タンザ
気まずくて最悪な状態だった。
『……』
箱を受け取った俺は逃げるようにその場を離れた。
「こんなのはごめんだな」
「申し訳、あり、ません……」
俯き加減で奴隷ちゃんの表情は読み取れない。
「そもそも、ドレイって名前が良くないんだ」
「……」
「昔、三人の英雄が悪夢を終わらせるべく旅立ったんだが、真っ先に死んだのがドレイってやつだった、これでは縁起が悪い」
「…………」
『なあ、そう思うだろ? タンザ』
俺はタンザの肩に、触れた。
タンザは俺を見上げるとコクリと頷く。
「はい、タンザもそう思います!」
「悪夢を終わらせたやつもタンザって言われていたらしい」
文字通り悪夢を終わらせ、おにぎりを渡す。
「も、貰います!」
それなりのサイズだったおにぎりは一息でペロリとタンザの腹に収まる。
「もう一つ!」
「ああ」
ホイホイ渡していると深刻そうにルビーが。
「にゃ、にゃああ……」
「あるぞ」
「にゃー!」
食べ歩きながら昨日の草原に足を踏み入れた。
前回のミスを踏まえてスタミナを付けてもらう。
「走り込みだ!」
「はい!」
「にゃー!」
三人で仲良く走った!
「なんであなたも走ってるんですか!?」
「走りたいからだ」
不意にタンザが横腹を抑える。
「い、痛いですっ!」
よく分からないが、物を食べた後に走ると腹が痛くなる現象がある。
「休もうか」
「すみませんっ」
歯を食いしばりながら、駆け足へ歩きへと戻す。
そのままゴロンと横になったタンザ。
「にゃー」
痛みが収まるのを待っているとルビーが俺の腕に頬擦りしてきた。
「どうしたんだ?」
しきりに匂いを嗅いで不服そうにスリスリ。
「にゃあ!」
猫語が分かれば、なんとかなるんだが。
「すまないな」
文句があるというのは分かった。
「もう動けます!」
「そうか」
木の棒でトレーニングした後、早速だが実践に移る。
「戦いというのは攻撃が全てじゃない、守りを教える」
攻撃を受け止める構えとタイミング、コツ。
一通り教えた後、ゆっくりと棒を振って何度も教えた。
「次は少し早く振る」
カランと綺麗な構えで防いだタンザ。
「わっ」
それでも握っていた棒が逃げるようにフラリと落ちていった。
「握る力が足りてない」
それでは防げるものも防げない。
「すみません……」
「少し早いが、帰るか」
タンザの右側に立ち、手を握らせる。
「簡単に鍛える方法は握ることだ」
「はい」
「この手を潰す気で握れ」
「……はいっ!」
腕を震わせながら握りこんでくるが、全然だ。
「その調子だ」
街に戻ったら、人数を活かせる依頼を探そう。




