第22話『ティリア様の魔法』
温かい評価をして下さった方、ありがとうございます!ユムルちゃん達みんなで喜んでおります!ブクマして下さっている方もありがとうございます!これからも2人と使用人の日常を応援して頂けると嬉しいです!
あ、そうそう。もしあなたのお家でハエトリグモが居たらバアルがお礼を言いに行った証拠ですので何卒殺さず御容赦を…。
ティリア様から耳打ちされた言葉はとてもじゃない
ですが言えません…!
「ユムル、心を鬼にしなさい。
大丈夫、あの子は悪い言葉の方が悦んじゃうから。」
「でも…」
言い淀むとシトリさんが心配そうに私の手をとります。
「ご主人様?どうなされたのです?
まさかティリア様に何か言われたのですか?」
「ちょっと、そんな訳無いでしょお馬鹿!」
「もっと酷い口調でお願いします!」
シトリさん、本気のお顔です…。
「あぁああ…ったくほらねユムル。
全く傷付いてないから大丈夫よ。
…ユムルにはこういった方が良いかしら?
ユムル、シトリの為に言ってあげて。」
そんなことを言われては…言うしか…っ!
「う…そ、それでは…シトリさん。」
「はいっ!」
シトリさんにワンコさんの黒いお耳と尻尾が見えます。尻尾凄く揺れてます!!そんな彼に…私は今から酷い事を言います!ごめんなさい!
大きく息を吸って…
「こ、このだけんがっ!!」
ど、どうでしょうか!我ながら最悪な人間になったと思いますが!シトリさんは…
「へ。」
ま…
真顔…ですっ…!!尻尾も動きを止めています!
あぁ、なんて酷い事を…。
「ご主人様…」
声が震えていらっしゃる…本当に申し訳な
「もっと蔑んだ感じでお願いします!
可愛らしさが勝るのも良いですがボクは冷酷な感じで言われたいっ!!」
…なんと、ダメージを受けていらっしゃらないようです。するとティリア様が小さく息を吐き、彼の尻尾をむんずと掴む。幻覚じゃありませんでした。
「きゃんっ!!」
少し可愛らしいお声です。
「あら、良い声で啼くじゃないの。」
「し、尻尾はおやめくださ…」
「は?」
悪い顔のティリア様はもっと力強く握ります。
「ふぎゃっ!!」
「ユムル、シトリが変な風に暴走したらこうやって
犬の尻尾掴むのよ。興奮すると出るから。大型犬くらい大きな尻尾だからユムルなら両手で掴めるわね。」
「は、はい!」
「く…っ…ご主人様に教えるなんて…っ」
「ほら、早速やってみなさい。
やれるようになってね。」
ティリア様に促され、実際にやってみることに。
「失礼しますっ!」
「はぅっ」
「!」
苦しそうな声につい手を離してしまいました。
「ちょっとユムル離しちゃ…ユムル?」
「ご、ご主人様?」
「やっぱりシトリさん苦しそうですから嫌です。
貴方の嫌がる事はしたくありません。
尻尾、触られるの嫌なのですよね。」
「そ、それは…」
シトリさんのワンコさんお耳は正直で、ペタンと垂れてしまいました。
「私も貴方を口や暴力で傷付けるのは嫌です。
たとえ貴方がそれで喜ぶのだとしても。」
私は暴力が嫌だった、怖かった、辛かった。
シトリさんはそうではないのでしょうが…綺麗な白いお肌に傷が付くのは見たくありません。
「私は別の方法で喜ばせたい。シトリさんが私のワンコさんなら…言う事聞いてくださいますか?」
「ご、ご主人様…」
「ユムル…貴女ってば本当に優しいのね。」
ティリア様が私の頭を撫でて下さる。
優しいのでしょうか、私。
疑問に思っているとシトリさんは跪き私の手を掬いました。
「ごしゅじんさま……
このシトリ、永遠に貴女の狗でございます!
貴女様はサディストなる気質があると見ました!
願わくばそれを自覚し開花して頂きたく!」
「さ、さでぃすと?」
?を浮かべた瞬間、アズィールさんがシトリさんの背後に回って本で叩きました。
「うぐっ!」
「ユムル様にこれ以上変な言葉を教えんな!!」
シトリさん、気絶…。動かなくなりました。
「ナイスよアズ。噴水に沈めといて。」
「えぇー若様も手伝って下さいよ!
コイツ無駄に足長いし運びにくいんす!」
「知らないわ。頑張んなさい。」
「えぇー…?
チュチュ、足持つだけで良いから手伝ってくれ…。」
「分かった!」
アズィールさんとチュチュさんは2人がかりで
シトリさんを運ばれました。…大丈夫でしょうか。
「はぁ…」
ティリア様は溜息を吐いてます。あ、そうか。
お仕事なさっていたのですものね。何かせねば!
「ティリア様、お仕事お疲れ様でございました。
宜しければどこかお座りになって下さい!」
「大丈夫よこのくらい。気持ちだけで十ぶ」
「いいえ!お座り下さい!」
「は、はい…。ど、何処に座ればいいかしら…。」
「あ、えと…べ、ベッドに…?」
「分かったわ。」
ティリア様は浅くベッドに座って下さった。
私はティリア様の前で膝をつく。
「ありがとうございます。
えー…と……お仕事終わりのティリア様に何か致したいのですが……な、何かご希望はありますか?」
自分が思いつかずティリア様に投げるという最悪な奴です私…。
ですがティリア様は真面目に考えてくださる。
「あら、そうなの?うーんそうねぇ…。
貴女が傍に居てくれればそれで良いのだけど。」
「それはいけません。私が居るだけではダメです。
ティリア様の為に動きたいのです。」
何がよろしいか思いついていませんが!
「うーん…じゃあぎゅってして。
お疲れ様って言って。」
そう仰って手を広げるティリア様。
ティリア様の御要望とあれば!
「はい、失礼致します。」
横からぎゅっとして…
「む、違うわユムル。正面!」
「え?!あ、はい!」
しょ、正面…恥ずかしいですがこれもティリア様の為に…!ぎゅっとして…
「ティリア様、お疲れ様です。」
するとティリア様も私に手を回して下さる。
「ユムルもお掃除ありがとね。
その服で今度、アタシの部屋を頼めるかしら。」
「よ、喜んで!」
「無理せず、出来るだけで良いわ。
というのもアタシの部屋の掃除はベルしか許可してないの。だからベルがいつも掃除してくれるんだけど1人だと広いから大変ーって言われちゃって。」
ティリア様のお部屋…以前通して頂いたお部屋はとても広かったのですがお洋服置き場だったはずです。
という事はそれよりももっと広いはず…ですよね。
「だから前にアタシが居ないからって蜘蛛を使って掃除されてね、1匹大きな子がベルの元へ帰りそびれて
アタシと対面。驚いて悲鳴あげちゃったわ。」
「あらら…それはそれは…」
「それ以来蜘蛛使うの禁止にしたら怒っちゃって。ま、それでも綺麗にしてくれるのがベルなんだけどね。」
ティリア様はバアルさんを心から信頼していらっしゃるのですね。
「だからユムル、ベルの手助けしてくれる?」
「は、はい。私で良ければ。
でも、私で宜しいのですか?」
「貴女だからよ。」
「…」
そんな言い切って下さると…胸が熱くなります。
嬉しい…。
ガタッ
「え?」
扉の向こうから音が…
「…盗み聞きね。
聞かれて困るような事話してないから良いけど。」
「は、はい…。」
何方でしょう。チュチュさん、アズィールさんではなさそうです。それにバアルさんでもセレネさんでも…ウェパルさんでも無いはず…。
「ユムル、もう今日はお掃除しないでしょ?
服、作ってあげるわ。名残惜しいけど立って。
靴は脱いだままで良いわよ。」
「は、はい。」
言われるがまま立ってティリア様から数歩離れる。
「よし、じゃあ今回は…よいしょっ!」
ティリア様の杖が振られ、私の格好が変わりました。鏡を覗くと白がベースで紫色の短い上着のワンピースでした。後ろの方が丈が長く、裏地が見えるデザインです。…あれ?この裏地…星空の…
「気付いた?今日、人間界で一緒に買った布よ。
白のワンピースにボレロが紫だからあまり喧嘩しないかなって思ったけど…大成功ね。
とっても可愛いわ、ユムル。」
「す、凄いです…!とても凄い魔法です…!」
「ふふ、種明かしするって約束だったわね。
アタシは沢山の魔法が使えるんだけど…
特にこの魔法はアタシが頑張って生み出した魔法なの。」
ティリア様が生み出した魔法…。
凄いです、魔法は生み出せるのですね…!
「魔法で創った異空間に物を収納していて、布もその中にあるわ。それをまた別空間に取り出して自分の考えるイメージに合わせて形作って完成したものを目標に着させるの。」
「…そ、そうなのですね…!」
正直私の頭では理解できません!
「簡単に言うと別空間で服を作って着せてあげる魔法よ。」
「な、成程です!凄いです!」
それなら理解出来ます!
「小さい頃、ぬいぐるみとか人形の服がもっと欲しくていつの間にか出来たの。
それでママが喜んでくれたのが嬉しかった。」
「お母様…?」
ティリア様から初めて聞かせて頂くお母様の事。
私が見るティリア様のお顔は悲しそうで…でもどこか懐かしそうに思いを馳せているお顔でした。
「えぇ、アタシを愛してくれたとても優しいママよ。だからもっと喜ばせたかったから“いつかママの服を作って着せてあげる!”って言ったわけ。」
小さなティリア様は今と変わらずお優しいのですね。
流石ティリア様です。
「ママは嬉しいと言って笑ってくれた。
それが嬉しかった。…でも幼いアタシじゃ魔力も技術も足りなくて時間が掛かっちゃった。」
ティリア様の綺麗なお顔に影が落ちてしまいました。
お声が震えてしまっています。
「それでもママはずうっと待っててくれた。
でも恥ずかしい話、ママが生きている間に服は作れなかった。ママは身体が弱かったから。」
「…!」
という事はティリア様のお母様は…もう…
「ママにアタシの服を着せれたのは最初で最後。
弔いの為の服だった。ママは魔王であるパパの奥さんだから王族としてその為の服はもう用意されていたのだけど…」
ティリア様は力なく微笑みました。
無理していらっしゃるお顔なのがよく分かってしまいます。
「実はパパがね、何も知らないはずなのに…お前が着させろって…言ったの。」
「という事はお父様も…」
「えぇ、服の約束をパパも知ってたのよ。
多分ママが喋ったのね。パパはママを心から愛していたのはアタシも知ってるから。」
良いお話なのにティリア様は凄く辛そうです。
でも私は何と言えば良いか分かりません。
ご家族のお話にわかった口を効く訳にはいきません。
「…本当はパパが用意された王族の服を着させるはずなのに…それを無視してアタシが作った服を着せていいって言ってくれたの。」
弱々しく笑うティリア様は天を仰ぎました。
「本当に嬉しかった。それがアタシの記憶に残っている唯一優しかったパパなの。」
「…そうなのですね。」
「でも、ママが生きている間に作ってあげられなかったのが今でも後悔よ。…怒ってるかしら。」
普通に聞こえるとても悲しい声。
何故泣かないのでしょう。
ティリア様こそ泣いて良いのに…。
「ティリア様、私に語る資格などありませんが…
少しだけ、お耳を傾けて頂きたいのです。」
「?」
ティリア様のお母様、わかったような口を効いて申し訳ございません。ティリア様が悲しみにくれるのを少しでも防ぎたいのです。どうか罰は私のみにお願い致します。
「お母様は…嬉しかったと思いますよ。」
「何で?ママ、死んじゃったのよ?
服を着たのは死んじゃってからなのよ…?」
「私だったら死んだ後でも自分のために服を作ってくれて、着せてくれたら嬉しすぎて泣いてしまいます。
服を作って着せてくれるという約束を果たしてくれたのですから。」
「ママも…ユムルと同じ考えを持ってくれてたかしら。」
「私に絶対そうだ、とは言えませんが…こんなにもお優しいティリア様のお母様ですもの。私よりもそう思っていらっしゃるかもしれませんね。」
「っ……」
泣きそうなのに泣けていない…私が邪魔ですね。
「ティリア様、御手洗に行って参りますね。」
「………えぇ…いってらっしゃい…。」
「はい。」
部屋を出ようとしたその時、
「ユムル」
と名を呼ばれ
「…ありがとう。」
震える声で仰った。だから私は
「はい。」
と短い返事で部屋を出た。
…
ティリア様に必要なのはおひとりの時間。
扉の前で誰も入れないようにしないと。
…そういえば盗み聞きしていたのは何方でしょう。
「ねぇアンタ…」
女の子の声です。チュチュさんでもセレネさんでも
無さそうですね…横から?
右を見ると上の方で2つ結びをしている金髪の可愛らしいメイドさんが私を睨んでいました。
…睨まれてます。
あ、挨拶してなかったからでしょうか!
「あ、は、初めまして私はユムルで…」
「知ってるわよ。あたし…アンタのこと嫌い。」
嫌い。とはっきり言われてしまいました。
私はよく理由も告げられず家族に嫌いと言われておりましたので彼女もそういうことでしょうか。
「な、何か言いなさいよ。」
「え?あ、そうですか…。
とても残念ですが私のことをどうぞ虐げてくだ」
「嫌いなのはそういうとこよ!それに…」
「それに?」
彼女は手を震えるほど握りしめ
「ティリア様を独り占めしてんのが許せないのっ!!」
と言った。
「え。」
それは…
「いい!?あたしはアンタを認めてないから!
この城から出ていかせてやるわ!覚悟なさい!」
言うだけ言って踵を返してまいました。
私、お城から追い出されてしまうのでしょうか…?
次回、どうなるユムル!!




