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第34話『出禁じゃ。』

「でーきた!ユムルの花冠!」


ティリア様は白とピンクの可愛らしい花冠を私の頭に乗せて下さった。


「わぁ…!ありがとうございます!」


「とても、とーっても可愛いわよ!よく似合ってるわ!もうほんっとに悪魔的な可愛さよ!」


「あくまてき…?」


ほ、褒めて下さっているのですよね?

今、ティリア様は笑っていらっしゃる。

でも、花冠を作って下さっていたティリア様はお話しなさる時に辛そうなお顔をしてました。

お伺いしても宜しいでしょうか…。


「「あ、あの…」」


ど、同時に話してしまった!!


「す、すみませんティリア様!!」


「い、いえアタシの方こそごめんなさい!」


「「…」」


き、気まずい!!

遮ってしまったことを後悔しています…っ!


「ティリア様は一体何を…?」


恐る恐る聞くとティリア様は1回目を逸らしてからもう一度目を合わせてくださる。


「じ、じゃあアタシから話すわね…。

あのー…もしかするといつかユムルには怖い思いをさせちゃうかもしれないの。」


「怖い思い、ですか?」


よく分からなくて復唱するとティリア様は嫌な顔をしつつ頷かれた。


「…えぇ、不本意ながら。アタシ達悪魔種と仲がとてつもなく悪い魔族が居てね。

そいつらがユムルを狙ってくるかもしれない。」


やはり全ての種族とは上手く行っていないのですね…。


「ユムルってさ…天使って崇拝してる?」


天使…?


「崇拝…と言うのでしょうか。

善行を積み重ねれば死ぬ時に天国へ連れて行ってくれる…と信じてはいますよ。」


そう告げるとティリア様は苦虫を噛み潰したような顔をなさった。


「嗚呼なんてこと…。

やはりどの人間も騙されてる…!」


騙されている?どういう事でしょう。


「いい?ユムル。天使共はね…天国になんて導かない。あんなとこ…限りなく天国に見えるだけの地獄よ。その信仰心を利用しているだけなの。」


天国に見えるだけの地獄…?

信仰心を利用…?


「悪魔種とめちゃくちゃ仲が悪いのは魔族の中の天使種。前に悪魔種や妖種と戦い、引き分けて…

天使種は目の前から消える条件で天という領土を手に入れて独立し、お互い関わらないようにしたと聞いてるわ。」


妖種という事は羅刹様も…?


「その時の魔王はパパ…悪魔種の兵は同じ悪魔種。

だけど天使種は違ったの。」


ティリア様はいきなり天を仰ぎました。

つられて私も花冠を押さえながら見てみる。

雲が存在しているけれどずっと見ていられるような、

吸い込まれるような青い空。


「天使共は…人間を兵にしていたそうよ。」


…え?


「正確に言うと…

死んだ人間を再利用してやがるのよ。」


死んだ人間…?それって幽霊?


「で、でも死んでしまったら実体はありませんよね…?」


ティリア様は首を横に振る。


天使は死者を迎えに態々人間界へ赴き、天国に連れて行くと言って死体ごと持ってくとか。

割と物理的なのですね。


「そしてその魂を隔離して死体を魔族に変えたらあら不思議。操り人形になった死人兵隊の完成よ。」


ティリア様が嘘を吐いているようには見えません。

だから…本当に…?


「あ、あの…ティリア様。

死者は、死者の魂は魔界へ来れるのですか?」


「1部の悪魔種と妖種なら連れてくることは可能だわ。

アタシもよく知らなくてね…。」


ティリア様でもあまりご存知無いのですか。

…あれ?


「どうして死者を呼んでいる方達が私を…?」


私は死んでなんていないのに…。

ティリア様は人差し指を立てた。


「考えられる理由は2つ。1つは人間を連れてきたという事で此方へ来る口実にする為。

お察しの通り人間は魔界だと煙たがられちゃうの。」


ルルさんにも私を探るような瞳を向けられましたし…

お解りの方にはバレてしまうのでしょうか。


「天使種は人間に敏感だから。」


「そ、そうなのですか。」


この事もあってティリア様は極力城から出るなと仰っていたのですかね…。

天使種さんは私の気配などを感じるのでしょうか。

ティリア様は続けて中指も立てました。


「そしてもう1つはユムルを殺すため。」


私を殺す?

きょとんとしているとティリア様は辛そうに微笑む。


「…やっぱり驚いた顔しないわね。」


「あ、いえ…これでも結構驚いています…。」


「そう。でも大丈夫…絶対守るから。

何があっても絶対によ。」


優しく抱きしめてくださるティリア様は、少し震えているように感じる。

お顔を見ると今にも泣きそうな表情でした。


「ティリア様…?」


彼は驚いて目を擦ります。


「ご、ごめんね!魔王様が情けないわね!」


やっぱり何か思い詰めていらっしゃる。

私はティリア様のように想いを探れない。

でも探れなくても表情豊かなティリア様が辛そうにお1人で抱え込んでいることくらい分かります!


「情けなくない!」


「っえ?ゆ、ユムル?」


「ティリア様はその華奢なお身体で抱える事が多すぎます。宜しければその重荷、私にも下さい。」


少しでも軽くしたい。

優しい優しいティリア様。

貴方が隣に立つことを許して下さるのなら…

私も、ティリア様を支えたい。


「ユムル…ゆむるぅ…」


お綺麗な顔が涙でぐしゃぐしゃになってしまいました。


「此処は私の夢の中です。

ティリア様と私だけしか居ないのです。

だから…お互い弱音を吐く場にしましょう。」


「…」


私の方に顔を埋めたティリア様はこくりと頷いた。

…背中摩って差し上げた方が宜しいでしょうか。


「し、失礼します…ね。」


数回背中を撫でているとティリア様のか細い声が聞こえてきました。


「ユムル…ごめんね、ごめんね。

アタシのせいで怖い思いさせちゃう…」


ティリア様…。


「怖い思いなんてしてませんよ。

ティリア様や皆様が居てくださるので。」


「ユムルが死んじゃったらアタシ、アタシ…」


「死にません、絶対に。

ティリア様と生きる意味を探している最中ですから。」


「…アイツらは多分アタシを殺すためにユムルを

殺そうとするつもりよ…」


「仮に私が死んでもティリア様を傷付けるなんて絶対にありえません。」


「死なないで。」


「…すみません、絶対に死にませんから。

ティリア様、私の手…夢なのに温かいですよ。」


「…」


ティリア様はお顔を上げ、私の手を数秒見つめた後で黒い手袋を外し私の手を包んでくださる。


「…ほんと、小さくて温かい。不思議ね。」


「生きてますから。風邪引いてしまいましたけど。」


「辛いわよね、ごめんね。」


む、今のティリア様は私みたいになってます。

自分で言うのもアレですが…。


「ティリア様が謝られる理由は御座いません。

私の体調管理がなってないせいですから。」


「いいえ。アタシがこれまでにユムルをたくさん振り回したから…」


「振り回されていません。

好きで隣に居させて頂いただけなのです。

ティリア様の笑顔をお近くで見たいから。」


「……ユムル…アタシもユムルの笑顔を近くでずっと…ずっと見ていたい。

アタシの隣から居なくならないで。」


「ティリア様がお許し下さるのなら。」


ずっとお傍に居たいです。


「……ねぇ、ユムル…」


あれ?ティリア様のお顔がだんだん近く…

こ、これはもしやキ……!!?


『ワォ―――ンッ』


ワンコさんの遠吠えが聞こえた次の瞬間、

私の視界はぼんやりとベッドの天蓋を捉えていた。


「ふぇ。」


『あ、申し訳御座いませんご主人様!

何処かの魔犬が吼えたせいでつられてしまって!』


大きな黒い狼さんが耳を倒しながら私を心配そうに見ていました。…もしやシトリさん?


「だ、大丈夫ですよ…。

あ、重かったですよね。すみません…!」


『ご主人様の重さなんて羽毛に等しいです!

ずっと枕にして下さいませ!』


「えぇ…?」


それはちょっと…ん?足元に…


てぃ、ティリア様が突っ伏していらっしゃる!!

また小さく震えている…?


「…り…」


『はい。』


流石シトリさん。私の方がティリア様に少し近いのに声を拾っています。


「…許さない。」


「ゆる…え?」

『?』


「シトリっ!アタシ、アンタを許さないわ!」


えぇー!?


「ユムルにカッコつけようとした時に起こすなんて!!お陰でし損ねたじゃないの!!」


『ざま…じゃなくて知りませんよそんなことぉ。』


「天使種の前にアンタよッ!!」


『本当ですか!?

それはもう盛大にお願い致します!』


あぁ、いつものティリア様です。

良かった…何か頭がフワフワしてきて…

身体が熱く…あ、れ?視界がぐにゃりと…?


「あれれ?」


「ユムル――ッ!!?」

『ご主人様ぁー!!?』



「本当に愚か者よな。のうフレリア。」

「本当に愚か者だな。のうレンブランジェ。」


アタシは今、双子に正座を強いられて人型に戻ったシトリとユムルの部屋の真ん中で怒られている。


「風邪引いて辛そうな人間の周りで大声で言い争う

馬鹿が何処に居る!」

「ふむ、そこにおるな。」


返す言葉も無い…。


「ティリア様、今日は出禁じゃ。」


「えぇえっ!?」


レージェったらなんてことを!!


「大声出すな!」

「ユムル様が起きてしまうじゃろがい!」


「す、すみません…」


マジで怖い。


「シトリも出禁じゃ。」


フレリアに言われてシトリも不服な表情を浮かべる。


「えぇー?

ご主人様の枕になれるのはこのボクだけですよ?」


「狗でなくとも普通の枕で良いわ馬鹿者。」


「うぐ…」


簡単に言いくるめられてしまった。

そして双子に部屋から雑に摘み出された。


「「ふげっ」」


いったぁあ…

ホントに不敬だと言いたいけど今回ばかりは反省…。


「あーー!!シトリてめぇこのやろっ!!」


急にアズが倒れていたシトリに飛びつき絞め技を決める。


「ぐっ!?アズィール=ヴァプラ貴様何を!」


「黙れ犬が!!よくも俺を縄で縛り上げ天井に吊り下げやがったなゴルァ!!」


ん?どういう事?


「おらぁっ!」


アズがシトリの手を後ろへ引っ張り背中に膝を乗せている。


「あぁっ!…やるならもっと強くやれ!」


「うげぇ鳥肌立つわっ!!」


「チッ」


舌打ちしたシトリは一瞬でアズの絞め技から逃れ、同じことをやり返した。


「いっだだだだっ!!」


「クソ猫が…中途半端にするな。

その首を鋏でそれはもう残酷に切り刻まれたいか?」


「ひぃっ!!すみませんんんっ!!」


仲が悪いのか良いのか分からないわねぇ。

ほっといていきましょーっと。

あ、夕飯ユムルの部屋の中に忘れてきちゃった!


「ティリア様よ。」


下から少年の声が…


目線を下げると置いていったはずの夕飯が乗ったトレイをレージェが持っていた。いつの間にここへ…


「忘れ物じゃ!」


「あらありがとう…」


受け取るとレージェはニッコリと笑い


「出禁じゃからなー!」


と言いながら消えた。わぁってるっての。

アタシは足早に自室へ戻った。


「はぁ…」


トレイを置いて椅子に座り、額を机に付けた。

そう、さっきの事を思い出していた。


アタシ…ユムルにき、きききき…


「いやぁああっ!!アタシの馬鹿馬鹿!!」


ユムルの可愛い唇に流れでキス出来るんじゃないかと思ったなんて言えるわけないわ!!

シトリに邪魔されて出来なかったけど!!

でも邪魔されなかったらキスしてた!!

絶対!!もししてしまっていたらき、気まずくなるわよね!うん、気まずくならないから良し!

それにやるなら夢じゃなくて現実で…


あぁぁあぁあぁ考えただけで顔が爆発しそう!!

まだ告白出来てないのに!

ユムルの彼氏じゃないのに!旦那じゃないのに!


恥ずかしさでどうにかなりそうな頭でも1箇所冷静に

考えるパーツがあり、ふと急にパパとママが頭に浮かぶ。


パパとママもキスしたのかしら。

あのパパが…


あのパパが愛する人の為に悩んだ。

それはママが悪魔種じゃないから…?


あんな怖い人でもパパはママへの愛があったのよね。じゃないと悩まないし好きにならないでしょうし。

…やっぱパパのこと知りたいわ。

その為にユムルに話したし。


羅刹の事だからユムルに変装した使用人でも気付かれるだろうし…ユムルを連れて行くしかないか。

ユムルの体調次第ね。それまでにやれる事は…


「坊ちゃん。バアル=アラクネリアです。

入室しても宜しいでしょうか。」


ベルが持っている情報からママが悪魔種じゃない証拠を見つける事ね…!


「入りなさい。」

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