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第53話『借りを返しに』

悪魔種は血気盛んですねぇ…(遠い目)

「ラスト=アルヴィム…ですか。」


バアルさんが初めて聞いた名前を呟きます。


「ベル、覚えているの?」


「少しデカい借りがありますからそりゃあ…ね。」


背中に走る悪寒!

バアルさん、笑ってますが同時にお怒りです!

彼は雅若さんへ視線を移します。


「雅若殿、アイツは?」


「消えましたね。

私の見える範囲には居ません。」


「チッ…会ったら私が必ず殺す…。」


こ、怖いです。

余程の事がおありだったのですね。


「此処は本来森から露出していますが、私が隠しています。通常見える事は無いはずですが。」


オベロン様のお言葉に雅若さんは首を横に振りました。


「私の目が良過ぎるが故に視えた事ではありますが、ラスト=アルヴィムは私達を…いえ、お嬢を見ようとしていた気がします。」


「オベロン様が隠していらっしゃるのに私を…?」


「天使種、予想以上に厄介かもしれま…」


雅若さんは言葉を残して再びお外を見ます。


「…」


目を開き、固まってしまいました。

どうしたのでしょう。大丈夫でしょうか。


「雅若さん…?」


お名前を呼んでも反応は無く、手だけが弓矢を取り、構えます。


「バアル殿。」


「?」


「私の直線上3.2km先にラスト=アルヴィムを確認。」


「!」


バアルさんはティリア様に視線を向けます。

ティリア様は頬杖をついていない右手でクッキーを1つ手に取り、形を見つめながら


「特別に借りを返しに行っても良いわよ。」


と仰った。


「は。」


バアルさんは無表情で頭を下げました。


「援護は?」


「要らぬ。」


雅若さんに素っ気ない返事をした後の次の瞬間、

バアルさんが忽然と姿を消しました!


「バアルさん、大丈夫です?」


心配してオロオロなさるオベロン様をティリア様は落ち着いてご覧になります。


「何でオベロンが慌ててんの。

大丈夫、ベルはアタシの側近なのよ?」


「それに珍しく心から笑っていらっしゃいましたよ。」


バアルさんが?

雅若さんは目が良いので本当に笑っていらしたのでしょう。あのバアルさんが笑顔…。


少し怖いとは口が裂けても言えませんね…。


「でも雅若、念の為ベル見張っておいて。」


「御意。ではお嬢。」


「は、はい!」


「今から気分を害してしまうかもしれませんので目を閉じたり、他所を向いても大丈夫ですよ。」


気を遣って下さっている…!

でも何をなさるか気になります!


「だ、大丈夫です!」


「さ、左様ですか…。」


あれ?少し引いていらっしゃる?


「ユムルは肝据わってるからユムルが大丈夫なら大丈夫よ。」


ティリア様の仰る通りと数回頷くと雅若さんは小さく溜息を吐きました。


「では気分が悪くなっても知りませんよ。」


「はい!自己責任です!」


私に頷いて雅若さんは弓矢を足元に置きました。

そして両手を前に伸ばします。


「開眼。」


顕になった両腕から、ギョロりとした無数のおめめが開きます!

そしてそのおめめが雅若さんの腕から飛び出し宙へ浮きました!


「うぇっ…

アタシが気持ち悪くなってきた。」


「魔王様は我慢して下さいまし。」


おめめが無くなった腕は穴が空くことなく普通の腕に戻り、右の人差し指を立ててくるりと小さく回します。おめめはそのまま外へ向かいました。


「私達の回りを囲いました。

オベロン様、少しの間は代われますよ。」


「私が見ていた事、ご存知だったのですね。

ではこの周りは頼みます。」


「はい。」


バアルさん、大丈夫でしょうか。



肩より少し長い髪を持つ白い人物は森の上空で木々を見下げていた。


「妖精の森の上空は長閑ですねぇ。

どうも戦意が無くなってしまう。故に…」


ふいに右手を伸ばす。

刹那、そこから金属音が辺りに響く。


「戦いたくないのですがね?」


「チッ」


「やはり虫けらは生きていましたか。

毒蜘蛛バアル=アラクネリア。」


「貴様もな、羽虫ラスト=アルヴィム。」


お互いニヤリと笑い距離をとる。

バアルがラストに攻撃を仕掛けた武器はいつもの杖だった。


「ラスト貴様…妖精の森に何しに来た。」


「答える義理はありません。

ですがレウが勝手にお邪魔したお詫びとして言わなくてはね。」


ラストはニッコリと微笑みバアルに指を向ける。


「貴方の城に純粋な人間が居ますよね。

人間を護る我々にとって看過出来ない由々しき事態。故に保護しようと思いまして。」


「人間を護る?よくそんな戯言をいけしゃあしゃあと言えるな。」


「戯言ではありませんからね。

我々の行為は人間の魂の救済ですから。」


「吐き気がする。

手駒にしているだけだろう。」


「手駒?いえいえ仲間の間違いです。

それに食料にするよりも余程良いかと。」


口を閉じた両者の間に火花が飛び散る。

先に口を開いたのはバアルだった。


「まぁ良い、貴様には大きな借りがある。

今此処で返してやるよ。」


「あらまぁ、血気盛んだこと。

生憎天使種は悪魔種と違い血湧き肉躍る事は戦いでは無いのです。」


バアルは杖の先端の銀装飾を持ち、少し捻って一気に引き抜く。彼の杖は仕込み刀であり、鞘になった柄以外の部分も活用する。


「貴様の事なぞ心底どうでもいい。斃れ羽虫。」


「中指立てて…

上品の欠片も無いですねぇ。」




「バアル殿、ラストに接触。

戦闘を開始致しました。」


「「はわわわ…」」


雅若さんの報告に震える私とオベロン様。


「ユムルは兎も角オベロンまで何よ。」


それに比べティリア様は平常心を保っていらっしゃった。


「心配ですよ。相手は天使種ですよ?」


「言ったでしょ。

ベルはアタシの側近だって。」


「バアル殿は本当にお強い。

シエルと張るのでは?」


珍しくシトリさんが褒めました…!?


「そう、強いの。だから思うわ。

負けてくれても良いのよって。」


「…(魔王様、貴方本当は)」


「…(そんな事思っていないくせに。)」


雅若さんとシトリさんが仰りたい事があったのかティリア様を見ています。


「雅若、貴方から見てベルはどう?」


「あ、あぁ…剣の扱いが非常に上手いですね。

鞘を盾に使える者は中々居ないですよ。」


剣…?

バアルさん、剣をお持ちだったのですね。

ティリア様は嬉しそうです。


「ただ…戦いづらそうですね。」


「え、ベルが?」


「はい。

空中戦だから、とかでは無さそうです。」


「そりゃあベルは翼を出さなくても浮遊なんて余裕だし…。」


バアルさんが戦いにくくなる何か別の理由があるのでしょうか。


「…」


オベロン様、難しいお顔でふと視線を下げました。

どうされたのでしょう。


「ベル、大丈夫よね。」


「今のところ私からは何も言えません。

ただ1つ、全力では無いと言い切れるだけです。」


そんな…まさか…


「私が…居るからですか?」


つい言葉に出してしまうと全員が私を見ます。


「ユムルのせい?そんな訳無いじゃない!

ベルに限ってそれはありえないわ!」


「ティリア様…」


更にシトリさんが私の手の上に優しく手を重ねて床に膝を付きます。


「それに、本当にご主人様を狙っているのならバアル殿は雅若殿に伝えるはずですよ。」


「そうですね、私の目の事はご存知なのですから。

そうしないという事は原因は別にあるでしょう。」


「バアルさん…」


どうかご無事で…!


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