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第42話『お話後なら遊ぼうぞ!』

今日飼っている猫が毛布を熱心に見ていたので何事かと思ったら小さな蜘蛛がぴょんぴょん飛んでました。猫は蜘蛛にソフトタッチや鼻でちょんっと触りちょっかいをかけていきます。

そのうち食べたり毛布の上で潰さないか心配です…

「ユムル、羅刹に変な事されてない?」


「だ、大丈夫です!」


羅刹様の館から出て、光り輝く夜桜が照らす橋を歩かれるティリア様に抱えられています。


「あ、あのティリア様。わ、私歩けますよ…!」


「えー?この方がユムルをぎゅって出来るし近くで顔が見えるしで最高なのだけど?」


「ぁと…ぇっと…」


そう仰られると困ってしまいます…。


「美しきティリア様よ、いつもの移動をお使いになられては?」


シエルさんが横から身体を傾けティリア様の視界に少しだけ入られる。


「それもそうね。

ユムルと部屋でゆっくりと喋りたいし。」


「可憐な姫、どうぞ此方に!」


シエルさんが両手を広げ、私を預けて欲しいとティリア様に訴えています。


「……ちょっとだけね。」


「はい!」


ぽすんと私がシエルさんの手に渡される。

はわ…シエルさんの笑顔が近い…。

夜桜の淡い紫のようなピンクのような光に照らされ、張り付いたような笑顔が少し怖く見えます。


「ベル、もう少し寄って。」


「…はい。」


「よいしょっ!」


ティリア様が杖を振り、お城へ



「…あれ。」


お、お城の中じゃありません…。

何処でしょう?木が沢山です。

と言うか木しかありません。それに暗いです。


「ふふ、王子に怒られちゃいますかね。」


「シエルさん!」


楽しそうにしていらっしゃいますが私を抱えたままです!


「話したい欲が勝ってしまって。王子の瞬間移動を使う()()()()()しました。此処は夜桜理想郷の片隅です。」


か、片隅?

夜桜は咲いていないただの木ばかりですが…。


「何故此処に…?」


「羅刹殿にバレにくい位置だと()()しましたので。つまり誰も寄り付かないかと!」


人目を避けるという事ですよね…。


「お話するだけならお城でも…」


「王子が邪魔してくるではありませんか。

私だって愛らしい貴女を近くで見たいです。

うふふっ…!」


こ、怖いの一言しか出ません。

どうしましょう…。


「改めまして、初めましてユムル様。

私はシエル。シエル=エリゴマルコシアスと申します。長くて申し訳ありませんがどうぞ良しなに。」


「これはご丁寧に…ゆ、ユムルと申します…。」


ハッ!つい流れで挨拶してしまいました!

解決策は何か…!


「そう怖がらないで。

別に取って食いやしませんよ。」


「あぅ…」


そう言われましても…。

困っているとシエルさんからカチと音がして、

なんと右側にあった1本の大木が折れてしまいました。

残った切り株の断面はとても綺麗です。

もしかしてシエルさんが斬ったのでしょうか。


「お座り下さいお姫様。」


そう仰って私を切り株の上に優しく座らせるシエルさんはその場で跪かれる。


「私は先代魔王ヴェルメリド=イヴ=ヴィランローズ様の側近をしておりました。」


ヴェルメリド様…ヴェル…

あ、もしかして羅刹様の仰っていたお方でしょうか。

ん?先代魔王様ということはもしかしなくても

ティリア様のお父様です!


「王子は魔王であるヴェルメリド様の厳かなお姿をずっと見ていらっしゃいました。

父親に向けるには可笑しな恐怖の目で。」


ティリア様は仰っていました。

パパはとても厳しかったと。何か怖い思いをなされたのでしょう。ティリア様に思いを馳せるとシエルさんは悲しそうなお顔をされました。


「だからこそ、ヴェルメリド様の優しさに気付いておりません。

とても気難しく威厳のある御方でしたが愛のある御方でした。」


「…ティリア様のお父様ですから納得します。」


そう言うとシエルさんは悲しそうなお顔から安心なさったようなお顔に変わりました。


「はい、ですが王子はそれをご存知でない。

厳しくされた事に対しては自分が嫌いだからそうしている、そうお思いのようで。」


シエルさんは私の左手を救い上げ、悲しいお顔に戻ってしまいました。


「それでお姫様、どうか王子がヴェルメリド様の優しさに触れる機会を作って頂きたい。」


「優しさに触れる機会、ですか?」


「はい。今回羅刹殿がお伝えしようと思っていたと言う事を耳にしておりましたがつい私の熱が入ってしまって有耶無耶に。」


た、確かに…?

内容は分かりませんがお話は出来ませんでした。


「私やバアル殿の言葉では届かなくても、お姫様ならば届けられると私は思っております。

ですからどうか、誤解を解く手助けをして頂きたいのです。」


勿論助けたい、ですがティリア様の御家族様の事に私なんかが口を挟んで良いのでしょうか。


「…」


私が俯いて沈黙しているとシエルさんが口を開きます。


「…私は貴女様だからこそ依頼しております。

王子が心の底から大切にしている貴女だからこそ。」


私だからこそ…。


「…もしティリア様が嫌だと仰ったらすぐにやめます。」


「!えぇ、構いません。嗚呼…幸せで御座います!

これでヴェルメリド様の想いが届く!」


シエルさんの紫で輝く瞳。

私はヴェルメリド様もティリア様のお母様も拝見した事がありませんが宜しいのでしょうか。

でもすれ違いはお互い辛いはず。

ヴェルメリド様、勝手に申し訳ありません。

もし気に障ってしまったならばどうか私だけに天罰を下してください。


「決めました。

私もお姫様、貴女のお世話をさせて下さい!」


「…へっ?」


考え事していて思考が…

えっ今お世話をって仰いました??


「自分で言うのも何ですがこれでも剣の扱いには慣れています。あのバアル殿にも引けを取らぬほどだと自負しておりますよ!」


「それは存じておりますが…えっと私の一存じゃ決められませんのでバアルさんを通して頂いて…」


「あれっそうなのですか。

分かりました、相談致します!」


随分聞き分けが宜しいお方ですね。良かった…。


「では戻りましょうお姫様!」


でもお姫様がずっと気になってしまいます!


「あ、あのシエルさん。」


「はい!」


「わ、私は居候の身でお姫様じゃないので…

出来れば名前で呼んでいただけたら嬉しい、です。」


バアルさんからはお嬢様と呼ばれておりますが言う

機会を逃してしまったのでせめてシエルさんの呼び方だけでも…。

シエルさんは分かってくれたらしく一瞬驚いてから笑顔を作って下さいました。


「おや!()()だったとは失礼致しました。

では参りましょうユムル様!」


「はい!」


差し出された手を取った瞬間、エントランスに戻ってきたと思ったら目の前にティリア様がいらっしゃいました。


「ユムルっ!!!?」


「ゎぷっ!」


私を見るや否やすぐに抱きしめてくださる。


「あぁ無事で良かったっ!!

急に居なくなったからとても心配したのよ!!」


「そのっご心配をおかけしました…!」


く、苦しいです…。


「シエル!拳骨させなさい!」


「はい喜んで。」


ぷんぷんしているティリア様に頭を差し出すシエルさんはどこかシトリさんに見えます。


「お仕置きよ!!」


「いてっ」


ゴッと鈍い音が聞こえシエルさんはぐしゃりと床に倒れ込みます。音と倒れ込む動作の割に声が軽いような…。


「痛いです。」


たんこぶ出来たてです。

それに素早く立ち上がった後は笑顔です。


「んもう!ユムルを勝手に連れてった罰としてシトリを連れ戻してきなさい!」


「ワンちゃんなら王子…

いや、ティリア様の一声で来ますよー。」


シエルさんの言葉にティリア様は目を逸らしました。


「え、えーっと…あのぉ…さ、散歩してるのよ。

だから連れて来なさいこれは命令よ。」


「っふふ、畏まりました。」


あ、また消えてしまいました。

ティリア様のご様子がおかしかったですがもしかして嘘を?


「お嬢様。」


バアルさんが目の前に立ちました。私は何か怒られるようなことをしてしまったのでしょうか!


「はひ…」


「左右どちらでも良いので手をお出し下さい。」


手を?よく分かりませんが右手を差し出してみます。するとバアルさんが私の右手を一回り大きな手で握られました。はわわっ


「ちょっとベル何してんのよ!」


「迎えを、ね。」


言葉少なく告げたバアルさんと繋がった私の右手の指に向かって小さな蜘蛛さんが袖の中から這ってきました。私の身体を這っていたとは驚きです。


「くぁwせdrftgyふじこlpッ!!!」


ティリア様が驚いて跳ぶように私から離れます。

あれ、この蜘蛛さんはあの時私の部屋に居た子です!


「またお会い出来ましたね。」


『(*`・ω・´)』


声をかけると私の手の上でぴょんぴょん跳ねていらっしゃいます。可愛らしい。


「驚きました。覚えていらしたとは。」


バアルさんが目を丸くしていらっしゃる。


「バアルさんの大切な蜘蛛さんなので。」


「……そうですか。」


蜘蛛さんは無表情なバアルさんの手に移り、バアルさんは私から手を離された。


「この蜘蛛は貴女に何かあった際にすぐ駆けつけられるよう探知機として這わせておりました。御無礼をお許し下さい。」


「あ、いえ…。潰れなくて良かったです。」


「ご主人様ー!」


居なくなっていたシトリさんの声です!


「っ!」


息を飲み呼び鈴を2本振るティリア様は私を再び抱きしめました。


「はい!主様!」

「はい!若様!」


現れたのはチュチュさんとアズィールさん。

シトリさんが開けようとしたであろう目の前の扉を

アズィールさんが押さえ、チュチュさんが鍵を掛けました。流れる連携です!


「あれっ!?ご主人様ー!

鍵掛けられましたぁー?」


「しとっむぐぐ!」


「ユムル、しっ!」


ティリア様に口を塞がれました!


「ご主人様ー?ボクですー!

シトリ=グラシャラボラスですー!

もしや屋外放置プレイを御所望でしょうかー!」


放置プレ…?


「アズ、シトリとシエルの様子を見て来なさい。

赤ければ門まで摘み出して。大丈夫だったら城に入れて。」


「畏まりました!」


アズィールさんは廊下を駆けていきます。

彼を見えなくなるまで見届けたチュチュさんは笑顔を向けてくださった。


「皆様おかえりなさいませ!」


「ただいま、チュチュ。」


「ただいま戻りました…!」


「あ、そうだ主様。

こちらが落ちていましたよ!」


「何かしら?」


チュチュさんがポケットから取り出したのは1枚の写真…。写真には前髪を中心で分けて眉間に皺を寄せている男性が写っていました。

艶やかな黒髪はシトリさんのように切りそろえられていて長く、羅刹様のとは違う龍のような大きな角が2本と小さな角が2本生えています。綺麗なお顔ですが気難しくて怖そうなお方です。


「…いつの間に落としたのかしら。

ありがとうチュチュ。」


「いえ!いつ見てもお綺麗ですね、

ヴェルメリド様!」


ヴェルメリド様…!?

この方がティリア様のお父様!


「…えぇ、パパの顔とスタイルだけは好きだったわ。」


だけ…シエルさんが仰るにヴェルメリド様には愛がある。けれどそれがティリア様には届いていない。

そんなの悲しいです。

私に出来ることがあれば良いのですが…

その前に私が知らなければ始まりません。

やはり羅刹様に聞くのが宜しいでしょうか。

それともシエルさん?バアルさん?うーん…


「おぉ!ユムル様おかえりなのじゃー。」

「おぉ!ティリア様おかえりなのじゃー。」


双子のような子供さんが走ってきました。

何方でしょう?


「ユムル様の風邪が治って安心じゃな!

フレリア!」


「そうだな!レンブランジェ!」


フレリア?レンブランジェ?

あ、もしかしてお城の中で1番歳上の…


「レンブランジェ=レラジェさんと

フレリア=レラジェさん…ですか?」


名前を伺うと双子さんはえっへんと胸を張り腰に手を当てました。


「「左様!ユムル様の風邪治し隊創立者じゃ!!」」


私の風邪治し隊…??


「チュチュも隊員の1人です!!」


チュチュさんも彼らの隣に行き、戦隊ヒーローのようなポーズをとりました。お礼を言わねば!


「レンブランジェさん、フレリアさん、チュチュさん。昨日はご心配とご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。」


…あれっ謝罪になってしまいました。

顔を上げるとほっぺを膨らませる3人の姿があります。…お怒り?


「「何故謝るのじゃ!

悪い事何もしとらんじゃろがい!」」


「そうですよ!

そこはありがとうって仰って下さい!」


ひぃ…詰められてますぅ…。

流石ティリア様のお付の方々!


「あ、ありがとうございました!」


「「うむ!」」

「はいっ!」


良い笑顔です。眩しい。


「3人共、アタシちょっとやる事思い出したからユムルを宜しくね。」


「「「はーいっ!」」」


ティリア様、私に微笑んで背を向けられました。

心做しか少し元気が無いように見えます。


「ベル、行くわよ。」


「は。」


杞憂だと良いのですが…


「ゆーむるっさま!」

「我等と遊ぼうぞ!」


双子さんが両手に抱きついてきました!


「チュチュもご一緒したいですー!」


「「うむ!皆で遊ぼう!ではチュチュ、ユムル様と共に我等を捕まえてみせよ!鬼ごっこじゃ!」」


きゃーっと楽しそうに声を上げながら廊下を走って行きました。速いですね!?


「行きましょうユムル様!

お2人を見つけましょう!」


チュチュさんに手を引かれ双子さんを探すことになりました。お城を走って良いのでしょうか?


でも、ちょっと楽しみです!

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