第48話『朝に忍び寄る福音』
もうあと2日で2020年が終わるだなんて未だに信じられないと言うかなんと言うか…。
ホントあっという間に過ぎました。
皆さんがブクマや評価をして下さったことがモチベーションとなり、ユムルちゃんとティリア様と無事に年を越せます!他の作品共々、これからも宜しくお願い致します!
それと殺すとか物騒なワードを出しておいてキーワードに“ほのぼの”と残していました…恐ろし。
ほのぼのキーワードでこの作品を見つけ出して下さった方が居らしているのならすみませんでした!!
「〜!!〜っ!!」
何か…聞こえる…?
早くに起きる回数は最初よりも大分減りましたが起きる時は起きてしまうのですね。
もう眠る事も出来なさそうなので目を開けてお掃除など静かに出来ることを始めましょう…。
その前に何か聞こえた正体を知らなくては…
「ユムル様はチュチュが起こすの!」
「いーや、ボクが起こす!」
「俺だってば!!」
「おやおや…
そんなに騒ぐとユムル様が起きますよ?」
チュチュさん、シトリさん、アズィールさん、シエルさんですね。挨拶挨拶…。
「お、起きました…。
おはようございます、皆さん。」
身体を起こすとシエルさん以外の3人が驚きの表情を浮かべました。
「「「!?」」」
「ほら、やはり起こしてしまいましたね。」
「ぐえっ!」
するとアズィールさんを突き飛ばしてシトリさんが私の傍にいらっしゃり、私の右手を両手で包みます。
「あぁご主人様!貴方様の大切な睡眠時間を削ってしまい申し訳御座いません!
どうかこのシトリに罰を!」
「す、少し前から起きていましたので罰は無しです。」
「嗚呼、なんて寛大な御方なのでしょう!
惚れ惚れ致します!」
「シトリくん!ユムル様からはーなーれーてー!」
チュチュさんがシトリさんの腰周りに抱きつき私から離そうとするものの、全く動きません!
「チュチュ=フォルファクス。
このボクからご主人様を切り離そうなどと思わないことだな。」
凄いドヤ顔です。
「うわーん!シエルさぁん!」
チュチュさんが泣きながら彼の名前を呼ぶと
「はい、お任せを♪」
と微笑んで一瞬で此方へ来ました。
そしてシトリさんの首根っこを掴み、簡単に引き剥がして軽く投げました!
「ふげっ!」
「さっすがシエルさん!」
「いえいえ!
このくらいどうってことありませんよ。」
アズィールさんとシトリさんが私のお部屋の中で伸びていますが…大丈夫でしょうか…。
「ユムル様、よく眠れましたか?」
チュチュさんが心配そうに私を見ています。
「は、はい。ぐっすりと。あれ?」
そう言えば夢も見ていないし起こして頂く時間まで寝ていました。それはつまり…
「初めて熟睡なるものを経験出来ました…!」
「やったーっ!!」
チュチュさんは自分の事のように喜んで下さり、シエルさんも拍手して下さる。
「良かったですねユムル様!」
「み、皆さんのお陰です…!」
夢を見ないことが逆に不思議に思えてしまうけれど…心做しか身体が軽いです。
「(良かった良かった。睡眠薬が効いたようだ。
ブレイズ殿にも隠していたが大丈夫でしたね。)」
シエルさんが私を見てニコニコしています。
…いつもそうなのですけれども。
「さ、ユムル様はお着替えのお時間です。
頼みましたよチュチュ殿。」
「はーい!」
シエルさんは私に一礼した後、シトリさんとアズィールさんの首根っこを掴みズリズリと引き摺って退出なされた。大丈夫でしょうか…。
「ユムルさまユムルさま。
また主様から新しいお洋服をお預かりしています。
今回も絶対似合いますよ!」
チュチュさんの眩しい笑顔に頷いて着替え始める。
白くて首と袖にフリルがあるブラウス…のようなワンピースです。
胸元の黒いリボンの真ん中には結び目を隠すほど大きな輝く深緑色の……宝石?
え、宝石じゃないですか?
リボン大きいですがこの石…宝石も大きいですよ?
「あ、この宝石はアレ…アレキサンダー?
あれ、何だっけ??」
「アレキサンドライト、じゃよ。」
急に声が…この声は…
「フレリアさん!」
チュチュさんが名前を呼ぶとフレリアさんはぽふんと音を立ててその場に現れた。
「おはようユムル様、チュチュ。
よく眠れたようじゃな。妾も嬉しい!」
「フレリアさん、宝石の名前チュチュにも分かるようにもう1回言ってください!」
チュチュさんに頷いてフレリアさんは宝石の名前を教えて下さる。
「アレキサンドライトじゃ。
光の種類によって色が変わる結構珍しい宝石じゃな。
宝石好きの金持ち人間からすると喉から手が出るほど欲しかろうに。」
そ、そんなに凄い物を私なんかに…!??
あわわわ…どうしましょう…!?
お返しすべきでは!?
「おっとユムル様よ。
よもや返そうなどと考えているのではなかろうな?」
「えっ」
それを聞いてチュチュさんは焦りの表情に変わる。
「え!ダメですよユムル様!
主様がユムル様にとお贈りした物なのですから!」
あ…そうですよね。
これはティリア様から賜った物。
返そうだなんて失礼にも程がありますね。
「そうですね。お礼言わないといけませんね。」
「今から朝食じゃ。その時に言うが良いだろう。」
「そうですね。」
私は1人で一足先にダイニングルームへと向かう。
いつもならティリア様がお迎えに来て下さっていたのですが…やはり昨日のお仕事でお疲れなのでしょうね。
考え事をしながらゆっくりと赤いカーペットが敷かれた階段を降りてもう一度階段を降りようとした時、ふと廊下の奥の扉が小さく開いているのが見えました。
何故でしょう?とても気になります。
誰もいらっしゃらないならばあの扉、閉めても良いですかね…?
閉める為に扉に近づくと、部屋の中に誰かがいらっしゃった。あの紫髪と白いコートは…
「バアルさん!」
「っ!おはようございます、お嬢様。」
「お、おはようございます…?」
気のせいでしょうか。
バアルさん、弾かれたようにこちらを向く際に笑っていらっしゃったような…。
それに私が声を掛けるまでお気付きでは無かったご様子…?
「おや、いつもよりも顔色が良く見えますね。
しっかり眠れましたか。」
はわ、話しかけて下さりました!
「は、はい!
1度も目を覚まさずに夢も見てません!」
「ほう…人間は眠りが深い時の夢を覚えていないらしい故に夢を見ないと言いますからね。何よりです。」
少し口角が上がっています…。
声からしてももしかして、
「バアルさん、何か良い事ありましたか?」
思い切って聞いてしまいました!
バアルさんは小首を傾げます。
「何故?」
「えっと、その…声や表情が楽しそうでしたから…」
そう言うとバアルさんは固まってしまいました。
あれ?失礼な事言ってますか私。
数秒の沈黙の後、彼から「ふっ」と聞こえました。
「私としたことがお嬢様に見抜かれるとはまだまだですね。」
「え、じゃあ本当に」
「はい、私事ですが良い事がありました。」
バアルさんにとって良い事…とっても気になります!
「ふ…」
バアルさん、私を見てクスクスと上品に笑っています。
な、何故でしょう?
「あ、あのー…?」
「お嬢様は思っている事が顔に出ていますね。
何と分かりやすい。」
「え。」
そ、そんなに顔に出ていたのでしょうか?!
私、表情筋が死んでいると言われているのに…。
「気になるのでしょう?私の良い事。」
見抜かれました…!
その通りなので頷くとバアルさんは
「使い魔に良い餌を喰わせる事が出来たのです。」
と仰った。使い魔って確か蜘蛛さんですよね。
「そ、それは何よりです!
蜘蛛さんはさぞお喜びでしょうね!」
「えぇ、珍しくご機嫌でした。」
するとバアルさんはコートの内ポケットから懐中時計を取り出し蓋を開ける。
「お嬢様、朝食のお時間ですよ。
これから坊ちゃんを引き摺って参りますのでお先に部屋へどうぞ。」
「あ、わ、分かりました!」
ティリア様はまだお部屋だったのですね。
では先に参りましょう。
…
「はぁ…シエル=エリゴマルコシアス。」
バアルが溜息混じりに名を呼ぶと何も無かったはずの彼の隣に白銀の騎士が音も無く現れた。
「はい。フルネームという事は何かお咎めですかねバアル殿?」
紅色の瞳で微笑みを纏うシエルの顔を睨み付ける。
「お嬢様に何を盛った?」
「おや、何のことでしょう?」
使用人の誰しもが恐れるバアルの睨みにも笑みを絶やさないシエルは焦る素振りも見せない。
「毒に関しては私を舐め腐っているようだなシエル。」
「と言いますと?」
「まだ惚けるか。お嬢様から毒の気配がした。
私を欺けると思わないことだな。」
影から杖を顕現させ、先端をシエルに突きつけると
初めてシエルが笑みを絶やし驚きの表情を浮かべた。
「おやおや…流石はバアル殿!
そうです。ユムル様の睡眠を妨害せぬよう睡眠薬を
飲ませました。」
「貴様が調合した物だな。
1歩間違えれば永眠する毒と言ったところか。」
「っふふふ…ご名答。
ですから間違えず調合しました。
貴方よりも人間の脆さについては知っているつもりですよ。」
「…ふん。お嬢様に手を出したら覚悟しておけよ。」
「おぉ怖い怖い、しかし大丈夫です。
あんな愛らしい御方を殺そうと思いませんし…
それに殺すのなら王子以外全員ササッと直ぐに
殺しますので!」
目を細めて笑うシエルに寒気を覚えたバアルは彼を早く退出させる。
「貴様はそういう奴だったな。もう良い、下がれ。」
「はーい!」
シエルが音も無く消えた事を確認し、眉間に指を添えた。
「はぁ…ヴェルメリド様は何故アイツを…ったく…
命令とは厄介な物だな。坊ちゃんめ、腹が立ってきたから叩き起こしてやる。」
…
ティリア様、まだですかね…?
ソワソワしているとブレイズさんがクスクスと笑いました!は、恥ずかしい…。
「っふふ!どうされたのですかユムル様。」
「い、いえ!
ティリア様まだかなと思っていたのです!」
「あぁ、成程。
昨夜は遅くまでお仕事なさっていましたからねぇ。」
やはり遅くまでお仕事を…。心配です。
「…」
「?」
ブレイズさんが私を見ていらっしゃる?
「…」
「ぶ、ブレイズさん?」
声を掛けるとハッと我に返った彼は首を勢いよく横に振ります。
「っあ!すみませんっ!!」
「い、いえ…。」
けれどブレイズさんは見ていたことに理由がお在りだったのか口をキュッと結んだ後、再び口を開きました。
「…ユムル様、あの…1つ宜しいですか?」
「は、はい!」
「ユムル様は昨夜、し」
「ゆーむーるぅうぅぅっ!!!」
「わぷっ」
声と同時に衝撃が!!
「てぃ、ティリアひゃま!」
「ユムルユムル〜!会いたかったわぁあっ!
アタシのユムル〜っ!!」
むぎゅっとされて頬で頭をスリスリされています!
あっ離れました。
「今日も最高に可愛いわねぇユムルはっ!」
「あ、えと…あ、ありがとうございます…」
「よしっ!いい子いい子〜!」
うぅ〜…可愛いと言って頂いた事への御礼を言うのは難しいです…!
悶々としているとティリア様が私の胸元にある宝石に視線を移しました。
「うん!やっぱりユムルは何でも似合うわね!
この石は緑だけど自然光の元だと赤色になるんだって!」
「そうなのですか!凄いです…
そんな凄い物を頂いてしまって…!
あ、ありがとうございます!」
「良いのよ!昨日お仕事頑張ったから
今日は1日フリーよ!何する何する??」
もしかしてその為にお仕事を…?
「な、何でも!ティリア様にお供させて下さい!」
「あら。そうなの?
うーん…ユムルとやりたいこといーっぱいあるの!
どうしましょう!」
「ならば1つずつやっていきましょう!」
「そうね!いーい?ベルー!」
ブレイズさんの隣にいつの間にか居らしたバアルさんに問いかけるティリア様。
バアルさんは無表情のまま
「しっかり朝食を食べるのなら何も言いません。
危険な事をしない限りね。」
と言って指を鳴らしました。
すると壁際に立っていらした使用人さん達が私の前にお料理を運んで下さる。
ティリア様のお料理はバアルさんが運んでいました。
あれ?使用人さん、少ないような気がしますが…
気のせいですかね?
「どうしたのユムル。ご飯冷めちゃうわよ?」
「あ、いえ!何でも!い、いただきます!」
「いただきまーす!」
そういえばブレイズさんのお話が途中でした。
後から聞かないと…!
…
「ふんふふーん♪
この辺も変わらないなぁ〜♪
僕の最強な可愛さが無くなったっていうのに!
世界的損失だというのに!
まぁ魔界がどうなろうが知ったこっちゃねぇけどね。
未だのうのうと生きている悪魔種…の前に幻影が見つけたあの女の子の事を探らないと。
それとアイツにも可愛いこの僕が直々に挨拶してやろうかな。無駄にお城はカッコイイんだから。」




