第47話『微かな足音』
投稿までに時間が空いてしまった…!
今までにブクマしてくださっている方、見てくださっている方、温かい評価してくださった方本当に嬉しいですありがとうございます!これからもスローペースですが見守って下さると尚のこと嬉しいです!!
「ふーん…全員元人間ね。」
ブレイズはどこか分かっていたかのように呟き、ナイフを手でクルクルと回す。
シエルは笑みを絶やさないものの、仮面というのがよく分かる笑みで居た。
「やはり人間の醜さが残っていたようですね。
ユムル様はあんなにも愛らしくお淑やかなのに。」
「ユムル様がすげぇんすよ、絶対。」
アズィールに頷く2人。
「でもいきなりだよね。洗脳でもされたかな。
どう思う?シエル君。」
ブレイズにいきなり話を振られたシエルは目を丸くする。
「おや、私ですか。ま、その線が1番妥当だと思います。王子が魔族にしか効かない魔法を使えるのですから、天使種も人間にしか効かない魔法でも使えるのでは?」
「信仰心を掻き立てたりとか?」
「えぇ。アズィール殿の仮説も大いにあります。
ユムル様の奇襲に参加した者全てが天使を信仰していれば、ですがね。」
「じゃあ信仰させれば良い。それこそ洗脳でしょ。」
ブレイズの言葉にアズィールとシエルは「確かに」と頷く。しかしシエルは
「あくまで可能性ですがね。(悪魔種だけに)
信仰心でなくとも何か条件を付けて駒にしていたのかもしれませんよ。」
と言ってニッコリ微笑む。
「確かに。しまったな…サクッと殺しちゃったよ。
こんな事なら生かしておけば良かったなぁ。」
「もーブレイズさんが愉むと虐殺ですよ。」
呆れたアズィールにブレイズは首を傾げる。
「え?ヴィランローズ王家の銀食器で死ねるんだよ。贅沢で幸せだろう?」
「「(ユムル様が居ないと本性出るな。)」」
「何か言いたげだね。話なら聞くよ?」
「「いえいえ何も。ねー?」」
息があっている2人に疑問を感じつつブレイズは腕を組んだ。
「ユムル様を狙っていたのは間違いないよね。」
視線をシエルに向けたことで彼は頷く。
「えぇ。ティリア様が大事になさっているからと奪おうと考えているのかもしれませんね。」
するとアズィールが勢いよく手を挙げた。
「ちょ、ちょっと待って下さい2人とも!
何でユムル様の事が天使種にバレた前提なんですか?」
彼の質問に2人は顔を見合わせる。
「ちょっと前に天使種の幻影に会ったってバアルさんが言ってたよ。」
「しかもその幻影はあのレウ=ブランシュだそうで。
っふふ…懐かしい。」
シエルの口から天使種の名前を聞き大きめに驚くアズィール。
「えぇ!?レウ=ブランシュって羅刹様と対等に殺り合った奴っすよね?!でも羅刹様が勝ったんじゃ…」
「トドメを刺し損ねたのでしょう。羅刹殿もボロボロでしたから。嗚呼、血塗れの羅刹殿もお美しかった…!是非再び見たいものです♡」
「うっ!??」
「羅刹様!?」
「ふぇ…ぶえっくしっ!!
し、肆季!すんごい悪寒がする!炬燵!
炬燵出してくれ!ウチ風邪引いた!!」
「炬燵で寝る気ですか?
それこそ本当に風邪を召されて最悪の場合死…」
「何かシエルに狙われているようなのだ!
身を隠す!!」
「……はぁ、そこまで仰るのなら分かりました。」
「今羅刹様くしゃみしてると思います。」
「アズ君もそう思う?俺も思う。」
「っははは!では看病しに行かねば」
「「やめてやめてやめて」」
問題を起こされないようシエルの腕にブレイズ、
腰にアズィールがしがみついた。
「おやおや、私モテますねぇ。」
笑いながらシエルがスンスンとその場で匂いを嗅ぐ。
「…うん、やはりアズィール殿から血の匂いがします。」
「え、アズ君怪我したの?」
「あ!?あーー…えーーと…」
「ワンちゃんの匂いもしますね。
また喧嘩ですか?」
シエルに見破られ項垂れるアズィールはシエルから離れた。
「セレネさんにはご内密に…
シトリとの喧嘩は怒られるんで…。」
目を泳がすアズィールにブレイズは納得したように微笑む。
「俺もバアルさんに怒られるの嫌だから隠してあげるよ。」
「あざっす!!」
「だから、つまみ食いはやめてね?」
ブレイズの黒い笑みに肩を震わせ敬礼する。
「は、はいっ肝に銘じますですっ!」
「やったら即座に報告するからね。」
「え、脅し!??」
「普段から幼稚だなと思っていて
言い出せなかったから良い機会だと思ってさ。」
「かわ…え、それって絶対馬鹿にしてますよね??」
「シエル君、ユムル様が目覚める前には城を元通りにするよ。」
「分かりました!匂いやら死体やらを片付けねば!」
そして2人で歩き始めた。
「え、無視!?ごめんなさい今までのつまみ食い謝りますからぁ!!」
…
こ、この最後の文字を書けば…!!
「し、仕事終わった…べ、ベル見なさい…
そして讃えなさい…アタシの成果をっ!!」
「机から顔を上げて仰って頂けます?
途中から何を仰っているのか分かりませんでした。」
「アタシを讃えなさいと言ったのよッ!!!」
むーかーつーく!!けれどさっきの大声で気力を使い果たして怒る気にもなれない。
ベルは讃えるどころか呆れているわ。
「貴方が溜めなければこんな事にはならなかったのですよ。」
「う…」
分かってるわよそれくらい…身に染みたもん。
ユムルと話せない、ご飯も一緒に食べられないのがこんなに堪えるなんて…連続だと特にきっついわね…。
「でもま、明日の仕事を終わらせたのは褒めて差し上げます。よく頑張りましたね、坊ちゃん。」
「え」
き、気のせいかしら…ベルがアタシを褒めたような…
「ベル、もういっか」
「言いません、さっさと寝なさい。
滅多に使わない分身魔法を使って魔力を消費したのですから。失敗なさってましたけど。」
ば、バレてた…!!
ベルが部屋に居ないうちにこっそりとやったはずなのに!!それに失敗って言った時の馬鹿にした顔めっちゃムカつくんですけど!!
「ふんっもういいわ!寝る!!おやすみっ!!」
「はいはいお休みなさいませ。」
…
バアルはティリアの処理した書類に目を通しながら
「ブレイズ、シエル。
そこに居るのだろう、入れ。」
と扉に向かって言う。
すると扉がゆっくりと開き2人が入室する。
「失礼します。あ、眼鏡珍しいですね。」
「おや、相変わらず眼鏡姿も麗しい!」
「…要件を言え。」
次々と捲られる書類へ視線を落としたままのバアルにお構いなくブレイズは話し始める。
「裏切り者は居ました。
処理した数としてはざっと15名ほどです。」
「そして全てが元人間でした。」
シエルの言葉でバアルの手が止まった。
「なんだと?」
「企てたのは天使種の可能性が高いです。
レウ=ブランシュの事もありますし。」
「何か聞き出せなかったのか?」
バアルの低い声にブレイズは肩を震わせ目を逸らす。
「………おいブレイズ貴様」
「も、饗しに遠慮の文字は御座いませんので…。」
「つまり聞く前に全員殺したのか。」
「………はい、すみません…。」
「愉しそうに殺してましたよ。仕留める際、飛び散る鮮血の中心で舞っていた貴方もお美しかったですよ!」
「シエル君っっ!?」
急なカミングアウトにブレイズは尚のこと震える。
そして珍しくバアルが口角を上げた。
「ほう?舞っていたのか。」
「いやっ舞っていたは語弊有りますよ!?
それにそもそも…は、半分以上はシエル君が殺っちゃったし…俺だけ戦犯だということは無いかな〜なんて…」
「ん?私ずっとユムル様の部屋の前に居ましたので
斬ったのはたった2人ですが。」
首を傾げたシエルを見て落胆するブレイズは片手で顔を覆う。
「あーーーそこは気ぃ遣ってよおぉ…」
「ブレイズ=ベルゼブブ。何か、言う事は?」
珍しいバアルの笑顔に恐怖を覚えたブレイズは土下座した。
「大っ変申し訳御座いませんでしたッ!!」
「全く…。
以前の貴様ならもう少し行儀良くやれたろうに。」
溜息混じりに告げるバアルは持っている書類の高さを机の上で整え、既に山となっている紙束の上に置いた。驚くことに置いた紙束はもう最後の書類だったようだ。
「昔の俺なら調理法に拘ってこんな早く終わりませんよ。人間の肉ってそのままだと案外不味いんですから。」
「ふん…で?
今回の肉はどうする気だ。」
「俺、命は大事にするんですよ。元人間のまっずい肉でも傷付けないよう一撃で仕留めましたから鮮度も問題無しです。」
「…お嬢様には?」
「ふふっ…考えておきます。」
「(おぉ怖。先程からブレイズ殿の本性がチラチラと垣間見えるが…流石ベルゼブブ殿だ。
本当にユムル様に嫌われたくないと思っているのかも分からない。)」
シエルの視線に気付いたブレイズは
「何?」
と一声かける。が、シエルは首を横に振った。
「いえ、綺麗なお顔だなと観察を少々。」
「ふーん…そう。あ、バアルさん。
今回の件、アズ君にも話しました。」
眼鏡を外し、机に置いたバアルは眉間を摘む。
「そうか、アズィールなら良い。
明け方残っている元人間の使用人を問い質す。
ブレイズ、ユムル様の護衛を。」
「は。」
「シエル、貴様はシトリの手綱を握れ。
聞く前にいきなり首を斬られるかもしれんからな。」
「ワンちゃんのですか?畏まりました。」
「(シトリ君が首いきなり切ったってそんな怒らないくせに。俺には怒るけど。)」
毛先を弄っていたブレイズに鋭い視線が向けられる。
「ブレイズ、
言いたいことがあるならはっきりと。」
「な、なな何も!!」
首が千切れるかと思うほど横に振るブレイズ。
バアルからは大きめの溜息が零れる。
「はぁ…ブレイズ、次から利口にならなければ銀食器の使用を禁止するよう坊ちゃんに」
「絶ッ対お利口にしますから!!
俺から銀食器取らないで下さい!!」
銀食器の名前を出すと釣れる事を知っているバアルは口角を上げ、机に勢いよく手を付き頭を下げ続けるブレイズに
「顔を上げなさい、絶対ですよ?」
全く容赦の無い力がバアルの中指から発せられ、
ブレイズの額に激突する。
「〜〜ッ!!!?」
あまりの痛さに膝を付くブレイズ。
彼を見てシエルはバアルに拍手を送った。
「おぉ、デコピンというやつですね!凄い音です!」
「絶対頭蓋骨にヒビ入った…」
ブツブツと文句を垂れる彼を見てふいっと目を逸らすバアル。
「貴様だって人間に同じことしたクセに。」
「(デコピンは)してませんよ!!」
「どうだかな。…今日は良くやった、下がれ。」
「「は。」」
退出した2人の背中を見届けたバアルは椅子から立ち上がる。
「これだから人間は…」
顕現させた杖の先を床に当て、自らの影から巨大な黒い蜘蛛を呼び出した。
「今から指定する奴らを監視しろ。
おかしな動きがあれば毒を回せ。」
主に頷いた蜘蛛は口から糸を吐き、小さな玉を幾つか作り出した。そこから小さな蜘蛛が産まれ出て開きっぱなしだった扉から部屋の外へ向かっていった。
「さぁ、何人死ぬかな?」




