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第28話『今度はお菓子を』

もうシルバーウィークなのですねぇ…時間は早い…

ネシャさんがお仕置きを受けてしまいました…。

守れず申し訳ないです…。


「ご主人様?

何故ご主人様が悲しそうなお顔をなさるのです?」


隣に立っていたシトリさんが心配そうに顔を覗き込んできました。


「あ、いえ…

ネシャさんに申し訳ないと…思って…。」


「ご主人様が気になさる必要御座いませんよ。

どうせネシャ=アンドラスが100%悪いのですから。」


「そんな事ありません。」


バアルさんからネシャさんのお手伝いをしないようにと私の思考を先読みされて釘を刺されてしまいましたし…困りました。


「ユムル、今回はシトリに同意よ。

あれはネシャがユムルに仕掛けた蜘蛛らしいじゃない。あぁ思い出しただけでゾワゾワして気持ち悪いっ!」


ティリア様が腕を組んでぶるっと震えます。

私に仕掛けた物…?


「ほら、ご主人様は何も悪くありません。

アイツご主人様になんて事を。

グルル…次会ったら噛み砕いてやる…」


シトリさんならやりかねない…!

私もバアルさんのように釘を刺しておかねば…。


「シトリさん、それはダメです。めっですよ。」


「はぁーいっ♡」


何故嬉しそうに…?


「…」


「坊ちゃん、何を羨ましそうにしてるのです。

お嬢様に叱られたいのですか?」


無表情のバアルさんがティリア様を見て揶揄うように言うと、ティリア様は顔を赤くなさる。


「そ、そんな訳無いわ!だってユムルが怒るって事はアタシが悪い事した証拠でしょう?

そんなの、アタシ自身が許せない。」


真剣な表情です。本当にご自分に厳しいお方…。


「…(ただ“めっ”てされたいとは思ったけど。)」


あれ、顔を背けられてしまいました。


「あずくん、ぼくどうしよう。

なにすればいいかな。」


少し遠くからミコさんがアズィールさんに問いかけていた。


「ミコ、お前がしたいことをすればいいんじゃね?」


「と言う前にミコ。

貴様の持ち場は此処ではないはずだが?」


バアルさんが怖めに口を挟むとミコさんは恐怖に震えアズィールさんの後ろに隠れてしまった。


「ぁう……」


「ほう?私の言うことが聞けないのか?」


だ、ダメ…ミコさんは心の傷を受けてしまったばかりなのです…!それを知っているのはこの場に私だけ!今度こそ!


私はバアルさんとアズィールさんの間に立った。


「あ、あの!バアルさん!」


「お嬢様…」


お怒りな表情のバアルさんは怖いですが我慢です!


「ミコさんは心の傷を負ってしまいました。

とても辛そうにしていたところを私の我儘で持ち場を離れてご一緒にお掃除して下さっただけなのです。」


「…つまり?」


「ミコさんを悪く言わないで下さい。

悪いのはミコさんを勝手にお手伝いさせた私です!

罰するなら私を罰して下さい!」


思っていることを言うとバアルさんはとても大きな

溜息を吐きました。


「はぁあぁあ…そんな事をしたら私が坊ちゃんに罰せられ消されてしまう。分かりました。

お嬢様に免じて今回は何も言いませんよ。」


「バアルさん…!ありがとうございます!」


良かった!バアルさんは分かってくださいました!

嬉しくてミコさんの方へ向くと、彼はアズィールさんの後ろから顔を覗かせ涙で濡れた笑顔を見せてくださった。


「良かったな、ミコ。

ユムル様に御礼を言うんだぞ。」


アズィールさんに言われ、両人差し指をつんつんさせながら目の前に出てきてくださいました。


「ゆむるさま、ありがとうございます…!

ぼく、わるぐちいわれてもがんばります…!」


悪口…何故こんな優しい人が悪く言われなければならないのでしょう。置いていただいている身であっても少し許し難い。私はミコさんの手をとった。


「辛かったら無理をしないで下さい。

貴方の悲しい涙は見たくありません。」


「!…じ、じゃあぼ、ぼくなかない!なきません!」


「あ、いえ!勿論泣きたい時に泣いて下さい!

スッキリしますから。えっと私が言いたいのは、

心から貴方に笑っていて欲しいということです。」


「…はいっ!」


笑って優しくミコさんが手を握り返してくださる。

私の言葉が呪縛にならないと良いですが…。


「さて、坊ちゃん、お嬢様。そろそろ昼食のお時間です。ダイニングルームへお越しくださいませ。

アズィール、シトリ、ミコ。手伝え。」


御三方を連れ、バアルさんは退出。

ティリア様と2人きりになりました。


「ユムル、貴女怒ってるの?」


「へっ?」


いきなりそう言われ変な声が出ちゃいました。

ティリア様は眉を下げて心配してくださっていた。


「ミコと話す時、ほんの僅かな怒りを感じたわ。

ミコが言われた悪口、貴方はそれを許したくないのね。」


怒っているとは自分でも思わなかったのですがティリア様の仰る通りで私は頷いた。


「優しいのね貴女は。自分が言われた訳でも無いのに。もう、良い子すぎるわ。むぎゅーってしちゃう!」


「わわっ!」


強い力で引っ張られたと思ったら抱きしめられました。


「ユムル。ミコの事、アタシからも御礼を言うわ。

ベルは気にしなかったでしょうから。」


「いえ…そんな…」


「貴女はミコを守ったのよ。

覚えてる?ミコの嬉しそうな顔を。」


「はい…。」


ミコさんの涙で濡れた笑顔を思い出して自分の口角が上がるのを感じます。



「アタシはそんな優しい貴女が大好きよ。」



「……え?」


「……ん?」


今、大好きと仰ったような…ティリア様と数秒見つめ合ってから


「「…っ!?」」


弾かれたように顔を背けた。


「いやっ!!そのあのっえっとねっ?!

あのーー忘れて欲しい…

わけじゃないけど忘れて欲しいというか!!」


「は、はいぃだ、大丈夫れす!!」


お優しいティリア様ですがこんな私を好きになるはずありませんもの!!


「お、お昼ご飯食べましょうか!!」


「ひゃい!」


カチコチになった私達は昼食の時もカチコチで、

折角ブレイズさん達が作ってくださったのに味を感じませんでした…。


「「ご、ご馳走様でした!」」


空になったお皿を片付けて下さるブレイズさんは

首を傾げた。


「はーい今回も完食ですね。先程からお2人共おかしいですけど…どうかなさいました?」


するとティリア様が慌ただしく立って首を横に振ります。


「な、何も無いわよ!あ、アタシ残りの仕事片付けてくるからユムルも好きなことしててちょうだい!

お外には出ないでね!」


「は、はい!」


「ベル!行くわよ!」


「畏まりました。」


私の方を見ずに退出なさいました。少し寂しいです。


「ユムル様、お元気なさそうですが…」


いけない、ブレイズさんが心配してくださっている。


「そ、そんな事ないですよ。

ご飯美味しかったので元気です。」


緊張しすぎて味を感じませんでしたが…。


「そうですか?…あ、そうだ。

ユムル様、お菓子作りはお好きですか?」


お菓子作り?


「は、はい!好きです。」


ブレイズさんは返答を聞いてふっと緑色の目を細めます。


「ならばティリア様への差し入れをご一緒に作りませんか?」


「!是非、お願い致します!」


お疲れなティリア様のお力になれそうです!


「良かった。では服を着替えて厨房へお越しくださいね。お待ちしております。」


そう言ってブレイズさんは全ての食器をワゴンに乗せ、別の使用人さんと退出なされた。


「ゆっむるっさまー!」


その後辺りに明るく響く陽気な声。


「チュチュさん!」


チュチュさんは黒色に白いフリルがあしらわれている布の塊を持っておられました。


「えへへ、聞きましたよ!ブレイズさんとお菓子作りするとか!ティリア様からユムル様がお料理する時に渡してあげてとこちらの服を預かっておりましたのでお渡しします!」


部屋まで促され、渡された服に袖を通す。


「ほぁー!超お似合いですー!可愛いっ!」


これは頂いたメイド服の色違いですね。

チュチュさんとスカート丈が違うだけでお揃いです。


「ふふ、チュチュさんとお揃いですね。」


「お揃い…ぴゃー!そういえばそうですね!

主様作ってくださったんだ!わーい!」


チュチュさんはその場でぴょんぴょん跳ねています。これはお料理用…着るにはブレイズさんのお邪魔を何回もしなければなりませんね。


「ではチュチュさん、私は厨房へ参ります。」


「はい!いってらっしゃいませ!」


チュチュさんの分のお菓子もこっそり取っておきましょう。あ、でもアズィールさんやシトリさんにも…セレネさんやミコさんにネシャさん…うぅんいっぱいです、どうしましょう。

ブレイズさんにご相談ですね。


厨房の扉を開くと沢山の使用人さんが慌ただしく動いていました。その真ん中で丁寧に包丁を拭いているブレイズさん。いけない待たせてしまっています!


「すみませんブレイズさん、お待たせ致しました!」


慌てて駆け寄ると彼は優しく微笑んでくださる。


「いえ、全く待っておりませんよ。

おや…可愛らしいお洋服ですね?お似合いです。」


「はい、ティリア様が作ってくださった物なのです。」


するとブレイズさんは台の下の扉を開けて畳まれた白い布を取り出しました。


「こちらエプロンです。エプロンにエプロンはおかしいかもしれませんがこれなら汚れにくいかと。

お付け致しますね。」


「後ろ失礼致します」と言いながら首にエプロンを

掛けて後ろで結んでくださる。

これなら汚しにくいですね。


「よし!ではユムル様、今回はベリータルトを作りましょう!」


「あ、あの!み、皆様にも作ってお渡ししたいなぁ…なんて思っているのですが…」


「皆、ですか?」


や、やっぱりダメですよね…!材料費とかある訳ですし!謝ろうとするとブレイズさんは顎に手を当て考える素振りを見せて頷いてくださる。


「ではクッキーに変えましょうか!」


「え!宜しいのですか?勝手に変えては…」


「大丈夫です!お菓子はティリア様の御要望でお作りしておりますから!ユムル様がお作りしたものならばティリア様は何でも喜ばれることでしょう!

ついでに使用人達も、ね。」


ウインクしてくださるブレイズさんに感謝して手を洗う。その横で材料を扉から取り出しているブレイズさんは


「誰に渡します?」


と確認なさる。


「本当は皆様全員に、と言いたいのですが流石に大変なので申し訳ありませんがお話した方々にと思ってます。」


「となると…ティリア様、チュチュちゃんとセレネちゃん、それにアズ君とシトリ君ですかね?」


「あとウェパルさんとネシャさんとミコさん、バアルさんにも…」


バアルさんの名前を出すとブレイズさんは苦笑する。


「バアルさんかぁ…俺、あの方の食事作っていますけど食べてるところ見た事ないんですよね。」


私はティリア様にミートパイを食べさせられたバアルさんを見たばかりですが…ご迷惑でしょうか。


「でも作りましょうか!塩混ぜりゃ何とかなります!ユムル様がお渡しすればあの方も食べますよ。」


「…はい!」


ブレイズさんがそう言ってくださるのでやる気が湧いてきます。


「勿論、ユムル様の分もお作りしますからね!」


「ブレイズさんの分もですよ。」


「んぇ!?俺も?」


本当に予想外というお顔です。

何故驚いているのでしょう?


「当然です。いつも美味しいお料理を作って下さっていますし…それにお菓子作りの提案も私に気を遣ってくださったのでしょう?」


ブレイズさんは私の目を見てから、黒いリボンを使い1つで纏めた髪の毛先を弄って目を逸らしました。


「う…バレてましたか。さりげなーくカッコつけたんですけどねぇ…じゃ、皆の分作りましょうか。」


「はい!」


ティリア様、喜んで下さいますでしょうか!


「ではまず、このバターを泡立て器でクリーム状になるまで練ります!」


「出来ました!」


「はっっっっや。」

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