第81話『伸ばそうとした手』
久しぶりの更新です!
ちまちまと1話から書き直しておりました。
見切り発車故に辻褄が合わなくなったりしておりまして…なのでもしお時間がございましたら、もう一度見て頂けると嬉しいです(*^^*)
天使種さんはソロモン様の創作物…?
ソロモン様は生命を創ったということでしょうか?
ではシエルさんも?
魔界の初代魔王様で在られるソロモン様が生み出したのなら何故敵対しているのでしょう。
長考している場合ではなく、王龍様は私に端正な顔を近づけます。
「イヴ、皆のとこに戻ろう。
それを託す。」
それと指すのは私が持っている秘石でした。
本当は直ぐにでもお返ししたいのですが託して頂いた物をお返しする訳にはいきません。
「は、はい。」
「安心しろ。我は約束を違わない。」
「逃がさないよ〜!」
私から手を離した王龍様は素早く手印を結びます。
突如足元の水がレウさんを囲み、球体と化しました。
いきなりのことで驚いたレウさんの口から気泡が溢れます。目の前の光景に目を丸くしていると王龍様は私を抱き上げました。
私を見下げる彼の目は静かな怒りを孕んでいました。
「行くぞ、我から離れるな。」
「はい。」
絶対に秘石を離しません!
この命に変えても!
“…ユムル、貴女の居場所は此処だからね。
絶対何事もなく無事に帰ってくるのよ。”
そうでした。
私はティリア様と約束したのです。
無事に帰ると。
帰らないとティリア様を悲しませてしまう。
私を思い涙を流してくださる本当に優しい御方。
生きて守りきるのです、この秘石を。
ティリア様を、王龍様を、皆様を、絶対に…絶対に悲しませない!
…
「ッお二人共!!」
鳥居の外へ一瞬で移動した王龍様はブレイズさんと狐さんと合流を果たしました。
「ブレイズ、天使種だ。
狙いはイヴと秘石故に連れて逃げろ。」
ブレイズさんはナイフを取り出し、構えました。
「やはり…(秘石は初耳だけど)!
なら俺が足止めします。早く外へ!」
「しかしお前はイヴの伴侶だろう。」
はんりょ…
あっ!そう言えば否定する事を忘れていました!
「違いますッ!!貴方が勝手に勘違いしただけ!
それより早く!出来るだけ早く行ってください!!
怒りますよ!!」
もう怒っているではないか、というしょんぼり顔をなさった王龍様は頷いてその場を離れようとします。
せめて一言だけでも!
「ブレイズさんっ!どうかご無事で!」
「ティリア様に怒られるの嫌なので善処します!」
王龍様はとても速く、一瞬でブレイズさんのお姿が見えなくなりました。
どうかご無事でありますように。
…
ユムル様達はもう見えない。
でも驚いたな、王龍様はとうとう中立ではなくこちら側についたんだ。
多分ユムル様のお陰だからそれはラッキー。
ただ鳥居の奥は真っ暗で何も見えないのに嫌な気配だけが風船のように膨れ上がっていくのは感じる。
この中にレウ=ブランシュが居るんだな。
ほんの一瞬だけ何かよく分からないものが通り過ぎたと思ったけど俺入れないままだったし…どうしてレウが入れたんだ?
王龍様が彼女を守ってくれていて良かった。
でもなぁ。
「あ〜あ…カッコつけちゃったなぁ。
やだなぁレウの相手…。
やっぱ旦那さんって嘘突き通せば良かったかも。」
運悪くレウは強い。
俺も一応人間の魂を結構食べて高位になっちゃったから迎え撃つことは可能だろう。
悪魔種は契約を結んだ対象の人間の魂を食べた数によって位が変わり、強さと比例する。魔王様はそもそもそこに当て嵌めていいものではないから除外だけど…。
どうか羽根無しで飛べる悪魔種が高位であるって事をユムル様が知りませんように。
その為には近くで見守る必要がある。
レウの強さはソロモンほどじゃないから怪我するくらいで済むだろう。
ただそれはレウと一対一で戦えるのなら、の話だ。
アイツは城敷地内に侵入した時のように味方にもバレたくないような秘密が無い限り幻水蓮仙に一人では来ないはず。
ユムル様を狙うのなら俺達が居るのは考えなくとも分かっているだろうから駒は仕込むはず。
問題はその駒の量だ。
俺の役割は取り零しが無いようにしてレウを足止めする事、理想は斬首。
改めて使命を確認したその時だった。
「うーわ…。」
思わず声が出てしまった。
嫌な気配の風船が破裂したと感じて直ぐに鳥居の中から赤ん坊体型で灰色の天使が視界を覆い尽くすほど沢山迫ってきていた。
しかも全て首から上がなく、身体だけの不気味な存在が背中の小さな羽根で飛んできている。
戦った時に屍人兵の他にめいっぱい引き連れていたもんね。憶えているよ、首無天使。
手には剣や弓を携え、こちらに向けていた。
「このセンスの無さは確実にレウだな。」
恐らくこの大群の中に紛れているであろうレウを足止めしなければならない。
あの子を護るためなら嫌な事も頑張ろうと思える。
昔の俺だったら抱くことの無い吐き気を催して馬鹿にする感情だ。
“護るものが出来たらキミは自分が驚くほど変わるだろう。努力家だからね、ブレイズは。”
そう笑ったお前に俺は「俺の事分かったような口聞かないでくれる?」と半ギレしたっけ。
ソロモン、アンタは見抜いていたんだな。
馬鹿にしてごめん、反省するよ。
でもあの何でも見通しているような透明な目を思い出してしまってムカつく。
「俺と数で勝負なんていい度胸だね、
レウ=ブランシュ。」
このムカつきはお前にぶつけてやるよレウ。
さぁ、ご飯の時間だよお前達。
久し振りに全力で戦おう。
この先へは行かせない!
…
王龍様は猛スピードで建物から出ました。
先程の長閑な風景は一変し、変な飛行物体が沢山浮いており、建物を壊したり人を襲っていました。
よく見ると飛行物体は首から上が無い小さな天使でした。
まるで赤ちゃんのような身体ですが肌の色がくすんでほぼ灰色でした。
その小さな身体で物を壊す様は悪の権化のよう。
「…なんて酷い…。」
皆さんが頑張って準備していた建物が、祭りの為の物が小さな身体に壊されていく。
目を瞑りたい現状を王龍様は目を見開いて見ていました。
でも此処で立ち止まっている訳にはいきません。
皆さんが襲われているのです、出来る事が無いかもしれませんが助けに行かないと…!
あれ、でも皆さん龍の姿になって応戦しています!
「案ずるな、イヴ。我の民は脆くない。」
「はい。」
私にも、ご自身にも言い聞かせるようなお言葉に私は強く頷いた。
「先ずは安全な場所へ」
「安全な場所?そのような所があるのですか?
是非知りたいですねぇ。」
王龍様の言葉を遮った落ち着き払ったお声。
この場に似つかわしくないお声へ顔を向けた王龍様の視線を追うと、肩より少し長い髪を携えた真っ白な男の人が姿勢よく佇んでおりました。
あの方も天使種さん、のはず…!
「貴様はラスト=アルヴィムか。」
ラスト=アルヴィムさん。
以前妖精の森でバアルさんと戦ったお方です。
彼は色の無い目で王龍様に微笑みました。
「はい。しかし竜種…いえ、竜族の長である貴方が斯様な時にお独りでお散歩ですか?」
お独り?
彼は私が見えていない…?
そう言えばレウさんも私が声を出したらビックリしていました。まるで私が見えていなかったかのように。
もしや今も…?
王龍様が何かしてくださったのでしょうか。
「貴様、我の前で頭が高いぞ。」
段々とお声が怒りによって低くなっています…。
「おやおや!それは失敬。」
何でしょう…。何処かシエルさんに似ています。
なんて、シエルさんは怒ってしまいますね…。
「それはそれとして、秘石の気配が一瞬現れたと思ったらすぐに消えてしまったのですが…。」
顎に手を当てるラストさんは見透かしたように私を見ます。
「貴方が落ち着き払っているという事は貴方の手で何処かに隠されたのでしょう。」
私が見えているのかわかりません…!
でも絶対渡しません!
王龍様は黙って鋭い眼光で睨みつけています。
「あはぁ…っ!
その綺麗な顔を絶望で歪ませたい…!」
シトリさんの様な恍惚とした笑みを浮かべたラストさんは指を鳴らしました。
途端に王龍様は左へ避けるように素早く動きます。
「!」
王龍様は攻撃を仕掛けた方へ身体ごと向けました。
あれは、あの紺色の服は竜族の方です…!
女性で…綺麗だったであろう肌はくすんで生気を感じません…!
もしやあれは
「竜族の屍兵か…ッ!!」
屍人兵ではなく、王龍様は屍兵と仰った。
人間では無いからということでしょう。
ラストさんは仮面の笑みを浮かべシルクの手袋を付けた手でパチパチと拍手をなさる。
「御明答〜!
人間よりも遥かに作るのが難しいのですが割とどうにかなるものですねぇ。」
「貴様…ッ」
王龍様の喉からグルルル…と大きな獣の唸る音が聞こえていきました。シトリさんよりも低く、響く音です。
龍の姿に変わり牙を向けてくる彼女に手は出さず、
避け続けている王龍様。
「嗚呼!その顔です!絶望した後に怒りに歪む顔…っ!無表情の方ほど歪む顔は美しい…!」
蕩けたお顔…!
背筋がぞわわっと震えます。
何と酷いお方でしょう!!
「毒蜘蛛バアルも貴方のような表情を魅せてくれたら愛しく思えるのですがねぇ。」
バアルさん!?
そう言えばブレイズさんはスィーデさんにお会いした時に仰っていました。
“大勢の仲間を殺し、俺を差し置いてバアルさんの頭殴りに行ったんですよ!!”
ブレイズさんはとてもお怒りでした。
そしてその前にバアルさんはラストさんを覚えているかとティリア様に問われた際も
“少しデカい借りがありますからそりゃあ…ね。”
“チッ…会ったら私が必ず殺す…。”
と仰っていました。
その後バアルさんは一対一でラストさんに勝利なさいました。そのような方が頭を打たれるなんて…
もしかしてスィーデさんとラストさんがバアルさんの頭を!?
やっぱり天使種さんは危険です。
このままでは王龍様が危険になってしまう。
抱えて頂き両手を塞がせている私のせいで。
声を出すと存在がバレるかもしれません。
私は意思表示のため、彼を蹴らないよう足をパタパタと素早く上下に動かす。
「む…」
降ろしてくださいと口を動かしてみます。
すると王龍様は頷いてくださる。
「…相分かった。」
良かった、ご理解頂けました!
「とうとう幻覚がお見えです?
手の位置は気になっていますが何に頷いたのでしょう。」
いつ降ろされてもいいように覚悟を決めますが中々降ろしてくださらない。
「…??」
王龍様??
何故か降ろすどころか抱え直されました。
あれ?
「心得た。…貴様を殺す。」
!??
何故か物騒な事としてご理解されていらっしゃいます!!
相分かった、とは互いに理解すると言う意味合いがあったはずです!
私が「殺してください」と言ったと勘違いをなさっていますね!?
このままではいけません!
それに王龍様は竜族さんの屍兵へ攻撃する事を拒んでいるご様子、ですから…。
秘石を落とさないようジタバタして王龍様の腕の中から抜け出し息を深く吸い込む。
「む、イヴ!」
もしこの声が届くのなら、どうか、どうか。
「シエルさんっ!!
私はっ!此処にいますっ!!」
「ッ」
ラストさんの驚いた視線が刺さる。
それを遮って下さったのは王龍様のお身体。
「なぁんだ!王龍様とずうっと居たのですね。
可愛らしいお顔とお声だこと。」
あわわ…背中がまたぞわぞわします…。
「イヴ…!お前、何故声を上げた?
我の霧の仕組みを理解していただろう。」
王龍様、怒っていらっしゃるのでしょうか。
勝手な事してるのです。
お怒りに決まってますよね。
「申し訳御座いません…!
王龍様、屍兵さんを見て辛そうでしたから!」
「!」
「嗚呼、姫!その可愛らしい声だけでなく、
お顔を近くで見せて下さいな!」
ラストさんの歓喜のお声。
地面を蹴りあげる音が聞こえた次の瞬間。
「貴様が見るのは己の血飛沫のみだ。」
薄い金属が擦れる音が複数回聞こえます。
ドサドサと重たい何かが地面に落ちる音。
バサッと布が翻るような音。
それを見るために王龍様の背中から顔を覗かせる。
地面には斬られてバラバラになってしまった竜族の屍兵さん。それを斬ったであろう白い外套をはためかせている白銀髪の騎士さんが凛と立っていました。
「あっ!」
来てくれた事が嬉しくて思わず声を上げると、
彼は晴れやかな笑顔で振り返ってくださった。
「イヴ殿!可憐なお声でこのシエルを呼んでくださり光栄に存じます!」
「シエルさん!」
嗚呼、良かった。声が届いた…!
でも同時に申し訳なさが芽生える。
「急に呼んでしまい申し訳御座いません。」
「何を仰います。
貴女を護る事、それが私の存在理由だというのに。」
あれ、シエルさん。
いつもよりも静かです。
「チッ…相変わらずの化け物め…!」
じわりと大きな赤い染みが出来た左肩を押さえラストさんが怒っています。
「あれだけの雑魚兵共で足止めしたおつもりですか?っははは!」
ケラケラ笑ったあと、全ての感情が死んでしまったと感じるほど冷たいお声で
「笑えない冗談だ。」
と言い放ちました。
ゾクリと冷たいものが背筋を駆けます。
「首無天使の大群なぞ錆にもなりません。
反逆者1人に対して首無天使とは侮辱にも程がある。」
聞いた事のないシエルさんの怒ったお声…。
低く、静かで、いつものシエルさんの面影すら見えません。
「レウ=ブランシュがやれとでも言ったのでしょう。
貴方、彼に甘いから。」
「堕ちた者が何を言おうと…私には虫の羽音にしか…
あぁ、貴方は羽根が捥がれた哀れな道化」
羽根が、という言葉が聞こえた瞬間突如吹き荒れる突風に目を塞ぐ。
恐らくシエルさんが駆け出した際に生まれた突風でしょう。
踏ん張っているのに身体が耐えきれず後ろに下がってしまう。
「あっ…!」
そして地から足が離れてしまいました。
此処は崖になっています。
私が落ちたら秘石が砕けてしまう…!
それだけは絶対にダメ!
「イヴッ!!」
王龍様の大声が聞こえ目を開けると、私に手を伸ばして下さるお姿がありました。
魔界の方々は私に救いの手を躊躇いもなく伸ばして下さる。
でも手を伸ばすと、その手を掴んで頂けると、衝撃で秘石を落としてしまうかもしれません。
それだけは出来ない。
全身で秘石を抱え込むのです。
そうすれば私が地面に当たっても秘石だけは守れるはずです。
「もうそれは捨て置けッ!!
手を伸ばせ!!イヴ!!」
ごめんなさい、王龍様。
これは貴方の大切な物だから。
色々な方から想われているソロモン様が忘れ去られない為の大事な物だから。
「出来ません!!」
「くっ…!(龍化すれば確実にイヴに顔の部位が当たってしまう!無傷では済まぬ!
手を伸ばせば助けられるというのに!!)
このままではお前が死んでしまうのだぞ!!」
【王龍様!退いてー!!】
下から元気で聞き覚えのあるお声がします。
すると誰かに抱きとめられました。
私を覗き込むお方は石鹸のような優しい香りと絵の具の香りを纏っていました。
「ケルツァさん!」
「や、お嬢ちゃん。ギリギリセーフかな?」
「ありがとうございます…!」
よく見るとケルツァさんは立ったまま何かに乗っています。
【イヴちゃーん!無事〜?】
このお声は…!
「零蘭さん!?」
巨大なお身体の黒光りする鱗。
黒龍さんのお姿です…!
【うん!僕カッコイイ?】
「はい!とっても!」
【えへへ〜!
王龍様〜!イヴちゃんは任せて〜!】
「彼奴ら…感謝する。」
空中で留まっていた王龍様はシエルさんが居るはずの場所へお戻りになられました。
ケルツァさんは私を零蘭さんの上に降ろし、
落ちないよう肩を抱き寄せてくださる。
「もう。
イヴちゃん、死んじゃうところだったんだよ?」
「…王龍様の命に背いてしまい、申し訳御座いません。」
「怒ってるのそこじゃないんだけどなぁ。
似てるなぁ、ホント。」
最後の呟きが聞き取れませんでした。
【うーん…(なぁんかイヴちゃんに違和感があるぅ…。何で?石のせい?)】
「零蘭!前!」
【ふぇっ!?】
ケルツァさんが指す先には灰色の塊が。
何でしょう、アレは。
大量に蠢いている何かのような…。
「あれは首無天使の大群か!」
【じゃあ食べちゃえばいいよね!】
零蘭さんはスピードを上げて蠢く灰色の物体へ突っ込もうとします。
「ちょっと!!
お嬢ちゃん居るのに突っ込まないでよ!!」
【うわっ!!中に誰か居る!!】
零蘭さんは驚いて急ブレーキを掛けました。
その反動で私とケルツァさんは零蘭さんから落ちてしまう。
「この馬鹿ぁッ!!
お前ちゃんと首無天使全部喰えよ!!」
【ごめんなさぁい!!ちゃんと食べる!!】
落ちながら言葉遣いが乱れたケルツァさんは私を空中で抱き寄せ、純白の翼で羽ばたいて地に降りました。
首無天使によってボロボロになってしまった建物の瓦礫の上に。
「ホントにもう…困ったもんだよね。」
「ですが助かりました。
ありがとうございます。」
しかし首無天使の群れの中に何方が居たのでしょう。
見上げると零蘭さんが大きな口を開け、捕食しているお姿が小さく見えます。
「ケルツァ様…」
か細い声が聞こえ、視線を前に向けるとボロボロのお姿の方が立っていました。
土と血にまみれてしまった紺色のお着物から竜族の男性と分かる。大変、ひどい怪我です!
「手当をしないと…!」
駆け寄ろうとしたら嫌悪と拒絶の目を向けられ、思わず足を止めました。
「この方のせいではないですか…?」
わ、私…?
「何が言いたい?」
ケルツァさんが首を傾げると男性は大きく息を吸い込みました。言おうか迷っている瞳と放たれるであろう次の言葉が怖い。
「郷がこんなになってしまったのは…
この方のせいではありませんかっ!?」
「っ」
わ、私の…せい…!
「君…いや、お前。
何を言ったか分かっているのか?」
「承知の上です!!
私の家族は死んでしまった!!」
「っ!!」
「失う物がもう無いからッ!!
皆の代わりに私がお伝えします!!」
あ、あぁ…なんてこと…!
わ、私のせいで…
私のせいでこの方のご家族は…郷は…!!
「この方の異様な気配に天使種が目をつけたのです!!そうでなければ今!!
中立の立場である此処に手を出すはずがないっ!!」
私の、せいで!!
わ、たし…が…この方のご家族を殺してしまった!!
「お前は王龍様の言いつけに背いた。
お前は彼女を傷付けた。心も彼女の1部だ。」
私は彼を傷付けた。
私が傷を負うと言える立場ではありません。
「死ぬのは構わないッ!!
ただ、言いたかったんだ!!
…恨み言くらい、言わせてくれよ…!」
私を映さない瞳から涙が溢れそうです。
「王龍様に代わりお前に極刑を下す。」
「やめッ…やめて下さい!!
お願いします!!
この方を殺さないでくださいっ!!」
自分でも驚く大声でケルツァさんの右腕にしがみつく。
「っ…お嬢ちゃん、君のせいじゃないんだよ。」
「だとしても!!私が彼を今!!
傷付けたのです!!」
「「…」」
「私が…っわたしが…」
謝ろうとして言葉に詰まったその時でした。
彼の首から弧を描くように血が吹き出て、首が落ちてしまいました。
「…え?」




