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第41話『白銀の騎士と悪鬼』

登場人物の名前は基本、無さそうな名前を考えていますが悪魔の名前も入れたいと今の人達になっています。最凶の騎士は訳あってこの名前です。

「ん!?」


羅刹様が長い廊下の真ん中で急に立ち止まりました!


「け、気配が突然1つ増えたぞ…。

しかもこの感じ…まさかっ」


「そのまさかですよ。」


目の前に白銀の襟足が長い髪を持つ男性が現れました!

ど、何方でしょう…シトリさんみたいに燕尾服でもない方ですが…身体を覆う白い外套を纏っています。

男性は手を心臓の位置へ持っていき頭を下げました。


「ご機嫌麗しゅう羅刹殿。相変わらずお美しい!」


「げぇっ!?やはりお主かシエル!」


羅刹様は嫌そうな顔をして私を抱える手に力を込めました。


「覚えていただけているなんて恐悦至極。

今回は我が麗しき魔王様の命令でそちらのお姫様を返還願いたく参上致しました。」


ニッコリと微笑むシエルという方は私を指しています。

ティリア様の使用人さん、でしょうか。


「嫌だと言ったら…?」


「うーむ、それは困りました。

手荒くなってしまうのは本望ではない。だって…



貴方様とこの美しい館を壊してしまうから。」



優しい声なのにぞわっと寒気が…!

怖くてつい羅刹様に温もりを求めてしまう。


「そんなの嫌ですよ。美しい物をこの手で壊さなければならないなんて悲しい。

それは儚いという言葉に変わってしまう。

ですから、ね。」


そう言って両手を差し出すシエルさんに対して羅刹様は笑みを浮かべます。


「ウチは小童にしか返す気は無いぞ。

最凶なヴェルの側近さんよ。」


「ティリア様は“羅刹を見つけて、アタシの大切な子が連れ去られたから助けないと”と仰っていました。」


た、大切な…子…。


「私はティリア様の駒。私が救い出したってティリア様が助けたも同然なのです。

さぁ、羅刹殿。最後通告ですよ。」


右腰に手を当て白いマントが少し上がると黄金の剣の柄が見えます。騎士様でしょうか。


「ユムルちゃん、ちょっと揺れるぞ。」


「は、はい。」


羅刹様は足に力を込めて1秒後、一気に解放させました。とてつもない風が私を羅刹様へ押し付けます。


「おや、抜かれてしまった。嗚呼何と美しい髪だ。

そして艷めく薄手の羽衣に漆黒に紡がれる金の糸の

コントラストが素晴らしい重めの衣装…着物と言うんだったかな?」


羅刹様、速すぎます!!

シエルさんは立ち止まっていらっしゃる…。


「それを身に纏う羅刹殿は美しい!

それに抱えられているお姫様も可憐で愛らしい!

うん、実に素晴らしい…。」


「くそっやられたか…。」


「羅刹様?」


よく見ると羅刹様の着物が切れて肩から

血が滲んでいます!

怪我をなされた…!?


「羅刹様お怪我を!」


「なぁにこのくらいすぐ治る。

が、避けたはずだったのにな。うーん…歳か。」


避けた?シエルさんは何も動いていらっしゃいませんでしたが…


「ユムルちゃんには見えんかったか。アイツ、ウチが飛んだ瞬間に剣を数回振ってきたのだぞ。

超怖かった!」


「えぇ…?!」


全くそんな素振りは見えませんでしたが怪我をなされたという事はそういう事なのでしょう…。


「…(しかもちゃんと嬢ちゃんに攻撃を当てないようにしておった…相変わらずの化け物め。)」


羅刹様、何か考えていらっしゃいます。

私は何も出来ません。それに、ティリア様にご心配をおかけしてしまっています。

どうすれば良いのでしょう…。


羅刹様が曲がり角を右に曲がった刹那、外の景色が一望できる2枚の隣合った丸い窓ガラスがいきなり割れました。


「っ…」


「きゃ…っ!」


羅刹様が着物の袖でガラス片から守ってくださったお陰で大丈夫ですが…


「みーつけた♪鬼ごっこは終わりですかね?」


身体に付いたガラス片を手で払うシエルさん。

一体どうやってここまで…。


「ウチの場合ごっこじゃないもん、鬼だもん。」


「追いかける鬼は私のはずですが確かにそうですね。伝承では強大な力を持つ鬼でも人間風情に狩られる時がお在りだったようですし。」


足元の細かなガラス片を踏み潰しながら1歩、また1歩とこちらの距離を詰めるシエルさん。

この方…とても怖い方です。バアルさんと違って薄らとすら温かさを感じないというか優しいはずなのに冷たいというか…

ティリア様の使用人さんのはずですのに。


「羅刹殿〜

遊びで済む内に姫をお返し願いたいのですがー。」


「ティリア様が直接来ない限りは返さん。

返して欲しくば連れてくるが良いだろう。」


「…」


あれ、シエルさん黙ってしまいました。


「シエルやはり貴様…

小童に黙って勝手に何かしようとしているな?」


羅刹様の問にシエルさんはニコリと笑って頷いた。


「バレたのでカミングアウトしますと…

お姫様とお話したいのです。ティリア様にすぐ渡してしまうとお話出来ないでしょう?」


お、お話…?私と?


「ふむ、確かに出来んな。



…で?」


で?って…こ、怖いです…!

ティリア様助けて下さい…!


「はぁ…怒る貴方も怯える姫も美しい。

仕方ありませんね、羅刹殿。お覚悟願いましょう。」


スラリとした剣を腰の鞘から引き抜くシエルさん。


「…」


羅刹様は私を片手で抱き上げ、空いた左手を開いた状態でシエルさんに向け一気に握りしめた瞬間、


色とりどりな沢山の襖がシエルさんの周りから現れ、彼を段々と遠ざけるように重ねられて隔離していきます。


「何重にも部屋を生み出しては閉めての繰り返しだ。この程度ただの気休めにしかならんが。」


羅刹様はこの館のお部屋を自由に作れるのですね。

けれどもう100は突破しているはずの襖の部屋が気休め…?


「さて、愛の逃避行の続きをしようユムルちゃ」


「愛!それは貴方が化け物と化す為の素晴らしい感情!実に美しい!」


襖から糸くらい細い光の線が見えました。

その後すぐに襖が細かく切り刻まれたようにバラバラとなり、剣を振るうシエルさんのお姿が目の前にありました。


「ほら、気休め…というかそれすらならん。

ウチより化け物だ。

じゃ、鬼退治という訳で…ぐっばいシエル!」


羅刹様、今度は指を鳴らします。


「おっ?」


シエルさんが床を見たその時、シエルさんの足元が底抜けて彼が落ちていきました。


「なんとぉーーっ!??」


シエルさんの驚嘆にも聞こえるその声は床が閉まったことによって耳に届かなくなってしまいました。


「…どうせすぐ這い出てくるがな。

あの茶色い昆虫のように。」


羅刹様もご存知なのですね…ゴキ…いえ、名前は出しません。お姉様もお母様も見かけたら悲鳴を上げていらしたので。


「はよ来んかなぁ、小童。

あ、そうそうユムルちゃん。1つ尋ねたい。」


「?」



「ぜ、全然部屋がない…。階段もない…。

な、何なのこれぇ!!」


走っても歩いても周りを見てもぜぇーんぶ廊下!!

階段も扉も無いわ!!


「ふふ、

我が主は何考えているか分かりませんからねぇ。」


「やっぱ壊そうかしら。」


「おやおや、それは困りますねぇ。」


肆季はそう言うけど全く困った想いが無い。

何か腹立つ!!

ユムル、今頃泣いてないかしら。

嫌なことされていないかしら!


「いてっ」


…え。

シエルが上から降ってきた。

最凶が背中ぶつけてるんだけど。


「いっててて…おや、皆さんお揃いで。」


背中を擦りながら起き上がるシエルは剣を収めた。


「羅刹は?」


「いらっしゃいましたよ。

お姫様を抱っこして愛の逃避行だそうです。」


「背中から落ちてきた理由は?」


「羅刹殿の楽しそうな笑みと慌てふためくお姫様が微笑ましくてつい見蕩れておりました。」


「ユムルは無事なのね!?」


「今のところは。」


つい質問攻めしてしまったわ。

シエルが落ちてきたってことはユムルは上の階に居るのね。


「シエル、アタシをユムルの元へ連れて行って。」


「畏まりました。」


シエルはそう言って収めたばかりの剣を引き抜く。

すると天井が正方形にくり抜かれた。

いつの間に斬ったの?


「恐らくこの上にいらっしゃるかと。」


…!ユムルの想いが辿れる。


「上出来よ!今行くわユムル!!」




「今ティリア様のお声が…」


「聞こえたな。」


何処から…??


「むっ!」


羅刹様が急に止まって下を見ていらっしゃる。

視線の先にはぽっかり綺麗に正方形に空けられた床がありました。その穴から…


「ユムル!!」


「ティリア様!!」


手を伸ばして下さるティリア様のお姿が。

私も手を伸ばそうとした瞬間、横から飛び出た襖が阻止をする。


「ぁ…!」


「っふふ…そう簡単に明け渡すものか!」


羅刹様はそのままティリア様から遠ざかる。


「ユムルちゃん、さっきの尋ねたいことだが…

お主は小童をどう思っているのだ?」


「どう…と申されましても…。」


ティリア様は私にとって…


「た、大切な方です。ティリア様が私を拾って下さらなかったら私はきっと死んでいました。

命の恩人です…!」


「…」


私の返答を黙って聞いていらっしゃる羅刹様。

やがて口を開いて私に問いかけました。


「小童の隣でなく、ウチの隣に来いと言ったらどうする?」


「え…っ」


そ、それは…


「…出来ません…。」


「何だって?」


「で、出来ません。私はティリア様のお傍に居たいです。ティリア様やバアルさん達がいらっしゃるお城が今の私の居場所です…!」


また口が勝手に…考えるよりも先に話してしまうようです。羅刹様、お怒りでしょうか…。

羅刹様は一言も発さず道を塞ぐ襖の目の前に立ち、

私を下ろされた。そして襖に向かって


「だそうだぞ、小童。」


と仰った。

襖はゆっくりと開かれ、私はティリア様に手を引かれて温かいお身体に抱きしめられました。


「ユムル…貴女の居場所はアタシの隣よ!

それ以外絶対に認めないわっ!!」


「ティリア様…はいっ」


「めでたしめでたし、だな。ちと残念だ。」


羅刹様が何故か残念に思っておられるようです。


「何よロリコン。」


ティリア様は私を離さないようにぎゅっとして下さいます。


「その言葉はブーメランだろうて。

人間の歳で考えよ小童。」


「ぅ…も、もうユムルは渡さないわよ。」


「分かっておる。が…年甲斐もなくはしゃいでしまったから終わるのが寂しくてなぁ。

ユムルちゃんが此方に居ると言えば喜んで迎え入れるのに。」


ぁぅ…しょんぼりなされると罪悪感が…。


「ダメっユムルの居場所はアタシの隣!」


「良い良い、その分ウチが其方へ向かう。

夢でもうつつでも。」


「来なくて良いわよ!

寝る時はユムルを休ませたいのっ」


「ふふ…さて、ここまではお主の友人羅刹として。

今からは妖種頭領悪鬼羅刹として…ティリア様。」


急に羅刹様は跪きました。


「我々妖種は如何なる場合でも貴方様の陣営で御座います。我等は駒、貴方様の指示で動きます故どうぞご自由にお使いくださいまし。」


パチンと指を鳴らした時、辺りはご飯の時の広い場所に戻って机が無くなったところに羅刹様を先頭に見知らぬ方も跪いた体勢で沢山いらっしゃいました。

羅刹様のすぐ後ろには肆季さんと酒羅さんが。

ティリア様はこの光景に驚きつつも口を開く。


「…使う時は選ぶ。ただ1つ言わせて。

アンタ達も1つの命しかないの。

自分の命も大切にしてちょうだい。特に羅刹!」


「…は。」


「肆季!」


「はい。」


「酒羅!」


「…ぁぃ。」


「あとウルにも言っといて。

それで勘違いされると困るのだけど命を大切にしてっていうのは勿論必要の無い争いは避けることもだけど、


アタシの大切な子に手を出すなよ…?」



ゾワッと悪寒が背筋を這う。

それと同時に自分から汗が吹き出たのが分かります。

あの羅刹様ですら真顔を保っているものの一筋の汗が流れてらした。


「という事でもあるから!分かったわね!」


雰囲気がコロッと変わるティリア様は魔王様なのだなと再認識しました。本来恐ろしい魔王という座に就くティリア様。とてもお優しいので忘れてしまうほどでしたが…やはり…


怖い時がありますね…。


「…あら?皆何を怖がっているの?ん?ちょっと待ってユムルまで!?えーっアタシ怖くないわよ!

ユムルだけにはっ!」


しゃがんで目を合わせて下さる。

…やっぱりお優しい。


「…はい!」


「よし!じゃあベル!シエル!」


「「此処に。」」


呼ばれた瞬間、羅刹様の前にお2人も跪いて現れました。


「帰るわよ。」


「「畏まりました。」」


「ユムル、失礼するわよ。」


ティリア様は私をお姫様抱っこしてくださいました…!はわわっ…。


「羅刹、ご飯美味しかったわ。またユムルと来るけど…たまにはブレイズのご飯も食べに来なさい。」


そう言い残すとティリア様は館から退出なさる。


「ヴェルの話をしそびれたし…

また、楽しく話そうか。小童、ユムルちゃん。」





「ふむ…これは結構困りましたね。」


羅生門殿に飛ばされたついでに放っておいた死体を

回収しようと思ったのだが…あの死体が…



忽然と姿を消しているではないか。

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