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第24話『秘密の夢』

「んむ…」


あれ、私寝ていたのですか…。

夢を見ないなんて何年ぶりでしょうか。

もしかするとまだ夢の中かもしれませんね。

でないとシトリさんが目の前に居る理由が…


理由が…



「あ!おはようございます、ご主人様!」


弾けるほどの眩しい笑顔。

その輝きで目が覚めて頭がスッキリしました。

やはりシトリさんが目の前に居らっしゃる。


「お、おはようございます…。

な、何故シトリさんがお部屋に?」


「ご主人様が何時何分に起きられるかお聞きするのを忘れてしまったのでいつお目覚めになっても良いようにお待ちしておりました!寝顔もお美しかったです!」


寝顔見られていたなんて…は、恥ずかしい!

しかしそんな私をよそにシトリさんは少し眉を下げて首を傾げます。


「ですがご主人様?ただいま朝の4時30分でございます。ティリア様が動かれるのは朝7時。起床なさるにはまだお早いお時間かと思われますが…。」


「すみません。

前の家でもこれくらいに起きてましたので…」


「貴女様が謝る必要など何処にも御座いません。

前の家と仰いますとご主人様が使用人の真似事をしていたと言う…?」


「はい、そうですね。」


頷くとシトリさんはくんくんと鼻を動かしました。


「ふむ…ご主人様から香る薬の匂い。

ティリア様が作った傷を消す塗り薬の匂いですね。」


流石犬の悪魔…。匂いとか分かってしまうのですね。


「つまり前の家でご主人様が傷付けられたと推察します。その人間共を殺しましょうか?いえ、殺しましょう。」


するとシトリさんは黄金で彫刻の美しい巨大な鋏を顕現させて手に持ちました。わ、私と身長が同じくらいの大きな鋏です…!


「っふふふ…さて、何処から切り落とそうか。

首?腕?足?首はダメ、直ぐに死んでしまう。」


蕩けた目が狂気を生み出しています…。

バアルさんのお話ですとシトリさんは本気で殺しに行ってしまう。場所も多分匂いでバレてしまう。

1日経っているとはいえシトリさんは犬の悪魔。

超常的な力を持っているはずですし止めなくては!


「だ、ダメです!殺しちゃダメ!」


「何故です?

ご主人様を傷付けた底辺人間(ゴミ)を許せと?」


「はい!」


「っ?」


?何故シトリさんは驚いたお顔をするのでしょうか。


「ご、ご主人様は憎くないのですか?

自分を傷付けた者共のことが。」


「憎くないと言ったら嘘になるかもしれません。」


「かもしれない?」


シトリさんはお話を聞いてくださるのですね。


「私、確かに前の家ではとても辛かったです。

でも生きるのに必死で恨みなどを感じる暇がありませんでしたから。」


「ご主人様…」


「それにティリア様に拾って頂いて、シトリさんや

皆さんに会えました。優しさを持つ人達に会えました。」


本当に奇跡だと思いました。


「それが嬉しくて恨みなんて忘れました。

もう辛い思いもしてなければ恨みなんて御座いません。だからどうぞ鋏をしまってください。」


私の話を静かに聞いて下さったシトリさんは視線を逸らし、少し考えてから鋏を消して下さった。


「…ご主人様の御心がそのようならばボクは従います。貴女様の従順な狗ですので。」


ぺこりと頭を下げるシトリさん。

顔を上げる時には左手が頬に添えられていました。


「嗚呼、やはり貴女様は可憐で華奢なそのお身体で溢れんばかりの優しさをお持ちでいらっしゃる。

このシトリ、ますます感服致しました。」


良かった、分かってくださった。

でも念の為もう少し言っておかないと。


「あの、殺すのは絶対ダメですよ。命を簡単に奪おうとしちゃダメです。よろしいですか?」


「そう躾ていただければ。従順とはいえ貴女様の為に時には他者へ牙を向いてしまう事が御座います故。」


「し、しつけ…。」


「はい!鞭でも何でも痛めつけていただければ!」


「痛めつけることはしません!」


あぁ、通常運転になってしまいました。

シトリさんは私の返答が分かっていたようであまりショックを受けてはいない顔でした。

ですが眉を下げています。


「えぇ?残念です。してご主人様、まだお早いこの

お時間如何なさいます?もう一度ご就寝なさいますか?」


「もう一度寝るには眠くなくて…」


「おや…それは困りましたね。あ、閃きました。

ご主人様、ベッドで横になってお待ち下さい。」


「え?」


聞き返した頃にはシトリさんが居なくなってしまっていた。は、早い…。

言われた通りもう一度寝転んでみる。

こんなに寝ているのは初めてかもしれません。

あれ?少しウトウトしてきました…。


「ご主人様、こちらを。」


またいつの間にかシトリさんは部屋の中に。

彼はコップをトレイに乗せて持ってきてくださる。


「これは…?」


「白湯でございます。

温かい物を摂取すれば眠れるはずですよ。」


「あ、ありがとうございます…。いただきます。」


シトリさんが差し出してくださったトレイの上のコップを手に取り、全て飲み干す。程よい温度と量です。

ポカポカするとより一層眠くなってきました…。


「ありがとうございます、シトリさん。」


「ご主人様のお役に立ちたい一心ですから。

どうでしょう、微睡みそうですか?」


「はい…。」


あれ…?シトリさんの声が心地よく聞こえます。

身体が寝ろと言っているように勝手に寝転ぶ。


「では7時にまたお会いしましょう。

それまではどうか優しい夢の中に。」


シトリさんが私の目に手を伸ばしてきて視界が真っ暗になった瞬間、私は意識を手放していました。


 …


「…じ…」


 ?


「お……じょ…」


 真っ暗の中、何か聞こえます。


「おーい嬢ちゃん、ウチだぞー聞こえとるかー?」


この声はもしかして…


「羅刹、さま?」


名前を呼ぶと真っ暗だった視界が1面白や黄色、ピンクの綺麗なお花畑と化し、爽快な青空の下で羅刹様がこちらを見て佇んでいました。

凛とした表情と立ち姿がとても麗しい…。


「お!繋がったようだな。むふふ、成功だ。

昨日ぶりだな嬢ちゃん。」


笑顔を見せて下さった故に凛とした表情が一気にふにゃりと柔らかくなり、周りに蝶々が現れました。

不思議な場所…感覚が現実ではなく夢だと言っています。


「羅刹様、此処は?」


「ウチが作った夢の世界…といったところだろうか。嬢ちゃんと話がしたくてウチの夢と繋いだのだ。」


そのような事が行えるのですね…!?


「此処ならあの狂犬も蜘蛛さんも猫さんも…魔王様であろうと来ない。来れない。つまり、邪魔者が居らぬ世界でゆっくり話せるという事だ。」


「夢の世界…。何故私と…?」


すると羅刹様は寂しそうに笑いました。


「言っただろう?ウサギは寂しいと死ぬって。

死にたくないから寂しさを紛らわせたいのだ。

年寄りの話相手になっとくれ。」


羅刹様は美人なのでお年寄りと言われても困ってしまう。連れ去られないのなら…そう思ってこくりと頷くと羅刹様は顔をパァッと明るくされる。


「おぉ、断られると思っておったから嬉しいぞい!

取り敢えず座ろう、よっこいしょ。」


羅刹様はぼすんっとその場に座られましたが、

私はこの綺麗なお花を潰すことは出来ません。


「む?どうしたユムルちゃん。」


「お、お花があるので…」


「そういう事か。ならばほれ!」


羅刹様は指を鳴らす。すると羅刹様の正面に居る私の周りから花が無くなり、その分紫色のクッションが

置かれました。


「座布団という物だ。座り心地が良いぞ!」


「ら、羅刹様がお使いください。

私は地べたで十分ですので…」


座布団を持って羅刹様に差し出すと、彼は「ふふふ」と笑います。私何か変なことしてますかね…?


「いやぁ優しいなぁユムルちゃんは。大丈夫、年寄りだから座布団無いとキツくてな。ほれ、見てみ。」


着物を捲り、下の赤色の座布団を見せてくださる。あ、良かった。


「だからそれはユムルちゃんの物だ。

気にせず使っとくれ。」


「あ、ありがとうございます…。」


わ、フワフワと思いきやちょっと固くて少し低反発してます…!これが座布団…!

羅刹様は私を見てくすりと笑うと口を開きました。


「ユムルちゃんは我々魔族の事をどう思う?」


魔族…これはティリア様や羅刹様の事ですね。

思った事を正直に伝えましょう。


「うーん…人間のようで人間でない、怖いようで怖くない。あべこべな皆さんという印象です。」


「ほう…怖いようで怖くない、か。ウチの事も?」


「…………ハイ。」


無理して答えると羅刹様はケラケラと大胆に笑いました。


「はははっ、頑張って嘘吐かなくて良いぞ。」


バレますよね…。


「怖くて良い、寧ろそうでないと困る。

何せウチは頭領なのだから。嘗められたら殺さなければならぬ。」


「ころ…」


「これも上の務め。ユムルちゃんも魔王の坊ちゃんの隣に居ると言うのなら覚悟なさい。あの子は魔族の

トップに君臨するにはあまりに優しすぎる。」


確かに、ティリア様はとてもお優しい。

あのお話の魔王様とは思えないほどに。

あのお話は先代様、つまりティリア様のお父様であると仰っていましたが…。


「あの優しさ故に慕われている一方で一部の魔族から刃を向けられている。それは現在でも。

突然だが実はあの子の父親とウチは親友でな。」


「!」


怖いと言われる先代魔王様…の親友…。

羅刹様は懐かしむように視線を下げました。


「だから簡単に見捨てる事は出来ん。

でもあの子はウチがユムルちゃんに手を出しそうだと気付いたら警戒心を高めよってな。夢を拒まれ言いたい事も言えぬでいかん。」


はははと笑った後、

大きな溜息を吐き私をじっと見つめる羅刹様。


「蜘蛛さんの言うことを聞かずともユムルちゃんの言葉なら従うだろう。…そういう所は父親に似たなぁ。」


先代様のお話はとても気になります、が。


「羅刹様。」


「ん?」


「私は魔王ティリア様の隣ではなく、斜め後ろから勇姿を目に焼き付けたいのです。魔王様でない時は許されるなら隣でお支えしたいと思います。」


これは自分の意思…のはず。何も考えず口から勝手に出てきた言葉ですが間違いは無いと思います。羅刹様は顔を下に向けてしまったのでどんなお顔をしているか分かりませんが怒らせてしまったのでしょうか…!?


「っふふふ…成程成程。嬢ちゃんを気に入る理由が分かった気がするぞ、小童。」


「?すみません、何か仰いましたか?」


「いいや?嬢ちゃんの意思は分かった。

話せて嬉しかったからまた話そう嬢ちゃん。

直ぐ迎えに来る。」


「は、はい…。」


「では秘密の夢から目覚めの時間だ。“おはよう”」


その一言を聞いた瞬間、目が開いた。


天蓋…ベッド…


「ご主人様!おはようござ……

あれ?既に起床なさっていましたか!」


先程とは違い、艶やかな黒髪を1つに結んだシトリさん…夢から戻ってきたのですね。


「たった今起きました。

改めておはようございます、シトリさん。」


ベッドの上で両手を揃え頭を下げると、

シトリさんも頭を下げる。


「おはようございます、ご主人様。

こちらが今日のお召し物にございます。」


きっちり畳まれたピンクのワンピースです。


「これは?」


「チュチュから盗ん…取って…えー…渡された物です。御安心下さい、ちゃんとご主人様の物ですよ!」


む!チュチュさんから取ったのですか!


「服を勝手に取ってきてしまったのならチュチュさんに謝らなくては!」


「えっ!?何故ですか!?」


「チュチュさんが無いと慌てて困っているかもしれないですから!」


私はベッドから下りて机の上に置いてあるオレンジ色の呼び鈴を鳴らす。すると泣きながらその場に現れるチュチュさんの姿が。


「ゆむるさまぁ〜…チュチュ、悪い子ですぅ…

主様にユムル様のお召し物だと渡されたのに無くしてしまいましたぁっ!」


ぴーっと言いながら泣いてしまうチュチュさん。

あぁ、予想通りです…。良かった、呼べて。


「シトリさんが持っておりますので大丈夫ですよ!

ご安心下さい。」


「シトリ君が!?よ、良かった有って…って何で

ユムル様のお部屋に居るの!?

チュチュがユムル様のお世話係なんだよ!?」


頬を膨らませるチュチュさんに対してシトリさんは首を傾げた。


「ボクもお世話係ですけど。」


「「へ?」」


き、聞いてませんよ…?


「昨日バアル殿からそう言われましたよ?

そりゃあ悦んで引き受けさせて頂きましたとも。」


ば、バアルさん…!!?

急なあのお話はもしかしてこれの事ですか…!?


「なのでお着替えも何から何までお世話させて頂きます!勿論、狗であるボクのお世話もお願いしますね!ご主人様!」


し、尻尾が出てきてブンブン揺れてます。


「ちゅ、チュチュのライバルですぅ…!!

でもお着替えはダメ!ユムル様からも仰って下さい!」


「そ、そうですね…着替えはちょっと…」


ダメとは口に出しづらく最後を濁すとシトリさんの尻尾がだらんと下がってしまいました。


「む…性別の事は致し方ありませんね。

では外でお待ちしております。さっさとしろよ、

チュチュ=フォルファクス。」


「分かってるもん!!」


チュチュさんには少し冷たいように感じます…。

皆さん仲良くしてほしいのですが…。


「ユムル様!お着替えしましょう!」


「あ、はい!」


 …


「ふぅ…」


遠巻きに追い出されてしまった。

ボクとした事が先にチュチュが呼び鈴を渡していたのを忘れていた。失言だったな。

けれどご主人様に嘘を吐けないフリをすればお怒りになってもらえると思ったのだが…

中々手強い。嗚呼、早くあの手で打たれたい!

本気で首を絞めて頂きたい!

いや、1番はあの優しいお方の口から罵詈雑言を聞きたい…!


しかしご主人様はあまりお怒りにならない方ですし、何より悪口のボキャブラリー無さそうですね。

言っても馬鹿とか阿呆とかその辺でしょうか。


…ん?水の匂い?

この水はウェパル=フォカロルではないな。

匂いについてはボクに限って気の所為は無い。

誰かが既に掃除をし始めている?

いや、掃除道具に付いている埃の匂いは無い…金属の匂いだけだ。段々遠のいていく。

つまりバケツに入れて水を運んでいる…?

ま、ご主人様に何も無ければどうでも良いか。

む、いい事思いついた。

今すぐ忘れ物をしたという体で部屋に入れば本気で怒られるだろうか。


 …


んしょ、んしょっ…バケツに水を入れすぎた…。

でも、これ事故に見せかけてぶっかければ嫌がるはずよね!あたしは嫌だし!床を水拭きするお部屋に呼び出して水かけて嫌がらせ、その後その水でお掃除出来る!まさに一石二鳥!何処に呼び出そうかなー。

やっぱお水は大浴場だよね!よし!待ってなさいよ…アンタとお部屋を綺麗にしてやる!!

昨日調べた蜘蛛達も毒は無いし、

びっくり箱にして渡してやる!うっししし…!

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