第59話『魔王と王子』
温かくお優しい評価、ありがとうございます!
おかげで物語もよく進みます!
いつも皆さんが楽しめたら嬉しいなぁと思いつつ書いています。
そして読みやすくなるかなと少し前の話を弄っていますのでよろしかったらまた見てやってください!
あー公務めんどくさ…
ユムルとお話してたい。
「坊ちゃん、手を止めない。」
「っさいわね!」
別に止めてないのにベルのお小言で尚のこと腹立つ。
どうせコレ終わらせても羅刹と天使種について話す
必要があるんだし。
天使種か…。
初めて確認したのはユムルを連れて羅刹の元へ行く際のレウ=ブランシュ。
しかもそれは幻影でアタシは見てない。
見たのはユムルとベル。
この2人だからこそ信用出来る。
ユムルもベルも嘘なんて吐いてない。
結局幻影について何も分かったことはなく、
本人が突撃してきた。
アレは確実にレウだった。
そして次はラスト=アルヴィム。
妖精の森にて現れた者。
アイツが来た目的は……
あら?何だっけ。
「ベル」
「はい。」
「ラスト=アルヴィムは何故妖精の森に来たの。」
ベルはアタシの言葉で書類を捲る手を止めた。
「お嬢様を連れ去ろうとしてました。
雅若殿も言ってたでしょう、お嬢を見ていると。」
「あ…そうだったわね…レウも?」
「えぇ。」
「天使種はやっぱりユムルを…」
あぁ、嫌。嫌だ。
何で、何でユムルなの。
アタシはただ幸せになりたいだけなのに。
何で邪魔するの?
種族の違いがそんなに嫌?
アタシとユムルが結ばれたって
アンタ達には何も不幸が無いのに?
「ねぇベル。アタシ、天使種を生かしておけないと
思っているのだけど。」
「左様で。私達は貴方の駒。
貴方が殺せと言えばその通りに動きますよ。」
そうしたいのは山々。
でもアタシが背負っているのは魔界にある沢山の生命。
そう易々と殺せなんて戦争を起こす命令は出せない。
「…羅刹に相談ね。」
「そうですね。
そして坊ちゃん?あと10分でその書類を終わらせて
頂きたいのですが。」
「は?無理に決まってんでしょやる気の無いアタシを舐めないで頂戴。」
「え、何様?」
…
場所は変わり夜桜理想郷。
肆季は寝起きの主の服を用意していた。
「羅刹様、今回は軽装でとの事ですが
どうされたのです?」
「ん?話だけだから軽装でいいかなーって思っただけだぞ?
ていうかいつもの着物は普通に暑い。」
「ユムル様にカッコイイとこ魅せる〜って仰ってたのに。」
「だから会う度いつもあの着物着てただろう?
流石にカッコイイと思われているはず!それに…」
ちらりといつもの着物に目を移す。
そこにはシエルとの件で切れた跡が。
「あの着物じゃ無かったら骨まで剣が届いていたし。小童の城へ切れた服を着ていく訳にはいかん。
怒られる。」
「糸と布が手に入り次第早急に手直し致しますね。」
「糸も布も人間界産らしいからなぁ…
ま、着物は沢山あるし気長に待つぞ。」
「お気遣い痛み入ります。」
羅刹は腰の帯を結んでくれている肆季をちらりと見る。
「ユムルちゃんが来てから尚のこと百鬼夜行する気が起きなくなってしまった。肆季は行いたいか?」
ニヤリと笑うと肆季は目を丸くした。
「おやおや、いじらしい。
これで私が行いたいと言えば私のせいにして行い、ユムル様に仰る気でしょう。」
「あ、バレた?」
「嘘言っても直ぐにバレますよ。…ですが。」
「ん?」
羅刹が首を傾げると肆季は目を細め、口角を上げる。
「天使種とは美味なのか、それとも否か。
興味があります。」
「ふははっ!
それでこそ流石ウチの使用人だ!」
「お褒めいただき光栄です。
さぁ、出来ましたよ。」
「うむ!ありがとう肆季。
では雅若も連れて行こう。」
「畏まりました。
雅若殿〜そこに居るんでしょう?」
肆季が扉の外に問いかけると大きな溜息が返ってきた。
「うししっ!瑀璢と酒羅には留守を頼まねばならぬからな!そして、万一城で何かあっても良いように来て欲しいのだ。」
羅刹が言うと扉が開き、雅若がむすっとした表情で
「元々連れていく気でしたでしょう。
あの時のように。分かってましたよ。」
と言った。
羅刹は笑顔で頷く。
「よし!ではお前達、あの子たちの元へ参ろうぞ。」
「「は。」」
…
「…」
私は今、お部屋の中でウェパルさんに頂いたクラゲさんへご飯をあげています。
クラゲさんを見ていると癒されますね。
…今日の私、何しましょう。
お掃除は出来る範囲を終わらせてしまいました。
やはり文字のお勉強した方が良いですね。本は確か…
コンコンコンッ
「ユムル様〜!俺です、アズィールです!」
アズィールさん!
「はい、どうぞ!」
そう言うとアズィールさんがティーポットとカップを乗せた銀のトレイを持って入室なさった。
「ブレイズさんに頼んで紅茶入れてもらいました!」
「ありがとうございます!」
「ユムル様お掃除終わって暇だろうな〜と思ってたら多分勉強するなこれはってキュピーンと来たわけですよ!合ってました?」
紅茶を注ぎながら微笑んでくださるアズィールさん。凄いです、合ってます。
「は、はい。その通りです!」
「やったぜ!
じゃあ俺とお勉強しましょう!」
「え、良いのですか?
何かお仕事があるのでは…」
「バアルさんに許可は貰ってますから大丈夫!
あ、それとブレイズさんが後でお菓子持ってきてくれるそうです!」
「たっ…楽しみです!」
態々許可を頂いて下さったのですね…。
より一層頑張らねば。
「クラゲは机の隅に置いておきますね。」
「はい、ありがとうございます。」
机が長いお陰でクラゲさんが隅に居ても全く気になりません。
本を持って開いたその時、ひらりと何かが落ちてしまいました。
「?」
「何か落ちましたね。俺拾います。」
「あ、すみません。」
アズィールさんに拾って頂いたら、彼は目を輝かせました。
「わっ!なっつかしぃー!
見てくださいユムル様!」
「?」
見せて頂くと、そこにはニコリともしていないシエルさんのお姿が。
視線が私と合っていないのに目が…目が怖いです。
「シエルさんがココに来て直ぐな時の写真です。
奥様が撮ったんですよ!」
「リフェル様が…」
「奥様、写真が好きでよく撮ってくれました。
人間って凄いですよね。
時間を閉じ込めることの出来る機械を作れるの。」
「…そう、ですね。」
時間を閉じ込めることの出来る…ですか。
「今カメラ何処にあるんだろう。
ユムル様を撮りたいんだけどな。」
「あ、いえ…
貴重なフィルムを私にお使いせずとも…」
「貴重でも無いです!
人間界行けば普通にあるし!
あと、貴重なら尚のことですよ!」
「…あ、ありがとうございます…。」
写真…確かに、此処の皆様となら沢山撮りたいです…。
「ねぇユムル様。
紅茶飲んだら勉強やめてカメラ探しません?」
「……そうですね、探しましょう!」
「やっりぃ!
じゃあ紅茶飲む為に俺がお話しますね!
何について話そうかなぁ。」
…アズィールさんは、ヴェルメリド様とティリア様の事、ご存知ですかね。
「あ、あの…
ヴェルメリド様とティリア様って…」
御二人のお名前を出すとアズィールさんは小さく驚いたように息を飲みました。
その後、目線を落とします。
「あの御二人は…正直本当に親子なのかなって思う時は多々ありました。」
「…」
「会話も無いし、
一緒に並んで歩いたところもあまり見てません。
ヴェルメリド様は公務で大変多忙な日々でしたので
仕方なかったのですけどね。」
まだ人間とも何かあった時だったとレンブランジェさんが仰っていましたね。
「あの御方はまっっったく弱音を吐かないから、
心はあるのかなと疑問になるくらいでしたよ。」
「心…」
「まぁ心があったからリフェル様と結ばれたのですけどね。」
アズィールさんの眩しい笑顔に思わず口角が上がりました。
そうです、心がなければ愛せるものも愛せませんものね。
「感情を表に出さないだけでティリア様への愛もちゃんとあったはずなんです。じゃないと…
王が自ら息子に指南なんてしませんもん。」
!!!
「ユムル様はおかしいと思いませんでしたか?
王が、王子に武術の指南ですよ。
しかも多忙な王が。」
「…」
い、言われてみれば…?
あまり分からないですけれど、
本来王様が為すことではないですよね。
「普通ならシエルさんやブレ…いや、
バアルさん、レンブランジェさんなのに。
王様は断固として自分以外に指南役をやらせなかった。」
「それは何故…」
するとアズィールさんは私に問いかけます。
「ユムル様、
ティリア様は純粋な悪魔種ではありませんよね。」
「は、はい。
リフェル様が妖精種なので半分こです。」
「そう、半分こ。
だから、純粋な悪魔種よりも強さが半分こ。
そうお考えになられたのかも。」
「…?」
「ティリア様は魔王という重責をいずれ背負わなければならない。その為に必要なのは強さです。
ヴェルメリド様は魔界最強でした。
だから自ら強さを教えた。」
「!」
「結構やりすぎでしたけどね。」
意識不明だったり、お美しいお顔に怪我を作っていたとレンブランジェさんが仰ってました。
「妖精種は命を狩る術を持たぬ者。
悪魔種とは絶対的勝者。
ってヴェルメリド様は仰ってたっけな。」
絶対的勝者…。
「あの御方は何を考えていらっしゃるのかまるで分からなかった。
どうしてティリア様と笑い合わなかったんだろうと俺は今でも思います。」
「…」
ヴェルメリド様もティリア様も思いがすれ違ってしまっているのですね…。
どうにかして絡まった糸を解きたい。
アズィールさんは愛があると仰っていました。
もっと沢山の方にお話を聞かなければ。
身近な方は…バアルさん、でしょうか。
レンブランジェさんにヴェルメリド様のお近くに居た方を聞くのが良いかもしれません。
私は残りの紅茶を一気に飲み干した。
「ユムル様!?」
「あ、お行儀悪くてすみません…!」
「いえそれは大丈夫ですけど…」
「カメラ、探しに行きましょう!」
そう言うとアズィールさんは再び目を輝かせました。
「はいっす!」
…
「ユムル様〜!ブレイズです〜!
…あれ、おかしいな。音も気配もない。
もしかして何処か行ってる?」
焼き菓子を持ってきたブレイズだったが、
入れ違ってしまい探す事にした。
「ただ、羅刹様が見えるまでがタイムリミットだけどあの子に焼きたて食べて欲しいし…
ちょっとだけ、力使っちゃおうかな。」
…
「アズィールさん、目星は付いているのですか?」
「いーや全く!
もしカメラが見つからなくてもそのうち若様が宮廷画家呼んでユムル様の絵を描かせるとは思うんですけどね。」
宮廷画家さん…どんな方なのでしょう。
「あ、レンブランジェさんとフレリアさんなら知ってるかも。カメラの場所。」
「ではお2人を探しに」
「呼んだかのうアズィール!」
「呼んだかのうユムル様!」
「どわっ!?」
「きゃっ!」
ぽふんっと音を立ててレンブランジェさんとフレリアさんが現れました。
「び、びっくりしたぁ…」
「む、なんじゃ。
我等を呼んだのはお主達じゃろ。」
「まぁそうなんすけど…
お2人はリフェル様の持っていたカメラ、
何処にあるかご存知です?」
アズィールさんが伺うと、お2人は鏡合わせのように
顔を合わせ、こちらを見ました。
「「何を言うておる?もう無いぞ?」」
「「え?」」




