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第46話『悪魔暗躍』

「ど、どういう事でしょう…?」


つい声に出すとシエルさんは笑みのまま


「そのままです。私では答えられません!」


と仰った。続けて首を傾げる。


「私、契約を結んだ事無いので分からないのです。」


契約を結んだことが無い…?


「なので私より適任なのが…

あ、ブレイズ殿とか良さそうですよ。

彼は隠してますけど(こう)…」


突然シエルさんが“コウ”まで言って固まりました。

まるで時を止められたかのような…。

しかし彼は時を止められた訳ではなかったようで後ろの扉へ顔を向けたのです。


「俺が何かなー?シエルくーん。」


扉越しにブレイズさんの声がします。

入って良いですよと伝えるべきですよね。


「ブレイズさん、どうぞお入りください。」


ゆっくりと扉が開く。


「ユムル様ありがとうございます。」


入室したブレイズさんは後ろの髪の毛を結っている黒いリボンを結び直しながらシエルさんに近づく。


「ちょっとシエル君。

ユムル様に変なこと言わないでよね。」


「えー潔白ですよ。ただ私だとユムル様のご質問には力不足でお答え出来ぬのです。

なので頼みましたブレイズ殿!」


「は?俺?」


「では私はこれにて!」


シエルさん、音も立てずその場から消えました。

不思議です…。


「もー…身勝手だなぁ。まぁ良いけど。

ユムル様、質問というのは?」


ブレイズさんが答えてくれるのなら、と思って先程のようなお話をしました。

聞いてくださったブレイズさんは口に手を当てます。


「驚いた、レンブランジェさん喋っちゃうんだ。」


外した視線を私へ戻すと、


「分かりました。

俺が分かることはお伝えしましょう。」


と微笑んで下さった。

身体が冷えてしまうからと私にベッドで寝転ぶように言われたので言われた通りにベッドへ入る。

ブレイズさんは近くで膝をつきました。


「では質問の答えを。もう今は呼ばれません。

まず、儀式の話ですが…儀式は少し前にパタリと無くなったのです。理由は人間が儀式の書を封印したからと言われていますよ。」


「封印…?」


「はい、正常な人間は悪魔との邂逅を禁忌だとした。そして二度と触れることの無いように燃やしたか仕舞ったかしたのでしょう。」


「そうなのですか。」


「ただ、ごく稀に呼ばれることがあります。」


「え?でも封印を…」


私に頷いたブレイズさんは溜息を小さく吐く。


「誰かが儀式の内容を覚えていた、もしくはメモしてたのでしょう。でも残念、ヴィランローズ王家の使用人になった悪魔種は主に尽くす為、その儀式には応じません。」


「つまり放っておくと…?」


「そうなりますね。」


「そうなのですか…。」


確かに悪魔に頼ることは良くないことですが放っておくのは可哀想に思ってしまいます。


「それと人間殲滅部隊ってご存知ですか?」


「にんげん…せんめつぶたい?」


ブレイズさんは私が知らないことを察すると説明して下さった。


「先代魔王であるヴェルメリド様が率いていた部隊です。人間を殺す為の精鋭部隊。」


そう言えば昔の話にありました。

魔王が怖いと言われている理由…。

それはこの事だったのですね。

あれ?人間を…殺す?人間の魂がお好きなのに…?


「あ、お気付きですか?

契約対象になる種族(大好物)を自ら殺していることに。」


「は、はい。」


「ヴェルメリド様は人間がお嫌いでしたから。

それに、使用人になったら主に尽くす為、儀式に応えないのはこの時から既に有った概念です。」


に、人間がお嫌い!?

どうしましょう…ティリア様のお傍に居るのを認めて貰えないかもしれません!


「ユムル様?」


「……ヴェルメリド様に認めて頂くにはどうすれば良いのでしょう…。」


焦って口から言葉を出してしまった。

ブレイズさんを困らせてしまうのは分かっていたのに。


「認めて頂く、か。うーん…あの人は気難しい御方でしたからねぇ。あ、でもヴェルメリド様はお優しいですよ!」


ブレイズさんは大きな手で私の頬に触れました。


「だって…優先的に殲滅していたのは人々から善人と呼ばれる偽善者ばかりでしたから。」


と、光の無い緑色の瞳で微笑まれる。

その瞬間、ぞくりと悪寒が全身を走る。


「っふふ…悪魔召喚する可能性のある人間を殺すのは後回しにする。

ヴェルメリド様も使用人のことを考えて下さっていた。それでも儀式には応えませんがね。」


後回し…つまり順番が来たら殺すと言うことですよね…。


「ですから、ユムル様の頑張りも見てくださいますよ。人間を見てから後回しにするかどうか判断していたあの御方なら。」


「…」


頷けません。とても、とても怖い御方という事を改めて理解してしまったから…。


「っと…レンブランジェさんが何処まで話したか

分からなかったからつい話してしまいました。」


「あ…」


何て言葉を言えば良いか分からず口をパクパクさせていたら


ドンドンドンッ!!


扉が乱暴にノックされました。


ブレイズさんは左手を伸ばして私を庇うように構えられました。でも返事をしないと…。


「は、はい!」


「ユムルごめんね!アタシ、ティリアよ!

寝る前に貴女と少しだけお話したくて!」


ティリア様!


「お入りく」


「しっ」


ブレイズさんに口を塞がれました!?


「ユムル様、そっと誰かの…

シエル君の呼び鈴を鳴らして下さい。」


言われるがまま呼び鈴を鳴らす。


「シエル=エリゴマルコシアス、此処に。」


「シエル君。扉の奥からティリア様じゃないような変な感じしない?」


ブレイズさんの問にシエルさんはにこやかに頷く。


「えぇ、何か変な感じがしますから私が出ましょう!」


スタスタと歩き何の躊躇いもなく扉を開ける。


「おや?」


シエルさん、首を傾げました。


「シエル君?」


ブレイズさんが名を呼ぶとシエルさんは右に逸れました。するとそこにティリア様に似た小さな男の子が立っていました。


「ユムルー!」


「え…と…?ティリア様ですか?」


質問すると彼は可愛らしい笑顔で頷きました。


「そうよアタシよ!少しでもユムルと話したくて視覚共有できる分身魔法試したのだけど失敗しちゃって!でもそのまま来たわ!」


「ふむ、不安定ですが感じる魔力はティリア様ですね。その姿も麗しいですが転移すれば良いのでは?」


シエルさんに首を振る小さなティリア様。


「一応アタシ本体は仕事してるのよ。でも分身を通じて話もしているし見てもいるわ。んふふ、貴女の姿が見れて元気が出た。よし!頑張ろっと!」


まだお仕事なさるのですか…。


「ご、ご無理なさらぬよう…!」


「えぇ!貴女に心配かけちゃうもんね!だからもうすぐやめるわ。ちゃんと寝てねユムル、おやすみ。」


「は、はい!おやすみなさいませ!」


小さなティリア様、ばいばーいと手を振るとぽふんっという可愛らしい音と共に消えてしまいました。

ブレイズさんがクスクスと笑って私を見ます。


「ふふ…

という訳なので俺とシエル君は退出しますね。」


「またご用命の際は呼び鈴鳴らしてお呼びくださいね!」


「あ、ありがとうございます!」


「「おやすみなさいませ!」」


お2人が扉から退出なさった。

さて、眠りましょう…おやすみなさい。



10分後。


「シエル君、ユムル様寝た?」


ユムルの部屋からシエルがそっと出てきたのを見てブレイズは首を傾げた。


「えぇ。

スヤスヤと可愛らしい寝顔を確認致しました。」


「そう、良かった。」


いつもと変わらないブレイズの腰あたりを見るシエルは目を細めて指をさす。


「ところでさっきから隠し持っているその銀食器は一体どうなさったのです?」


聞かれたブレイズはムスッとして長い髪の毛の毛先を弄り始めた。


「……分かってるくせに。それとさっき俺の事を言おうとしたよね。ユムル様にバラしたら君を解体バラしちゃおうかな〜。」


声色と反対に鋭い視線を向けられたシエルは笑みを絶やさない。


「おぉ怖い怖い。耳が宜しい事で。ですが何故高位なことを隠されるのです?高位な悪魔種は誇り高くて良いではありませんか。」


そう言われて少し固まった後、ふいっとそっぽを向いた。


「……ユムル様に嫌われたくないって思う自分が居る。ただでさえ悪魔種の話で恐怖なさっていたんだ。

俺が昔に人間と沢山契約していたと知ったら…」


「恐れられることは間違いありませんねぇ。

ブレイズ=ベルゼブブ…契約者の魂を選り好みして貪り喰う悪魔種。私でも知ってます。」


「その噂早く消えないかなぁ…。」


「ふふ、消えることは疎か尾ヒレが付くかもしれませんねぇ。」


「う〜…もう昔よりも丸くなったって…

もういいや。そろそろ動くから話ついでに手伝ってよ。」


不機嫌そうなブレイズに対して満面の笑みで頷くシエル。


「勿論!その為に来ました。」


「やっぱ知ってるじゃん。」


「貴方の美しい同族殺しのお姿を見たいと言えば宜しかったです?」


「何それもっと嫌。

っとにもー…ユムル様起こさないでね?」


「はいっ!」


シエルの返事と同時にブレイズが腰から取り出した銀製のナイフを素早く左へ投げる。

少ししたら悲鳴が聞こえてきた。


「おー!ナイスショットです♪」


「ほらほら、折角第2の主に手を出そうとしている裏切り者を饗すんだ。こちらも楽しまないとね。」


愉しそうにエメラルドに輝く目を細める彼にシエルは眉を下げて微笑みを返した。


「嗚呼、貴方の何処が丸くなったでしょう。

そんなだから噂が全く絶えないのですよ。」


「君が何も言わなきゃもう途絶えるさ。

今の俺を見ているのは君だけになるんだから。」


そう言うブレイズの手にはナイフの他に銀製のフォークも有った。


「確かに!…ヴィランローズ王家の銀食器を武器にして良いのは貴方だけですね。」


「うん、実に光栄だ。バアルさんに怒られたくないけれどこれは譲れない。」


「貴方の拘りが無ければ良い料理は生まれません。」


おだてても何も無いよ。

じゃ、ユムル様の部屋に近づかせず排除を。

この感じじゃまだ饗す必要があるからね。」


「了解です。」



「ブレイズさぁあんっ!」


涙目でパタパタと走ってくるのは赤髪のアズィール。


「あれ?アズ君。廊下に居たの?」


「使用人の部屋の扉が薄いのご存知ですよね!

悲鳴が煩いのなんの!!」


「あ〜…ごめん。

愉しくてついはしゃいじゃった。」


ブレイズの「てへっ」と言う顔を見てアズィールは引いた。


「返り血ヤバいですよ。銀食器が死体の首や頭に刺さってたんでブレイズさんって分かりましたけど!

何してるんですか!」


「俺なりの饗だよ。

天使種に唆された者への、ね。」


天使種と聞いてアズィールは目を見開く。


「え…

でも若様はそんなこと仰ってませんでしたが…。」


「俺はバアルさんの指示で動いただけだけど…

バアルさんが保険って言ってたしティリア様は彼に一任なさったのかもね。」


自分の顔の血は拭かずに手に持っていた血塗れのナイフをシルクの布で拭き取るブレイズの返答にアズィールは頭を掻く。


「あー…そっか成程。

でも天使種に唆されたって?」


「俺も分からない。ただ何かしらの理由でユムル様を狙っていたのは事実。」


「天使種って言う確証は?」


「無いね。俺とバアルさんの勘だから。」


「勘…。」


すると返り血1つ無いシエルがいきなり音もなく現れた。


「「わっ」」


「おや、アズィール殿!」


「シエルさん!吃驚しましたよ!」


「それはすまないね。今しがた全ての死体を見終わったのですが…死んだ全員が



元人間でしたよ。」

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