第35話『始まりの毒』
バアルが楽しそうな回なのですが長い台詞をペラペラと喋ります…読むのが疲れてしまうかもしれません…すみません(´・ω・`)
「失礼致します。」
相変わらずの無表情でアタシの部屋に入ってきたベル。どうしよう、何て聞こうかしら…。
「坊ちゃん、私に何か?」
「んぇっ!?な、何で??」
「見るからにソワソワしてますから。」
そ、そんな事無いと思うのだけど!
どうしましょう、馬鹿正直に伝えるべき?
ベルいつも言いたい事はハッキリ言えって言ってたし…怒られるの嫌だから伝えましょう。
「アタシのママが悪魔種じゃないってホント?」
「!」
ベルが目を見開いて固まった!中々見ない顔よ!
けれどベルの表情がみるみるうちに曇っていく。
「…何処でそれを?」
「ら、羅刹が言ってたのよ。」
「チッあの鬼め…。」
な、何かベルが怖いわ…いつも怖いけど今回は特に。
「べ…べる?」
怖さを紛らわせたくて名前を呼ぶと、大きな溜息と呆れ顔が返ってきた。
「はぁああ……
そうですよ、奥様は悪魔種では御座いません。」
「や、やっぱり本当なのね…?
ママが嫁いだ時にベルは使用人だった?」
少しの沈黙の後、ベルは静かに口を開いた。
「えぇ。
先代様と奥様が出逢うその日よりもうんと前にね。」
お?これはベルの過去を聞けるチャンスじゃない?
パパとママの事は頑張って探したら出てくるだろうしベルのこと聞いちゃお。
「ベルは何でヴィランローズ王家の使用人になったの?」
彼は無表情のまま腕を組んだ。
「…本来なら答える必要は無いかと思いますが、仕方ありませんね。」
聞ける…やっとベルの過去が!
「使用人になったのは人間に飽きたからです。
契約を結ぶべく私を呼んだ人間の願いはほぼ金、名声、権力ばかりでつまらなくて。
殺すのも飽きてしまったからですよ。」
な、何か…昔のベルって
「シトリみたい、ですか?」
思考を読まれ、先に口に出されたのでアタシは頷いた。
するとベルは嫌そうな顔をする。
「あんな快楽殺人鬼な奴と一緒にしないで頂きたいですね。アイツはヴェルメリド様に負けたから使用人に。私は自らの意思ですし。」
ちょっと拗ねてるように聞こえるのは気のせいかしら。
「欲に塗れたつまらない人間が何故絶滅しないのか、他人の力で手に入れた権力に従う気分はどうなのかと人間の真似事をしてみようと思ったからです。」
「遊び半分で始めたってこと?」
「否定はしません。興味本位でしたからね。」
あ、目を逸らした。
「ふーん…ベルにも興味が湧くものが有るのねぇ。」
「えぇ、その中でも人間が作る毒は特に。」
ど、毒って言った??
驚いてベルの顔を見るとシトリのようにうっとりした顔を見せた。
…こんなベルあまり見たことないわ…。
「魔族にとって雑魚同然の人間が持てる知識を全て
活用し作った同族をも殺す醜悪な物!
その作用は様々で一瞬で殺すものからジワジワと痛めつけ直死すら至らせれないほどゆっくりと時間をかけ絶望に落としながら殺せる物まで多種多様!!
何と醜くて美しい物なのでしょう!!」
やばい。なーんか変なスイッチ入っちゃった…。
こんな楽しそうなベル初めて見たわ。
スイッチが入ったベルのトークは止まらない。
耳塞いでも多分バレないわね。
「中でも時間をかけて殺すタイプは面白い!
外見が醜くなることで毒を盛られた事実と醜くなった見た目に絶望する人間!
嗚呼何と滑稽なのでしょう!」
ベルはアタシの目の前に来て机に勢いよく両手をつく。
目がキラキラと輝くベルの顔をじっと見て如何にも聞いてる感を出そう。
「毒は体内で刃を振るう凶器!
それ故に同族を殺した人間は罪を擦り付け合う!
嗚呼愚か愚か愚か!私はそのような人間の醜い心が、
無様な生き様が大好きなのです!愛しているのです!」
手の指を絡めて口元へ寄せるベル。終わったかしら。
「大好きだからこそ、
真逆なお嬢様に興味が湧いた。」
「何ですって?」
聞き捨てならない言葉を口にして先程までの笑みを
絶やし、普段の無表情に戻ったベルはアタシを見据える。
「無欲の塊、自己否定に沈んだ心、他人にも関わらず自己犠牲を厭わない歪んだ強さ…無欲以外の2つの内1つずつは見た事ありますが全ては無かった。」
ベルを呼び出す時点で無欲の人間はいないでしょうけど…。
「その歪みがどのように変わるのか、どのように坊ちゃんに影響するのかが楽しみで仕方ありません。
これこそ興味が尽きないというもの。
して、坊ちゃん?」
「何よ。」
「興味というのはある種の毒です。言うでしょう?
好奇心は身を滅ぼすと。
何故身を滅ぼすのか…それは興味という始まりの毒に侵されたからです。」
始まりの…毒?
「そもそも興味を持たなければ好奇心は芽生えません。
好奇心とは興味という毒によって育つ。
そして苗床の己を蝕むのです。
場合によっては育ちすぎた好奇心を外の害虫が喰らうことも。」
ベルはアタシの顔に両手を添えた。
シルクの黒い手袋なのに冷たい。
まるで貴方の目みたいね。
「ベル、何が言いたいの?」
「おや、分かりませんか?
私は今、ユムルお嬢様という対象に毒を盛られたのです。
そして坊ちゃんは両親に毒を盛られた。
そこから芽生えた好奇心にとって、お互い害虫同士なのですよ。」
言い方ムカつくし魔王のアタシを害虫呼ばわり出来るのは貴方だけよ。喩えというのは分かってるけど。
「貴方の言う害虫は好奇心を喰らう者…
つまり、アタシにママの事を教える気は無いってことかしら。」
ベルは手を離すと数歩歩き、ベッドのシーツの皺を伸ばしながら会話を続ける。
「ご名答。
私からは教えませんので知りたいのなら自ら探しなさい。」
「ケチ。」
「ケチで結構。本当に気になるのなら害虫に負けずお持ちの毒で育てると良いですよ、坊ちゃん。」
「その毒でアタシが死んじゃったら?」
その言葉がベルの動きを止めた。
「そうですねぇ…もしそうなったら貴方様はそれまでだった、という事ですね。非常につまらない。」
んま。それ側近が主に言うことかしら。
「では私はこれで失礼致します。
料理はきちんと食べなさい。」
「…」
返事を待たずに退出した。
ベルの事だからユムルに変なことしないとは思うけど…
“お互い害虫同士なのですよ”
とベルは言った。
ベルにとってもアタシは害虫で、アタシにとってもベルが害虫なのね。
好奇心を喰らう…という事はお互い知りたい事を邪魔するってことよね。
考えるほど分からなくなってきちゃった。
ベルったらいちいち難しい言い回しするし。
なぁにが毒よ。
ユムルに手を出したらベルでも許さないわ…。
ぐぅ〜…
か、考えてたらお腹鳴っちゃった…。
誰も居なくて良かった。
「頂きます。」
1人のご飯か…。
ユムルと話しながら食べるご飯の美味しさを知ってしまったから無音が切ない。
美味しいのにユムルと食べる時の味を超えない。
食べる事が作業のようでつまらない。
そんな不満を心に秘めつつあっという間に食べ終わってしまった。
「そっか…普段ユムルとお話してるから食べるの遅いんだ。…つまんない。」
意味も無く誰もいない部屋でそう呟く。
声に出すと実感させられるようで嫌だわ。
ユムル、大丈夫かしら。
今のアタシがユムルの為に出来ることをしよう。
パパとママの事はいつでも出来るのだから。
「アタシが出来ることは…」
ユムルが笑顔になる服を作ってあげることね。
トルソー何処にしまったかしら…。
…
あの鬼ジジイめ…ヴェルメリド様のご友人でなければ直ぐに殺しに行くのに。
ま、坊ちゃんは坊ちゃんですし…結果がどうなろうがついて行きますけどね。
使用人になった理由、か。
遊び半分という言葉で誤魔化せたのは僥倖だった。
遊び半分ではあったから嘘は吐いていない、故に悟られなかったのだろう。
想い、感情を見抜く能力とは便利なものだ。
だからこそ悟られたくなかった。
昔の約束のせい、とは言いたくなかったから。
…
「ん…あれ?」
アタシ、座ったままいつの間にか寝てた…?
誰かがブランケット掛けてくれてる…。
身体を起こし、机に散らばった紙を見る。
あ、そうだ…ユムル本人がいないと良いアイデア出なくて紙に描いていたんだ。
それもダメで項垂れている内に寝ちゃったのね。
あら?紙の間にカードが…
“完食ありがとうございます。起こすのも申し訳なかったのでブランケットで失礼します。
お風邪を召されないようお気を付け下さいね。
BLAZE”
ブレイズ…ふふ、相変わらずカッコイイわね。
「……あ!!ユムル!!」
もう双子の出禁は解かれている!
行かなくちゃ!!
急いでユムルの部屋へ行くと双子が待っていた。
「おぉ、おはようティリア様。」
「よく眠れたかえ?」
「おはようレージェとフレリア。
バッチリ寝落ちしたわ。」
「ふむ、そうか。ではそっと入るが良い。」
「出禁解除じゃ。」
言われなくてもそのつもり。
ニコニコしている双子を避けて扉を開ける。
「ゆむ…あ。」
視界に入ってきたのはスヤスヤとベッドの端っこで突っ伏して寝ているネシャの姿。
驚いていると横に双子がついてきた。
「ふふ…ティリア様と犬っころを摘み出した直ぐに走ってきてな。ユムル様が風邪を引いたのはあたしのせいだと自ら看病を名乗り出たのだ。」
「慌てて来たチュチュが変わると言ったのだが断ってな。
あの子、今まで何も口にしとらんよ。
泥まみれだったからレンブランジェと着替えさせて
顔を拭いたがな。」
ネシャが…。
罰が終わってすぐにユムルの元へ来てくれたのね。
やっぱり良い子。ユムルが友達になりたいと思うのはそういう本質を見ているからかしら。
「ん…む?」
あ、ネシャが起きた。
アタシはネシャを褒める為にベッドに近づいた。
「おはよう、ネシャ。」
「ふぇ…?ティリアさま?」
「えぇ、ユムルの看病ありがとね。
いい子いい子。」
優しい口調で頭を撫でるとネシャの瞳が潤み、ポロポロと零れ始めた。朝の日差しを反射している雫はキラキラと輝いたガラス玉のようだった。
「てぃりあさまぁ…あたし…あたしぃ…」
「ユムルに悪いことしたって思っているのでしょう?
反省しているから看病しようと思ったのでしょう?
なら貴女は良い子よ。」
「ゆ、ゆむるさましなないですか?」
「えぇ。貴女のおかげで元気になったでしょう。
ほら、何も食べてないんでしょ?
お風呂もご飯も済ませなさい。双子!頼むわよ!」
「「あいあいさー!行くぞネシャ!」」
「は、はい!失礼します!」
ネシャを双子に任せてユムルの様子を見なきゃ。
「ユムル〜…」
小声で名前を呼ぶ。けれど目が覚める気配は無い。
寝顔も可愛い…。まるで眠り姫ね。
幼い頃、ママやベルが読んでくれた人間の童話。
呪いで眠り続けていたお姫様をキスで起こすなんて
ロマンチックで…その世界が輝いて見えたのを今でも覚えているの。
今のユムルは眠り姫、ならき…キスで目が覚める?
やろうと決意した訳じゃないのに身体は既にユムルの可愛らしい顔に近づいていた。
小さな唇に触れるまで…5、4、3、2…
1…!
評価して下さった方、本当にありがとうございます!とても嬉しくてペンが…ペン?指?が進みました!
宜しければこれからも見守って下さると嬉しいです!




