第85話『思わぬ事態』
前話から時間が経ってしまいました。
あれぇー!?こんなシリアスにするつもりなかったんだけど!?が今の心境です。
が、見守っていただけますと幸いです!
夢を、見ているのでしょうか。
恐怖で気を失った幻想でしょうか。
零蘭さんの下顎を引き締まっていても尚細い御御足で蹴り上げ、そのまま大きな体ごと蹴り飛ばしてしまう華麗な男性は…
「ティリア…さま…?」
「ユムルッ!!」
私の背中に手を回して力強く抱き締めてくださるこの感覚…
嗚呼、この感覚は間違いなくティリア様です…。
「ティリア様…ティリアさまぁ…っ」
「待たせてごめんね!!
怖かったわね、よく頑張った!!」
安心からか涙の蓋が開いてしまいポロポロと雫を落としてしまう。
私は恐怖していたのですね…。
優しく頭を撫でてくださった後、先程の優しさが一瞬にして消えたティリア様が竜族の皆様を睨みました。
「そこに居る西蘭以外の竜族共。
アタシ、アンタらを許せるか分からないわ。」
「悪いっのは、私、ですっ」
嗚咽のせいで上手く話せません。
しかしティリア様は冷たく言い放ちます。
「その考えを植え付けたのは誰?
アタシ、知ってんのよ。
それと今この場にいる奴らがさっきまで考えていたことも。」
「…」
ティリア様の体温は感じるのにとても冷たく鋭利な氷柱のような怖いお声。
周りの皆様が息を飲んだ音が聞こえました。
「魔王…様…っ!」
西蘭さんがよろめきながらこちらへ…
支えようと駆け寄る竜族の方を振り払ってお1人で。
そして痛むであろうそのお身体に鞭を打ち正座し、両手を床に付け頭を深く下げました。
「我が同胞零蘭の不始末にて、貴方様の御手を煩わせてしまい大変申し訳御座いませんでした。
如何様な処罰でも覚悟は出来ております。」
西蘭さんを一瞥したティリア様は竜族の皆様を見て、西蘭さんへ視線を戻しました。
「じゃあこの子に根拠もないのに少しでも悪意を持っていた奴…ほぼ全員ね、死刑宣告する。
アンタの手で殺しておいて。」
「!?」
な、今なんと…?
「聞こえなかったの西蘭。
どんな罰でも受けると言ったアンタの罰はたった今伝えたでしょ。」
顔を上げ放心していた西蘭さんを引き戻す程の怖い圧がティリア様から放たれていて身体が震えてしまう。
やがて西蘭さんは眉間に皺を寄せ、目を伏せて再び深く頭を下げました。
「…………御意。」
ダメです、そんなのいけません!!
「おやめくださいティリア様!!」
「…」
「っ」
思わず震え上がってしまうほど冷たい視線。
このようなお顔を初めて見ました。
言葉を紡ぐ事がとても怖い…。
でも何とか阻止しないと何も悪くない皆様が死んでしまう!!
何としても止めないと!!
「ティリアさま…おやめください。
どうか、どうかお願いいたします!」
私を見つめ返し続けてくださったティリア様はゆっくりと重たい口を開きます。
「何故庇うの?
貴女の心に傷が付いた事、コイツらは知らないだろうけどアタシは知ってるのよ。」
いつもの陽だまりのような優しいお声に戻りません。
とても静かで、触れると氷水のようで体の震えが止まらない。それでも。
「この方々は何も悪くありません!
何故そのような事を仰るのですか…?」
考えを改めて頂きたいのに、兆しが全くない状況に涙が溢れてしまいました。
泣き落としなぞ考えていないのに、まるでそうしているかのようで嫌になります。
泣き止まないと。
ティリア様は目を擦る私の手を優しく掴み、親指で拭ってくださる。
「貴女を愛していて、何よりも大切だから。」
真っ直ぐ私を見て仰ってくださった。
フレリアさんのように私を思って怒ってくださっている。
「大切な貴女が傷付けられて平然としているほど出来てないのよ、アタシは。」
「傷つけられていません!
お願いいたします、お願いいたします…!
どうか皆様を殺さないでください…っ!」
長い睫毛が影を落とす赤黒い宝石ような瞳をじっと見つめ返すことしか出来ない私を、ティリア様は見下ろします。
やがてため息混じりに
「……貴女のお願いはホントいつも…」
と呆れてしまいました。
しかしその後、諦めたように渋々ながらも頷いてくださりました。
「……分かったわ。」
「ティリア様!
ありがとうございます!」
ティリア様は私から離れ、私が秘石を託した竜族の方の元へ向かいました。
その後、しゃがみこんで彼の顔面を片手で掴みました。
えっ!?まさかお顔を握り潰し…
「…」
違いました。掴まれたお顔はそのままです。
もしかして記憶を見ていらっしゃるのでしょうか。
暫くして手を離したティリア様は曲げていた腰を伸ばし、皆様を見下します。
「この子のお陰で命拾いしたわね、アンタら。
西蘭が居なかったらこの子を痛めつけようとしていた事、隠せると思わない事ね。」
ティリア様のお言葉を聞くと皆様が俯いてしまいました。
西蘭さんが居なかったら…恨む対象をどうにかしようとするのは当然です。
「西蘭、罰には執行猶予を与える。
コイツらの性根を完全に叩き直しなさい。
さもなくば殺す。」
「…御意。必ずや。」
深々と頭を下げた西蘭さんを一瞥したティリア様は私と目線を合わせ、私の肩に手を置きます。
「ユムル、貴女は先に城へ帰りなさい。」
「で、出来ません。
王龍様やケルツァさんに守って頂いた御礼が出来ておりません。」
ティリア様は私の返答を聞いて困ったように眉を下げながらも口角は上がっていました。
「…貴女そういうとこ頑固よね。
まぁこのまま、はいさよならなんて出来ないわよね。」
「アタシが必ず守ってあげる」とお姫様抱っこをしてくださりました。
ティリア様はふわりと浮かび入口へと戻られます。
「ベルとレージェも連れてきたの。」
「お2人が…!」
この後、何を話せば良いか分からなくて沈黙が流れてしまいました。
それを破ったのはティリア様でした。
「あのねユムル。
アタシを呼んでくれたの、凄く嬉しかった。」
お声が潤んでいます。
見上げると凄く寂しそうなお顔でした。
表情から考えると本当に私の声が届いていたのでしょう。一体何故?
「でも、アタシが居ない間に貴女が辛い思いをしていたなんて耐えられないの!
全てを引き裂きたいほどに!」
私を抱えてくださる手に力がこもって痛い。
それでもティリア様は我慢してくださっている。
「辛い思いはしておりません。
…いえ、皆様が戦ってくださっていたのに何も出来ないことが辛かったですが…。」
「アタシは貴女の心配をね……
でもそこも好き。」
ちょっと呆れが入った間があったような…。
薄暗い入口を抜けると大人姿のレンブランジェさんが長い金髪を靡かせて立っていました。
「レージェ。」
「む、ティリア様とイヴ嬢ではないか。」
ティリア様のお声に振り返る彼の手には翼の先であろう一部分が握られていました。
「スィーデ=ヴァイスは追っ払った。
零蘭は絞めてそこに投げ捨てておいた。
人型に戻ってのびとるわ。」
「ありがとう。」
ティリア様は御礼を告げた後、レンブランジェさんが持っていた物を捨て、血に染った手袋で指した方向へ進まれる。
そこには確かに目を回して大の字で倒れている人型に戻った零蘭さんのお姿がありました。
あれ?ケルツァさんは?
辺りを見回すと虹色に艷めく繭が少し遠い場所にありました。
あれはイツァムさんが絵の具爆発を起こした時にブレイズさんのナイフを守っていたケルツァさんです!
「ケルツァさん!」
私の視線を追い、羽根の繭へ近づいてくださったティリア様。
もう一度お名前を呼ばせて頂くと羽根の繭が警戒しながら1枚1枚ゆっくりと開きます。
その中に見えたのは頭から血を流したケルツァさん。
彼は驚いたお顔で私達を見ます。
「ッお嬢ちゃん!それに…」
ティリア様を見て目を大きくするケルツァさん。
彼の腕の中には気を失ったフレリアさんがいらっしゃいました。
ティリア様は優しく微笑みます。
「ケルツァ、これまでフレリアを守っていてくれてありがとう。」
「いえ…」
眉間に皺を寄せ俯くケルツァさんにこちらにいらしたレンブランジェさんもお声をかけました。
「儂からも礼を言うぞ。
我が半身の為に力を制限していた事を。」
そう仰るレンブランジェさんに向かって彼は首を横に振ります。
「でも結局上手く立ち回れなかったからお嬢ちゃんを危険に晒してしまった。
挙句フレリアさんもこのままで治療もろくに出来なくて…本当に申し訳ござ」
頭を下げようとした瞬間、レンブランジェさんが言葉で遮ります。
「儂より若いクセに聞こえんかったかや?
儂は感謝しておると言うたじゃろ。」
彼の肩に手を置くレンブランジェさんはケルツァさんに代わりフレリアさんを抱えました。
「コヤツが寝ておるのは回復している証拠じゃ。
寝ていられるのはお主が守ってくれたおかげ。
暫くすれば目を覚ます。」
レンブランジェさんに同意するようにティリア様も頷かれます。
「レージェの言う通りよ。
ユ…じゃなくてイヴは無事。
貴方が零蘭をほんの少しでも抑えてくれたからこの子を助けられたの。」
「…」
何か言おうとした口を真一文字に結び、目を伏せ深く頭を下げるケルツァさん。
ケルツァさんは沢山私を守ってくださりました。
それをティリア様とレンブランジェさんにお伝えしたい。
「私もこれまでに沢山助けて頂きました。
本当にありがとうございます。」
「お嬢ちゃん…」
ティリア様は口角を上げて私を見ます。
あ…目が笑っておりません。
「その話、後で詳しく聞かせてもらうから」というお顔です。
無言の圧に思わず首に力が入ってしまいます。
ティリア様の視線はケルツァさんに移りました。
「ケルツァ、命令よ。
分かる範囲で良いから状況報告して。」
「は。僕が分かる範囲は…」
ケルツァさんから聞いたお話は、
ブレイズさんとフレリアさんが戦闘不能に。
シエルさんは行方不明。
スィーデさんの手によって零蘭さんは暴走したとのことでした。
シエルさんは何処かに行ってしまったのですね。
レンブランジェさんも、ティリア様でも感知が出来ないという事で本当に行方不明だそうです。
どうかご無事でありますように…。
「以上です。どうして急に天使種が奇襲を仕掛けてきたのか分からない状態です。」
「実はユ…イヴを通して話は聞かせてもらっていたわ。
アンタ達のとこの秘石を狙っていたみたいよ。」
私を通して?
もしかして頂いたアクセサリーが音声を届けていたのでしょうか?
だからティリア様はあの時…
「それに、この子まで危険に晒した。
殺すだけじゃ気が済まない。」
再び怖いティリア様のお声にハッと我に返る。
ティリア様の綺麗なお顔が憤怒によって歪んでしまう。
目に光が差し込まず、底知れぬ闇へティリア様を誘ってしまいそうなほど。
「ティリア様、私は大丈夫です。」
「……えぇ。
今も、これからもずっと大丈夫だからね。
ずっと貴女の傍にいるから。」
その場でしゃがみ、まるで私の存在を確かめるように力強く私を抱きしめてくださる。
私も大丈夫だという意思表示で応えたい。
「……」
心做しかティリア様の呼吸が少し荒いような…。
私が重いからお疲れになってしまったのかもしれません。
降ろしていただかねば。
もそもそ動く私の身動きを封じるように先程よりも強い力がこもります。
「…どこ行くの。」
「あ、あの…えっと…」
「お願い、アタシから離れないで。
お願いだから…」
耳元で囁くお声は震えておりました。
今にも雫が落ちそうな、苦しそうなお声。
「畏まりました…。」
「魔王様。」
ティリア様の背後から聞き慣れた凛とした低いお声が聞こえます。
「…ベル。」
ティリア様は顔のみ向け、声の主であるバアルさんと会話なさる。
「お時間です。後は私達に任せてご帰還を。」
時間…やはりティリア様はご多忙なのに私を助けに来てくださったからでしょうか。
「…嫌。
報復しないと絶対帰らない。」
ティリア様は頷きません。
バアルさんのお顔が見えずとも端正なお顔に青筋が浮かんだことは察せます。
「お時間です。早急にご帰還を。」
先程よりも低いお声と言葉の強調に背筋が凍ります。
とても怒っていらっしゃる…。
しかしティリア様は頷きません。
「嫌っつってんでしょ。」
「…チッ!!」
し、舌打ちが聞こえたような…。
ティリア様に対して…??
続けてバアルさんはそれはもう大きな溜息を吐きます。
「はぁあ…帰れっつってんでしょうが!!」
「嫌っつってんでしょうが!!」
お時間ならばティリア様は帰還せねばならないはずです。
どうしましょう…。
もしかして私が帰らないと言ったから?
するとバアルさんはティリア様を宥めるように落ち着いた声で諭します。
「私達も彼女が危険に晒された事を赦すつもりは更々有りません。
報復は我々の仕事です。」
バアルさん…。
心を探る方法を持ち合わせていない私には彼がどういった感情で仰っているのか分かりません。
「それ、僕も手伝わせてほしい。」
「ケルツァ殿…」
「郷の皆が急に平穏を奪われて、賓客であるお嬢ちゃん達にまで手を出したんだ。
楽に死ねると思われたら困る。」
初めて聞く低い声音に驚いてしまう。
バアルさんは何とお答えになるかと考えたその時でした。
「あっれぇ〜?
やっぱ魔王様じゃあん。」
少し前に聞いたお声…
確かこのお声は…
私の代わりにティリア様がお名前を呼びます。
「レウ=ブランシュ…!」
そのお声は憤怒と遺恨が混ざりあったよう。
素早く立ち上がり私を抱え直したティリア様は後ろに大きく跳躍し、レウさんと距離を取ります。
彼との間に壁となる為か杖を構えたバアルさん、ケルツァさんにフレリアさんを託したレンブランジェさんが立ちました。
彼らの僅かな隙間からレウさんをもう一度見ると、全身が血塗れで何故立ってられるのか疑問に思うほどでした。
しかし彼もまた、同じように私とティリア様を見ていました。
「その子をだぁいじに抱えてさぁ?
見せつけちゃってぇ、腹立つぅ〜。」
「…レウ、今回の騒動はどういうつもり?」
溢れる怒りを何とか押し付けて話し合いを持ちかけるティリア様。
レウさんは厭らしく口角を上げ、色素の無い目を細めました。
「どういうつもり?
元々僕達の物を取り返しに来ただけだけど。」
半笑いでそう言い、首を傾げるレウさんにケルツァさんは顎を引いて確認します。
「僕達の物?
言いがかりまで得意なのかい?竜族は天使種から物を盗ったりなんてしてないけど。」
次の瞬間、先程までへらへらと笑っていたレウさんから全ての感情がストンと抜け落ちました。
目を見開いたまま閉じなくなった人形のようでとても怖い。
「盗っただろ、僕達の主を。
ソロモン様の一部を、ソロモン様の欠片を。」
「どうやらケルツァの言う通り、言いがかりは得意のようじゃの。
秘石は王龍様とソロモンの友好の証とかなんとかと本人が言うてたというのに。」
レンブランジェさんが右手の小指で耳を掻きながら仰った。
レウさんは感情を取り戻し、彼に人差し指を向けました。
「順調に耄碌してきてんだな!お前みたいな年寄りの話を誰が聞くかってんだこの老害!」
「耳は至って普通なんじゃが。
年上を敬えんのは若気の至りかの?良い良い。」
レンブランジェさんはケラケラ笑い、
「完膚なきまでに叩き潰す。」
私ですら感じ取れるほどの殺気を放ちます。
しかし仕掛けること無く構えるのみでした。
「あるぇ〜?何で攻撃してこないのさ。
僕こぉんなボロボロになってんのに。」
赤く染った身体を見せつけるように僅かに手を挙げて挑発するような瞳で私達を見るレウさん。
レンブランジェさんは嘲るよう鼻で笑います。
「偽物に攻撃しても無意味じゃろうて。
本体は何処だ。」
偽物?このレウさんは偽物なのですか?
前にバアルさんと一緒に会った幻影さんなのでしょうか。
私にはレウさんそのものに見えます。
「成程、バレてるから攻撃してこないんだ。
じゃあ首突っ込まないでもらえるかなぁ。」
レウさんが指差す方向にはケルツァさんが。
フレリアさんを守るように腕の力を強める彼もレウさんを睨みます。
「悪魔種は関係ないでしょ。
これは竜族と天使種の諍いだよ。」
「…」
バアルさんもレンブランジェさんも口を開きません。
その様子にレウさんはくすりと笑います。
「分かってんじゃん。
僕達は悪魔種を狙って攻撃した訳じゃなくて竜族と戦おうとして悪魔種が首突っ込んで来ただけってさ。」
でもレウさんも、ラストさんも、スィーデさんも私に話しかけて来て…あれ?
話しかけられはしましたが私を狙うよりは秘石を探していらしていたような…。
「中立の立場である竜族と、ちょっと喧嘩しただけ。先代魔王との条約を噛み砕くと戦争に参加した所と…って話だったはずで」
「条約に反していない、そう言いたいのだろう。」
レウさんの言葉をバアルさんが遮りました。
レウさんはふん、と鼻を鳴らして腕を組みました。
「…そーゆーこと。
だから悪魔種はさっさと消えてよ。」
「…じゃあシエルが何処にいるか教えなさい。
アンタにとって1番厄介に首輪付けるから。」
ティリア様が徐に口を開きます。
レウさんは驚いて目を大きく見開き、こちらを凝視します。
「シエルきゅんは今頃どっかでぶっ倒れてるよ。
僕のストーカーしてたせいで王龍の相手することになっちゃったからね。」
頭の後ろで手を組み、色素の無い目でちらりと塔を見やります。
「まぁ僕が回復させてやったから死んでないよ、
残念なことにね。」
思わず耳を疑ってしまいました。
「貴様がシエルに回復だと…?
どういう風の吹き回しだ。」
私達の代弁をするようにバアルさんが問いかけます。
「どーもこーも僕が王龍の相手をする予定だったんだけど代わってくれたからさ。
まぁ結果的に王龍も回復しちゃったけど。」
仰る意味が全く分かりません。
何故そのような事をなさるのでしょう。
「ま、ちょっとやり過ぎたかなって思ってお詫びの天使のギフトってとこ。
色んなとこに配っておいたよ。」
レウさんはティリア様を指さしました。
その後にその手を自身に向けました。
「アンタ達もここに来て違和感を感じてんじゃなぁい?回復した感じあるんじゃなぁい?」
動きを見た途端、急にスローモーションのように見え皆さんの行動を読み取れます。
バアルさんとレンブランジェさんが弾かれたようにこちらを向き走って手を伸ばし、ケルツァさんは羽根を広げフレリアさんを守るように繭を作りました。
「感謝しなよね。BOMB!」
次の瞬間、レウさんはパンッという風船が割れる音を鳴らし消えてしまいました。
まるで彼自身が弾けたような現象から生まれた爆風は青く煌めく粒子が混じった煙でした。
煙はバアルさん、レンブランジェさんをも追い越して手を伸ばすかのようにこちらを目掛けてきます。
しかしティリア様は動きません。
お2人は切迫と焦燥でティリア様をお呼びしています。
「坊ちゃんッ!!」
「坊ッ!!」
「…ッ…」
おかしいです、ティリア様が反応されません。
どうかされたのでしょうか。
不思議に思い顔を上げる。
「ティリア様!?」
なんて事!陶器のようなお顔が真っ赤です…!!
我慢されていたのか全く気付きませんでした…!
1番近くに居させて頂いていたのに!!
我慢の限界に達してしまったのか段々と呼吸が荒くなっていると気付いた時には煙に包まれてしまいました。
「ティリア様!ティリア様お気を確かに!!」
少しでもティリア様をお守りしたくて動こうとするもティリア様も私を守ろうとしてくださっているのかぎゅうっと頭と腰に回された腕の力が強くて動けません。
「イヴ!息をするな!!この煙を吸うな!!」
バアルさんがあまり聞いた事のない大きなお声で私へ注意してくださる。
するとケルツァさんでしょうか。
横から突風が吹き荒れ、煙が飛ばされました。
煙が消え、力が緩んだ一瞬で抜け出し向き合うと瞳が熱で潤んで汗が酷く、肩が大きく上下に揺れています。
「ティリア様!!ティリア様!!」
「……無事?」
「はいっ!!ティリア様のおかげで!!」
「…そう、良かった…。」
私の為に力なく微笑むティリア様は今にも倒れてしまいそうです。
具合が悪いのに我慢させて付き合わせてしまった。
だからバアルさんは早くティリア様をご帰還させたかったのでしょう。
「私のせいで…っ!」
「貴女の…せいじゃ…ない。」
腕を持ち上げることすらお辛そうなのに私の頭を撫でてくださる。
それがとても苦しい。
「ベル…シエルを…お願い…。」
バアルさんは眉間の皺を特段深くして思考し、
「ッ…畏まりました。」
と頭を下げてその場から消えてしまいました。
「レージェ…」
「もう喋るなティリア様よ。
お嬢の事は任せて少し休め。」
レンブランジェさんがティリア様の肩に手を置くとティリア様を支えていた糸がプツンと切れてしまったようにお身体がぐらりと揺れる。
「……ごめん…ね…」
「ティリアさまっ!?」




