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第40話『悪鬼のお話、逃避行』

「は、え、ちょ…何言ってんのよ。

ユムルを離しなさいよ。」


羅刹ったら何考えているのかしら!?


「やだ。はぁ、若いのは良いのうー。

ほっぺもちもちだ。」


ユムルのほっぺふにふにしてる!!


「ぁゎゎ…」


「ユムルが困っているじゃないの!」


「だってウサギは寂しいと死んじゃうもん。」


いい歳こいたジジイが涙目でユムルの頭に顔を乗せた。アタシの想いを知っての煽りかしら…


「ぶっ殺すわよ…!」


「こわーい!行くぞユムルちゃん!愛の逃避行だ!!返して欲しくば探してみせよ!」


「えっ!?あの!てぃ、ティリア様!!」


「ユムル!!」


羅刹の腕の中でもアタシに手を伸ばしてくれたユムル。その手を取ろうとして伸ばした手は空をかく。


「っ…」


あんのクソジジイ…!


「坊ちゃん。」


「わぁってるわよ。羅刹の事だからユムルを危険な目には遭わせない。でも…それを許すなんて言っていない。館を壊してでもユムルを探し出す。」


「畏まりました。」


ベル、態と動かなかったの知ってるんだからね。

今日珍しくユムルといっぱいお話していたのに。

兎に角今はユムルを救い出さないと…!



ら、羅刹様速すぎます!

視界が固形を捉えられません!


「ユムルちゃん軽いなぁ、持っている感覚が無い。さ、ウサギと喋ろう。」


いつの間にか明かりが1つもない暗いお部屋に入っていました。いつの間に…。

羅刹様は私をその場に座らせ、後ろから抱きつくようになさいました。

お、お顔がすぐ横に…!


「ら、羅刹様。何故このような事を…?」


ドキドキしている私の問に怪しげな笑みを浮かべる羅刹様は


「小童の、そしてユムルちゃんの為だ。」


と仰った。ティリア様と私の為?

首を傾げると羅刹様は気まずそうに「あー…」と声を漏らして話題を変更なさる。


「ま、この話ではなくて別の話をしよう。

例えばー…昔のウチとか?」


そ、それは気になります…!


「お、その目は気になるのだな?よしよし話そう。」


羅刹様が咳払いをして、指を鳴らすと部屋の中心にあった1本の燭台に置かれた蝋燭に火が灯りました。


「我が名は羅刹。

人間界でも魔界でも悪鬼として名を馳せる者。

他人も己も認める強者である。

さてユムルちゃん、この館には女が居らぬ。

何故だろう?」


横から急に顔を近づけられて問われても!!


「えっとえっと…お気に召す女性がいらっしゃらなかったとかでしょうか!!」


「いいや、まぁそれもあるが1番は…



ウチが喰ってしまうからだ。」



その一言で背筋がゾッと冷える。


「んふふ、そう警戒するな。

歳をとって昔よりも食欲は減ってきたわ。あのな?」


羅刹様は片手ずつ私の両腕を持ってお人形のようにプラプラと上下に振ります。


「男の肉は硬いのだ、筋肉質な奴は特にな。

脂肪が沢山のは脂まみれで気分が悪くなる。

その点女の肉は柔らかく程よい脂で美味い。

腕や太腿らへんがなー。」


振っていた手を滑らせ私の手を一回り大きな手が握ります。


「ユムルちゃんは食べる場所少なそうだから対象外だがの。人間なのにこんなに愛い子は中々居らぬ。」


「羅刹様?」


彼の声が少しだけ弱々しく聞こえ、お名前を呼ばせて頂くと悲しそうに笑っておられました。


「悪鬼とは醜い。

ウチは恋愛感情を持つと食欲が増していく体質のようでな。好きになった者ほど喰いたくなってしまうんだ。」


「…え?」


「若い内に抑えきれんほどの抗えぬ食欲に負けて…

何人喰っただろうか。

片手で数えられるくらいだとは思うのだがなぁ。」


ぎゅっとして下さる羅刹様は酷く悲しそうな声でそう仰いました。私の頭に顎を乗せていらっしゃるのでお顔が見えません。


「だから女は館に置かぬ。成る可く関わらぬ。

…ようにしてたのだがユムルちゃんはつい構ってしまう。構いたくなるのだ。不思議だな。」


この人は苦しんでいらっしゃる…?

悲しんでいらっしゃる?

人との関わりは大事な存在証明なのに…。


「…私で良ければ…か、構って下さい。」


「む?」


「羅刹様の事、もっと知りたいです。

羅刹様にもティリア様にも、チュチュさん達にも私の名前を呼んで笑顔を向けてくださることが私にはとっても嬉しいのです。」


「ユムルちゃん…。」


「あわわっ」


急に羅刹様が覆いかぶさってきました!?


「…あまり優しくせんとくれ。

ジジイは子供が大事なんだ。

ヴェルの変わりに子供を見守ると決めたのだ。」


ヴェル…?そう言えば先程もバアルさんに

“ヴェルが分裂したようだ。”と仰っていましたね。


…!さらりと垂れてきた羅刹様の細く艶やかな御髪が手に取りたいと思わせるほど綺麗でつい掬ってしまいました。


「?」


「綺麗な御髪ですね。ティリア様みたいです。」


「…髪は昔からの自慢だった。人間を喰いに行く百鬼夜行というもので先頭のウチの目印になるくらい煌びやかに光るのだぞ。」


に、人間を食べに行く百鬼夜行…ですか…以前ティリア様が仰っていたものですね。改めて聞くとこ、怖いですね…。


「そうそう、百鬼夜行には我が使用人全員参加なのだが…肆季ってな、人間の部位を丸呑みするのだぞ。」


「ま、まるのみ!?」


あのお淑やかなイメージのあ…る…


お淑やか…?酒羅さんを床に叩きつけれる人がお淑やかではありませんよね…。


「肆季は大蛇オロチなのだ。お主の所の蜘蛛さんみたいに態々人型になっているのだ。」


会話の流れを肆季さんのお話に変えた羅刹様は先程よりも元気があるように聞こえます。


「そうなのですね。ふふ…」


「あれ。ウチ何か変な事言ったか?」


「いえ、羅刹様お元気になられたようで…」


羅刹様と数秒目を合わせると、羅刹様が視線を逸らしました。


「……バレたか。ユムルちゃんは鋭いなぁ。

万が一、こんなジジイがユムルちゃんに恋愛感情を

持ってしまったらと思うと途端に怖くてなぁ。」


え?


「羅刹様ほどのお方が私なんかを好きになるはず

ありませんよ?」


「んー…?(小童の苦労がわかる気がするぞい。)」


「羅刹様?」


「…いいや、ユムルちゃんの事は実の娘だと思いたいのだ。だから愛情は必須。それが恋愛に発展しなければ問題無いなと思っておった。」


実の娘…。優しいお父さんが居たら羅刹様みたいに接して下さるのでしょうか。

私には分かりません。ですが嬉しいとか、明るい気持ちになれるんだと分かりました。


「お、ユムルちゃんが笑っている。」


「す、すみません!」


「何故謝る?笑うのは良い事だ。

その顔を見れるならウサギも寂しくないぞ。」


ウサギさん…。ずっと気になっていた事を聞いても宜しいでしょうか。


「あ、あの羅刹様はウサギさんの鬼なのですか?」


「そうだったら可愛いなぁ。

だが残念、正真正銘ただの鬼だ。」


「なら何故ウサギさんなのですか?」


「…」


あれっ羅刹様が黙ってしまいました。

もしや聞いてはならない事だったのでは!?


「す、すみま」


()()()()()()()がな、ウチの角を見てウサギだと、可愛いと言って怖がりもせず笑ってくれたんだ。」


「え…」


最後に喰った…?


「可笑しいだろう?

鬼の角がウサギの耳のよう、だと。

何処をどう見たらそうなるのだか不明で仕方なかった。」


「ほれ」と言って2本の角を頭から生やす羅刹様。

黒くて長く、艶やかな角は強さが現れているようで

確かにウサギさんには見えません。


「ユムルちゃんはどう思う?」


「私は…その方は羅刹様の事がとても好きだったのだと思います。」


「な、んと…?」


角を引っ込ませ驚く羅刹様の手に触れ、私の思ったことを告げさせて頂く。


「愛ってあるだけで対象が可愛くて愛おしく見えるものだと前に誰かが言っていたのを聞いたことがあります。」


「ふむ…。」


「ですからその方は羅刹様がウサギさんのように

可愛く愛おしいと思ったのではないのでしょうか。」


あくまで私の考えですが…。


「そうか、そうだったら良いなぁ。

あ、ユムルちゃん。小童来たから移動しよう。」


「えっ!?」


羅刹様が私を抱えて再び飛びます。

ひぇえぇえっ…


「(本当にそうだったのなら…良いのだがなぁ。)」



「あーーーもうっ!!焦れったいわね!!

壁には襖襖襖!!開けても開けても空っぽ!!

使用人すら居やしない!!」


「坊ちゃん、落ち着いて下さい。」


「落ち着いていられるもんですか!!ユムルが羅刹の毒牙にかかったらベルは責任取れるの!?」


「…いえ。」


「でしょっ!??さっさと探すわよ!!」


ユムル、ユムル!!お願い無事で居て!!


「おやティリア様。どうかなさいました?」


長い廊下の中心に肆季が立っていた。


「どうもこうも!アンタの所の馬鹿頭領がユムルを連れ去ったのよ!!」


「おやおやそれはそれは…大変ですね。」


ニッコリ。じゃないわよ!!!


「魔王命令よ!アンタも手伝いなさい!じゃないと

ゴスロリコルセットみたいなアタシ好みのオシャレな帯を絞めるわよ!」


「おや…褒めていただけて恐縮です。魔王命令には

逆らえませんので畏まりました、お供致します。」


ベルの隣で滑るようについてくる肆季。どうなってんのかしらコイツ。

肆季が一緒になった途端、襖が無くなりただの壁となってしまった。…部屋に入る扉がない。

肆季の仕業?もし協力する気が無いって分かったら帯に巻きついている2本のベルト絞めてやろうかしら。


ベルも力を貸してくれるのは嬉しいけれどユムルを助けて抱きしめるのはアタシしか許さない。


「ちょっと肆季!この館どうなってるの!?

ユムルは疎か他の使用人の姿すら無いわよ!」


「羅刹様の御気分で階数が増えたり部屋が増えたりしますよ。大半の使用人が1箇所の部屋に集められて居ることでしょう。」


何よそれ!そうならずっと辿り着けないじゃない!

想いも感じないから辿れないのに…!

こうなったらケルベロスを召喚して…


「坊ちゃん。

ケルベロスは呼んではなりませんよ。」


ベルがアタシの後ろを走っているのにも関わらず心を読んでくる。読心術!?


「な、何で分かったのよ!?」


「分かりますよ。もしお嬢様が真上に居て、巨体のケルベロスを呼んでしまったら羅刹殿とご一緒とはいえ無事では済まないでしょう。」


「ぐ…」


た、確かにその通りだわ。


「(羅刹様、そんなヤワじゃありませんけどね。)」


「ぁあぁあどうしましょう!」


「…居るではありませんか、1人の狂人が。」


1人の狂人…?シトリかしら。


「あの駄犬では御座いません。」


バレた。じゃあ…


「貴方が一声名前を言うだけで駆けつける狂人ですよ。」


あ、思い当たる節が1つ。

元人間殲滅部隊長でルルの相棒…。


アイツ呼ぶと面倒臭いのよね。


普段何してるのか分からないし呼ぶと秒で来るから

恐怖さえ覚えるわ。


「呼ぶ呼ばぬは貴方様に任せます。が、このままですとお嬢様はずーっと羅刹殿と2人きりですね。」


ふ、2人、きり!!?それって…



「ユムルちゃん…好きだ。」


「羅刹様…私もです。

ティリア様よりも鬼の貴方が大好きです。

私、ずっと此処に居たいです♡」



な、なんてことにならないかしら!!?

そんなの耐えられないわっ!!!



「手段を選んでいられない!来なさい!!


シエルッ!!」



名前を呼ぶと目の前に白銀の髪を持つ男が跪いて現れた。


「お呼びですか、美しき我が王よ!」


「…!(あの羅生門が感知出来ずに突破された?

相変わらず規格外だな…。)」


肆季が何か疑問の想いを持った…。

まぁ今はどうでも良い。


「シエル、羅刹を見つけて!アタシの大切な子が連れ去られちゃったから助けないと!」


「おや!それは大変だ。

このシエル=エリゴマルコシアスにお任せあれ!

元部隊長としての力を振るいましょう!」


笑顔を向けた途端その場から居なくなるシエル。

彼はアタシより断然強い。あのパパが殲滅部隊隊長兼()()に任命するくらいだもの。

彼に任せれば羅刹も驚くんじゃないかしら。


…あ、知らない人が来たってユムルが驚くかもしれない。やっぱりアタシが助けなきゃ!


待っててユムル!

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