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第3話「お慕い申し上げておりますわ」②

 春太は受け取ったペットボトルの蓋をすぐ様開けると、「プシュ」っと炭酸の抜ける音が鳴る。

 そして迷うことなく一息で3分の1ほどの量を飲み干すと、あることに気が付いて口を離した。


「……ん、兄ちゃん、あれなに?」

「あれ?」


 春太の指さす方向はテレビ横の小ダンスの上。

 響が各地で集めたガチャ景品のコレクションが不揃いに並んでいる。


 しかし、指先を視線で丁寧になぞると、どうもそれらの最奥に佇む洋館を指しているように思えた。


「あれは……アレだよ。ガチャの景品だよ。」

「えぇ、あのでっかいのが?」

「いや、うん……そうかもしれないね。」


 春太が青山宅に上がるのは実のところ初めてのことではない。

 なので、響がガチャグッズをコレクションしているのは既に春太の知るところではあった。


 だからこそ、隅で異彩を放つ“そんなはずない”ものに興味を奪われるのは仕方のないことなのかもしれない。


「ねぇねぇ、兄ちゃん。見てもいい?」

「えっ、べ、別にいいけど?」


 承諾を受けて立ち上がる春太に一抹の不安を覚える。


 その洋館は、主が不在といえど、獣の住処であることに間違いはない。

 洋館の内部や外観を見られたとて正直どうということはないが、彼はまだ少年。予想もしない動きを見せて、眠れる獅子を叩き起こすのではないかという予感がよぎった。


「変に触って壊すなよー……。」


 既に洋館の元にたどり着いて手に触れる春太の背中に、何となく小声で投げかける。


 しかし、当の春太には声が届かず、ボソボソと何かを呟きながら一人の世界に入り込んでしまっているようだった。


「兄ちゃん、すごいこれ。」

「な、何が?」

「これね、“スターレンジャー”の23話に出てきたおうちにすっごい似てる。」

「“スターレンジャー”?」

「これ!スターレッドがね、すっごいかっこよかったんだよ!!」


 春太は突然口を開いたかと思うと、ずっと大事に握りしめていた戦隊モノのレッドのソフビ人形をこちらに誇らしげに掲げる。

 

 スターレンジャー。

 一年前に放映していた一世代前の戦隊モノの特撮。


 玩具を販売する仕事をしていると、そのものを見ていなくとも自然と関連商品で知識を得てしまう。

 脳に散らばった記憶を手繰り寄せて、響はスターレンジャーがどういうものだったかを思い出す。


「あぁ、確か星を題材にしてるアレか。」

「そう、そのレッドがね、かっこいいんだぁ。」


 嬉しげに春太は言うが、しかし、実際のところその売り上げは奮わなかった。

 春太のようなファンは確かにいたのかもしれないが、一年前の当時は、同じく朝に放映していた魔法少女モノのアニメが爆発的な人気を博し、売り上げも大きく偏っていたように思える。


 だからなんだという話ではあるが、噂ではスターレンジャーの評判自体も芳しくなく、史上初の“打ち切り”になったとか。

 コアなファンはともかく、今でもそんな戦隊のファンを続ける春太は随分珍しいのかもしれない。


「へぇ、どういう風にかっこよかったんだ?その…23話は。」


 世論がどうだったとしても、春太は自分が去年好きだったものを今でも大事にしている。

 若干色あせて見えるソフビ人形は、いくつかの傷を残しながらも大切にされているのが分かる。


 何だか春太が微笑ましくなって、響は続きを促した。


「えっとね、23話は他のみんなバラバラにされちゃって、レッドだけが怪人バクダーンのところにたどり着くんだ。」


 春太は手に持った人形を動かして、分かりやすくこちらに伝えようとする。


「そんでね、何とかこのでっかいおうちに追い詰めるんだけど。バクダーンは体中に爆弾を巻いてレッドを攻撃できないようにするんだ。」

「なんか怪人っぽくないな。」

「だけどね、レッドは何とか隙間を見つけて爆弾に触れないようにバクダーンを倒すんだけど、爆弾はもう10秒で爆発しちゃいそうなの!」

「自分で巻いて時限式だったのか。」

「レッドは爆弾の解除?の仕方は知らないし、もう時間もなかったから、せめて爆発の被害を抑えるためにおうちに突っ込むんだ!!」


 そう言うと、春太は人形の手足を曲げ、キックをするようなポーズをとらせる。


「必殺、さつりくキックを使って勢いよくこう!!」


 響は内心馬鹿馬鹿しい内容だな、と思いつつもただ少年の話を聞いているだけだった。


 しかし、説明に次第に熱が入る春太を見て、子供らしいと思ってたのも束の間。

 必殺名を聞いて「なんつー物騒な名前なんだ」などと鼻で笑ううちに、スターレッドは春太の掛け声と共に止める間も無く洋館の屋根を勢いよく貫いて内部に消えていった。


「お、おまっ、何してんだ!?」


 衝撃で崩れた破片が、周囲のガチャグッズをなぎ倒す。洋館の折れた小さな破片が弾みで飛んで、響の頬に当たって落ちる。

 そんな中、春太はその中心で満足そうにただ笑っていた。


「そう、こんな感じにバーンてなった!」

「バーンと違うわ!おま、お前…取り敢えずどこもケガとかしてないか!?」


 駆け寄って春太の手を取る。

 洋館は部分によって崩れたり折れたりと、燦々たる様相だったため、春太がどこか切ったりしていないかと隅々まで確認した。


「兄ちゃん、どうしたの?」

「いや、よかった、どこも切ってはいないみたいだな。」


 幸い、どこにも傷はなくほっと胸を撫で下ろす。

 急に来た緊張が解け、安心した流れで横目で見た、洋館内部の破片塗れのベッドに上手いこと横たわるスターレッド。

 今は叱らなければならない場面なのかもしれないが、どうしてか笑いがこみ上げてきて隠すように手で口を覆った。


「よかった……なわけあるかーい!何してくれてんですか、どうしてくれんですか!?」


 ハッとした時にはもう遅く、フードから小さい影が飛び出して、喚きながらベッドで横たわるスターレッドを蹴り飛ばす。


「スターレッド!」


 春太は壁に当たってタンス上を滑る人形を落ちる前に何とか捕まえると、傷がないかすぐ様確認した。


「数日かけて整えた我が家が見るも無残な姿に……!」

「な、何してんだ!バレちまってもいいのか!?」

「酷い、こんなの酷いです……!」


 ここ数日間、ヨンロクが特筆する物もない我が家から様々を引っ張りだし、DIYをするように工夫して家内を彩っているのは知っていた。

 だから、気持ちが落ち込むのは分かる。気の毒だとも思う。実際今そうしているように、手と膝をついて嘆きたいのも分かる。

 しかし、それによって現状が更に面倒なことになるのは考えるまでもないことだった。


「いいから、後で一緒に直してやるからこっちに———」

「この、バクダーンめ!お返しだぁー!!」


 とにかく、まずはヨンロクを確保しようと手を伸ばした矢先。

 目の前を素早く春太が通り過ぎて、廃墟と言って差し支えのない洋館の横っ腹をスターレッドを握った拳で殴る。

 それは、もはやスターレッドの技でも何でもなく、春太自身が繰り出す“さつりくパンチ”だった。


 その衝撃で洋館が完全に崩れ始める様をどこかスローモーションに感じながら、響は「終わった」と小さく呟いた。


 壁が崩れて中に“バクダーン”がいないことを確認すると、春太はガッツポーズをとる。


「やった!バクダーンを倒したぞ!」

「このクソガキ!!」


 飛びかかるヨンロクを、すんでのところで響は捉える。

 右手に囚われたヨンロクは響の掌にそのまま噛みつくと、声にならない金切り声を上げた。


「痛ッ————!!」

「兄ちゃん?」

「……なんでもない。なんでもないよぉ……!」


 痛い。凄まじく痛いが声を上げる訳にはいかない。その原因を探られる訳にはいかない。

 口を塞がれたヨンロクをチラリと見ると、声にならないながらも「殺してやる」と物騒なことを呟いている。

 それを見て、どうなろうと、これは世間の目に触れてはいけないものだと響は確信した。 


「あれ、そんな人形あったっけ?」


 隠そうとしてもヨンロク自身は掌で収まるサイズではなく、捕まえたままのポーズで固まっていては当然その手に握られるものに注目が集まる。


「いや、これは、なんて言うか、その。」


 さて、どうしたものかと無い思考を高速で巡らせる。

 状況が二転三転しすぎて、正直これをどう収集していいものか分からない。

 分からないが打開しなければどうにもならない。


 焦りから出た汗が一滴頬を伝う。

 そうして、とにかく、分からないからヨンロクを勢いよくシンクの方にでも投げようかと思い至ったところで、再び訪問者を知らせるチャイムが室内に響き渡った。


「だ、誰だ、こんな時に……。」


 いや、これはある意味救いだ。天恵と言って相違ない。

 何より、今よりややこしいことになることはないだろう。


 響は咳をひとつ小さく払うと、疑問符を浮かべる春太を残して玄関に向かう。

 その道中でヨンロクをフードの中へ仕舞い直すと、声もかけず、覗き窓で確認することもなく玄関のドアを開けた。



「こんにちは、青山さん。……あの、肉じゃが、作りましたの。」


 そこに立っていたのは豊満な胸を強調するかのようなタートルネックを着こなした細身で長身の女性。

 腰まで届くしなやかな長髪の隙間から、細めた目と泣きぼくろが覗く。


 胸の辺りで両手で持った小鍋から、食欲をそそる“できたて”の香りが響の鼻腔を刺激する。

 面を食らっている響を見て、女性は小首を傾げてくすりと笑う。


「い、一ノ瀬……さん?」

「いやですわ、一ノ瀬だなんて他人行儀な。すみれとお呼びいただいてもよろしいのですよ?」

「いや……はは。」

「春ちゃん、お邪魔しているのでしょう?いつもご迷惑をおかけしてごめんなさいね。」


 弱々しく、今にも消え入りそうな細い声で、女性は言う。


 控え目に言っても美人である女性の名前は一ノ瀬すみれ。説明するまでもなく一ノ瀬春太の母親で、102号室、一ノ瀬宅の一家の主だ。

 数年前、響が越してくるよりも前に夫を病気で亡くしたすみれは、女手ひとつで春太を育て続けている。

 詳しくなど聞けるはずもないが、少なくとも同じ社会人である響は、その苦労を察するところだった。


 しかし、同時に響はこの女性に対してどうも苦手意識を持っていた。


「お母さん?」


 母の声に反応して室内奥から春太が顔を出す。

 春太が母の訪問に気付いて元気よく手を振ると、すみれは響の顔の隙間から微笑んで返した。


「えっと…迷惑だなんてことは、ないですよ。春太君も、友達みたいに思って遊びに来ているだけですし。」

「まぁ、ありがとうございます。ですが、青山さんが快く思ってくださっても、ご迷惑をかけていることに変わりはありません。春ちゃんの母として、何もお返しできるものはありませんが、よろしければと思って、これを。」


 そう言ってすみれは肉じゃがの入った小鍋を響に渡す。

 微笑むすみれと対照的に、響は口角を引きつらせる。

 響は、たじろいながらも鍋を受け取って、ぎこちない口調で「いつも、ありがとうございます」と小さく頭を下げた。


「——あら、あらあら。お部屋、随分散らかっていらっしゃるみたいですけれど。」

「え!?あ、いえ、これは…その。」

「言わずとも分かります。春ちゃんが散らかしたのでしょう?いつも片付けなさいと言っても直ぐに散らかすのですから。よろしければ、私にお片付けをさせてくださいませんか?」

「へ、部屋に入られるんですか?い、いえ、本当に大丈夫ですから……子供のすることじゃないですか。気にされるほどのことでは。」


 ずずいと顔を近づけるすみれに、受け取った鍋を盾にするように顔の近くで持って、響は一歩後退する。


「まぁ、まぁまぁ。お優しいのですね。本当に……。」


 響の言葉にすみれは一瞬停止すると、ほうっと深い息を吐く。

 そうして、すみれは後退した響にゆっくりと近づくと、頬を薄く朱色に染めて響の両手にそっと手を重ねた。


「イ、イチノセサン!?」

「あぁ……本当に。春ちゃんが懐く理由がよく分かります。いつも私のような者にもよくしてくださって……。あぁ、あぁ、やはりあなたは亡くなった夫によく似ています。私…私……どうにかなってしまいそうです。」

「えぇ!?いや、そ、そんな、たまに挨拶するぐらいの関係じゃないですか。」

「何を仰るんですか、それが私にどれだけの力をくれているのか。…何か、何か私にお返しさせていただけませんか?そうです、こんな料理だけでは私の感謝は伝わりきりませんわ。何か、何か……。ほら、青山さんも、お嫌ではないでしょう……?」

「あ、あの、お母様、その!は、春太ァー!」


 興奮気味に荒い息を吐くすみれの目の焦点が左右に揺れる。


 いかん、まるで話が通じない。

 響がすみれを苦手に思う理由はこれだ。いつからか、突発的に…発作的に覚えのない好意を、すみれは響に押し付けるようになった。

 嫌ではない。嫌ではないがまともでもないし、そう易々と受け入れられるものでもないことも確かなのだ。


 そして、後退ではなく背を反ることを途中から選択したのは間違いだった。

 肉じゃががこぼれ落ちてくるかもしれないし、何よりどんどん覆いかぶさるように近づくすみれをこれ以上どうすることもできない。

 頼りの春太も後ろで他人事のようにケラケラと笑っているだけだ。


「なーにしてるんですか、響さん。」


 曲げた膝がプルプルと震え始めた時、ふと耳元で囁き声がした。

 

「よ、ヨンロク……!」

「この前衛的胸デカ女はもしかしてアレですか。あのクソガキの母親ですか。」


 ヨンロクがフードからジト目で響の後頭部を指先で突く。


 随分刺のある言い方であるし、頼る相手としてこの上なく相応しくない相手であるような気がしないでもないが、しのごの言っていられる状況でもないと響は判断する。


「ヨンロク、何でもいいから助けてくれ……!」


 すみれから顔を背けて、できるだけの小声でヨンロクに懇願する。

 すると、ヨンロクは響の肩に肩肘をついて殊更面倒くさそうに大きくため息を吐いた。


「はぁぁぁあ、全く仕様がないですね。本当に、私が居なければ何もできないのですから。そんな体たらくで、よく今まで何事もなく暮らしてこれましたね。しかし何故です?彼女随分お綺麗ですし、子持ちとはいえ若そうに見えますが。何か嫌がる理由が?」

「い、色々あるんだよ!美人だけど苦手で……一言で言うならそう…お、重いんだ……!」

「はぁ、そんなもんですか。ですが、ええ。響さんらしからぬ慧眼です。初めましてですが、あのような悪鬼を野放しにする女はきっとロクな女じゃあないですよ。ほら見えますか、あのクソガキ未だにスターレッドとやらで我が家を蹂躙しているんですよ?」


 迫るすみれから逃れるための、この無理のある体制から背後を振り返ることはできないが、確かに何かしらがぶつかるような音と、「ずがーん、ばしゃーん」といった何かしらを表現するSEを春太が口ずさんでいるのが聞こえる。


「———あぁ、ええ。それを加味すれば、私がこの女に対しても“ムカつく”のも仕方のないことです。躾がなってない、そうは思いませんか?」

「い、いや、お前には悪いけど、春太自身はそう悪い子じゃないと思うが……。」

「あー、甘々過ぎて吐きそうです。いいですか、これは、責任の話です。あのクソガキが本来いい子だろうと、悪い子だろうと、結果はこうです。”他人様の家に上がり込んで器物破損を行った“。ならばその罪の深さを教えて上げるべきでしょう。いけないことをしたのならば、反省する。その方があの子のためでもあります。違いますか?」

「い、言い分はよく分かるが……!つまり、何をするって言うんだ…っていうか春太をどうこうではなく、俺は今のこの状況から救ってくれるだけでいいんだが……!?」

「まぁ、任せてくださいよ。要するに、“奪われる”悲しみを教えてやればいいのです。子にも親にも。未成熟の子がやったというなら母も同罪。それを子供だからと、よしとするならば響さんにもよくありません。…この異常者が、響さんのことを憎からず想っているのは疑問ですが、今回はそれ幸いです。”気に食わない“が前提ですが、そうも言っていられないようです。将来、青山家の癌になり得るこの勘違いヒス女から全てを奪い、二度と青山家の敷居を跨ぐことができないようにして差し上げましょう。」


 奪われる悲しみというのは、未亡人であるすみれは十分分かっていると思うが……というか一体何をするつもりなのか。

 そう口にしようとためらう間に、ヨンロクはフードからふわりと浮いて、反っている響の背後を滑空する。


「よ、ヨンロク、お前どこへ———!」

「それではまた後で、“ダーリン”。」


 妙な呼称に面食らっている響を置き去りに、ヨンロクは響とすみれの隙間を縫って玄関外へと消えていく。


 どうするつもりか分からないけれど、きっと碌なことにならない。

 不思議とそれを確信して響は唾を飲んだ。


「………どうされたのです、何かそこに居るのですか?」

「あ、あぁ、いえ、何でもないんですよ!」


 すみれが慌てる響の様子に疑問を思って、前のめりのまま響の肩越しに後方を確認する。

 しかし、そこには既に何もなく、ただすみれの頭上に疑問符が浮かぶだけだった。


 顔と顔が触れ合いそうなほどの距離。

 普段、絶対に嗅ぐことのない“女性”香りがふわりと風のように鼻に届いて、響は自然と顔を赤らめる。


「ふふ、照れずともよろしいではないですか?お可愛いですね。」

「え、あ、ちょ、顎ォ!」


 すみれは伸ばした首で、そのまま響の肩に顎をそっと乗せると、しなだれかかって響の頬を優しく指先で撫でる。

 一見官能的に見えるそれも、一方的な好意に心当たりがなければ恐怖以外のなんでもなく、しかし女性に免疫のない響の心臓は高鳴り、なんとも言えない感情が渦巻いて響の背を冷たい汗がただ走った。


「……青山さん、今日、私も仕事休みですの。」

「ほわぁああ!?」


 囁くような声。伏せた目で、呟いたすみれの息が、耳にかかって全身の毛が逆立つ。


「その、よろしければ、この後、私の家に………。」


 あぁ、もう無理だ。童貞を拗らせた自分が、このような妖艶な女性の誘惑に打ち勝とうだなんてどだい無理な話だったのだ。

 結局救援は間に合わなかった。すまない、ヨンロク。だがしかし、自分にしては頑張った方だろう。


 開いたままの玄関口。快晴だというのに白黒に見える景色。

 半ば諦めのように。沸騰した脳に、抜けていく力を感じながら、最後の抵抗のように震える唇を動かす。


 ———そして、あまりにも近い距離で、すみれとの瞳が重なった時。

 猛スピードで駆け抜ける音とともに、見覚えのある影が埃を巻き上げながら転がるように、青山宅の玄関前に突如現れた。

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