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第38話『おいでませ夜桜理想郷』

…今回、シトリの妄想に付き合って頂くこととなります…。毎度あの狗がすみません…。

「ふむ、

惨たらしく殺せとはどうすれば良いのでしょう?」


ボクもご主人様にぶつかって来た野郎を殺す事を考えていたから命令が下された時は僥倖だと思ったのだが…


「人目を避けて…はこの人混みの中でやるなと言う事だろう。上手く引き寄せて鋏でそれはもうゆっくりと指や首を斬るか。あぁ…良いですねぇ。」


想像しただけで興奮してしまう。相手の恐怖と絶望に歪む顔を!そしてティリア様に先程の殺気を帯びた冷たい目で睨まれたい…!嗚呼ゾクゾクする…っ!


いや羨ましいとか思っている場合では無い。

格下風情がご主人様にぶつかった罰なのだ、しっかりと執行しなければ。邪魔なアズィール(バカ猫)が居ない今、ご主人様に自分だけ褒めて頂けるチャンスなのだから。


「一瞬で口を塞いで連れ出して殺す。」


やる事を口にしたボクは屋根から飛び降りた。



『お嬢様、坊ちゃんにダラダラ買い物してんじゃねーよとそのまま仰って頂けませんか。』


胸ポケットからバアルさんの声が…。

目線を下げると胸ポケットから大きな瞳で私を見ていました。


「で、ですがティリア様楽しそうですよ…?」


少し遠くで私の為にと布を見ていらっしゃるティリア様をバアルさんに見せると溜息が1つ。


『羅刹殿の元へはサッと行ってパッと帰らねば面倒になります故。蜘蛛の姿になれば歩かなくて済むのは楽ですがね。』


「私で良ければいつでもお運び致しますよ。」


『感謝します。が、お嬢様にそのような事はさせられません。骨が折れたら頼むかもし…』


「バアルさん?」


急にバアルさんが黙ってしまいました。


『…お嬢様、振り返って頂けますか。』


「は、はい。」


言われた通り振り返ると



真っ白な男の人が立っていました。



髪も肌も睫毛も手袋も服も装飾品であるリボンも靴も文字通り真っ白で綺麗な人。瞳だけは灰色です。


「…」


彼はその灰色の瞳で笑いかけるように私を見下げています。何故でしょう、動けません。それに、こんなに目立つ人が周りの人は見えていないのか素通りして行きます。するとバアルさんは私の手から大きく跳躍し、人型に戻られました。


「お嬢様、失礼致します。」


「え?きゃっ!」


着地と同時にいきなりお姫様抱っこですか!?

更にそれだけでなく、いきなりお空を飛びました!


「イヴ!!悪鬼の元へ急ぎますよ!!」


バアルさんのあまり聞かない大声に驚きつつイヴという言葉に首を傾げる。


「イヴと言うのは万が一に坊ちゃんの名前を呼ばなければならない時に使う名前です。」


イヴ…ティリア=イヴ=ヴィランローズ様の真ん中のお名前ですね!…ってそれどころじゃありませんよね!


「バアルさん、彼は一体…」


「天使種の1人です。

幸い()()ではありませんでしたが。」


彼が…あの天使種…?


「私ともあろう者が気付くのに遅れてしまった。

誠に申し訳御座いませんお嬢様。」


「そ、そんな!気になさらないで下さい!」


そう言ってもバアルさんは首を横に振った。


「いえ、もしアレが本物でしたら私もお嬢様もあの場で殺されていた事でしょう。」


バアルさん、先程から本物だったらと仰っております。どういう事でしょうか…。


「待ちなさいベル!!」


バアルさんの背後からティリア様のお声が!


「おや坊ちゃん、早かったですね。」


横に移動していらしたティリア様は汗をかかれています。


「アンタねぇ…!アタシに羅刹の仕掛け解かせて走らせるってどういう魂胆よ!」


「ながーい買い物ばかりでこちらが退屈でしたので。急かせば終わるのですね、買い物。」


「はぁ!?

まさかその為だけとか言わないわよね!?」


「言いたいですが言えません。

何せ天使種の幻影が現れてしまったのですから。」


天使種の幻影と聞いたティリア様は目を見開いて固まってしまった。


「なん…て?」


「天使種の幻影です。ルルメル=レヴィアタンに連絡した方が宜しいかと思われますよ。」


「…幻影なら羅刹の元へ着いた時で良いわ。

もう着くし。」


「畏まりました。」


私はお2人の会話をただ聞くことしか出来ず、どうすれば良いか分かりませんでした。


「ユムルを抱っこするのはアタシなのに…」


急に頬を膨らませたティリア様。

何か呟かれていたような?


「お嬢様、ご覧下さい。」


バアルさんに促され、周りを見てみる。

すると木々豊かな森から紫色の霧が発生して辺り一面を包みこみます。


「羅刹殿が私達に気付いたようです。

私が貴女を降ろすまでしっかりと掴まってなさい。」


「は、はい!」


手に力を込めると、バアルさんとティリア様は1面紫な空間へ高度を下げて着地なさる。


直後とてつもなく大きな門扉が元々そこに居たかのように現れました。

鉄のような金属で出来たゴツゴツとした重たそうな扉。それを支える赤漆が塗られた木。上には黒い瓦…大迫力です。じぃっと見ていると中心に大きな1つの

黒いお目目がギョロリと出てきて何処からか低い声が降ってきました。


『其方の名をこの羅生門へ聞かせよ。』


も、門が喋って…!?

羅生門さんは悪魔なのでしょうか…?

ティリア様は臆せず門へ高らかに伝えます。


「魔王ティリア=イヴ=ヴィランローズとその一行。

妖種頭領である悪鬼羅刹から招待を受け来てやったわ!」


『…良かろう、通るが良い。』


許可が下りてギィ…と音を立てて重たい扉が開く。

ティリア様もバアルさんもなんの躊躇いもなくスタスタと足を進める。

門を潜ってもまだ霧の中なのですね。



「お待ちしておりました、ティリア様、バアル殿。

そしてユムル様。」


霧の中からピンク色の御髪で黒い着物を着ていらっしゃる男性がぺこりと頭を下げられました。

頭を下げたことによって彼が髪の毛を後ろの方で下ろさないよう纏めていることに気付きました。

前髪は私から見て左から右へと斜めに切りそろえられていて右目が見えません。


「あら、ウルは?」


ティリア様が問うと男性は眉を下げて苦笑しました。


瑀璢ウルは仕置きの傷が癒えておらず…人前に出せる状態では無いと判断したのでこの私、肆季シキが案内を務めさせて頂きます。」


肆季さんはいきなり紅葉柄の和傘を差しました。

傘の柄を肩にとんっと当てた瞬間、霧が散るように

晴れていきます。

完全に霧が無くなったお空は夜のように黒くなっており、周りが息を飲むほど綺麗な場所でした。


肆季さんは「此方へ」と言って傘を差したまま私達の先にある太鼓橋を歩いて行きます。


何百本、何千本と植えられているであろう夜桜が輝き、散る花弁が灯りのように煌めいていて赤い太鼓橋を照らしています。照らされているのは橋だけでなく、下の水面もキラキラと輝かせています。

素敵で思わずキョロキョロしているとバアルさんと目が合いました。


「お嬢様、忙しないですね。」


「す、すみません!はしゃいでしまって…。」


「いいえ?珍しいと思っていただけです。」


今バアルさんの口角が上がったように見えました…?それに、羅刹様の元なのに私を名前でなくお嬢様と…。


「お嬢様の素性を羅刹殿は理解しているでしょうから偽ってももう意味が無いのですよ。」


「あ、そ、そうなのですね…!」


バアルさんには読心術でもあるのでしょうか!


「……ベル。」


「坊ちゃんはダメです。」


「まだ何も言ってないじゃない!」


ティリア様がプンプン怒っておられます…。

どうなさったのでしょう?


「では仰って下さい。」


「アタシがユムルを抱っこしたい!」


「ダメです。」


即答!私は構いませんが…。


「何でよ!」


「坊ちゃんは魔王ですよ。そして此処は羅刹殿の陣地。貴方が両手を自ら塞いでどうします。」


「ぅぐ…」


ティリア様、バアルさんに丸められてしまいました。この会話を聞いていた肆季さんはクスクスと笑って

此方へ振り返りました。


「ふふ…安心しろ。と無理な話は致しませんが警戒しろとも言いませんよ、羅刹様は。」


「だって。」


「ダメっつってるでございましょうが。」


バアルさんの言葉遣いが偶に乱れる時があるような…。ティリア様は頬を膨らませてバアルさんを睨んでいます。


「もうすぐですよ。」


肆季さんの言葉通り、この距離からでも見上げるほどとても大きな木造の建物が見えてきました。建物を囲んでいる桜が淡い紫に光って怪しくも幻想的な雰囲気になっています。


「わぁ…!」


「ユムル様のお気に召したようで嬉しいです。

さぁ、羅刹様が歓迎されておりますよ。

2つある内の1つ目の門で御座います。」


肆季さんの声に合わせて館へ続く門扉が勝手に開きました。

…あれ、そういえばシトリさんは何処でしょう?


「肆季、羅生門に伝言頼めるかしら。」


「はい。」


「アタシの駄犬が門に来たらさ…」





『顔と服と手に付いている赤いものを綺麗にしない

限り近づかないで、だそうだ。』


大きな黒い目玉がボクを見下げてそう言った。


「えー…?

羅生門殿、貴方にはこのボクが赤く見えると?」


『見える。』


「はははっ!ご冗談を。」


試しに唇を舐めたら血の味がした。


「あれ、ホントですね。」


命令通りに楽しく殺したら返り血が酷かっただけなのだがまずいな、死体も血も埋めずにそのままにして来てしまった。


死体…か、アイツの苦痛に歪む顔は愛おしささえ覚えてしまう。大きく見開いた目、そこから零れる涙、

血の気の引いた顔、怯え震える身体、許しを乞う口、四つん這いで無様に逃げようとする態度。

嗚呼全てが尊い!ゾクゾクする…!


その尊い死体を置いてきたことでバアル殿に怒られるのだろうなぁ。あのお方の口から出てくる罵倒は甘い菓子を貰ったように脳が痺れる。


「愚図が」 「愚か者」 「駄犬」

「足りない頭で考えろ」


※1部記憶を改変して再生しております。


嗚呼っ!あの瞳だけで命を奪えるような冷たい視線!緩むことの無い表情筋!その口から紡がれる罵詈雑言!容赦無く踏みつけるドS最っ高っ!

早く罵られたい!例えば…


バアル殿の冷ややかな視線を浴びているボクは四つん這いで、チョーカーを首輪のようにリードで繋がれている状態で…お説教という名のお仕置きを受けてるとしましょう。


「この忙しい私の仕事を増やして楽しいか?」


「い、いえ!滅相もございません!」


「お前に喋れといつ言った。

無駄吠えするな駄犬が!」


そこで背中に踵を落とされる!


「あぁっ!!申し訳ございませんバアル殿っ!」


「家畜以下の分際で私の名を呼ぶな!

穢らわしい!!」


そこで鞭で何度も打たれる!


※完全にシトリの妄想で再生しております。


「あぁっお許し下さいバアルどの〜っ!!」


『…兎に角通さないからな、出直してこい!』



肆季さんがふと少し遠くを見つめました。


「羅生門が1人飛ばしましたね。

強風が吹き荒れてます。」


「ウチの馬鹿犬が失礼したわね…。」


え、あの飛んでいく小さくて黒い物体はもしかして

シトリさんですか!?


「っ…」


「バアルさん?」


「何だか気味の悪い悪寒が…」


不服そうな顔をして私を抱え直すバアルさん。

大丈夫でしょうか…?


「人間は温かいですね。」


「えっ?」


バアルさん、今日はよく話しかけて下さいますから思わず聞き返してしまいました…。

肆季さんは館の扉の前で和傘を畳んで再び頭を下げられた。


「改めまして、この“夜桜理想郷”へようこそおいで下さいました。

魔王ティリア=イヴ=ヴィランローズ様、

ユムル様、バアル=アラクネリア殿。

妖種頭領である羅刹を始め、私達は心から歓迎致します。さぁ中へどうぞ、我が主が待ってます。」


半歩横へ移動した肆季さんに反応するように大きな扉がゆっくりと勝手に開きました。そしてまたティリア様もバアルさんも中へと扉の奥へと進まれます。


「…お望み通り邪魔してやるわよ。いい?肆季。

ユムルに手を出そうもんなら瑀璢と同じ目に遭って貰うからね。」


「はい、重々承知しております。」


「ふん…

あ、それと狗がちゃんとした身形で来たら宜しく。」


「畏まりました、どうぞごゆっくり。

後ほど合流致します。」


肆季さん、御一緒なさらないのですね。

扉が完全に閉まるまで肆季さんは頭を下げていました。

またまた優しい評価をして下さった方!!

本当にありがとうございます!!とてつもなく嬉しく心ぴょんぴょんしてます切実に!

これからもユムルちゃんとティリア様、使用人に他の奴らまで温かく見守って頂けると嬉しいです!

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