第25話『嫌がらせよ』
嫌がらせを企む金髪少女の名前が明らかに!
チュチュさんに手伝って頂き、ピンクワンピースを着ることが出来た直後、ティリア様が入室なさった。
「ゆーむるっ!おっはよー!」
「ティリア様、おはようございます!」
お辞儀をしてから顔を上げるとティリア様と目が合い、眩しい笑顔を見せてくださる。
「うん!今日もとぉっても可愛いわ!
ありがとねチュチュ。さ、朝ご飯食べるわよ!」
ぐいっと手を引かれ、そのままダイニングルームへ。手を引かれた時にちらりと見えたチュチュさんは満面の笑みを浮かべ手でハートを作っていました。あれ?
シトリさんはどちらへ?
…
ダイニングルームに着いて席に座ると、バアルさんと数人の使用人さんがワゴンと共に入室なさる。
「おはようございます、お嬢様。」
「おはようございます、バアルさん。」
「本日の朝食は…」
料理名を告げながら目の前に置いてくださる。
今日も美味しそうなご飯です!
ティリア様の苦手なお野菜もしっかりと…。
「ねぇねぇ聞いてユムル!」
ティリア様は気にしていなさそうなので良かったですが。
「はい、お聞かせください。」
「あのね、今度はベルの事よ。」
「ば、バアルさんですか?」
ご本人が壁際にいらっしゃいますけど…!
「ベル、皆に隠れて猫に好かれようと思ったらしく手を思いっきり引っかかれてたのよ。
ぷふーっ!普段カッコつけてるクセにっ!」
むふふと笑うティリア様に苛立ちを含む声で言葉を放つバアルさん。
「おいコラ聞こえてますよ。
別に隠れてではありませんし普段もカッコつけてなどいません。ほら、さっさと食べなさい。」
「はぁーい。」
ティリア様がお返事なさった後、時間差で笑いを堪えきれなかった使用人さんが吹き出し
「余程殺されたい輩が居るそうなので退出致します。ブレイズ、頼んだぞ。」
「は、はーい…。」
扉の外で待機していたブレイズさんに後を任せた怖い笑顔のバアルさんに連行されてしまいました。
ティリア様は苦手な野菜を口にしつつ
「アイツ死んだわね。」
と渋い顔をなさる。し、死?
「俺、笑顔のバアルさんほど怖いものは無いかもしれません。」
ブレイズさんまで…。
「あら、アタシは怖くないの?」
きょとんとしたお顔で聞くティリア様に対し、ブレイズさんは苦笑を返す。
「そりゃあお怒りの時は死を覚悟するくらい怖いですけど、ティリア様は俺達にあまりお怒りにならないじゃないですか。」
「そんな怒る理由無いしね。」
ティリア様は愛されたいと仰っていました。
だからでしょうか。
ブレイズさんもご存知だからかゆっくり頷いた。
「使用人にお怒りになる理由があってはなりませんよ。」
「っふふ…それはそうね。」
楽しそうにお話なさるお2人を見ていると私も楽しくなります。あ、ティリア様はもう完食なさってます。
私も早く食べないと。
「ユムル?急がなくて良いわよ?
貴女の可愛い顔をずーっと見て待ってるから。」
「それはご勘弁を!!」
何とか急いで食べきれました…!
「「ご馳走様でした!」」
「はい、無事に完食ですね。嬉しいです。
バアルさんからの伝言で、ティリア様はこの後お仕事なのでユムル様はご自由にしていて下さい、だそうです。」
「わ、分かりました。」
「あーんもう離れるのぉ?
やだぁもうちょっとユムルと一緒にいたーい!」
「そう仰ったら仕事始めないだろうし一緒にいても絶対仕事に手が付かなくなるからダメと言えと言われておりますので…」
「くぅっ…!!(否定できない)」
流石バアルさん、用意周到と言いますか…ティリア様の事をよくご存知ですね。
「ティリア様、私は頂いたお洋服でお掃除してお待ちしておりますので。」
「うー…分かったわ。
早く終わったら沢山褒めてちょうだいね。」
「勿論です。」
私なんかで良ければ…。
「よっしゃ!じゃあブレイズ頼んだわ!
さっさと終わらせないと!!!」
ティリア様は走って退出なされた。
今ならブレイズさん達のお手伝いが出来ます!
目の前のお皿を手に取ろうとすると先にブレイズさんが持ってしまった。
「ユムル様はお部屋へお戻り下さい!
掃除するならお着替えなさるのでしょう?
ほら、チュチュちゃんが待ってますよ。」
ブレイズさんが少し開いた扉を指差し、その隙間を見るとチュチュさんが赤紫色と黒色の服を持っていました。あれは昨日ティリア様に作って頂いたメイド服!
「ユムルさまー!お着替えしーましょー!」
「は、はい!…ではブレイズさん、皆さん、いつもありがとうございます。失礼しますね。」
待たせる訳にはいかないと思い一言言って頭を下げ、チュチュさんの元へ向かうことにした。チュチュさんはお一人でした。
「あれ?シトリさんにアズィールさんはご一緒ではないのですか?」
「それがいつの間にか居なくなっちゃってて。
変なことになってないといいのですけどねー。」
「はい…。」
大丈夫でしょうか。少し不安です…。
そんな気持ちを持ったまま、メイド服に着替えた。
「ユムル様めっちゃ可愛いですぅー!!」
「そんな、じゃなくてあ、ありがとうございます…。」
チュチュさんが褒めたのはこの服ですからね。
お礼を言わなければティリア様に申し訳ない。
コンコンコン
扉3回ノックが聞こえ、入ってきたのは金髪ツインテールの女の子。
…あ、昨日私が嫌いだと仰った方ですね…!
「ユムル様、バアルさんから言われて今日のお掃除の監督は私ですわ。一緒に参りましょう?」
昨日の方とは思えないくらいの良い笑顔…!
あれは嘘だったのでしょうか…?
「は、はい。ではチュチュさん行って参ります!」
「え?あ、えといってらっしゃいませ!」
私は言われるがまま金髪ツインテールさんについて行くことに。
「うーん?お掃除の監督?
そんな事チュチュは聞いてないけどなぁ…。
アズ君やシトリ君が聞いてるのかな??」
…
あ、思えばまだ名前をお伺いしてませんでした!
早歩きの彼女に後ろから声をかけてみる。
「あ、あの!お名前伺っても宜しいでしょうか?」
彼女は振り向かずに
「……ネシャ。ネシャ=アンドラス。」
と静かに答えてくださった。
「ネシャさん!今日は何処をお掃除するのですか?」
「お風呂よ、大浴場。」
と言いながら大浴場で扉を開けて私を通してくださる。
お風呂…!お掃除しがいがあります!
気合いを入れて、いざ!
大きな浴槽を磨こうと覗き込むと、
大量の水が降りかかり全身ずぶ濡れになりました。
「…?」
「あっはー!ごめんなさぁい!
手ぇ滑っちゃってぇー?これは事故なんですぅ!」
ネシャさんが私の後ろでバケツを持って笑ってらした。
「大丈夫ですよ。ネシャさんは濡れてませんか?」
「…はぁ?」
何故でしょう、
心配したらとても嫌そうなお顔になりました。
「アンタおかしいんじゃないの?
何で嫌がらないの??事故なんて嘘なのよ!」
「え?!嘘なのですか!?」
「そうよ!!アンタに向けて水をかけたのよ!」
そ、そうだったのですか!私てっきり…!
「どう?嫌でしょう嫌でしょう!」
「いえ、全く嫌ではありませんよ。」
家では氷水や熱湯など極端に温度差があって怪我するほど酷かったですけれど、ネシャさんにかけられたこのお水はぬるかったので寒くも熱くもありませんし…優しさを感じてしまいます。
「何その顔〜っ!!もういいわ!掃除するわよ!!」
ネシャさんは怒りながらブラシを手にする。
「は、はい!ふあっ」
顔に白くて柔らかいものが投げられました。
手に取るとフワフワのタオルでした。
驚いてネシャさんを見ると
「謝らないから。それにそれは掃除する時にアンタが濡れてるとメーワクだから渡すの。勘違いしないでよね。」
目線こそ合わせて下さらないものの私に貸してくださったようです。…嬉しい。
有難く拭かせていただきましょう。
(何でちょっと笑ってんのよ!!
イジメよイジメ!!アンタイジメられてんの!!
なのになぁんで笑ってるわけ!?嫌がらないわけ!?人間は風邪拗らせると死ぬって本で見たから死なないように冷水じゃなくてぬるま湯を使ったのに!
も、もしやシトリみたいにイジメられるのが嫌じゃないとか…!??)
ネシャさんが悔しそうにこちらを見ています。
タオルを貸してくださったり、ぬるま湯にしてくださったりするところを見ると悪い方ではなさそうです。
仲良くなりたいと言ったら怒るでしょう…。
我慢です。
「(まだ嫌がらせは始まったばかりよ。
次こそギャフンと言わせてあげるわ!!)」
「ふぁ…はっくしゅっ」
「!!」
髪の毛が鼻のあたりを擽ったせいでくしゃみが…
「ちょっと!!アンタ邪魔なのよ!来なさい!」
焦った顔のネシャさんが私を引きずり、更衣室の椅子に座らせると目の前で手を翳します。すると温かく優しい風が全身を包んでいるように感じました。
これはいったい…?
「ふんっあたしの魔法よ。風の魔法!
アンタ風邪引いたら死んじゃうんでしょ?
あたしが殺したとか思われたくないからだからね。
別にアンタのためじゃないから。」
風邪を引いたら死ぬ…?それは余程酷い場合ですが折角のご好意なので有難く受け取りましょう。
「ありがとうございます、ネシャさん。」
「お礼とかイヤ。やめて。」
「す、すみません…。」
謝ると彼女は鼻を鳴らしムスッとしてしまいましたが風を生み出し続けてくれていました。
そして髪が乾いたところで手を翳すのを止められました。
「終わったわ、さっさと掃除するわよ。」
「はい!」
服も髪の毛も乾きました!
ネシャさんのお陰ですね。お掃除頑張らないと!
十数分後。
これで良し、と…。
うん、大きな鏡が綺麗になりました!
「ネシャさん!次は何処をお掃除致しますか?」
「え、ちょっあたしまだやってんのにアンタもう終わったとか抜かすわ…け…って…えぇ!?ピッカピカじゃない!!」
「お掃除には少し自信がありまして。」
また悔しそうなお顔。
「あ、あたしだってやれるんだからぁーッ!!」
す、凄い勢いで床を磨き始めました…!
私も掃除する場所を自分で探しましょう。
壁を洗ってよろしいでしょうかね…?
「か、壁をお掃除しますね。」
「やっといてぇー!!」
よかった、大丈夫なようですね。
腕を捲っていざ!
…
ネシャさんが床を磨き終わった時、私は壁と装飾のお掃除が終わりました。終わったのにネシャさんは悔しそうに拳をワナワナと震わせてしまいます。
「く、屈辱だわ…掃除早すぎじゃないの!?
早い上にピッカピカ!!おかしい、おかしいわ!」
「そ、そう言われましても…」
「ふ、ふん!勝ち誇らないで!次行くわよ!!」
「は、はい!」
早歩きで先へ行くネシャさんの後を急いでついて行く。それでも広がる距離。急がないと…!
必死でついて行くとネシャさんがピタリと止まる。
「…足、遅いわね。」
「す、すみません!」
「ふん。」
私が来るのを待っていてくださったらしく、また歩き始めたネシャさん。今度はゆっくりになりました。
ネシャさん、やっぱりお優しいです。




