第37話『お出掛けしましょう』
初めて城下町に来ました。
紫色の空には月のような太陽のような淡い光を放つ球体と紫系統の雲があります。
魔界の空は窓から見た通りいつも青くないのですね。
「ユムル、空なんか見ちゃってどうしたの?
前見ないと危ないわよ?」
ティリア様はそう仰って私の肩を抱き寄せる。
「あ、すみません。」
此処は屋台がズラリと並び、走れないほど人の往来があります。それで人にぶつかってしまっては危ないですものね。気を付けないと。
「欲しい物があれば言いなさいね。
怪しい物じゃなければ買ってあげるわ。」
「そ、そんなお構いなく…」
「そこのピンク色な獣人種の姉ちゃん!」
この男の人の声を聞いてティリア様は立ち止まります。?ピンク色の獣人種なんて…
「この子に何か?」
ティリア様は少し不機嫌そうに言うと私を強めに引き寄せる。
この子…え、私?あ、私今獣人種さんのフリをしているのでした!お店の男の人…店主さんでしょうか。
彼は良い笑顔を向けてくださる。
「お、お2人かい!良い品が手に入ったんで別嬪さんにサービスしようと思ってな!」
とトカゲさんを竹串で刺したような物を私に差し出して下さる。ティリア様は訝しげにそれを見つめ、店主さんに伺う。
「これは?」
「美容成分が沢山詰まったタレを塗って焼いた
ビュティトカゲの丸焼きさ!」
と、トカゲさんの丸焼き……。
私は少し驚いていますが、美容と聞いたティリア様は少し考えるようなお顔をしてます。
「ビュティトカゲって確かソイツ自身にも美容成分
詰まっているんじゃなかったかしら。」
「お!あんさんよくご存知で!女性はビュティトカゲのエキスが詰まったジュースをよく飲んでるぜ!」
と、トカゲさんのジュース…
「ユムル、ベル出して。」
「あ、はい。」
実はバアルさんはモフモフな蜘蛛さんの姿となり私の胸ポケットに入って貰っています。ティリア様が仰るにバアルさんは目立つらしく、端正な顔立ち故女性が寄ってきて面倒だとのこと。
ローブとバアルさんは私を魔族だと思わせる為の役割もあるそうで一緒にいて欲しいと言われ、最後に私に何かあった時のため、と付け加えて仰っていました。
バアルさんを両手に乗せると店主さんはぎょっとしています。
「1本頂くわ。アタシ達、この蜘蛛が食べれる物しか
食べられない不憫な身体でね。」
「そ、そうかい…それは難儀なこって。」
差し出されたトカゲさんをバアルさんの口元へ。
バアルさんは大きめの溜息を吐くような素振りを見せてから仕方ないと言わんばかりにモソモソと召し上がりました。
『…』
「ベル、どう?」
『……ペッ!!』
く、口から出しちゃいました…!
「なな…何でぇ!?折角の美容成分がぁ…」
悲しむティリア様にそっぽを向くバアルさん。
「この蜘蛛め…あ、店主?責任持ってこの蜘蛛に食べさせるから…ごめんなさいね。行くわよ。」
ティリア様に促され店主さんの言葉も聞かずに退散しました。
歩きながらティリア様はバアルさんに問い詰めます。
「ベル、あれ毒入ってたの?」
『まさか。それなら私はのたうち回っていますよ。』
「じゃあ何で!」
『割と本気で不味かったので。』
「それだけ?」
『それだけですが。』
「じゃあ食べる。」
『なりません。私が食べたのはほんの1部。
そも、見知らぬ輩からの食べ物は食うなと何度も申し上げたはずですが。シトリ!』
シトリさん…城下町に入ってから何処にも見当たらなくなってしまっていて…
「お呼びですか?バアル殿。」
そう言いながら私の目の前にいきなり現れました!
「きゃっ!」
「あぁご主人様!
驚かせてしまい申し訳ありません!」
「い、いえ…」
『透明になって店の屋根から屋根へ飛び移るよう指示したのですよ。シトリ、これを食え。』
トカゲさんを差し出されたシトリさんはぱぁっと目を輝かせました。
「トカゲ!いただきまーす!」
あ、1口で食べてしまいました。
よく噛んで味わうシトリさんはまさしく捕食者ですね…。
「…ふむ、これは何とも言えない味…で…」
途端に顔色が悪くなってしまいました!
「うぇえぇぇっ!まっず!!」
あまりの味に耳と尻尾が出てしまっています!
『ほらね坊ちゃん。』
「…そうね、食べなくて良かったわ。
じゃあ次行きましょう。」
「あぁっそんな!屋外で放置プレイなんて…!
はぁっ興奮してしまいますぅっ!おぇっ」
「はーいアイツは赤の他人よー。行くわよユムル。」
興奮しているシトリさんを無視したティリア様は催促するように私の背中を優しく押します。
大丈夫でしょうか…。
「ねこさん!!」
今度は小さい子の声?下から聞こえたので見てみると1人の女の子が私を見上げていました。
「は、はい。猫さんです。」
「かわいいねぇ!」
と笑顔で言ってくれました。
「あ…ありがとうございます。
貴女も可愛い悪魔さんですね。」
「んへへ…あ、ママが呼んでるからまたね!」
「は、はい!お気を付けて…!」
女の子はあっという間に人混みに紛れてしまいました。あの子はそれを言う為だけに来てくださったのでしょうか。
「ユムルったらちゃんと否定じゃなくて感謝を言えたじゃない。偉いわぁ!」
ティリア様が頭を撫でてくださる。
「あ…。」
そういえば…。
「ティリア様のお陰です。」
「ユムル…」
少し歩いていると気を付けていたはずなのに通行人の方と肩がぶつかってしまいました!
「きゃっ!」
「ってぇな!何処見て歩いてんだ!!」
「す、すみま」
男性に謝ろうとするとティリア様に抱き寄せられました。
「ウチの子がすみません。
でもぉ、アンタ態とこの子に当たりませんでした?少なくとも僕にはそう見えたんだけどな。」
え、態と?男性はとても怒ってます。
「はぁ?んなわけねぇだろ!」
「…ま、当然そう言うよな。謝罪の1つも無いもの。
アンタに関わっているこの時間が無駄。
さっさと行くよ、これ以上馬鹿に裂く時間は無い。」
お外用の言葉遣いなティリア様の睨みに萎縮した彼は舌打ちして人混みに紛れました。怖かった…。
「んもう!ユムル怪我なかった??」
「だ、大丈夫です!ありがとうございます!」
「あぁいう輩も居るからあまり城から出ないで欲しいのよ。」
「よ、よくわかりました。」
ティリア様に心配かけたくありませんから気を付けないとですね。
「あ、ユムルあそこ見て!
アクセサリー売ってるから行きましょう!」
ティリア様はスタイルが良くて人混みの中でも頭1個分大きいからか左側を指さして目を輝かせていました。私も頷いて人混みを上手く移動して向かう。
ティリア様はずっと抱き寄せて下さっていました。
「どれか1つ買いましょ!
此処はアタシのお気に入りなの!」
「おや、今回は可愛い獣人種ちゃんを連れて来てくれたのかい?ティリ…お兄さん?」
カッコイイ女性店主さんが話しかけて下さる。
…ティリア様ってバレてませんかね?
「えぇ!この子アタシのお気に入りなのよ!
可愛いでしょー?
この子に合うアクセサリー探して欲しいの!」
私の顔をまじまじと見る店主さんはやがてにっこり頷いて下さった。
「他でもない貴方の望みだ!叶えてあげるよ!」
「ありがとう!」
それから店主さんは私にあれやこれや勧めて下さる。あわわ…どれも可愛くて私には勿体ないです!
「シトリ。」
「此処に。」
「さっきユムルにぶつかった奴だけど…
極刑だ。人目を避けて惨たらしく殺せ。」
「仰せのままに、我が王よ。」
「?」
ティリア様が何か仰っていたような…
それにシトリさんも居たような…?
「あら、どうしたの?
そんなに見つめられたら穴が空いちゃうわよ〜。」
「す、すみません!」
いつも通りのティリア様です…。
一瞬ゾクリと背中を恐怖が走ったように感じましたが気のせいですね。
「もう、謝らなくて良いのよ。
どう?自分が気に入りそうな物見つかった?」
私の肩に手を置いて商品を覗き込むティリア様。
「どれも素敵で私には勿体ないなぁって…」
「この子何でも似合っちゃって困るわぁ!
やっぱりお兄さんが選んであげてよ。」
「アタシかぁ…アタシはねぇ…」
ティリア様の手が迷いなく蝶々の金細工に伸びます。
「髪留めとかどうかしら。バレッタとはまた別で前髪留めれるこれは働き者の貴女にとって良いと思うわ。よく似合ってる。」
私の前髪に当てながらそう仰ってくださった。
は、恥ずかしい…。
「あら俯いちゃったの?ふふ。じゃあコレ頂戴。」
「あいよ。今日は可愛らしい猫さんの初来店だ。
サービスでこれもあげちゃお。」
店主さんは小ぶりな分とても綺麗な蝶々金細工のイヤリングをティリア様に渡しました。
「え、いいの?」
「あぁ。
その分、今後ともご贔屓にお願いしますよ?」
「勿論よ。」
ティリア様は店主さんにお金を渡してお店を後にしました。
「もう…あの人ったら商売上手ね!
ユムル、こっちおいで。」
ティリア様に手を引かれ人気が少ない建物と建物の間に入りました。そして頂いたイヤリングを手に取ります。
「羅刹の元へ行く前に付けて行きましょ。
右耳貸して。」
「はい。」
私は頭を下げる。
「…ユムル、獣耳じゃなくてユムルのお耳よ。」
「あっ」
は、恥ずかしいです…!
顔を手で覆いたいほどです!
「…」
ティリア様が片手でお顔を押さえていらっしゃる!
こんな私に呆れてしまったのでしょう…!
「っふふふ…」
あれ?ティリア様から笑い声が聞こえます。
よく見ると震えているような…?
「ユムルったら可愛すぎでしょ…ふふっ…
どう育ったらこんな可愛くなるの?」
「かわ…」
心做しか顔がもっと熱くなってきました…。
「嗚呼可愛いユムル、蝶が貴女を護るお守りになりますように。」
1つのイヤリングにキスを落としたティリア様は私の右耳に触れ、それを付けて下さる。
「うん、流石店主ね。とても似合ってる。」
と仰いながらティリア様も付けていた左耳の赤い宝石のピアスを外し、イヤリングに変えられました。
「どう?アタシも似合う?」
「は、はい!とてもお美しいです!」
「ありがと!じゃあ髪留めとアタシのピアスは一緒にしてしまっておくわね。」
杖を一振するとティリア様の手元から紙袋が消えました。
「じゃあ次に行きましょう。
まだあと3つ行かなきゃならないところがあるの。」
「どっ何処までもお供致します…!」




