第32話『おやすみ…?』
相変わらず不定期のくせになんと新しいお話を書いてしまいました…!もしお時間あれば覗いて行って下さい!
「お待たせしましたぁ〜!」
冷水が入った桶を持ってきたセレネはレージェへ渡す。
「うむ、感謝するぞ!タオルはそこへ置いとくれ。」
「はぁい!」
「シトリ=グラシャラボラス、只今戻りました。」
シトリはトレーにティーポットとグラスを乗せて持ってきた。それをフレリアに渡す。
「うむ、感謝するぞ!」
「えぇ、ご主人様の為なので。」
ニッコリと微笑んだシトリはアタシの横に立つ。
一応御礼を言わないとね。
「シトリ、ありがとう。」
「ご主人様の事を思えば当然です。ボクは狗なので。」
相変わらず通常運転ね。
常に普通にしてくれてたらいいのに。
ふとユムルに視線を戻すと、フレリアが驚いていた。
「今更だが服がメイド服のままではないか。
ティリア様よ、寝巻きを作ってやっとくれ。」
「あ、アタシ?分かったわ。それとせめて寝巻きじゃなくてパジャマね。でもネグリジェの方が良いかしら?」
ゆったりの方が良いかもしれないし…。
と思って提案したけれど双子は目を丸くする。
「「ね、ねぐりじぇ?」」
どうやら知らないみたいね。
「ネグリジェはワンピースの寝巻きの事ですわ〜!」
セレネがアタシの代わりに説明してくれた。
結局寝巻きと聞いて分かったみたい。
双子は顔を見合わせていた。
「「成程!ネグリジェだな!
それにしてもらおう!」」
ステレオで話さないでよもう。寝ていても可愛さは欠かさない。ユムルらしく、そして楽に。
やっぱりユムルはピンクね。決めた。
「毛布捲って、やるから。」
「「あいあいさー!」」
双子が毛布を捲った瞬間に顕現させた杖を振り上げる。
「えいっ!」
ユムルの服が光り輝き、ピンクで所々小さなリボンがあしらわれているネグリジェに変わった。汗を吸いやすい生地に変えてみたのだけれど効果はあるかしら。
「お、ユムル様の表情が少し和らいだぞ!」
「ホントだな!成功じゃ!」
成功?なら良いけど…
「さて、我らに出来ることはコレまでじゃ。」
「また何かあったら呼んでおくれ。
どーせ、ずっとここに居るじゃろ?ティリア様よ。」
レージェとフレリアがニマニマした顔でアタシを見てくる。何この腹立つ顔!!
でもユムルの傍に居るのはホントだけどね!
「えぇ、今日はずっとユムルの隣に居るわ。」
シトリが変なことしないように監視も含めて、ね。
レージェとフレリアはにぱっと笑ってセレネと手を繋いだ。
「そうかそうか!なら老いぼれは退散するかの!」
「そうだそうだ!さぁセレネ、我らと遊ぼうぞ!」
「え、えぇ〜??良いのかしら〜??」
賑やかに退出してったわね。
「シトリはどうする?」
「狗はご主人様から離れません。
ずっとお傍に居ります。」
ふいっと顔を逸らしちゃった。本当はユムルと2人きりが良いんでしょう。それでもアタシが居る事を我慢してくれている。こういう時は褒めるのがアタシのやり方。
「そう、いい子ね。」
「ぅぐ…」
珍しく照れてる…。顔赤いもの。
コンコンコンッ
「坊ちゃん、バアルです。」
流石ベル、アタシが居るって分かってんのね。
「静かに入りなさい。」
入室を許可するとベルが扉を開け、その後ろからベルに頭を下げながら入室するブレイズの姿が。
彼の手はミトンで包まれ、湯気の立つ小さな鍋を持っていた。
「失礼致します。」
「何それ。」
机に優しく置いたブレイズはユムルを見ながら
「お粥と言うものです。
人間は風邪を引いた時よくコレを食べるそうですよ。」
そう言った。鍋の中を覗くと白くて固形物だった物が溶けた中に、小さくて四角い緑色の材料が結構入っていた。
「緑色の物は色々な葉物です。栄養価が高いと本に書いてあった物を全部使いました。」
「ふぅん…」
こんな葉っぱに栄養があるなんて…信じにくいわ。
「坊ちゃん、レンブランジェ殿とフレリア殿がいらしたのですね。」
ユムルの顔を覗き込んでいたベルが口を開く。
「え、何で分かったの。」
「ほら、コレですよ。」
ベルが見せてくれたのは小さなクマのぬいぐるみ…が、矢を持っている。
矢って…あの双子が持ってるやつ?
「ちゃんと傷を癒す力になってます。あの双子はお嬢様を歓迎している様子、良かったですね。」
本当にそう思っているか分からない顔で言うベルに頷いた。ベルは続けてアタシに問う。
「そして坊ちゃん、御夕食はこちらで召し上がりますか?」
「ユムルが匂いで吐きそうにならなければ食べる。」
「…それは参りました。
お嬢様が起床なさらない限り分からないので。」
「だ…じょ…です」
!微かにユムルの声が聞こえた!慌てて駆け寄ると涙で潤んだ瞳がアタシを見てくれている。
「大丈夫です…ティリア様が…近くに居てくださるなら…なんでも。」
「ユムル…大丈夫よ。
アタシ、食べなくても平気よ。」
最初からこう言えば良かった…。
珍しくお腹が減っちゃったから食べると言ってしまったことを後悔しているとユムルは力無く微笑んだ。
「だめ…です。…私みたいに倒れちゃいますよ。」
「…そうね。貴女に心配掛けちゃうものね。
分かった、食べるわ。だからユムルもお粥食べて?」
「はい…」
返事をしてくれたからブレイズがお粥と木のスプーンを持ってきてアタシに渡してくれた。
けれどユムルが起き上がらない。
「ユムル?」
「か、身体が…動かせなくて…」
そっか!熱の時って身体だるいものね!
何で気付いてあげられなかったのかしら!
「シトリ、ユムルをゆっくりと支えなさい。」
「は。ご主人様、失礼致しますね。」
言いつけ通りゆっくりユムルの身体を起こし、直角になる前で止めた。…何で完全に起こさないの?
「シトリ?」
「こうするのです。」
シトリはベッドの上で大きめの犬になりユムルのクッションとなった。確かに直角に身体を起こすよりクッションにもたれかかったほうが良いか。
「ユムル、どう?」
「楽になりました…。ふわふわで…温かいです。」
『ふふふ…』
尻尾が風を切るほど揺れている。
嬉しいのは分かるんだけどね。
「シトリ、ステイ。ユムルが揺れる。」
『あ。すみませんご主人様!』
「大丈夫ですよ…。」
アタシ達に気を遣ったベルとブレイズは音を立てずに退出した。
「ユムル、食べれそう?」
「はい…たぶん。」
「無理はしないで。」
お粥をスプーンで掬ってユムルの口元へ運んだ。
「はい、あーん。」
少し驚いていたユムルだけれどすぐ顔つきを戻して口を開けてくれた。
「ぁ、あー…むっ」
「どう?ブレイズが作ったから問題ないと思うのだけれど…」
「お、美味しいです!」
!…ユムルが何かで嘘を吐いている。
あぁ、分かった。味がしないのね。
「ユムルごめんなさい。配慮が足りなかったわ。」
「え?」
「味、しないのよね。」
ビクッと身体を震わせた彼女は俯き、やがてゆっくりと頷いた。
「…すみません。」
「何故謝るかが分からないわ。
貴女は何も悪くないのに。」
「わ、私の為に作ってくださったのに味がしないなんて失礼極まりないと思って…」
んま。何と気遣い出来る子なのでしょう!
「ブレイズのご飯が美味しいのは当たり前なのよ。
貴女も知ってるでしょ?だから気を遣わないで良いの。」
「…はい、すみません。」
「でも食べれるなら食べないとダメよ。」
「た、食べます!」
ユムルにスプーンを差し出すと食べてくれる。
それだけで幸せな気持ちになってしまう。
こうして見るとユムルって雛鳥ね。可愛い。
特に無理した様子も無く食べてくれて嬉しいわ。
「ご馳走様でした。ブレイズさんにもバアルさんにも御礼を言わなければ…」
「元気になってからで十分よ。」
空になった容器を机に置こうと振り返るとアタシの分のご飯が置いてあった。
「いつの間に…」
『ご主人様にデレデレしていらした時ですよ。』
シトリって煽るの上手よね。褒めてないけど。
「あ、そう。」
よく見ると白いカードが…
“御夕食はこちらに置いておきますのでしっかり食べること。そしてお嬢様に無理させないこと。宜しいですね。Baal.
食器は後程回収に参りますが、呼び鈴を鳴らして頂ければ直ぐに回収致しますよ!Blaze”
2人が1枚のカードに細い字で書いたのね…。
ブレイズは兎も角ベルが…意外だわ。
少し微笑ましく思うと同時にユムルのタオルを取り替えた方が良いかなと考え、彼女を見ると…なんとスヤスヤと寝息を立てていた。
「寝ちゃった?」
『えぇ、表情が今までで1番安らかですよ。』
「死んだみたいに言わないで。ったくもう…じゃあシトリ、そっから動かないでよ。」
『はぁっ縛りプレイですね!興奮しますっ!』
コイツ…。ユムルの居ないところで躾てやるんだから…。
「…」
それにしても確かに表情は和らいだように見える。
でも風邪辛いだろうし悪夢に魘されていないかしら。あぁ、ちょっとの心配が大きな不安になってきちゃった。少しだけ、ほんの少しだけ覗いちゃお。
ごめんね許してユムル、けれど怒ったユムルも見てみたいの。
杖を小さく振ってユムルの夢を目の前に映し出す。
すると映った光景に驚いて声を出してしまった。
「な"っ!?」
『野太い声ですねぇ。』
「シトリお黙り!な、何で…」
羅刹がユムルの夢の中に居んのよ!!!
あ、こっち向いた!!手を振った!!
何なのいったい!!!




