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第72話『月が魅せた不思議な魔法』

皆様、いかがお過ごしですか?

私の方は桜がとても綺麗です。

桜吹雪はとても儚くて美しく素晴らしいものだと特に思いました。

もうそろそろ散ってしまいますが、その時まで綺麗な桜を見ていたいです( *´ `)

「っ!!はぁっ…はぁっ…!!」


リゼットさんに殴られる前に視界が暗転し、

目が勝手に開いた。

今のは夢?

夢…?本当に?

髪も、顔も、手もとても痛かった。

とても夢とは思えない。

胸が苦しい。バクバクと脈打つ心臓のせいで身体に響く。


優しい皆様は嘘?建前?

…分かっている。

私はどこに居ても生きているだけで迷惑なのだと。何も無い私に価値を見出すのは無理に等しい。もうずっと前に散々分からされた。


独りになりたい。

外に出たい。


ここに来てそう思ったことは無かった。

なのに…

ここに居てはいけないと本能が訴えるから、動かなければならないと思う。


どなたにも会いたくありません。

会ったらその方に気を遣わせてしまうから。


そっと扉を開ける。


「あっ!ユムル様!

お目覚めですか?」


目の前に明るく可愛らしい笑顔を向けてくださるチュチュさんがいらした。

居てしまった。


「…」


その笑顔さえも…


「ユムル様?」


「…っ…ごめんなさいっ!」


「あっ!?えっ!?」


彼女の笑顔を見る事が辛く、走り出してしまう。あぁ、最低最悪な人間なのに。

もっと…っ!


「おや、ユムル様走っては危ないぞえ〜?」

「おや?様子がおかしいぞレンブランジェ。」


レンブランジェさんとフレリアさんのお声ですら辛く感じる。


「むむ!?本当だなフレリア!

追いかけ」


「いや、やめんか。

あれは今に触れたら壊れる。」


「む、お主が言うなら…」


何故こんなにも皆様を恐怖の対象としてしまうのか。話すことも目を合わせることも怖くて、ただひたすら外を目指す。


「あっ!ごしゅじん…さま?」


「ごめんなさい!ごめんなさい!」


「ご主人様…?涙の匂いだ。

お待ちください!どちらへ!?

外は危険でございます!」


「ごめんなさい!」


「ご主人様っ!!」


シトリさんの忠告すら聞けないのですか、

今の私は。


そのままの勢いで城の外へ。



「あれ?チュチュ?

ユムル様は?」


「あ、うぅ、あずくぅん…」


「えぇ!?

どうしたんだよ泣きそうじゃん!?」


「チュチュ、嫌われちゃったぁあぁ…

うわぁああぁあんっ」


「えっちょ、ほんとに泣くなよ!?

あーもうっ!意味わかんねぇ!よしよし!」



外はいつの間にか暗くなっていた。

お城は広いから外に出るまでにはもう体力が無くなってしまう。


「はぁ…はぁ…っ」


「あれぇ?ユムル様だぁ。

どうしたの〜?」


大きな噴水からのんびりとした声がする。


「ウェパルさん…」


ウェパルさんが噴水から顔を出していました。


「…?浮かない顔〜。

ティリア様と喧嘩しちゃったぁ?」


「…いいえ。こんな私なんかが…」


数秒、ウェパルさんの視線が刺さる。


「…僕、何も見なかったことにしてあげるぅ。」


「え?」


「怒られるのは慣れてるのでぇ。

周りなら広いしお散歩に丁度良いよぉ。」


「ウェパルさん…」


「1人になりたいんでしょ〜?

ごめんねぇ、話しかけてぇ。

心配だったのぉ。」


「…本当にすみません。」


「うーうん。ただ、本当の外は危険だから行かないでねぇ。」


そして噴水の中へと戻られました。

気を遣わせてしまった。

何故私はこんなにも…ダメな人間なのでしょうか。

止まっていると嫌な気持ちが渦巻いてしまうと思い、あてもなく足を動かす。


「…」


お城の周りはとても静か。

このまま消えてしまえたら。

皆様にこれ以上迷惑を掛けないで済むでしょうか。

ウェパルさんには大変申し訳ありませんが…

どうにかしてお外に出ましょう。

ティリア様が気付かぬ内に。

何処が1番お外に出やすいでしょうか。

お城とだけあって何処も手が行き届いており、植物は綺麗で可愛い花、大きな木で雑草は何処にもありません。

砂利も無くて歩きやすい石畳。

そして、大きな城壁。

ウェパルさんの創る水門ではなく、レンガか石で出来ていてとても脱走は不可能。

…困りました。


「こんばんは。一人でお散歩?」


「え」


吹き抜ける風の向こう、いつの間にか綺麗な女性が私に微笑みかけていました。

メイド服でも無い蝶の模様が上品のふんわりとした優しい色のワンピースで薄手の上着を羽織っていらっしゃる知らない方です。

お城の方でしょうか。

少し不思議な雰囲気をお持ちの方です。


「悲しそうな顔だわ。

私にお話すれば少しは楽になるんじゃない?」


「…」


不思議と、彼女の声がくすんだ心を包むような感覚になり話そうと思ってしまう。


「…わ、たし…」


「うん。あ、歩きながら話しましょう?」


「はい…。」


彼女は誰なのか。

フワフワな長い金髪は月光に照らされてキラキラしています。


「ここね、お散歩するには丁度いい長さなのよ。」


「そうなのですね。」


「うん。貴女、凄く寂しそうな顔してたわ。

可愛い顔が可哀想よ。」


「…私なんかが…」


「あら。

私の目に狂いがあると言われているようね。」


「えっあっごめんなさい!

そんなつもりはなくて!」


「うふふ、意地悪だったわね。ごめんね。」


「い、いえ!」


鈴を転がすように笑う彼女はとても綺麗で羨ましささえ覚えます。


「貴女は優しいわね。

ちょっとのことで謝っちゃうもの。」


「いえ、私が悪いので…」


「悪くても謝らない子だって居るわ。

貴女は偉い!私が保証します!」


「…ありがとうございます。」


本意で仰っていらしてるのでしょうか。

素直に受け取ることは出来ないことが嫌になります。


「突然だけど、

貴女からみてティリア様ってどんな方?」


「ティリア様は…」


私なんかを拾って下さって、優しく接して下さって、温かさを下さった方。

ティリア様が居なければ私は魔界に迷い込んだとも知らず死んでいたことでしょう。


「命の恩人…」


【あそこでアンタが野垂れ死にしてしまったら目覚めが悪くなってしまうから拾っただけ。】


リゼットさんの言葉が頭をよぎる。


「………」


「あら?俯いちゃった。」


いけない。言葉を続けないと。


「とても、とてもお優しい方です。」


「…そうね。

今の貴女は昔の私に似てる気がする。」


「え?」


彼女は優しく微笑んで向こうを見る。

いつの間にかティリア様のご両親が眠っているお墓までの途中の道でした。


「私の事を話してもいい?」


「も、もちろんです。」


彼女は「ありがとう」と仰るとその場で座ってしまいました。


「あ、あの、高そうなお召し物が」


「大丈夫!それに草の絨毯だし!

貴女もほらこっち!」


「は、はい。」


促されてしまい、服を極力汚さないようにスカートの後ろ部分を前に持って正座する。

彼女は私が座ったことを確認してお話して下さる。


「私ね、旦那様が居るんだ。

いつも静かで顰めっ面。

私から話さないと会話無し。」


「あら…」


「付き合う前、最初は冷たい方だと思ったわ。

私と話しても表情が1つも変わらなかったし、楽しそうか全然わからなくて。

私の話がつまらないんだーって思ったの。」


表情が豊かで、今はとても悲しそうなお顔。

しかし次の瞬間、驚きと興奮のお顔になりました。


「どんどん自分に自信が無くなっちゃって。

でもね、突然告白されたの。

ずっと無表情だったのに!」


彼女はとても嬉しそうな顔をしてお話してます。

本当に嬉しそう。

何故か私も嬉しくなります。


「嬉しかったわ。

でも私と居るとつまらなさそうな顔をしてたから聞いちゃった。

“私なんかでいいの?貴方にはもっと良い人が居るはずだわ”って。」


今度は苦笑してしまいました。


「するとね、彼は怒っちゃって。

“私が考えて選んだことが不満か?”って。」


「え?」


「“私が選んで決めた事を否定するな。

己を否定する事はお前を認めた者を否定することと同義だ”だって。」


「!」


「ビックリしちゃった。

いっぱい考えて私を選んでくれた優しい彼を否定したくなかった。

その日から自分を否定するのやめたの。」


自分を否定したら、認めてくれた相手を否定することと同じ…。

凄く胸に刺さりました。


「その後で気づいたんだけど、

彼は表情筋が死んでて、話すことが得意じゃないから私の話を聞いてくれてたんだって。」


表情筋が死……

彼女の話がつまらない訳じゃなかったのですね。

多分お話する彼女を見て愛しく思っていたのかな、なんて。


「お優しいですね、旦那様。」


「ホントに。笑顔のつもりだったーだって。

もう少し頑張って欲しかったなー!

証拠写真撮れば良かった!」


彼女は幸せそうです。

私は彼女の旦那様の言葉がずっと頭を離れません。


「今の貴女も自分を否定してる。

でも、周りの皆は貴女が好きよ。

見てたら分かるもん。」


「そんな。私を好きになんて…」


「それ!

貴女はティリア様だけじゃなくてバアル君やチュチュちゃん達を否定してるわ!」


「っ!」


「貴女も皆が好きでしょう?」


「それは勿論っ!」


即答すると彼女は満面の笑みを浮かべた。


「その気持ちとあの子たちの気持ちは一緒よ。」


「…」


「私も貴女が好き。

優しい貴女が好きだからお願い。

自分を卑下しないで。」


「……」


「なんて言ってもいきなりは難しいわよね。」


「…すみません。」


「貴女の良いところよ。

私と一緒に頑張りましょう!」


何故彼女は私に優しくして下さるのでしょうか。

でも、不思議と彼女の言葉はすんなりと受け入れられる。

でも頑張ると言ってもここに来るまでに私は…。


「でも私、皆様に酷い事を…」


「あら、あんな可愛いことを酷いと言えるのね。

なんて良い子なの!」


良い子、という今の私に程遠い言葉に思いが押し寄せて口から出てしまう。


「良い子なんかじゃありません!!

私は!わたしはっ…何をやってもダメで!!

生きてるだけで迷惑をかけてしまう!!

生きてるだけで周りに不幸を振りまくんです!!」


「…。」


「私はティリア様とっ!

皆様と一緒に居たいのですっ!!

でも、私のせいで皆様に嫌な思いをさせてしまう!!」


「じゃあその考えやめないと。」


「っえ?」


とても冷静な声に思わず止まる。


「そうやって貴女が悲しむことが今の皆の嫌なことよ。」


「!」


「それに私も彼、家族、皆に数え切れない迷惑をかけてきたわ。」


「そんな…」


「迷惑かけないで生きることが出来る生命なんて存在しないの。」


彼女の目はとても真っ直ぐで言葉は心に響いてくる。先程までの気持ちがすぐに無くなっていくのを感じます。


「…」


「かかっちゃうもんはしょうがない!

その分貴女が御礼をすればいいの!」


「御礼…」


「うん!貴女の笑顔は皆を癒すわ。

ほら、旦那様の言葉を思い出して!」


彼女の言う通り頭の中で巡る言葉を自分に言い聞かせるように口にする。


「自分を否定したら、認めてくれた相手を否定することと同じ…。」


「そう!貴女にも、貴女を好きな人にも失礼よ。」


「…」


「ね、ティリアちゃん?」


ふっと彼女は私から視線を外しました。

その私の後ろへ行った視線を追うと


「ティリアさま…」


息を切らしたティリア様が私を見ていました。


「ユムルっ!!」


そしてすぐに抱きしめてくださる。


「嗚呼良かった…。

すっっごく心配したのよ!」


「え?」


「皆がユムルが居なくなったって大慌てで…

本当に吃驚してアタシも飛び出してきちゃった。」


「あの…私…」


「ユムルが居なくなったって聞いて本当に怖かったんだから。」


ティリア様の手は震えていました。

まるで私の存在を確かめるように力は強くなるのに、手は静かに震えています。


「ご心配とご迷惑をおかけして申し訳御座いませんでした。」


「こればかりはアタシ怒ってるわ。」


「も、申し訳ございません…。」


どうしましょう…。


「いつものユムルらしくないわ。

いったい何があったの?」


嘘を吐いても見抜かれてしまう。

それならば全て正直に夢の内容をお伝えするべき、そう思いお話させて頂いた。

するとティリア様はとても辛そうで悲しそうなお顔になってしまった。


「気づいてあげられなくてごめんね。

怖かったわね、もう大丈夫よ。」


「はい。」


「そんな辛い夢の後に言うのも信憑性が無いかもだけど…アタシも、皆も、ユムルの事を大切に思っているのよ。」


「…はい。」


「ユムルが居なくなって皆大慌てって言ったでしょ?シトリとか特に凄かったんだから。」


「そ、そんなに…」


「それだけ皆に思われてるのよ貴女は。

お願い、アタシの好きな貴女を否定しないで。」


彼女と似た言葉…。

その言葉で自然と目に涙が溜まる。


「貴女の居場所はアタシの隣よ。

リゼットに貴女も言ってくれたじゃない。」


「あ…」


あの時は必死で何を言ったかあまり覚えていないのですが確かに口走ってしまったような…?


「此処には貴女を咎める者も鎖も枷も何も無いのよ。ゆっくりで良いの。」


ぎゅっと優しく力を込めてくださるティリア様の温かさに涙が溢れてきました。


「はい、ありがとうございます。」


「えぇ!じゃあ散歩はこの辺で帰りましょ!

皆が待っているわ。」


「はい!あ、あの方に御礼を!」


彼女の方を見ると、

まるで最初から居なかったかのように消えていました。座って跡が付いた場所は1箇所だけ。

私が座っていた場所にだけしか跡がありません。


「え?あれ?」


周りを見回すとティリア様が首を傾げました。


「どうしたの?

ユムル、最初から1人だったじゃない。」


「………え?」


「え?何?侵入者でも居た?」


「えっと…金髪の美しい女性が居てお話してくださったのです。

名前は聞けませんでしたが…。」


「金髪の美しい女性?」


「あのー…」


私は女性の容姿を簡潔にお伝えする。

ティリア様は目を丸くなさいました。


「あら、ママに似てるわねぇその女性って。」


「ママさん…リフェル様ですか!」


「そうよ。でもママに似た使用人なんて絶対居ないわ。やだ、侵入者説が濃厚じゃないの。」


あの方が侵入者?

とてもそうは見えませんでした。

そしてティリア様の事をちゃん付けで…。


「と、とてもお優しい方でした!

あちらから声を掛けてくださったのです!」


「侵入者ならそんなことしないか。

見回りさせようかしら。行くわよユムル。」


「はい。」


彼女はどなただったのでしょうか。

もしかして本当にリフェル様だったり…?

もしそうならば旦那様はヴェルメリド様ということ。

…いえ、リフェル様はもう…

私とお話する事なんて難しいのですから、

別の方なのでしょう。


「あ、見てユムル。」


ティリア様に促され、彼の指の先が指す空を見上げる。

そこには透き通る白で星と共に闇夜に浮かぶ綺麗なまん丸お月様がありました。


「わぁ…!」


「ここまで綺麗なのは珍しいのよ。」


「本当に綺麗なのです。」


「子供の頃、月が綺麗だと不思議な事が起こるって双子が言うの。昔からみたい。」


「そうなのですね。」


「えぇ、だから少し思うわ。

ユムルが会ったのはママだったのかもって。」


ティリア様のお顔は月に照らされ、

嬉しそうな、寂しそうなどっちもとれる複雑なお顔をなさっています。

もしリフェル様だったのならばお話したかったはず。私じゃなくて、ティリア様と…


「ユムルは、もしその女性がアタシのママだったら嬉しい?」


「は、はい!とても!」


「なら良かったわ。」


「…」


気を遣わせてしまった…。

リフェル様だとしたらどうして私とお話してくださったのでしょうか。

ティリア様や皆様とお話したかったはずなのに。


「お部屋に戻ったら彼女とのお話の内容聞かせてくれる?」


「わ、わかりました!」


また月が綺麗に昇る頃、彼女とお話出来るといいな。次はティリア様とご一緒に。

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