて、口では嫌だとか面倒とか言ってたけど満更でもなかった。

キミのお陰で俺は契約で魂を食すよりも料理を振る舞う悦びを理解出来たんだ。

だからキミも何か恵まれても良いんじゃない?

それこそ運命の相手の1人くらいさ。

どんな奴がキミの運命の相手なのか気になってしまうから手助けくらいはしてあげるつもり。

運命の相手の目の前で鼻の下伸ばしているアホ面をぶん殴ってやる。


この会話を思い出したのはキミが入った棺が足元に運ばれた時だった。

魔王になって短い年月の中でやっぱり運命の相手は現れなかったね。

穏やかな顔で眠って大量の白百合に埋もれても隣に立つ者は現れなかった。

そもそも誰も立たせなかったね。

キミに対しての殺意が無くなった俺はキミの料理人になって近くに居れた事で割と満足してたよ。

まさか王族の料理人をキミ直々に任命されると思わなかったから嬉しかったんだ。

だからキミも俺の料理で満足してたら良いなとか思うようになっちゃったくらいキミが大事にしていた繋がりで色々あって変わったよ、俺。


だから俺の手を振り払ったの?

死期を悟らせたくなかった?

もう答えは聞けないけれどいつも考えちゃうんだ。

俺はキミが助けを求められるほど強くないっていうのもあるけれど、多分キミの性格上助けを求める事が出来なかったのかその術を知らなかったのか。

キミは自分から近づく割に他の者に近寄らせなかったから「迷惑をかけたくない」とかほざいて距離をとるんだ。


無力でごめん。


キミが家族の気持ちを知りたくて創った天使種(子供達)が今暴走している。

キミはキミである時に家族を知るべきじゃなかったんだ。

っていうのはきちんと自覚してるよね。

良いよ、キミと比べなくて良いなら無力じゃないから尻拭いしてあげるさ。

キミへ出来なかった事をキミの来世に逢えたら叶えるから。

来世がどうとかパッと見で理解出来ると楽なんだけどな。


どうだい、ソロモン。


運命の相手に巡り逢えたかい?

キミは自分を犠牲にするから、来世はそんな事しないで良いようになってると良いな。

キミが報われますように。

キミが神格化されず対等な存在として愛されますように。

キミが自分を愛せますように。


俺が何か力になれますように。


こんな事、絶対キミには言わないけどね。

それに悪魔の俺が願っても叶わないかもしれないけど…


それでも願う事は罪じゃないのだろう?



「…ズ…さ……イズ…」



「いつまで伸びてる!!起きろブレイズ!」


「ッは、はいッ!!」


凛とした声で反射的に起き上がるブレイズ。

まだ寝ぼけており、声の主ではない目の前の黒髪少女をぼんやりと見つめていた。


「ソロモン…?」


「え?」


首を傾げられ数秒後、意識が鮮明になったのか目を見開いたブレイズは慌てて訂正する。


「ゆっ…イヴちゃん!!ごめん!!寝ぼけてた!!」


立ち上がってワタワタと手を動かし必死に訂正する姿を見てユムルは微笑んだ。


「いえ、お目覚めになられて良かったです。」


「…」


「…?ブレイズさん?」


再びユムルを見つめるブレイズの後頭部に痛みが走った。


「いでっ」


「これバアル、杖の先で叩くでない。

お前もお嬢を見過ぎじゃよ、バカタレ。」


ブレイズは叩かれた後頭部を手で押え、振り向くと大人の姿になったレンブランジェとバアルが居て背筋が伸びる。

レンブランジェの腕の中に眠っているフレリアが居た事に驚きつつ自分が飛び起きた理由の声を思い出すため、記憶を遡る。

先程の声はバアルだった事を思い出し、急いで口を開く。


「れ、レンブランジェさんにバアルさん!

あれ?え?どういう事?竜族の郷だよね此処。」


混乱するブレイズの元にティリアが歩み寄る。


「ブレイズ。」


「ティリア様!?どうして此処に…」


ティリアの口角を上げた顔を見て、何を思ったのか血の気が引くブレイズの顔から汗が吹き出た。


「もッ申し訳御座いません!!

戦場で眠りこけた罰ですねッ!!

如何なる処罰も覚悟出来ております!!」


無駄のない動きで座り、頭を床に付けるブレイズにユムルが慌てた様子で駆け寄った。


「ぶ、ブレイズさん。違いますよ。」


「え?」


「ブレイズ=ベルゼ。」


落ち着いているティリアの声に体勢を変え膝をつき頭を下げる。


「はっ」


「今回の事ユムルとケルツァ、王龍から聞いたわ。

見事な働きぶりだったのね。」


「いえ…」


俯くブレイズの頭に優しい重さが乗る。

どうなっているのか理解が出来ず、暫く硬直するブレイズにティリアは彼の頭に乗せた手を左右にゆっくり動かす。


「皆を守ってくれてありがとう。

貴方が頑張ってくれたお陰で彼女は無事よ。」


その言葉で隣にいる彼女に視線を向ける。

彼女の肌には傷が付いておらず、黒く大きな目は満身創痍のブレイズを映している。


「はい。守って下さりありがとうございます。

本当に助かりました。」


微笑む彼女の左手の細い薬指に指輪が有る事に気付いたブレイズ。

その視線を辿り、ユムルは恥ずかしそうに


「あ、えっと…その…

色々あってティリア様から賜った物です。」


と耳を真っ赤にして笑う彼女からティリアへ視線を移す。

ティリアは目を伏せてブレイズから手を離した。


「そういう事態じゃないのは分かってたんだけど…

貴方や皆の頑張りに甘えて婚約をね。

ごめんなさいね。」


「…こん、やく…」


もう一度ユムルを見つめるブレイズ。

見開いた緑の瞳は段々と事を理解し、潤んでいく。

表面張力が限界を迎え、ポロポロと硝子玉のような涙が落ち2人を驚かせた。


「ぶ、ブレイズさん!?

もしや何処かお怪我を!?」


「若しくは貴方ユムルを狙ってたとか!?

渡す気ないわよ!?」


的外れな2人に思わず涙だけでなく笑みが零れる。


「違います…。

幸せそうで…良かった。ほんとに。」


「ブレイズさん…」


姿勢を正して頭を深く下げるブレイズ。


「ブレイズ=ベルゼブブ、此処に再び忠誠を誓います。

いかなる時も御二人のお傍に。」


ティリアの手を掬い手の甲へ口付ける。

次にユムルへ。


「はわっ」


小さな悲鳴を上げたユムルから湯気が立つ。


「え?あれ?ユムル様?」


「はわわ…」


フラフラし、後ろに居たバアルに背中から凭れるユムルを見てティリアはブレイズを叱るように言う。


「今のこの子は敏感なの!

あまり刺激の強い事しないで!」


「え、も、申し訳御座いません…?」


忠誠を誓って怒られたことが無い為、今の状態に困惑するブレイズ。


ティリアは咳払いをし、口角を上げた。


「じゃあ一先ず帰るわよ。

王龍が帰れって言うから。」


指を鳴らし、この場と城を繋ぐ亜空間を生み出すがブレイズがキョロキョロと辺りを見回している事が気になり声をかけるティリア。


「ブレイズ?どうしたの。」


「あ、いえ。シエル君はと思いまして。」


「此処だ、お前が持て。」


バアルがボロボロの白い布を引きずっているのが見え、言葉からシエルの外套だと理解した。


「は〜い…(俺怪我してるんだけど…バアルさんは俺の扱い荒いなぁ。寝こけた罰か。)」


重たい体に鞭を入れたブレイズが近づくのをユムルが割って入り阻止をした。

ブレイズとバアルは目を大きくし、ユムルを見る。


「ば、バアルさん。

ブレイズさんは大怪我を負っていらっしゃいますのでどうか…えっと、私が頑張りますので!」


ユムルが何をしようとしているのか理解したブレイズはバアルが雑に掴んでいる外套を持とうとする彼女を慌てて止める。


「ユムル様、お気遣い痛み入ります。

ですが俺大丈夫ですよ!」


代わりに持とうとするとユムルは頬を膨らませてしまい、手を止める。


「いけません。御身をお大事にしてください。」


「えっ?(貴女が言うか??)」


2人のやり取りを見たバアルの目がシエルへ移るその間に冷ややかになり深い溜息を吐いた。


「…お嬢様、手をお離しください。」


口をキュッと結び抗議の目を向けたユムルは案の定離そうとしない。


「ですが」


「コイツ、起きてますので。

そうだろうシエル。」


「「え。」」


ユムルとブレイズがじっとシエルを見て、バアルが杖の先でコツンと叩くとシエルの震えが大きくなった。


「んっふふふ…!

いやぁ流石はバアル殿、バレてしまいましたねぇ!」


よっこいせと言いながら起き上がるシエル。

ユムルとブレイズ、ティリアは口を開けたまま固まった。


「愛らしいやり取りが何回も行われるものですからつい…ふふ!」


破けた手袋を付けたままの手を口元に寄せクスクスと笑うシエルにブレイズは呆れながら疑問を投げかける。


「シエル君…いつから起きてたんだい?」


「それは秘密ですが、王子達の婚約はしかとこの耳に入っておりましたよ!」


シエルが満面の笑みでユムルを見た瞬間、ボンッという爆発にも似た音が彼女から発せられた。


「ユムルぅッ!?」


ティリアが慌てて抱きしめるとユムルは顔を真っ赤にさせて湯気を立てて目を回してしまっていた。


「ちょっ…シエル!

もう…アンタって奴は…もーっ!!」


上手く言葉に出来ないティリアを見て笑みを深くするシエル。

ティリアの代わりにシエルの頭をバアルが叩く。


「いてっ」


「坊ちゃん、お嬢様を連れてさっさと帰りますよ。」


「分かってるわよ!行くわよ皆。」


ユムルを優しく抱えたティリアを先頭に、バアル、シエルが通る。

フレリアを抱えたレンブランジェが亜空間の前で立ち止まり、ブレイズを見る。


「ソロモンを思い出しておったのかや?」


何でも見通すような目と雰囲気に肩を震わせるも、ゆっくりと頷くブレイズ。


「…はい。」


「くふふ!

ソロモンは良い友を持ったものじゃのう。

お主がお嬢に思う所があるのは見てすぐ分かる。」


「う…」


「もう少しだけ、()()()()()見てやると良い。

では先に行くぞ。」


亜空間を通る彼の長く艶やかな金髪の先まで見えなくなってからブレイズも向かう。


「そんなに俺って分かりやすかったんだ。

…凄く懐かしいよ、ソロモン。

彼女に嫌われたくないのはキミの影が重なる時があるから、なのかな。」


ゆっくりと歩き竜族の郷から離れていくブレイズ。


「今度こそ、守るんだ。」


自分を奮い立たせるように呟いた彼は亜空間を通った。

彼の髪から離れた黒いリボンは瓦礫の上で僅かに揺れていたのだった。

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