第31話『ユムルの風邪治し隊』
またまた新しい使用人が現れる…!
アタシはシトリの元へ足音を立てないよう浮かんで近づいた。
「ちょっとシトリ!何してんのよアンタ!!」
勿論小声で。ストレスで大きな声出しそうになるけど我慢するために彼の顔面を鷲掴んだ。
「あぁっもっと強めに…っ!」
「黙らっしゃいっ!!」
喜んでんじゃないわよ!!と続けたかったけど言葉を少なくしないと大声になりそうだから我慢を続ける。
2人を上手く引き剥がしてっと…
「んぅ…」
い、今…ゆ、ユムルが…アタシじゃなくてシトリをぎゅって…シトリをぎゅって…!!?
「このように、
ご主人様はボクがお気に召したようですよ。」
嫌、嘘だと言ってユムル…。ベルやアズじゃなくて…よりにもよってシトリをだなんて…!
「それに今ご主人様は風邪を召されています。いくらティリア様でも無理に起こしてはなりませんよ。」
む…
ムカつくぅうううぅっ!!
何すました顔でアタシに物を言ってんのよ!!
まさかユムルに変なことをしてんじゃないでしょうねぇ…!!
そう思って睨みつけるとシトリはいつものようにクスクスと笑っていた。
「おや、ボクはただ看病をしておりましたよ。
ご主人様が傍に居てと仰ったから命令を遂行していただけの事。」
く…っ言葉は変えてあるけれどシトリの記憶を見るに間違いは無い!
逆に遂行してなければ殺すくらいよ!!
怒りを必死に抑えているアタシにシトリは笑みを絶やして首を傾げた。
「ネシャ=アンドラスをお許しになられたようで。
以前と比べ随分とお優しいではありませんか。」
「ユムルのお願いだったからね。
それに、ネシャの気持ちが分からなくはないから。」
ネシャはアタシの事が大好きだと言ってくれた子。
アタシの為に頑張ってくれている子。
ちゃんと分かっている。
そんなあの子がユムルに嫌がらせしたのは嫉妬から。ついさっきまで感じていた想いだからこそあの子は自分の写鏡なのかもしれないと思う。
「ご主人様は寛大な御心を持った方です。
どれだけ酷いことされてもそうやってお願いしてしまうのでは?」
シトリの言う事はアタシも予想がついている。
だから肯定した。
「…かもね。だから記憶みて判断するわ。
でもねシトリ。ユムルは自分からネシャとお友達になりたいと言ったのよ。」
「…は?」
当然そんな顔になるわよね。アタシもしたし。
シトリはその顔のまま隣で寝ているユムルを見下げる。
「友達…?悪魔種を?…っふふふ…はははっ!
面白い!流石はご主人様っ!!」
そんな大声出したら…
「ユムルが起きるでしょーがっ!!」
黙らせる為に1発の拳骨を降らせる。
「ありがとうございますっ!!」
あーー喜ばれてるー!!
ホントどうなってんのかしら!!
「んん…?」
声を出し、身を捩ったユムルが薄らと目を開けた。
「「あ。」」
ユムルが目を開けてしまった。
お、起こしちゃった!!
「ご、ごめんなさいねユムル!
起こす気は無かったのだけれど!!」
アタシの声に反応した素振りも無く、潤んだ瞳でアタシを見つめ
「…てぃりあさま…しとりさん…」
呟くように名前を呼んだ。
「ご主人様、お身体の具合は如何ですか?」
シトリが彼女の頬へ触れるとユムルは目を閉じ、涙を流した。
「…あたま、いたいです…。けほけほっ」
泣いているのではなく、熱から来ている涙ね。
咳まで出始めちゃった。あぁ、辛そうなユムル。
早く治してあげたい。
「シトリ命令よ。
セレネと、あの2人を呼んできなさい。」
魔族が人間を治せるとは限らないけど…
この3人なら和らげることくらいは出来るはず。
シトリもそれを分かっていたのか、嫌そうな顔をしつつもベッドから下りて頭を下げた。
「…畏まりました。直ぐにお連れ致します。」
扉は潜らず、黒い羽毛が飛び散るように消えたシトリに頷き、ベッドに近づく。
「てぃりあさま…」
「えぇ、アタシはここよ。
ちゃんと治るから…大丈夫だからね。」
シトリの記憶の中のユムルよりも息が荒い。
段々辛くなってきているんだわ。アタシに何か出来ること…手を握る?昔、パパに扱かれた後で体調を崩し倒れたアタシにママは優しく笑って手を握ってくれた。安心したし、嬉しかったのを今でも覚えている。
ユムルはどうかしら。
「ユムル、手を握っていい?」
聞きながらも既に手袋を取って毛布を弄り、ユムルの手を探す。あ、あった。
そっと指先が触れるとユムルから握ってくれた。
「!」
声を出さずに驚くとユムルは力なくも自然に笑った。
「えへへ…てぃりあさまも…ウソツキです…。」
「アタシが嘘吐き?」
「てぃりあさまのおおきなては…つめたいですもの…けほっ」
手が冷たい?…あ、まさか魔族は人間より体温が高いって照れ隠しの為の適当に言ったことの話??
覚えていてくれたのね。
「そうね、アタシも嘘吐き。怒って良いわよ。」
「おこるなんてとんでもない…それに、てぃりあさまは…わたしにおこりませんでしたから…」
アタシがユムルを怒るなんて命を投げ出すくらい余程の事をしない限りありえないのだけれど。
口にしようとしたその時、扉が開かれる。
「ティリア様よ!」
「狗に呼ばれて妾達が来たぞ!」
少年と少女の声。良かった、シトリはちゃんと連れてきてくれたみたいね。
声の方に視線を向けると双子のようにそっくりな子供2人がシトリとセレネの前に居た。
アタシから見て右側の触角が長い方が金髪少年、
レンブランジェ=レラジェ。
左側が長いのが金髪少女、フレリア=レラジェ。
2人は自称2人で1つ。2人が並ぶとまるで鏡合わせ。
顔も服も動作も全て鏡を見ているように思えるほど
対称にシンクロしている。
ちなみにパパや羅刹よりも歳上だとかなんとかベルが言っていた。それでも見た目くらいの子供のフリをしたりして楽しんでいる。
長生きしているからか色々な知識が豊富でアタシもよく助けられた。今回も助けてもらいたいの。
「レージェ、フレリア、そしてセレネ。
ユムルが突然風邪引いちゃって熱があるの。
どうにかならないかしら?」
レージェとフレリアはセレネをじっと見上げた。
そして力強く頷く。
「良いぞ!セレネよ、しかと学ぶのだぞ!」
「妾達が頑張るからな!ユムル様の風邪治し隊結成だぞ!」
「はい〜、お願いしますねぇ〜!」
2人はユムルの両サイドまで小走りして顔を覗く。
「あわー…これは何とも辛そうじゃ〜。」
「咳も出とるなぁ〜。口開けれるか〜?」
ユムルはフレリアに従い口を開け、レージェが中を覗く。
「おやおや…喉が真っ赤じゃ、こりゃ痛いのう。」
その間にユムルの腕へ手を滑り込ませたフレリアが手を戻して心配そうに
「ざっと体温38.7℃、お熱高めじゃ。」
と言った。フレリアがそう言うのだから高いのでしょうね。あぁ、心配だわ。
「セレネよ、氷嚢ではなく濡れたタオルを持ってくるのだ。それと換えの冷水と桶の準備を。」
「はぁい!」
「シトリよ、貴様は飲水を持ってくるのだ。」
レージェがセレネに指示を出し、フレリアがシトリに指示を出した。けれどシトリはにこやかに部屋を出たセレネと違い嫌な顔をする。
「何故老いぼれの言う事を聞かねばならんのだ。」
あぁ出たシトリの我儘…同じ使用人の言う事は中々聞かないのよねコイツ。レージェもフレリアも老いぼれと言われたことで怒らないけれど驚いた顔でシトリに話す。
「む、ご主人様が死んでも良いのか。」
「そ、それは…」
「ならばちゃっちゃとせいこの駄犬が。
貴様のような駄犬でも出来ることを指示したはずだが?それとも何か?人型を成しているだけの犬畜生には出来ぬ事だったか?この屑脳が。」
怖。マシンガンのように言葉を浴びせて目を光らせたフレリアにビクリとしたシトリは顔を下に向け、少しした後で頬に手を添えうっとりした顔を見せる。
「あぁっ…ふふ…良いですねぇ興奮します…っ!
では駄犬、行ってまいりまぁす♡」
スキップして退出するシトリ。やっぱアイツをユムルの近くに置くの良くないんじゃないかしら。




