第56話『ティリア様の婚約者』
またまた嬉しい評価を頂けました!!
評価して下さった方、ありがとうございます!!
これからも応援して下さると嬉しいです!!
嬉しくて話が長くなってしまったので、お時間ある時にご覧下さいね!
ティリア様の魔法ですぐにお城へ戻ってきました。
私達は今、お墓の目の前でオベロン様から頂いた花束を置きました。
「ママ。」
ティリア様はその場でしゃがみ、微笑みながらお話をなさいます。私も少し後ろでしゃがませて頂きます。
「ママの事、オベロンから聞いたわ。
驚いちゃった。どうりでママが優しいわけね。」
ティリア様の笑顔は悲しそうに見えます。
「アタシね、ユムルと幸せになりたい。」
ティリア様…
「なれるかしら?パパとママみたいに。
ううん、なるわ。絶対に。」
ティリア様はふいに私と目を合わせ、手招きなさいます。
従うと、ぎゅうっと抱きしめられました。
「見ててね、アタシ頑張るから。
ユムルも民もアタシが守る!
天使種の好きにはさせないわ!」
私も微量ながらお手伝いさせて頂きます…!
「さ、ユムル!
女の子が身体冷やしたらダメだから帰るわよー!」
笑顔で手を引いて下さるティリア様。
私もつられて口角が上がります。
リフェル様、ヴェルメリド様。
私も精一杯頑張ります…!
…
「たっだいまー!」
ティリア様が扉を潜るとチュチュさんが涙目で走って来られました。
「ゆむりゅしゃみゃ〜!!!」
何と??
首を傾げるとチュチュさんはあわあわと慌てふためき、混乱していました。
「あ、あぁあああのあるじしゃまのこここ」
壊れたロボットみたいになってます!
「かなりバグってるわね。
他に誰か……あ、テオ!」
テオさん?
あ、本当です。いらっしゃいました。
「あぁティリア様!良かった助かった!」
「助かった?何よ。」
「実はティリア様の婚約し」
途端にティリア様は右足を踏み鳴らし、
テオさんが下から生えた氷柱の中に閉じ込められました!
よく見るとティリア様の足元から線のような氷が氷柱へ伸びていました。
つまりティリア様が出した氷…!?
「ゆ、ユムル。
お部屋に戻ってて。用事が出来たわ。」
凄い剣幕です…。
ティリア様の圧力に負け、私は何回も頷きました。
「は、はい…!」
「おぉ、ティリア様おかえりなのじゃ〜」
「おぉ、ユムル様おかえりなのじゃ〜」
レンブランジェさんとフレリアさんです!
私にはまだどちらがどちらか分かりませんが、
お1人がティリア様に
「婚約者のアイツがまた勝手に押し掛けてきたのじゃよ。対処してくれんかのう?」
とお伝えした。
「あーーーっ!!レージェしゃらっぷ!!」
ティリア様の婚約者…?
何でしょう。今胸がズキンとしたような…
心が地面に落ちたような感覚がありました。
ティリア様は魔王様。
婚約者さんが居ることなど当たり前に等しいはず。
そう、当たり前なのです!
私はお邪魔ですからお部屋に戻りましょう!
「ユムルあのね!」
「わ、私!
お、お部屋に戻っていますね!」
「ユムルしゃま!?」
「ゆ、ユムル!??」
つい走ってしまいました。
何故でしょう。
今、泣きそうです。
何故か胸が痛いです。
泣きたいという気持ちがだんだんと大きくなってきます。
どうすれば良いのでしょう。
それに、
ティリア様のお言葉を遮ってしまいました。
私、最悪な人間です!
部屋まで辿り着くと一気に力が抜け、
その場に座り込んでしまいました。
ティリア様のお隣に別の女性がいらっしゃる。
大変喜ばしいことではありませんか。
私なんかが隣に居れるわけが無い。
分かっているではありませんか。
でも…!
ティリア様のお傍に居られなくなる、
笑顔を向けて下さらなくなり、婚約者さんとの時間が長くなってしまうのかと思うと胸がぎゅって締め付けられて苦しいのです。
悲しいのです。
悲しい涙なんてあの時で無くなったはずなのに。
枯れ果てたはずなのに。
涙が急に、きゅうに…
「っ…」
「ゆ、ユムルさま!チュチュが居ますよ!」
チュチュさん…
いつの間にか部屋にいらしたチュチュさんに心配をかけてしまっている。
声も出ません。急いで泣き止まねば…
「ユムルさま!」
今度はアズィールさんです…。
「ど、どうしたんすか!?
何処か痛い?怪我してます!?」
「っ!(フルフルッ)」
「け、怪我してないんすね!?」
「(コクコク)」
「良かったぁ〜!!」
「ご主人様!!
涙の匂いがすると思えば…一体どうなさったのです!?
ハッ!おのれアズィール=ヴァプラ!!」
「えぇ俺ぇえっ!!?俺じゃねぇよ!!」
シトリさんも来てくださいました。
「ご主人様、何故悲しまれるのです?
相手は居ますか?殺してきましょうか?」
「っ!(フルフルフルフルッ)」
「…あ。
もしかしてティリア様の婚約者のお話です!?」
「…」
チュチュさんに言われ、改めて泣いた原因を自覚すると頷くのが恥ずかしくなってしまい、つい固まってしまう。
すると御三方は胸を撫で下ろしたのか息をつきました。そしてシトリさんが満面の笑みで
「分かりました!殺してきます!」
と身の丈ほどの黄金の鋏を顕現させて何処かへ行ってしまわれた。
「あっ!?おいシトリ待てやゴルァッ!!」
「あ、だ、ダメだよ待ってよぉ〜!!」
お2人もシトリさんを追い掛けて行ってしまわれた。
結局泣き止むことが出来ませんでした。
後で謝らないと…。
「入るわよ。」
あれ?この声…
顔を上げると、ネシャさんがいらっしゃいました。
彼女は私に白いレースのハンカチを差し出してくれました。
「みっともない顔になってるわよ。」
「ご、ごめんなさ…っ」
ハンカチは勿体なくて使えません!
「あ、ちょっと!手はダメよ!何で手!?
あたしがハンカチ差し出してあげてんのよ!?」
と、半ば強引にネシャさんに顔を拭かれました。
「…」
「落ち着いた?」
「は、はい。」
「そ。……あの、さ。」
「?」
「この前は…ごめんなさい。」
この前…?
「な、何のこと…でしょうか?」
「はぁ!?
アンタ風邪引いた原因忘れたの!?」
風邪を引いた…
あ、ネシャさんと2人行動のお話ですね。
「全く気にしてません。
寧ろ楽しかったです。」
「…やっぱ変なの。」
「あはは…」
ネシャさんは私の隣にしゃがみこみました。
「ユムル様さ、いきなりティリア様の婚約者って聞いて驚いてるでしょ。」
「は、はい…」
ユムル様と呼んでくださる事にも驚いていますが…!
「安心して。あれ、自称だから。」
「じしょー…?」
「そう、ティリア様にその気は無いけど相手が残念な奴で困ってんの。助けてあげて。」
「で、でも私なんかに出来ることなんて…」
「ティリア様のお傍に居るだけでいいの。」
頬を膨らませるネシャさんは私を綺麗な紫色の瞳で見つめる。
「ユムル様よりもアイツの方が嫌い。
アイツになんて仕えたくない。
どうせ仕えるなら人間でもアンタがいい。」
そんな事仰ってくださるなんて!
…頑張りましょう、ユムル。
リフェル様とヴェルメリド様に誓ったばかりなのですし!
「ティリア様はどちらに…?」
「こっちよ。」
ネシャさんが私の手を掴んで走りだします。
は、速い!でも嬉しい。
ネシャさんが自ら私の手を掴んでくれたことが!
で、でも足が速すぎます〜っ!!
「もうすぐよ。」
「ひゃ、ひゃい…」
や、やっと歩いて下さいました。
速すぎて足に力が入りません…。
「早歩きするわよ。」
「は、はい!」
もしかしてお部屋に足音が響かないようにしていらっしゃったのでしょうか。
急げ私…!
「着いたわ。」
「…」
応接室です…。
でも手ぶらでは何とも気まずい…。
手をこまねくと、ネシャさんが先に扉を3回ノックしました。
「…」
しかし声も何も発しません。
扉は呼応しゆっくり開きます。
その瞬間でした。
開く扉の背後になる場所へ移動したネシャさんの姿が消えてしまったのです。
「えっネシャさん!?」
開いた扉は止まらずに開きます。
扉を開けたのはバアルさん。
相変わらずの無表情です。でも小声です。
「おや、お嬢様でしたか。
…ネシャはどちらに?」
バアルさんはネシャさんを見ていないのにご存知なのですね?!
あ、私が口に出したからですかね!?
「あ、えっと…あの…」
「ふふっ…言わずとも分かります。」
また笑いました。バアルさんが…
「あっ!!ユムル!!」
バアルさんの背後からティリア様のお声が!
「ティリア様!」
「ベル、ユムルを通しなさい!」
「は。ではどうぞ此方へ、姫様?」
ひ、姫様?そのような呼び方…
「おっと。」
「ひゃっ」
そしていきなり手首を掴まれました!
「申し訳ございません。
糸くずが見えたのでつい。」
「ぃ、いえ…」
バアルさんが扉の方へ戻り、辺りの視界が開く。
するとティリア様とその向かい側に黒いドレスの見知らぬ女性が1人。
紫色の御髪に黄色の瞳…凄く綺麗です。
が、私を見るなり怪訝なお顔になってしまいました。
「ちょっと、だぁれその子。」
ひぇっ…怖い方です!
「おいでユムル。」
逃げるようにティリア様の元へ向かい、ソファーの指示された場所…ティリア様のお隣に座りました。
仕切りは無く、ティリア様に肩を抱き寄せられます!はわわっ!
「紹介するわ。この子はユムル。
アタシのとぉっても大事な子よ。」
「ユムルぅ?」
女性は私を睨みつけ、上から下を見ます。
ひぇえぇ…
「この子…
少し変な感じがするけど一応悪魔種よね。」
え、私が…?
「アタシが傍に置く程の子なんだもん。」
「ふぅん…この子の何処が良いのかしら。
私の方がルックスも力も完璧なのに!」
ご最も…。
「そういう圧かけて見下す所が嫌いっつってんでしょ。アタシはユムル以外には靡かない。
だから諦めなさい。」
ひ、火花が!お2人の間に火花が!
「…ねぇ、ユムルとやら。」
「ひゃい!?」
「アンタ彼の何なの?」
な、何なの…とは!?
「え、っと…」
「答えられないの?何で?意味分かんない。」
私はティリア様の何…?
お、お荷物?居候?
いえ、そうだけど違います。
今言うべきはこれでは無い。
ティリア様はお困りなのです。
それに、ネシャさんにもティリア様をお助けするよう言われました。
ならば…
「わ、私は…ティリア様の…」
御無礼は後でお詫びを!!
今は…!!
「ティリア様のお傍に居ることを許された者!」
ティリア様の左手に私の手を置かせて頂きました。
「ユムル…」
ティリア様も驚いていましたが、
やがて微笑んで手を握り返してくださった。
そのお陰か勇気が湧く。
強気で行けユムル!
ティリア様と一緒に居たいなら!
「この場所を譲る気はありません。
ティリア様のお隣は私だけの特別な場所だから!」
「何この子…生意気ね…!」
はわわ…お怒りです!
こ、怖い!!
しかしティリア様が手に力を入れて下さり、恐怖が和らぐ。
「アンタに比べればこんな可愛い事が生意気な訳無いでしょ。それにこの子は真実を述べただけ。
何か問題が?」
ティリア様!
「この私リゼット=アザゼルに恥をかかせるのかしら!?」
「アンタを断るという事がそれになるならそういう事ね。」
ティリア様のお言葉を聞いたリゼットさんのお顔が徐々に赤くなってきました。
お、お怒りなのでしょう…か。
「許せない…
ティリア様を横取りした泥棒猫め…。」
ど、泥棒猫!??
リゼットさんは立ち上がり、
両手に赤く煌めく炎の玉を浮かべます。
「アンタが死ねばティリア様と一緒になれるってことよね!」
「っ!ユムル、アタシから離れないで。」
ぎゅうっとティリア様が私を抱きしめて下さり、
リゼットさんの背後にバアルさんが。
「貴様…姫様にも手を出す気か。」
「だったら何よ!
私はずっとティリア様の事を…!」
リゼットさんの綺麗な金色の瞳から涙が…
「その気持ちは嬉しいけど…昔からずぅっと婚約の話は無しだって言い続けているでしょう?」
「それが嫌だった…」
「…。」
「どうすれば振り向いてくれるか分からなかったんだもん!頑張ってたらユムルとなんて…」
炎はどんどん大きくなります。
私は彼女の思いを踏み躙ってしまったのですね。
「ねぇ…私の思いはどうなるの?」
「…ごめんね、答えられない。」
「酷い。こんなのあんまりだわ…」
リゼットさんの手から炎は消え、
大きな瞳から涙がポロポロと零れます。
「アタシはこういう奴よ。幻滅したでしょう。」
「…」
「断り続けているのにも関わらず諦めない貴様もどうかしているがな。」
ば、バアルさん…。
「…もういい。出てく。」
「そう。」
しかしリゼットさんは扉へは向かわず、窓の方へ。
そして窓を蹴りつけ、割りました。
な、なんと…!!
「じゃあね、ティリア様。
そして…覚えていなさいユムル!」
割れた窓から蝙蝠の羽根で飛び立ちました。
「窓、良いのですか?坊ちゃん。」
「窓1枚でやっと諦めてくれたなら安い方よ。
それより」
ティリア様と目が合いました。
「ありがとうユムル。
怖かったわよね、ごめんね。」
「ティリア様の助けになれましたか…?」
「当たり前よ、大助かりよ!
ぎゅ〜ってしちゃうくらい!!」
本当にぎゅ〜っとされました!
苦しいですが嬉しい…。
やっぱり安心します。
あ、御無礼を謝らないとですね。
「数々の御無礼、申し訳御座いませんでした。」
「無礼?何もないけど?
ユムルのお陰で助かったんだから!」
「お嬢様。」
バアルさんは気付くとお嬢様と呼び方を戻していらした。
「は、はい!」
「先程の糸くずの件、すみませんでした。
あれは嘘です。」
「嘘?」
「私の使い魔を仕掛ける為の嘘ですよ。」
そう言って自らの左肘を指で示すバアルさん。
私の左肘ということでしょうか。
ティリア様と離れ、見てみると…
「あ。」
小さな蜘蛛さんがいらっしゃいました。
初めて見る子です。
「〜〜ッ!!」
ティリア様は光の速さで窓際へ。
「先程のあの女、
お嬢様の事を悪魔種だと誤認したでしょう?」
「リゼットさんですね。」
「えぇ。なのでその対策として悪魔種の気配を纏ったソイツを付けました。」
『\( •̀ω•́ )/』
おててを挙げてアピールしています。
可愛らしいです。
「ソイツの気配をお嬢様の周りに纏わせるよう指示をしておきましたので誤魔化せた訳です。」
「す、凄いです。ありがとうございます!」
お礼を述べたあと、蜘蛛さんはバアルさんの袖の中に入っていきました。
「消えた?消えた?いなくなった?」
ティリア様がお部屋の隅っこで伺います。
「えぇ、戻しましたよ坊ちゃん。」
「そ、そう!」
「では私はシトリに話があるので。」
と、リゼット様が座られていたソファーの後ろから
お口と手足を縛られたシトリさんを引きずり出す
バアルさん。き、気付きませんでした!
「じゃあ行きましょユムル。」
「え、えぇ…??」
良いのでしょうか…。
と思ってもティリア様に背中を押されて退出することに。
ドアが閉まる直前で鞭のようなものがしなる音が聞こえてきたような…。
廊下を歩いていると、
ティリア様が私の顔を覗き込みました。
「ねぇユムル?聞いてもいい?」
「は、はい!」
「何でユムルはあの場に来てくれたの?」
「何で、ですか…?」
「アタシは怖がらせたくなくて、嫌な気分になってしまわないように部屋に居てねと言ったわ。
でもユムルは来てくれた。とても嬉しかったの。」
「…」
ネシャさんに頼まれたから…
それは私が行こうと決意したきっかけ。
元々は多分ですが…
嫉妬、ですよね。
嘘を吐くのはバレてしまいますから…
恥ずかしいですがきちんとお伝えするべきですよね。
「…ゃ、やきもち…から、です…。」
「…」
ティリア様がふと足を止めました。
お、怒らせてしまったのでしょうか?
不快にさせてしまったのでしょうか?
「シエル!」
えっ急にシエルさんをお呼びです!
呼ばれたシエルさんはにこやかに音も立てずに
現れました。
「シエル=エリゴマルコシアス、ここに。」
ティリア様は目を手で覆い、上を向きました。
「ユムルが可愛すぎてしんどいんだけどどうすればいい??」
「はははっ!知りません!」
春の象徴である桜が咲いてきましたね!
散らないことを祈りましょう…。
お花見したい!花より団子ですけども!




