第33話『羅刹の助言』
ティリア様、羅刹様とお喋りタイムです。
な、何で羅刹がユムルの夢の中に居るの!?
笑顔で手を振りやがって…ん?口パクで何か言ってる?
こちらにおいで
ですってぇ??挑発かしら!!
何がなんでもユムルに手を出させるもんですか!
「シトリ、ユムルを頼んだわよ。」
『畏まりました。』
シトリを信じてアタシはユムルの夢の中に侵入した。つまり、
寝た。
…
「おぉ、やっと来た来た。」
真っ白な世界。アタシの目の前に羅刹が居た。
「ユムルを何処へやったの。」
変なことしたら許さない、そう意思表示する為に睨みつけると羅刹はクスクスと笑う。
「開口一番で怖ぁ。そんな怒らんと。
花畑の中心で小童を待っておるよ。」
「花畑の中心?花畑もユムルも無いじゃない。」
「そりゃ此処はユムルちゃんの夢の中でも彼女の意識が無い夢の中だからな。」
…何言ってんのか分からないわ。
「そのジト目は分かっとらんな。
無意識というものは誰にでもある。
ユムルちゃんの無意識がまさにココなのだ。」
つまりユムルを使ってアタシを誘き寄せたってこと!?
「くははっ…なぁんかウチ、よく睨まれるなぁ。
まるでアイツを見ているようだ。」
「アイツって…パパのこと?」
羅刹はゆっくり頷いた。
「そうだ、長い付き合いの1番の友さ。」
今でも信じられない。
あんな厳しいパパに友達と呼べる者が居ることに。
言葉を出せないでいると羅刹は笑顔をやめ、真面目な顔つきで近づいてきた。
「なぁ、小童。ウチがユムルちゃんを使って小童を呼んだのはとある事を伝えるためだ。」
「何よ。」
アタシの目の前でピタリと止まり、
顎に人差し指の腹を当ててきた。
「これは妖種頭領の悪鬼としての勘なのだが…我らの宿敵が近づいて来ている気がするのだ。勿論、人間では無い方の…な。」
「っ!!」
なん…ですって…?
「小童も知っているだろうが…我らとアイツらは永遠に分かり合えん。人間が絡むと尚のこと。」
「でも今は何も無いから…
アイツらは何もしてこないはずよね…?」
「よく言うなぁ、1番自分が分かっておるだろうに。」
そう、分かっているし覚悟もしている。
ユムルを魔界へ連れてきたこと、それがアイツらが魔王の元に来るための理由になってしまうことくらい。アイツらの事は誰もユムルに話していないはず。ユムルにはあまり知られたくない。
「で?小童。」
羅刹がどすんと胡座をかいてその足の上で頬杖を付く。アタシ魔王なんだけど。
「何よ。」
「ユムルちゃんをこれからどうするのだ?」
「どうって?」
「永遠に人間の彼女をアイツらから隠し通しつつ愛でるのならば…魔王のお主は別の悪魔種の女と結ばれ後継ぎを考えねばならんのだぞ。」
その言葉を聞いて血の気が引いて冷や汗が吹き出た。
べ、別の…女ぁ…!?あ、女って呼び方は嫌。
別の女性とむ、むむむ結ばれ…って…え!?
「ウチみたいに独り身でも長生き出来そうならこんな事は言わん。だが小童、今のお主は甘い、甘すぎる。そのうち背中を刺されるぞ。」
「っ…」
羅刹の言葉は冷たくアタシの臓器を冷やしてくる。
アタシは羅刹にビビってるの…?
「後悔しない選択をしろ。少なくともウチは…お主の行く道を支えてやるさ。アイツと同じようにな。」
「ねぇ…何で羅刹はアタシの味方をしてくれるの?」
突然の質問に羅刹は目を丸くした。
けれど直ぐに優しく微笑んだ。
「そりゃあ…小童は親友であるアイツの息子だからなぁ。ウチも本当の息子のように可愛がりたくなるものさ。」
確かに羅刹は小さい頃からアタシとよく遊んでくれた。パパは忙しすぎたり怖かったりと遊べなかったから嬉しかったわ、本当に。
「あ、それにウサギは寂しいと死んじゃうもん!
対等な話相手が欲しいんだもん!」
ハッとして急にキャラを作ったアイツのせいで感動が消え去った。
「何がもんよ、いい歳して。」
「ぐはっ…歳の話はやめとくれ。悲しくなる。」
「っとにも〜……
でもアタシとユムルの心配してくれてありがとう。」
「そんなこと当たり前だろう。
…話を戻すがユムルちゃん以外の女と結ばれる気は?」
ユムル以外の女性と結ばれる…。
不思議と自ら想像しようとしてみた。
けれど何も、誰も思い浮かばなかった。アタシの隣はユムル以外に考えられないということでしょう。
それ以外は嫌、絶対認めない。認めたくない。
「ユムル以外と結ばれる気は無いわ。」
答えを告げると羅刹は分かっていたかのように口角を上げて頷いた。
「くははっ!だろうな。ウチも同意見だ。
お主は誰に似たのか悪魔種なのに平和主義者。
平和のまま優しい結末を迎えたいのならユムルちゃんを魔族に…悪魔種に変えねばなるまい。」
ユムルを悪魔種に…ユムルが魔族になったらこれからずっと一緒に居られる。魔王になってすぐの時に人間から魔族に変えた使用人は今もずっと若いまま動いてくれている。けれど性格が変わった。
少し荒々しくなった。
もしユムルがそうなっちゃったら…?
アタシは今の優しすぎるユムルが大好きなのに…
そうなってしまったら…?
性格が変わってもユムルはユムル。
勿論、愛せる自信は溢れている。
けれど…今のユムルを知ってしまっているアタシが今みたいに振る舞えるかしら。
あの子を悲しませないかしら。
それに…
民の皆がユムルに嫌なこと言わないかしら…。
王族は皆、後継ぎが魔王として存分に力を振るえるよう悪魔種だけで結ばれているとベルから聞いた。
人間という事を隠し通せば良いのだけどもしバレたら…それにもし、むす、息子がう、ううう産まれたら…悪魔種と魔力を持たない人間のハーフということとなり、弱くなるのは目に見えている。
「悩んでいるなぁ。なぁ、小童。」
人が一生懸命思考を凝らしている時に話しかけてくるなんて!
「何よ。」
「今のお主はウチから見るとアイツそのものだ。」
「………え?アイツって…」
パパのこと、よね…?
「アイツも…
“ヴェルメリド”もこの事に悩んでおった。」
「この…事?」
「そう。ってやっぱり知らんかったか!
はははっ隠し事上手いなぁヴェルは。」
上機嫌でケラケラ笑っている羅刹はやがて涙を拭き、真面目な顔で
「お前の母は魔族であっても悪魔種ではない。」
と告げた。
そんなはずない。だってママは…
「この期に及んでアタシに嘘を吐くの…?」
「嘘なもんか。ま、証拠は蜘蛛さんが持ってるかもしれんし、ウチが持ってるかもしれん。
答えもそれも自分で探せ。」
「な…」
よっこらせと言いながら立ち上がった羅刹は身体を解すために伸びをする。
「ヴェルの話が聞きたいのならウチの館へユムルちゃんとおいで。宴で歓迎しよう。
だが1つ。
我等の宿敵、天使種の話をユムルちゃんにして来ること。
じゃないとユムルちゃんと隔離してやる!」
「はぁ!?」
「このまま添い遂げる気ならば遅かれ早かれいずれ知ること。なら話せ。」
「そ、そんな…」
確かに話さなきゃいけないことだけども…
「話したところでユムルちゃんは何処にもいかない
強い子のはずだ。
それに、天使種が話されただけで来ることも無い。」
「…」
言うしか無いのかしら…
でもパパとママの事を知りたい…。
「ではじじいは退散しよう。
ここからは2人で話しなさい。」
羅刹はアタシの返答を待たずに指を鳴らし、忽然と
居なくなった。刹那、真っ白だった世界が消え、
とても綺麗な青空と花畑が果てしなく広がる空間に
変わった。
「な…にこれ…」
魔王の自分がちっぽけに見えるほど高く広い空には白い雲が所々見え、花畑はピンクがメインで黄色や白が主役を引き立たせるように咲いていた。
綺麗な世界だわ…。
「ティリア様!」
「!」
可愛くて愛おしい声が後ろからアタシを呼ぶ。
「ユムル!」
愛おしい名前を呼びながら振り返ると、少し遠い所で真っ白なノースリーブのワンピース姿のユムルが花冠を持って自然に笑っていた。
行かなくちゃ!
花を潰さないように浮かび上がってユムルの元へ。
着地しようとユムルの目の前で止まると、花が消えて土だけになり着地点となってくれた。
「ユムル!会いたかったわ!」
「私もです…!本当にいらしてくださるなんて!
あのティリア様、頭を拝借しても宜しいですか?」
えっ頭??
「あ、アタシの首をと、取るの??
夢でも流石にそれは…」
「違います!屈んでいただきたくて!」
「あぁそんなこと。お安い御用よ。」
物騒な事じゃなくて良かったわ。
と安心しながら屈むと頭に何かが乗った。
「?」
「っふふ…!
やっぱりティリア様はお花が似合いますね!」
可愛く笑っちゃってまぁ〜…あー好き。
「見たいからとって良いかしら?」
「はい。」
手を伸ばすと予想していた花冠より大分大きい。
手のひら全体で花を感じているくらいだから…
ん?ただの花冠じゃ…ない?
ユムルが作ってくれたのは花冠は花冠だけれど、形が王冠の形をしていた。
…え、アタシの知ってる花冠じゃないわ。
これどうやって作ったの?え?ユムルが作ったの?
「どしたのコレ…」
驚きすぎて言葉が短くなった。ユムルは手を合わせて照れくさそうに目を逸らす。可愛い。
「此処に羅刹様がいらして…ティリア様が来るからと仰って…すぐ羅刹様が居なくなってしまい何もすることが無いなってなって…つい。」
つい、で作るにしては凄い代物だと思うのだけど…
「作っているうちに楽しくなっちゃって。
どうせならティリア様に喜んでいただきたいと張り切っちゃいました。えへへ…」
はーーー好き。
「めっっちゃ喜んでる。こんな凄いものを作れるなんてユムルは天才よっ!!」
「わっ」
愛しさが込み上げてきて溢れたからつい抱きしめてしまった。ちゃんと王冠をアタシの頭に乗せて。
「夢の中っていうのが悲しいわ!
持って帰りたいもの!宝物よ!」
「そう言っていただけて私は嬉しいです。
また現実世界でもお作り致しますよ。」
「ホント?絶対よ!」
「はい、絶対です。」
アタシもユムルに作ろっと!
そして話すんだ、ユムルに。
羅刹の言う事を守るために。




