第73話『心配したんだよ』
GW…連休のありがたみを知りますね(しみじみ)。
五月病になっちゃいそうです!!!!
ティリア様とお城へ戻ると、アズィールさんを始め皆様が待っていて下さいました。
「ユムルさまっ!!
良かったご無事で!!」
するとアズィールさんが勢いよく吹っ飛ばされシトリさんが現れました。
「どけバカ猫!!
嗚呼ご主人様!!このシトリとても寂しゅうございました!!ご無事で何よりですっ」
「ご、ご心配とご迷惑をお掛けして大変申し訳ございませんでした!!」
これは土下座ものです!
が、ティリア様が私の手を掴んだままなので下げれるところまで身体を下げるしかないのです…っ!
するとすすり泣く声が前から聞こえました。
「ぐすっ…ゆむゆしゃまぁ…
ちゅちゅのこと、きらいになっちゃいましたか?」
「そんな訳ないじゃないですか!
チュチュさんには好意と感謝しかありません!」
「う、うわぁああんっ!!!」
えっ泣いっ!?えっ!?
私何か失礼な事言ってしまいましたか!?
いや、最低な行動のせいで傷つけてしまってそれに塩を塗りたくってしまったのでしょうか!?
「ユムル、あれは安堵の涙よ。
思いが溢れて止まってないわ。」
ティリア様は感じていらっしゃるのですね…!
でも傷付けてしまったことは事実。
どうしたらお詫びになりますでしょうか。
どうしましょう…。
「よぁった…よぁったよぉ…!
きらわれなかったよぉ…!あずくん〜!!」
「おうおう良かった良かった。」
「本当に申し訳ございませんでした。
チュチュさんを始め皆様を困らせて…」
「この際だから貴女が飛び出した理由、
聞かせてあげる?」
お話…私がご迷惑かけてしまったのですからお伝えするべきですね。
「えっと…急に自分の存在に嫌気が差して…居てはいけない存在だと夢で言われて、
その通りだなって思って…しまって…」
「待ってアタシ聞いてないわそれ。
夢の話しか聞いてないわ。」
言ってませんでしたのでとは言えず。
ティリア様の顔の圧が凄いです…。
「も、申し訳ございません…。
隠してました…。」
「そういうのは隠しちゃダメ!
アタシには何でも言ってちょうだい。
全部受け止めてユムルの味方で居るから。」
ティリア様の真っ直ぐな目はとても美しく、嘘がない。
「……はい。」
「それにユムル様や。
お主は我らの第二の主じゃよ。」
「我等使用人はみーんな、お主に居てもらいたいと思っておるよ。」
双子さんが私の周りをクルクルと浮かびながら回っています。
皆様、そう思ってくださるのでしょうか。
「そりゃそうですよ!
思ってないやつはこのボクが殺しまもがが」
光の速さでシトリさんの口を塞いだブレイズさんが優しく微笑んでくださる。
「思っていない者はこの城中を探しても見つかりませんよ。俺も居て欲しい。」
皆様は次々と「自分も」と仰って下さいます。その温かさに思わず涙が零れる。
しかし唯一口を開かなかったバアルさんが皆様より前に出ます。
「お嬢様。
貴女は天使種に狙われている身だということを御理解なさい。」
「は、はい。」
「外がどれほど危険かご存知でない様子。
私は分からせてあげたいものですが。」
こ、怖すぎます!!
お怒りを通り越しているような!!
「ちょっとベル」
「坊ちゃんは黙ってて下さい。」
「なっ!?」
「貴女は物分りが良い筈です。
だから私も貴女が此処に居ることを認めた。」
買い被り過ぎではと言いたくなったのを堪え、
声が出ない代わりに頷く。
「この私が呼び鈴を渡したのです。
あまり私を失望させないで下さい。」
言い終わってしまったのか、
バアルさんは白いロングコートを翻して消えてしまいました。
「おやおや、バアル殿は相変わらず素直ではありませんね!姫君に対してだと言うのに!」
笑顔のシエルさんに同意するようにレンブランジェさんとフレリアさんが頷く。
「あれは失望ではなく心配という言葉に置き換えるモノじゃよ。」
「アイツは心配している時ほどツンツン度が増すんじゃよ。」
「ま、そうね。
ベルは心配だからこそ強く言っちゃうの。
ちゃんとユムルを心配していたのね。」
「重ね重ね皆様には大変なご迷惑をお掛けしてしまったこと、深く反省しております。」
心配…。
ここに来るまで全くされた事が無かった。
ここに置いてくださってから知らないことが沢山あります。
だからこそ御礼をしなくては。
「ティリア様、ユムル様、丁度御夕食のお時間ですよ。」
ブレイズさんに促され、ティリア様と移動を始めました。
私は皆様のお役に立つのです。
…
「来たな、テオ。」
「そりゃ去り際にあんな睨みつけられたらねぇ。来なきゃ殺すって目をしたクセに。」
「ふん。で、貴様何をした?」
「害を成すどころか善の行動をしただけですよ。天使種の魔法を少量なら吸える僕お手製のぬいぐるみをあげただけです。」
「お嬢様は夢のせいで飛び出したが。」
「天使種が悪夢を見せるかもと思って設置したけどハズレでした。
アレは天使種が仕掛けた訳じゃない。」
「つまりお嬢様が勝手に見た夢と?」
「そうなりますね。
彼女はずっと己を縛り続けて苦しめてる。
幸せを疑うなんておかしな人間だこと。」
「…」
「僕だって彼女は居ていいと思っているんですよ。もしやるならもっと残酷にやりますし。」
「貴様はそういう奴だったな。
…疑った事を詫びる、下がれ。」
「!(謝るの珍しい。)はーい。」
「人間は堕落する為に無駄な事を模索するものだと思ったが逆に己を縛り続けている、か。本当に変な人間だ。ふふ…面白い。」
…
相変わらず美味しいブレイズさんのお料理を味わっているとティリア様のお食事の手が止まりました。
「ねーえ、ユムル?」
「はい。」
「今日、貴女と一緒に寝ても良い?」
「エッ!?」
思わず変な声が!
「あ、嫌なら良いのよ。」
「あ、ちが、あの…ティリア様のご迷惑じゃ…」
「頼んでるのアタシなのに?!」
「ぁ…ぇと…宜しいのですか?」
「えぇ、アタシがそうしたいの。」
お優しい笑顔につい顔が綻んでしまう。
「嬉しいです。」
「ウッッッッ」
「!??」
急にティリア様が胸を抑えて苦しそうに!?
慌ててブレイズさん達を見ますが誰1人慌てる素振りがありません!
「大丈夫です。
頻繁にある“ユムル様が可愛いすぎ発作”です。放っておきましょう。」
ブレイズさんが笑顔でそう仰います。
だ、大丈夫なのでしょうか…。
「アタシ…残りの仕事早く終わらせるわ…。
ユムルが寝る頃に部屋にお邪魔させて…っ」
「も、勿論です。
ですがご無理なさらないで下さいね。」
「当たり前じゃない。
ユムルと一緒に居たいのだから!」
「…」
そのお言葉は胸にじんわりと温かみを下さる。嬉しくて何回も頷いてしまいました。
「じゃ、じゃあアタシ先に行くわ。
ユムルはゆっくりとよく噛んで食べなさい。」
「は、はい!」
返事をするとティリア様は私に微笑み立ち上がる。
「いい子ね。じゃ、ブレイズ頼んだわ。」
「は。」
「ベル、行くわよ。」
「畏まりました。」
お2人が出ていって閉じられた扉を数秒見ているとブレイズさんが甘い匂いのするお料理を私の前に置いて下さいました。
白い筒状のケーキにジェルがコーティングされていて、スカートのようにひらひらしたように見えるフワフワなクリーム。
上に菱形のチョコレートと金粉があり凄く綺麗な仕上がりです。
「これはチュチュちゃんが作ったデザートです。是非ご賞味下さい。」
「チュチュさんが?」
「は、はい!ユムル様に元気になって欲しくてチュチュ、ブレイズさんにお願いしました!」
グッと拳を握り込む小さな手には絆創膏がいくつか貼られていました。
「チュチュ、ぶきっちょだからブレイズさんが殆ど作ってくださいました!でも!
気持ちはうんと込めました!」
酷いことをしたのは私なのに…
何と良い方なのでしょうか。
泣きそうになるのを堪え、手を合わせる。
「凄く嬉しいです。頂きます。」
綺麗に磨かれたスプーンを手に取る。
「チュチュ、お砂糖とクリームを混ぜたんです!」
「ユムル様を意識したデザインなんだよね。」
「はいっ!主様の服を纏うユムル様は可憐で可愛いので!」
「なんと…」
こんなに可愛らしいケーキが私を意識して下さったものなんて…
「食べるのが勿体ないのです…。」
「えっ!?
それはチュチュ嬉しいけど悲しいです!」
チュチュさんが泣きそうに!!
「ハッ!すみません!そうですよね!
頂きます!」
スプーンでも簡単に切れるケーキはふわふわのスポンジの断面にイチゴが入っていました。可愛い。
そしてチュチュさんの心配そうな視線を受けながら口に運ぶ。
優しい舌触り、上品な甘さ、果実の艶やかな甘酸っぱさ。
全て私が好きな味でした。
私、とても酷い事をしたのに。
傷つけてしまったのに。
このケーキはとても優しい味がします。
「「!?」」
視界が潤んで、頬に涙が落ちてきました。
「ゆ、ユムル様!?」
「もしかしてチュチュ何か失敗を!?」
違います。
違うのです。
罪悪感が優しさに触れたことで涙が止まらないだけなのです。
「おい…っ美味しい。
とてもっ美味しいのです!
嬉しくて…っ」
「よ、良かったです〜!!
チュチュ、ユムル様に笑顔になって欲しくてブレイズさんにお願いしたのです!」
!
それならば泣いていてはいけませんね。
「ユムル様、チュチュは酷い事されたと思っていません。」
「え?」
「チュチュ、ドジだから沢山失敗して怒られてます。
でもユムル様は怒っていいのに怒りません。
とってもお優しい方。」
「…」
「チュチュの方が酷い事してしまっているんですよ。
さっきの事が酷い事な訳ないじゃないですか。」
「チュチュさん…」
涙を拭き、チュチュさんの笑顔を見る。
とても眩しくて綺麗な笑顔でした。
「ユムル様の幸せはチュチュの幸せ。
ユムル様の悲しみはチュチュの悲しみです。
チュチュはユムル様が大好きです!」
嗚呼、なんとお優しいのか。
私には勿体ないお人。
でも許されるのなら私に向けてくださるその笑顔をもっと見たいです。
「私もです。」
笑い合うとチュチュさんに手を引かれ、
寝る支度をしました。
お風呂でチュチュさんは楽しそうに色々なお話を聞かせてくれました。
私もあのようにお話出来たら、皆様も気を遣わずに済むのでしょうか。
…
ユムルとチュチュが部屋から出た後、
周りのものに積まれた食器をワゴンへ積み厨房へ運搬するよう指示を出したブレイズ。
後に続いて廊下へ出てふぅ、と息を小さく吐いたあとに声をかけられる。
「よぉブレイズ。」
「君は…カロか。」
髪型と態度で目の前の男の人格を当てる。
厭らしく笑うカロは壁に凭れかかった。
「アンタ、随分丸くなったじゃねぇの。」
「…何だい急に。」
「綺麗に処理された元人間の使用人の肉、
全然使ってねぇじゃん。」
「…」
「あ〜…いや。
黒龍にたらふく食わせてたな。」
「だったら何だと言うの。」
ブレイズの睨みを笑みで返し、
彼の耳元へ口を近づける。
「魔に染まる肉は食う者にも浸透する。
それが嫌なんだろう?」
「ッ!!」
囁かれた嫌悪感で思わず飛び退くブレイズ。
そんなブレイズをケラケラ笑うカロ。
「っははは!図星かよ!」
「料理長は俺だ!!
彼女の食事に関してダンタリオンにとやかく言われる筋合いはない!」
「誰がユムル様の事って言ったかなぁ。」
「…!」
カロはハッと気付いたブレイズを滑稽だと言わんばかりに嘲笑する。
「やっぱ嬢ちゃんの事を酷く気に入ってんだな。
あのブレイズ=ベルゼブブが!」
「お前…ッ」
「はー!笑った笑った。
それが知れただけ良い収穫だったわ。」
踵を返しスタスタ歩くカロ。
思わず声を出す。
「結局何がしたかったんだ!」
「面白いこと探してただけだけど。じゃ。」
ヒラヒラ手を振り、歩くカロ。
呆気にとられているブレイズは数秒固まっていた。
「くそ…調子狂うな。
ホント意味不明。」
誰も聞かれていないことを良いことに大きな舌打ちをしたブレイズは厨房へと向かった。




