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第15話『人間事情』

前話にえげつないほどの誤字脱字を発見し直しました!もし見てくださった方がいらっしゃったのならすみません!新しくなった前話をお願い致します!

「…座りなさい。」


「はーい、失礼します。」


アタシはルルを城に入れ、客室へと招いた。

相変わらず口角は上がったままで何考えているか分からない。そんなルルはキョロキョロと辺りを見回す。


「此処は匂いが薄いですねぇ。

あの子を入れてないのかな?」


「…で、苦情って言ったわね。」


「あーんいけず!世間話くらいしましょーよ。」


「アンタもアタシも暇じゃないでしょ。」


「まぁ否定はしません。…()()()()()()()の指揮官だった私からすると鼻が痛くなるほど美味しそうな匂いがするんですよねあの子から。」


苦情…ユムルの事というのは嘘じゃなさそうね。


「部下も同様で今の仕事に手がつかなくなる奴まで出てしまう始末です。匂いが現れた昨日から。」


ん?…しかもルルの部下は……まぁ良い。

大目に見てあげるから好きに喋れば良いわ。


「疑問に思っていた時に私の鼻が城を嗅ぎつけあのお嬢ちゃんからだという事が判明しました。

魔王の貴方があの子を城に入れるなんてどういう事ですか?下手すると()()()()が来ますよ。」


「…。」


相変わらずよく回る舌だこと。

アイツらにユムルを渡しはしない。それに…


「その為のアンタ達でしょ。」


少し嫌味っぽく言っても気にせずにこやかに頷いたルル。


「えぇ、その通りです。先代が創り上げた人間殲滅部隊を解散させて別の組織に作り替えるなんて思いもしませんでしたからね。」


人間殲滅部隊。

パパが作り上げた文字通り人間を殲滅する為の部隊。

何故そんなものを作ったのか分からないし分かりたくもない。平和を望むアタシにとって邪魔でしかないそれを解散させるのは当たり前でしょう。ルルも分かって言っているから腹が立つ。


「暴れられることには変わりませんし私は面白そうで良かったと思ってますけどね。」


本心で言ってるのがむかつく。


「…アタシはあの子と生きると約束したの。

魔王として約束は守るわ。」


「約束、ねぇ…。貴方なら契約もアリだったんじゃないのですか?だって…


人間でしょう?あの子。」


「…!」


やっぱり勘づいていたか。

でも何故ルルが知っているの?

ルルも部下達も城の悪魔種じゃないから昨日のパーティーには出ていない。それにアタシはユムルに魔法を施しているから外部が知る由もないはずなのに…。


「悪魔種である私達にとっては()()()()です。あの子、利害一致で貴方について来たのでしょ?なら契約もしやすい。」


契約…そろそろ口を閉じさせるべきかしら。


「お嬢ちゃんの願いを叶えて、代償として約束ごとお嬢ちゃんを食べちゃえばそれで終わりじゃないですか。」


アタシが?ユムルを…食べるですって?


そんな事、考えられない。有り得ない。許さない。

だってそんなアタシなんて美しくないもの。

ユムルには隣で笑っていて欲しいもの。

契約なんてしてしまったらあの子を苦しめる。

それは嫌。絶対に嫌。

アタシが嫌がるのを分かって提案してくるなんて…


「…アンタ、アタシをイラつかせる為に態々来たの?」


「まさか!それが目的だったら最初からお嬢ちゃんを狙って何かしますよ♡」


彼が話すだけでブチブチと千切れていた堪忍袋の緒が最後の細い糸1本のところで耐えている。

それが切れたらブチギレる。


「あ、そう。そうしたらアンタは何処が遺るのかしらね?目玉1つだけは残してあげましょうか。」


「目玉は2つで存在意味を成すのですよ?」


「っふふふ…おかしな事を言うのね?

情で目玉一つだけ遺してあげるって言ったの。

本来なら灰すら遺さないのよアタシ。」


「(坊ちゃんがイライラし始めている。

…少し厄介だぞ。)」


ベルのあの視線は面倒くさがっている時の目ね。


「ベル、何か言いたいことがあるなら口に出しなさい。」


「いえ、何も。」


コイツ…。あぁムカつく!でもユムルの為に冷静を欠いてはならないのよティリア!

気を取り直して聞きたいことを聞くのよっ!冷静に!


「ルル、1つ聞きたいのだけど。」


「何なりと。」


「あの子の名前を知って何する気だったの。」


アタシの問に首を傾げたりとすっとぼけるような素振りを見せるルル。ダメよ、挑発に乗ったらダメ!

ルルは薄ら笑いで自分の顎に手を当てた。


「いいえ?別に何も。ただ単にあの子の名前が気になっただけですから。」


嘘がない。あの笑顔の裏に何も仕組まれていないのが薄気味悪い。


「いくら人間殲滅部隊とは言えど元ですし、名前を使って呪い殺すのは飽きましたから。貴方の考えているような事はしようとしてませんよ。」


悪魔種は力も魔法も強い。

ルルは体術も心得ているくせに人間相手には昔から魔法を、呪いを使いたがる。

だからユムルが狙われるかもしれない。

手を出される前に殺す…。


「最も、したら分かって私を殺すでしょ?

貴方自身が証拠じゃないですか。」


「〜〜っ…!」


いちいち言い方と表情が腹立つ!!

やっぱ1回殴ってやろうかしら!


「それでティリア様。どう解決なさるおつもりですか?私の部下があの子を襲っちゃうかもしれませんよ?」


部下じゃなくてアンタがでしょうが。


「…部隊のヤツら(アンタ達)は人間が嫌いだったり戦うのが好きな奴の集まり。」


ルルは後者。腐ってもパパが選んだ奴らの集まりだから戦闘能力が特化しているのは最低条件。

そんな奴らの中でも魔界全体でもパパが1番強かったから手綱を握れていた。

その手綱を今はルルが握ってアタシに向けている。

首輪が付いているソイツらの顔を。

…でもそれだけ。

一度の嘘とこれまでの話でルルがしたい事が分かった。良いわ、乗ってあげる。


「アタシへの不満があるのでしょう?

アタシの大切なものと分かってあの子を欲しがる振りが出来るアンタだけにね。違う?」


「…。」


組んだ指の上に顎を乗せて笑ってるなんて…。

流石他人事。

ルル、アンタはどうやってか知らないけどユムルの事を知った。それで最初からアタシをおちょくりたいだけでしょ。

部下が、と言っていたくせに自分の事を話すし、

そもそも部下の為に動くような奴じゃないもの。


「アタシの魔法がアンタの部下に分かるわけが無い。服も、お風呂の洗剤も全て人間の匂いを消すためのものなのだから。」


ルルは上位の悪魔種。部下は下位の悪魔種や悪魔種ですらない元人間を付かせている。

高位でもないのに匂いなんて感じるわけが無い。

感じられるのはルルのような高位の者のみ。


「ルル、ダウトよ。もう沢山話したでしょ?

満足したなら帰ってちょうだい。」


足を組み替え、少し威圧的にルルを見下げる。

それでもルルはニコニコとしたまま顔色1つ変えない。


「…バレたかぁ。

いやぁティリア様には敵わないっすわぁ。」


「ふん、このアタシに嘘吐いたのがわる」


「なんて。仕事が手につかない、は嘘ですが部下が匂いに気づいているのは本当ですよ。」


何ですって…?

あの時、確かに仕事が手につかないのと匂いの話が同時に出て嘘だと理解した。

…まさか片方のことだけだったの…!?


「お気づきでないなんて人間への嫌悪感が無いせいで鼻が阿呆になってるとか?」


ルルの言葉にベルが食らいつく。


「ルルメル=レヴィアタン、貴様…先程から黙っていれば魔王様に向かってなんと言う口を…!」


「ベル、待ちなさい。」


「しかし…」


「このアタシが待てと言ってんのよ。」


「っ……畏まりました。」


ありがとう、ベル。アタシを思ってくれて。

ベルからルルに視線を変えた。ユムルの為に逆ギレと思われてもやらなくちゃ。怖めに、怖めに…。

今までの話を無かったことにするほど怖めに…。


魔王(この私)に意見するならば死の覚悟を持って来い。世界の全てが敵になろうが私はあの子の隣に居続ける。」


「っ」


「貴様の無礼を許すのもこれが最後だ。

最初の死体に立候補するなら叶えてやろうか。」


「…っ(なんと言う…凄まじい威圧…!

立っているのもやっとなくらいだ…。

坊ちゃんはあちらに座られているのに、目の前で頭を上から押さえつけられ、首を締められている感覚だ…。)」


あらやだ、ベルったらそんなに顔面蒼白にならなくても良いのに。そうなって欲しいのはルルなのだけど。…あ、良かった。震えてくれてる。

ルルは顔を引き攣らせながらもヘラヘラとし続ける。


「っ…や、やだなぁ…そんな敵意剥き出しにしないで下さいよ…。

いくら貴方が歳下でも怖いものは怖いですわぁ…。」


そうだった、ルルってこんなだけどアタシより歳上なんだった。威厳とか無いわね。

ルルは溜息を吐いて頬を掻く。


「分かりました、貴方に逆らうつもりは微塵もないですし、お嬢ちゃんについては黙っておきます。」


ふん、最初からそうしてれば良いのよ。

匂い対策はもうちょっと精度上げるか…。


「でもティリア様、分かってるでしょ?

生きた人間を魔界に連れて来た事が知られたら天界も動くかもしれませんよ?よく分かんないですけど。」


声震えてたの最初だけじゃない。

…もしかして演技じゃないでしょうね。


「その為のアンタ達よ。暴れる機会が増えるかもしれないし頑張ってくれればそれ相応の対価を払うわ。」


「はぁい。…ん?」


ルルが突然扉に目を向ける。何かあったかし…


「ティリア様!!」


「いけませんゆむっ…じゃねぇ、お嬢様!」


「ゆ…っ!!」


いけない名前を言うところだったわ!

ユムルとアズィールが何で此処に!?

あの子に場所は教えていないはずよ!


「申し訳ありません若様!!

お嬢様が急に走り出して!あ、ちょっと!」


ユムルは細い手でアズの手を振り払ってアタシに駆け寄ってくれた。


「ティリア様、お怪我はありませんか!?」


「けっ怪我?な、何で…?」


「こ、怖い感じがしたからです!

ティリア様が危ないかもって…思って…身体が勝手に……」


必死な顔から段々と静かに俯いてしまうユムル。

アタシを心配して来てくれたの…!?


「すみませんっ!!お邪魔してしまって!!

すぐに戻りま」


待ってユムル!!

そう思うと同時にアタシはユムルの袖を引っ張り、

彼女を抱きしめていた。


「きゃっ」


「はーーっ嬉しすぎて涙が出ちゃうっ!!

ありがとうねユムル!!あーもう貴女って子はほんっとうに良い子なんだからーっ!!!」


温かい気持ちが溢れて止まらないわ!!

嬉しいってこんな感情だったかしら!!

キュンキュンするわーっ!!


「若様っ!!」 「坊ちゃん!!」


アズとベルが頭を抱えた。え?アタシ何かした?

ベルの視線がルルに流れる。

その視線を追うとルルがニコニコと笑っていた。


「へぇ〜ユムルちゃんかぁ!可愛い名前だね!」


何で名前知って…(記憶遡り中…。)


「あーーーっ!!!」


アタシったらユムルの名前を言っちゃったのね!??

なんと言う馬鹿なのアタシ!!


「だーかーらぁ、何もしませんって!

じゃあね、ユムルちゃん。

ティリア様といつまでも熱々でいてくださいねー!」


「は、はぁ!?」


首を傾げるユムルに笑顔を見せ、ばいばーいと手を振って部屋を退出するルルを見つめる事しか出来ない。


「…ティリア様、わ、私…

何か変なことをしてしまいましたか…??」


「そんな訳無いでしょう!

アタシを心配してくれたの嬉しかったのよ!!

でも無理しないで。」


抱きしめると全てを隠せてしまう貴女はか弱いのに自らの危険を省みず来てくれた。

なんと良い子なのだろう。そんな貴女に安心して欲しい。アタシは貴女を護るから。


「アタシは魔王。そう簡単に斃ってたまるもんですか!貴女の隣に居続ける事を決めた…護るものがある奴の強さを舐めたらいけないわよ?」


「そんな、舐めてません!でも良かったです…。

ティリア様がご無事で…。」


細い腕でアタシに抱きついてくれるユムル。

あぁ、なんて可愛いの…!


「心配かけてごめんね?よし!厄介者も帰ったわけだしお茶しましょ!ベル、アズ、用意して!」


「「畏まりました。」」


「あ、私も手伝っ」


「行かせない。

お願い、もうちょっとこのまま…」


ユムルが消えちゃいそうで不安になってきたわ…。

ユムルの事を()使()()()に嗅ぎつけられないようにしないと…!ユムルを絶対に幸せにしてみせる!その為ならアタシは…


「ティリア様?」


「っ…なぁにユムル。アタシはまだユムルをぎゅーってし足りないわよ?」


「そ、それは…是非心ゆくまでぎゅっとして下さい…!

あの、そうでなく…ティリア様…先程から難しいお顔をしてらしたので考え事かなぁ…と、思って…。」


「大丈夫よユムル。アタシには貴女が居てくれれば良いの。笑顔だったら尚良し!」


「ぜ、善処します…!」


あぁ、貴女を護りたいって強く思うわ。

懐かしいこの気持ち。


だからこそ、消えてしまいそうで怖いの。


これからもずっと傍に居て、ユムル。

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