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第79話『大胆な誤解』

皆様、お久しぶりです。


題名を思い切って変えました!!

旧:イケメンオネェな魔王様と私

から魔王様と薄幸少女へ!(また変えるかもしれませんが)何卒お願い致します!

そしてGWはありましたか?楽しめましたか?

私は少し遠出をしたのですが、その移動中に続きを書いていました。どうか優しい目でユムルちゃん達を見守って頂けたらと思います。

ユムルが幻水蓮仙へ赴いてから数時間後。

大量の書類に目を通し、サインを施すティリアは大きな溜息を吐いた。


「はぁあぁ…」


頬杖を付きあからさまにやる気のない彼に側近も思わず溜息を1つ。


「はぁ。坊ちゃん?お嬢様との時間の為に仕事を終わらせると仰ったのは貴方ですよ。」


「わぁってるわよ…。

でもやっぱり心配で落ち着かないの。」


「ふむ…。………?」


いつも通り予想の範疇な返答。

しかしバアルの心に少し引っかかった。


(坊ちゃんの様子がおかしい。

お嬢様が絡んでいるのに文句が静かだ。)


疑問の理由を探す為にティリアをじっと観察をすると僅かに呼吸が浅く、頬が紅潮しているように思えた。


「坊ちゃん、体調は?」


「…別に何ともないわ。

ユムルはアタシの為に竜族の元へ行ってくれたのよ。

だからアタシが弱音を吐く訳にはいかない。」


(坊ちゃんが欺くつもりなのは私ではなく己か。

全く、父親譲りの強情さだな。)


ふぅ、と小さく息を吐いたバアルにティリアはムッとしながら視線を向けた。


「何よその溜息は。」


「いえ?ぶっ倒れてお嬢様を泣かせても良いのだなと思っただけです。」


バアルの口からユムルが出てきた事によりティリアは強く反発するように机を叩く。


「はぁ!?

アタシがぶっ倒れる訳ないでしょ!」


「先程から魔力の流れが不安定です。

イヤリングをお嬢様に渡したからですよね。」


「ぅ…」


バアルの長い睫毛の下から光る鋭く紅い目に縮こまる魔王。

ティリアは膨大な魔力を持ち、その魔力の根源は自らの身体から自動的に生み出される物である。

自らの身体から作られる為、使わないと体内に蓄積していき、やがて魔法が暴発してしまう。

ユムルの為に渡したイヤリングは噴水のように湧き上がる魔力の1部をストックする役割を担っていた。

身体を血液のように循環する魔力の通り道を枝分かれさせ、身体に魔力が溜まりにくくなる事、ストックした魔力は必要時に自らへ戻すことが可能な事。

それらの利点故に身に付けていた物である。

イヤリングだけでなく、黒手袋の上に付けている複数の指輪も同様の効果を持つ。

ストック出来る魔力が上限になったアクセサリーは宝物庫の台座へと収められ城を囲むように魔力を発散させることで使用人の魔力枯渇を防ぐようにしている。

ウェパルの水門が常に顕現出来ているのはその発散されている魔力を補給している為である。


魔法暴発の危険を視野に入れたバアルはティリアへ促すように口を開いた。


「貴方は魔力蓄積が先代よりも速い。

早く別のアクセサリーを…」


「嫌。」


「はぁ?」


予想外の言葉に思わず出てしまった声を咳払いで誤魔化し、理由を追求する瞳をティリアに向けた。


「ユムルに渡した後にすぐ違うの付けたら薄情すぎるもの!」


「そんな無駄な見栄を張って」


「アタシがっ!目の前で付けていた物であの子を守っているの!アレをあの子の手から戻してもらうまで別の物なんて付けない!」


こうなると簡単には納得しないことを理解しているが言う事は言わねばなるまいとバアルは話し続ける。


「それで魔力が溢れて魔法が暴発したらどう責任を取るおつもりですか。」


「絶対暴発させないもん!」


「何を根拠に?」


「アタシはこの魔界の魔王よ!

出来ないことなんて無い!」


「出来ないこと沢山有るでしょうが。

シバきますよ。」


バアルの背後から溢れるどす黒いオーラに反射的に震え謝るティリア。


「すみませんッ!!ちょっと嘘吐きました!!」


「はぁあ…では妥協案としてこうしましょう。

もし城内で魔法を暴発させたら」


「させたら…?」


「暫くの間お嬢様を貴方の視界に入れません。」


「えっ!?」


「蜘蛛の糸で私の部屋の中を囲い、そこから出しません。」


魔法で部屋に侵入しようと試みるであろうティリアへの防止策。

蜘蛛の巣の上には勿論使い魔の蜘蛛を置く。


「ひ、卑怯よ!ユムルが蜘蛛平気だからって!

しかもベル!貴方の部屋でなんて!」


「貴方にデメリットが無いと意味無いので。」


「ぐぬぬぬぬ…っ…」


バアルなら本当にやりかねない。

そう確信しているティリアは、だからこそ頷けなかった。


「暴発させない、貴方がそう仰ったのですよ?

それを実行させれば良い事です。」


最後の一言でティリアは決めた。


「っ…分かったわよ!!

その提案を受け入れます!!」


「畏まりました。では坊ちゃん?

呉々も倒れぬよう。」


「ふん!ユムルにカッコ悪いとこ見せてたまるもんですか!」


「(今は、と言うか1日以上居ないですけど。)」


気合いを入れ直したティリアは再び書類と向き合い、

蜘蛛は補助に徹することにした。



やはり皆様は魔族と仰るに相応しい身体能力です。

私という重荷を抱えているのにシエルさんは先陣を切って走ってます。


「ちょっとシエル君!イヴちゃん抱えてるんだから俺より先に行かないで!」


「おや?それはすみません!では!」


徐々に失速し、私達の後ろを走っていた王龍様方をバク転するように飛び越えました。

何故1番後ろにお下がりになったのでしょう?

シエルさんはふと上の一点を見つめる。

視線の先には黙々と黒い煙を吐いている窓ガラスが割れた部屋が。

ブレイズさん、フレリアさんが飛び上がり部屋へ。

西蘭さん、零蘭さんがその後に続き王龍様が最後にゆっくりと浮かび部屋へ。

現場はお2階ですが流石に飛行無しで飛ぶには高すぎる気がしますが…!


「しっかり掴まっててくださいね。

狐殿は私の頭へ。」


私は言われたまま狐さんをシエルさんの頭にしがみついてもらうよう置かせて頂き、指示された通り彼の首の辺りで手をまわさせて頂いた。


「シエルさん…?」


「このくらいなら私でも問題ありません!

さぁ、口を閉じて。行きますよ!」


大幅な数歩から始まった助走は段々と大地を蹴る音が小刻みになり、最高速度に乗る。

踏ん張るように地を踏み抜く1歩と同時に彼の背後からバサッと音が聞こえました。

以前見せてくださった片翼の大きな黒い翼が白い外套を捲り上げ、姿を現しています。

飛ぶと同時に上に伸びきった羽根が下へと動く。

生み出された飛力は跳躍の補助になる程度で右側のみ。

左側が傾きますがシエルさんは助走で体の向きを変えられていた為、背面跳びの状態での跳躍でした。

片方の飛力は回転を生み出し、クルクルと身体が空中で回ったのでしょうが私はよく分からず、既にシエルさんが着地しました。


「あれっ王龍様!それに皆様勢揃いで!

どうされたのですか?」


シエルさんからキツネさんを渡されてすぐ聞こえる爆発現場に合わない陽気なお声。

聞き覚えがあります。あれはイツァムさん!

ピンクの可愛らしい御髪が爆発によってか鳥さんの巣のようにチリチリになって丸メガネがひび割れています…!が、煤まみれのそのお顔には笑みが浮かんでいます。

そんなイツァムさんの肩をブレイズさんが揺さぶります。


「イツァム!(俺のナイフは)無事なのかい!?」


「あ、ナイフのご心配ですね!大丈夫です!

ケルツァ兄さんが守ってくれてますので!」


えっへんと胸を張り、視線を右へと流すのを見て私達は左を向きました。

すると大人1人包める繭のような白い楕円形の物がありました。繭は見る角度によって反射する光の色を変えています。

あれ、よく見るとこれは…糸ではなく羽根?

疑問に思っていると繭が開き、中からケルツァさんが現れました。繭の正体はケルツァさんが羽根で自らを包んでいたもの、なのですね。

彼はブレイズさんにナイフを差し出しました。


「はい、爆発からは守れたよ。」


「あ…ありがとう。

でも爆発したのに冷静だね、ケルツァ。」


確かに。

竜族の皆様は驚く素振りが一切ございません。

決して少しとは言えない爆発の大きさでしたが…。


「絵の具の調合次第で爆発は日常茶飯事なので大丈夫なのです!」


「え、日常茶飯事?」


イツァムさん曰く、自分の理想とする色を作るには魔物さんの臓物や魔力を持った鉱石、薬草、お花など様々な物から抽出する必要があり作られた絵の具と絵の具を混ぜ合わせると化学反応で偶に爆発が起こるそうです…。

あれ、イツァムさんって宮廷画家さんだったはずです。

お城で爆発はしなかったのでしょうか。


「なので基本の爆発は気にせず大丈夫です!

私は竜族故に炎には耐性があるので!」


「絵の具爆発リストとか作った方が良さそうじゃの。」


「作ってその場に置いてまた混ぜちゃうものですから作ってもすぐに木っ端微塵になるんですよね〜。」


「……なんと…。」


フレリアさんの呆れにどう反応したら良いのか…。


「でもまさか王龍様が赴くなんて…

あっ!!もしやお咎めですか!?」


「いや。イヴがお前を心配だと言ったから着いて来ただけだ。」


王龍様の視線が向けられ、イツァムさんも真ん丸な瞳で私を見ます。


「イヴ…さん!あれ?前に筆を取り返して下さった時にいらした方ですか!?」


「覚えてて下さったのですか?」



「はい!何せブレイズさんの()()()()だと伺いましたので!」



満面の笑みでそうお答えになった途端、ブレイズさんは咳き込みました。


「んぐっ!?ゲホゴホッ!!?」


あれ?ぶ、ブレイズさんのお嫁さん…!?

私なんかが!?


「〜っ!!ダメじゃ笑いが堪えれん!!

ひ〜っ!!ぶれっ…いっ…っくくく…!!」


フレリアさんはそんな彼を見て笑いを堪えられず吹き出して手を叩きながら笑っています。

何故そのような事になっているのでしょう。


「ちょっ…何その情報!!伺ったっていつ!?

何処で!?誰に!?」


「え?えーと…筆を取り返しに行ってもらっている時、ギヴァンさんのお店で、彼が言ってました。」


ブレイズさんは「あの時か…!あの灰モフめ!」と呟くとシエルさんの方を見ました。


「あの時ってシエル君にイヴちゃん任せてた時だよね!!てことは聞いてたんじゃないの!?」


確かに私はシエルさんに耳を塞がれ、目を閉じろと言われていたので何も存じ上げませんが…だからこそシエルさんはご存知ですよね。


「あぁ…あなた方が夫婦でもまぁいっか!

って思いましたので!」


「どこがだよっ!?イヴちゃんに失礼と迷惑が降りかかりすぎだよっ!!」


「それにブレイズ=ベルゼブ…あっブレイズ殿の花嫁と聞くと周りが少し避けて通るようになりましたし良い事ばかりで。」


ブレイズさんのお名前が出ると避けられるのでしょうか?こんなに優しい御方を避けるなんて一体何故なのでしょう?

しかし今のブレイズさんは冷静さを欠いており脇下から伸びるケルツァさんの両手によって身動きを止められています。


「離してケルツァ!!あの灰モフの毛という毛を剃ってつるつるにしてマフラー作るんだッ!!」


「マフラーなんて無理だよ!

毛がフカフカのモフモフでも1本1本短いんだから!」


そこですか!?


「目的の副産物に構うもんか!!

イヴちゃんに対して切腹物だぞ!!」


ブレイズさんをどうやって落ち着かせようかと考えていると王龍様がいつの間にか私の隣に移動なさっていました。


「イヴよ。お前はバアルのメイドでありブレイズの花嫁なのか?」


「えっ!

あ、あの私はバアルさんのメイドですが…」


どうしましょう、これは話を合わせる必要がある内容なのでしょうか。

ブレイズさんのお、お嫁さんって言う方が皆様の活動に滞りが発生しないのでしょうか。

でも私なんかがお嫁さんだなんてブレイズさんに失礼ですよね。

どうしようかと迷っているとブレイズさんがすかさず


「この俺がイヴちゃんのような優しい子を貰えるわけないだろうがぁっ!!!」


と大声で王龍様の質問を代わりにお答えしてくださりました。凄く己を蔑んでいるような返答です…!


「それは違います!」


はっ…ついブレイズさんに向けて言ってしまいました。嫌な予感が身体を駆け巡った後、キラキラと輝く王龍様と零蘭さんの目が私を見つめます。


「隠さなくとも良いではないか。

なんと悦ばしい事だ。」


「よろこばしい?」


「ならば部屋割を変えねばなるまい。」


「変えねばなるまい?」


王龍様の言葉にオウム返ししか出来ない私とブレイズさん。


「夫婦の番は一緒じゃなきゃ!

ねー王龍様!」


ニコニコの零蘭さんは王龍様へ同意を求め、

それに答えるようにゆっくりと頷かれた。


「うむ。夫婦の時間は何人たりとも邪魔はさせぬが故、仲良くするが良い。」


「いやだから俺達は夫婦じゃ」


否定しようとブレイズさんが口を開いてすぐ、

王龍様がフッと息を吐きました。

その直後、私に貸して頂いた部屋に居ました。


「ない…ってうわぁあっ!!

やられた強制転移か!!」


ブレイズさんは慌ててドアへ駆け寄ろうとし、


ガチャリ


と外から鍵を掛けられた音が響きます。

部屋の中から鍵をかけるのでは無く、外からかけられるとは…。けれど此方にも鍵の摘みがありますから鍵の開閉は


「…開かない。」


「えっ」


「この摘み、魔法で開かないようにされてます!

さっきの鍵に魔法がかけられていたのでしょう!」


力いっぱい開けようと奮闘してくださるブレイズさんはやがて手を離し、扉から数歩離れて細長い足で扉を蹴破ろうとしましたが…。


「〜っ……!!」


ダンッという音だけが聞こえ、扉は壊れずブレイズさんの足へ衝撃が返ってきてしまっているのでしょう。

足を押さえて蹲ってしまいました。


「ブレイズさん!大丈夫ですか!」


「う…はい、だっ大丈夫です…。」


綺麗なお顔には汗が滲んでいます。

余程痛かったのでしょうか。

ティリア様から頂いたメイドさんのエプロンの裏地にはポケットがあり、レースのハンカチを取り出して拭かせて頂くと彼は弾かれたように此方を向きました。


「っいけません!

大切なハンカチを俺なんかに使っては!」


「いえ、大切だから使うのです。

ブレイズさんの事が大切なので。」


拭き終わる前にブレイズさんは土下座をしてしまいました。


「う…申し訳ありません。

俺のせいで変な誤解を招いてしまって。

なんとお詫びしたら良いか…」


「そんな!ブレイズさんは何も悪くありませんので謝らないで下さい。」


「しかし俺のせいでイヴ…いや貴女様は俺なんかの…」


ブレイズさんは自己嫌悪に苛まれているのですね。

私みたいな言動で私みたいな表情をなさっています。


「私が最初に否定しなかったからです。

私のせいでブレイズさんが巻き込まれてしまった。」


「違う!貴女は物事の円滑さの為に話を合わせるか考えていた!それに気付いていたのに…俺の事を思って声を出してくれたのに…。」


「ではお互い様ですね。」


「…っ」


それは違うと言うお顔をされています。

違わないから私は真っ直ぐ彼を見つめる。

やがて折れてくださり、嫌々ながらも片手で顔を押さえながら頷いた。


「まず、閉じ込められている理由が不明なこのお部屋から出ましょう。」


「は。…しかし原因は王龍様の魔法でしょう。」


「王龍様の?」


「はい、竜族は攻守のどちらかを特化させる魔法を使います。今は守の方かと。」


ブレイズさんは窓の近くへ行き、コンコンとノックした後、髪を結っていた黒いリボンを解き握り拳にした右手に巻き付けました。


「ふっ!」


空を切る程早い拳はガラス窓を捉えます。

しかし音の反響が鈍く、大きなゴムのようなものを殴りつけたような音がしました。

窓は傷1つ付かず割れていません。


「守の魔法は文字通り守る力です。

守りに徹する、それ以外に能力はありません。」


お話を聞かないといけないのに普段纏めている御髪が下ろされるとなんと言うか…ブレイズさんがいつもと違うように見えます。


「どうかされましたか?」


「あっ!!すみませんすみませんっ!!

続きをっ!!」


いけませんユムル!!折角お話してくださっているのですからちゃんと聞きなさいっ!!


「は、はい。役割が1つしかない魔法ほどシンプルに強いんです。それを王龍様が使っているのなら今の俺に破れるかどうか…」


ブレイズさんなら大丈夫です。

そう言いたいのですがそれはプレッシャーになりかねません。私も動かなければ。


「私にもお手伝い出来る事はありますか?」


「いえ、貴女の手を煩わせる訳にはいきません。」


「…ではブレイズさんの懸念なさっている事を伺っても良いでしょうか。」


簡単に突破出来るはずのない王龍様の魔法の中。

内容を御理解なさっているブレイズさんの懸念点を伺えば何かお手伝い出来るかもしれませんから。


「懸念…この魔法を、いや結界を破る最中に俺の魔力が尽きる事、ですかね。」


「魔力…」


「此処で魔力を全消費したらいざと言う時に貴女を護れない。今は王龍様相手なのでいざではない。」


やはり私が弊害になっているのですね。

どうにかしないと。


『ぷっきゅ!』


ずっと静かにしてくれていた狐さんが私に縋るような体勢で目を光らせます。


「ど、どうしたのですか?」


『ぷ〜っきゅ!きゅー!』


必死に右耳へ手を伸ばそうとなさっています。

もしや…


「ティリア様から一時的に賜ったイヤリングが気になるのです?」


『ぷ〜っ!!』


ずっと静かだったのにどうなさったのでしょう。

ブレイズさんがすぐ近くにいらっしゃいますし外しても大丈夫そうですね。


「はい、どうぞ。」


『ぷっぷ!きゅ〜!』


蝶々のイヤリングを狐さんに渡そうとするも首を横に振ってしまいます。

その代わりに今度はブレイズさんの方へ手を伸ばします。


「え?俺?」


『ぷ!』


「ブレイズさんに渡せばよろしいのですか?」


『きゅ〜!』


コクコクと頷かれたのでブレイズさんの手にイヤリングを渡しました。


「これでよろしいのですか?」


『ぷっきゅ!』


良いようです。

狐さんも私達の事を夫婦と思っていらっしゃるのでしょうか。少し恥ずかしいです。


「これは…!」


ブレイズさんが小さく驚きました。


「そうか…これはティリア様が身に付けていたアクセサリーですね?」


「は、はい。

目の前で付けていた物を態々外してくださって…」


「成程、だから俺が持った途端に魔力が一気に流れてきた訳だ。」


ブレイズさんが持った途端…?

首を傾げた私に「この話は後で…いや、話す時間無いかもしれないしな。」と言って説明をしてくれました。

ティリア様の魔力のお話と、魔力が溢れて起こる魔法暴発を防ぐ為のアクセサリーのお話をしてもらいました。


「ティリア様が溜めた魔力はアクセサリーを介して俺達も頂けるのです。」


「だから狐さんはコレをブレイズさんへ渡すように教えてくれたのですね。」


狐さんに視線を落とすと『ぷっきゅ!』と胸を張っていました。聡明な御方です。


「てっきりおめかしの為に最近買ったアクセサリーに魔力を込めたものだと思っていましたが…ティリア様が身に付けていたアクセサリーなら納得です。」


ブレイズさんは目を閉じ、イヤリングを握り込みました。


「使い切ると怒られそうなのでお返し致しますね。」


「はい。」


イヤリングを返してもらった後、ブレイズさんは足の付け根にある黒色のポシェットから銀のナイフを5本取り出し、左手に2本、右手に3本持ちました。


「(一発勝負、ミスは許されない。)」


ブレイズさんの横顔はとても緊張なさっているように感じます。彼の集中力で空気がピリッと肌を刺激するような。


「いきます!」


ナイフを全て投げて扉に刺した後、床に両手を付けました。

手の周りに淡い緑の魔法陣が複数現れ、光り輝きました。それに呼応したのかナイフが全て同じように光り輝きます。

規則的な距離を保っていたナイフから線が伸びてナイフ同士を結び五芒星を描き上げました。ポシェットから再びナイフを1本取り出し念を込めると淡い緑の炎で包まれて五芒星の中心に投げ刺した途端、扉に大きな亀裂が生じました。

大木が折れていく音を聞きながらブレイズさんは微笑みました。


「結界破りの魔法、無事成功しました。」


「結界破りの魔法…!そのような魔法がおありなのですね!凄いです!」


「ティリア様と貴女、狐君のおかげです。

久し振りに使ったので失敗が怖かったぁ…。」


「久し振り…?」


気になる言葉を復唱するとブレイズさんは目を見開いてワタワタと動きます。


「アッその!えっと!大昔に灰モフと喧嘩してやられたんです!その時以来でして!」


灰モフ…ギヴァンさんですね。

ギヴァンさんも結界魔法が使えるのですか。


「とにかく!これで外に出れます!

そこで新たな懸念点が。」


新たな懸念点…?


「俺達を閉じ込めた零蘭と王龍様です。

俺達の振る舞いを固定しないと恐らく面倒な事になる。」


「関係性、ですよね。」


「そうか、そうじゃないか。かなり重要ですが…

正直どちらでも結論に変わりはないかと思います。」


お互い夫婦という言葉を発するのが恥ずかしく、怖いので言葉を濁しています。


「竜族は愛が、思いやる気持ちが強い者です。

俺達を閉じ込めたのも純粋な善意でしょう。」


純粋な…。

確かに王龍様も零蘭さんも悪意なぞ御座いませんでした。


「恐らく2人で居させようと行動を制限してくると思うので誤解を解きましょう。」


「はいっ!」


でも聞いてくださるのでしょうか…。


『ぷ!』


狐さんが大きく太い尻尾でポケットをタシタシと叩きます。

何かありましたっけ…。

まさぐってみると黒いカードがありました。

これはバアルさんから頂いたカードです!

確か書かれていたのは白龍、ケルツァ…。


“何かあったらケルツァを話し合いに引き込みなさい。どうにかしてくれるでしょう。”


とバアルさんが仰っていました…!


“大抵の面倒ごとは西蘭がになっている為、話はしやすいでしょう。”


とも仰っていたはずです。

ならば…


「西蘭さん、ケルツァさんのお力を借りましょう。」


「そうですね、そうしましょうか。」


ブレイズさんがドアを開けて先導してくださる。

案内してもらった時に歩いた普通の廊下です。


「(あっぶねぇ…危うくユムル様に話すとこだった…。

ギヴァンじゃなくてソロモンの手で無様に閉じ込められた黒歴史を…。)」


ブレイズさん、手で額の汗を拭っています。

やはりお疲れになったのでしょう。




この時、まだ私達は郷へと忍び寄る悪意の足音に全く気付きませんでした。

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