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第19話『勝手に』

「来い…とは?」


瑀璢さんは左手を私に差し出しています。


「我が主が貴様の不思議な気配を感じて、ティリア様が見初めた者なら可愛い奴だろうから是非館へ招待したいと仰っていた。だから来い。」


表情筋をピクリとも動かさない瑀璢さんは至って大真面目です。が…


「お気持ちは嬉しいのですが…ティリア様と極力外には出ないとお約束を…申し訳ありませんが…。」


とお断りさせていただくと、瑀璢さんは


「ふむ、ならば仕方あるまい。」


と仰って黒い翼をバサッと動かしながら手を引いてくださった。良かった、お話がわかる方で…。


「チュチュ、バアルさんに急いで報告しろ!

多分ティリア様はお気付きだろうけど!」


「分かった!!気を付けてねアズ君!」


「おう!ティリア様が駆けつけるまでの辛抱だからな!失礼致します!」


アズィールさんは急ぐように私を抱えました。

お、お姫様抱っこです!


「あ、アズィールさん?!」


「しっかり掴まっていて下さい…ねっ!」


大きな蝙蝠のような翼を生やし、膝を曲げ足に力を込めたアズィールさん。次の瞬間、アズィールさんは瑀璢さんの真上を通るように飛び立った。


「えぇえ!!?」


「チッ…無理矢理連れていこうとしたのがバレたか。猫め、仕事を増やすな!!」


瑀璢さんが追ってきています!


「あ、アズィールさん!瑀璢様が!」


「くっそー!!妖種あやかししゅめ!!

まぁでも大丈夫ですよ!

貴女の事は俺が命に変えても守り抜きますから!」


「命はダメです!!」


「え」


「貴方の命は貴方が1番大切にする物です!

お願いですから無くさないで下さい!」


「ゆむ…お嬢様…。」


「ほう?珍しく命の重さが分かる者なのだな貴様。」


「「!!」」


瑀璢さん!先程まで後ろに居たのにもう真横へ…!?


「チッ…これだから妖種は!

お嬢様、まだまだしっかり掴まっていて下さいね!」


「は、はい!」


「おい猫!娘を渡せ!!」


「俺ライオンですし!!

妖種になんかやりませんよーだ!!」


くるりと横に旋回し軌道を変えます。


「きゃあ!」


「絶対落としませんから!」


「チィッ…早く戻らねばならぬと言うのに!」


?瑀璢さんが黒く光る分厚い団扇のような物を出しました。あれは…軍配団扇…?を少し分厚くした物のように見えます。


「アズィールさん、瑀璢さんが団扇のような物を!」


「えぇ!?マジっすか!?それはやべぇ!

俺火属性魔法しか得意じゃねぇんだけど!!」


「ふっ!!」


瑀璢様は団扇を天に掲げ、一気に振り下ろす。

刹那、1つの団扇から発生したとは信じられないほどの強風が吹き荒れました。


「うわぁああっ!!!」


「きゃあぁあっ!!」


アズィールさんは背中を強風で押されバランスを崩しくるくると回ります。落ちる…っ!


「絶対…落とすもんか!!」


「そうか、なら試してやろう。」


また…!今度は私の目の前に…。

瑀璢さんは団扇の側面で


アズィールさんの背中を力強く叩きつけた。


「がは…ッ!!」


「アズィールさ…きゃああ!!」


アズィールさんは墜落、茂みに!!


「く…ぅうっ!!」


彼は落ちる際に折れる枝や葉っぱから私の頭や身体を彼の身体、翼で守りながら落ちていってしまう。


「ぐぇっ!!」


地に激突したのはアズィールさんだけ。

私は彼が下敷きとなり身を呈して下さったお陰で地面にぶつからなかったです。此処は…森?


「っ…げほげほっ…せな…か…った…!!」


「アズィールさん!!」


背中を強く打ったせいで声が!!出血も!!


「ふむ、猫にしては口だけではなかったな。」


軽やかに着地した瑀璢さんは無表情でアズィールさんを見下します。


「おじょ…さ……下がって…ください…!」


アズィールさんはよろよろと起き上がり膝を付く状態で私を庇うように右手を広げます。


「でも!!」


「貴女を守るために俺が居るんですッ!!」


「っ!」


そう言われても…心配でなりません!


「猫、名は確か…アズィール=ヴァプラと言ったな。

我が主は命を取るような真似はなさらぬだろうが、心配なら貴様も共に来るが良い。」


「…は?」


え?今…共にと仰った…?アズィールさんと共に首を傾げると瑀璢さんも首を傾げた。


「聞こえなかったか?貴様も来るが良いと言った。」


「……いやいやいや、なら最初からそう言ってくださいよ…何で俺の事殴ったんです!??

てかこの時間無駄になりますよね!??」


「殴ったのは………殴りたかったから?」


「俺に聞くなっ!!と、兎に角俺とお嬢様はそっちへ行きません!!勝手なことしないで下さい!!

ティリア様に怒られても知りませんよ!」


「それは…」


「えぇ、そうね。

アタシとぉーーっても怒ってるの。ねぇ?ウル?」


こ、この声は…


「「ティリア様!!」」


私達と瑀璢さんの間で腕を組んでいるティリア様が突如現れました。


「アタシの可愛い使用人と大切な子を傷付けるとはいい度胸ね。魔王のアタシの物に手を出すなんて…。」


「…」


瑀璢さん、黙ってしまいました。

あ、目を逸らしています。


「アンタの主はわかってんのかしら。

アンタの勝手を。」


「…」


「言え。」


ティリア様の威圧に気圧され瑀璢さんは口を開きました。


「…知らない、はず。」


「ふーん…アンタが城に来たことはチュチュが教えてくれるよりも前に気付いてたのよ。アズとチュチュが居るからってベルが泳がせたの。」


アズィールさんが仰った通りご存知だったのですね。


「そしたらまぁ随分と勝手なことしてくれちゃって。アズがちゃんとこの子を守ってくれたから良いものの…この子を特に傷付けていたら…アンタ、今頃呼吸出来てないわよ。」


「っ…」


「アンタの主を城に直ぐに連れて来なさい。

さもなくば…()()アンタなら、分かってるわね?」


「……は。」


跪いた後に翼で飛び去った瑀璢さん。


「はぁあ〜…来るの遅いですよ若様ぁ。」


アズィールさんがぱたりと地面に倒れました。

それをクスクスと笑いながら見るティリア様。


「あら、もうティリア様じゃないの?」


「他人相手には名前の方がよく()()んですぅ。」


「あらそう。ユムル、貴女に怪我…は…」


私を見たら固まってしまいました。

…何か変な事が…?


「そ、その格好は一体どうしたの!!」


「え?あ。」


そういえば服そのままでした…!


「…(あちゃー…。)」


「…いいわ、取り敢えず城に帰るわよ。

アズ、もう動けるでしょ。ユムルを丁重に運びなさい。」


そう仰ると紫に渦巻く空間を翳した手から生み出したティリア様。そのまま振り向かず先に行ってしまわれた。


「かっ畏まりました。ユムル様。」


いつもなら歩けると断りますが今のティリア様はお怒りだからか少し怖い。

歩ける自信が無いのでアズィールさんに抱えていただこう。


「は、はい…お願いします、アズィールさん。」


「はい。」


紫の空間を潜ったらすぐお城の中のホールへ戻ってきました。凄い…。

先に行かれたティリア様はやっと、私の顔を見てくださった。アズィールさんはそれに気付いて私を優しく下ろしてくださる。


「ユムル。」


「は、はい…。」


勝手なことをしたからお、怒られる…!

私が悪いことをしたから…!


「…そんなに震えないで。アタシはね、貴女がしたいことを心置き無くやって欲しいと思ってるわ。」


考えとは対照的にティリア様は勝手なことをした私を叱らず、屈んで目を合わせて微笑んでくださいました。


「でもコレは別だった。だから言ったのよ?本当に驚いたわ、貴女がアタシの言うこと聞かないなんて。」


「す、すみません!処罰は何でも…」


「馬鹿ね、罰するわけないでしょう。

貴女はアタシや使用人達の事を思ってくれたのでしょう?だから実行した。違う?」


「…それは…」


でも私が動いていないと落ち着かないという自分の為でもあります。だからコレは…


「置いてもらっているのだから自分も何かしたい、

優しい貴女はそう思っているのでしょう?

というか言ってたし。」


「…はい…。」


ティリア様は私の自己中心的な考えを綺麗な言葉にして下さっています。


「貴女が本気なのだとちゃんと分かったわ。

だから程々になら許可します。」


「ティリア様…!」


「ただし!やりすぎは厳禁!

掃除をする時は必ず使用人の目が届く範囲だけ!

危険な場所はやらないこと!使用人達が掃除終わってと言ったらちゃんと止めること!…約束できる?」


何故勝手なことをした私を許して下さり、尚も心配して下さるのでしょう…。


「うぅ…っ…」


「!!?ゆ、ユムル!?

あ、アタシまた何か嫌な事を言っちゃった!??

あぁ、泣かないで可愛いユムル!!」


「うぅううっ…」


早く泣き止まないと余計な心配をかけてしまう!!

なのに、なのに止まりません…!!

ティリア様はそんな私の背中を優しく摩って下さる。


「っはは…若様、ユムル様なら大丈夫ですよ。」


「……そうね、アズ。

アンタもユムルを守ってくれてありがとね。」


「いえいえ。だって若様気付いてんのに来ないから…あ、コレはバアルさんに何か言われたなって思って。」


「えぇ。お嬢様を餌にアズィールとチュチュのテストをしますから動かないでくださいーって言われちゃって魔法じゃなく物理で拘束されてたの。

アタシを縛るとはいい度胸してるわよ全く。」


「うーわ…。」


「アンタ傷だらけだからセレネに治して貰いなさいね。それとユムル?」


私が泣き止んだことにお気付きのティリア様はまた屈んで目線を合わせてくださる。


「は、はい。」


「この服、誰の?」


「バアルさんに言われたチュチュさんが…持ってきて下さいました…。」


「そーう。」


あれ、ティリア様…少し怒っていらっしゃる?


「てぃ、ティリア様…まだお怒りですか…?」


「…えぇ、少し怒ってるわ。」


やっぱり…!


「い、如何なる処罰を受けますので…その」


「違うわユムル。貴女に怒ってんじゃないの。」


ティリア様は魔法で白銀の呼び鈴を取り出して鳴らしました。


「バアル=アラクネリア、此処に。」


跪いた姿勢で現れたバアルさんに冷たい視線を下すティリア様。


「ベル。」


「はい。」


「チュチュにユムルのメイド服持ってこさせたの

アンタ?」


「左様でございますが。」


「〜〜っ!!アンタねぇ!!ユムルの服の丈おかしいと思わないの!!?スカート短すぎ!!」


ティリア様に胸ぐらを掴まれたバアルさんですが顔が無表情です!!


「そう言われましても。

チュチュやセレネもあの丈ですが。」


「あの子達より何故か1cm短いのよ!!簡単にユムルの肌を露出させないでちょうだい!!主に足!!

皆がメロメロになってユムルに恋心抱いちゃったらどーすんのよッ!!!」


「はぁそうですか。別に問題ないと思われますが。」


冷めてます…!!


「んもう!

ユムル専用のメイド服作らなきゃ!それ!」


バアルさんから手を離し、私に向かって杖を振ったティリア様。するとスカート丈が膝より下になり、ヘッドドレスやエプロンフリルは黒、生地は赤紫になりました。


「わぁ…!」


「うんうん!流石アタシ!似合っているわユムル!

ほら、ベル、アズ!何か言いなさい!」


「お似合いですよ、お嬢様。」


本当に思っていらっしゃるのか分からないほどの真顔なバアルさん。


「とっっても似合ってますよ!ユムル様!」


とっても良い笑顔で褒めてくださるアズィールさん。あ、褒めているのはティリア様が作ってくださった服ですよね。するとティリア様は私の背中に手を置いてぎゅっとしてくださる。


「っふふふ…あ、そうだ。ベル、アイツが来るわ。」


「アイツ…?瑀璢殿ではなく?」


「えぇ、彼の主が来るわ。アタシを怒らせた罰で。」


無表情だったバアルさんはクスと笑って悪い顔になります。


「おやおやあのお方が…。という事は瑀璢殿は坊ちゃんを本当に怒らせたのですか。

ふふっ…では、良い茶葉で紅茶を淹れましょう。」


バアルさんの表情に少々引いたティリア様はアズィールさんに視線を向ける。


「アズ、ウルはなんて言ってた?」


「確か…元々は偵察で来たらしいです。んで、彼の主が不思議な気配を感じたらしく…若様が見初めた方なら可愛いから館へ招きたい的な事言ってました。」


「みそ…っ!」


私をぎゅっとする力が強くなりました。


「……ふ、ふん!アイツ分かってんじゃないの。

ベル、アズ。アイツが着き次第客室へ連れて来なさい。」


「「畏まりました。」」


「ユムル、ウルの主が来る時、一緒に居てくれる?」


「よ、よろこんで!」


「ありがとう、じゃあその姿のまま客室へ行きましょう。」


「…え?」


この姿のまま?

バアルはスカート丈でティリア様に怒られていた際、(変態だ…)と引いていました。

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