当然必然
『騙しやがって!! 結構キツいんだぞ!』
「悪いと謝ったではないか」
「じゃあ許す」
「なんなんだ? こいつは……」
俺も剣を抜いて構えておく。
「ほ、ホウセンカに手を出すつもり!?」
クレアの脅しは剣でヒュッと断られる。
「バレなければ、良いだろう?」
「覚悟することね……」
赤い装飾品がキラキラ光ると。
羽ばたく不死鳥が四人に突っ込んでいく。
『なにかしました?』
吹かれた雪が炎の鳥を無効化する。
「さいあく」
クレアは相手の魔法に不利なのか。
攻撃を待つなんてできない、先手を仕掛けよう。
飛んできた氷の塊を真っ二つに切って男に接近する。
「兄貴!」
キンッ――
振った剣が防がれ、火花が散る。
横から飛んできた魔法が右肩の鎧を凍らせていく。
『あんたの相手は私よ』
クレアが引き付けてくれる間に!
兄貴と呼ばれた男を弾き飛ばして攻撃を仕掛ける。
「ぼけっとするな! さっさとカバーしろ!」
「はい!」
もう遅い。
仰け反った男の体を斬り抜け、ヒュッとすれ違う。
俺が居た空間に遅れて剣が振られる。
『なんてことを!』
氷の魔法が振られる。
背中に付着した氷が動く為の熱を奪っていく。
「くっ……」
「兄貴ぃ!」
ドサリと兄貴が倒れ。
「返せ! 兄貴を!」
めちゃくちゃに突き出される剣先をキンキンと跳ね返す。
横から振られた剣を下がって避ける。
氷の魔法で左足が凍る。
「今だ!」
繰り出された突き攻撃が、見事に俺の左肩を貫く。
「……ッ!」
痛い、痛くてたまらない。
女の子に叩かれた時、気持ちいいからと。
粗悪な軽い鎧を使ったことが仇となったようだ!
「行け! 下っ端!」
「はい!」
習ったように突き出される剣。
痛みで震える。器用に防げるわけがない。
俺は剣を捨て、遅い剣を掴んで引き止めた。
強く握って抑止する。
「ななな」
その度に痛みと赤い液体がポタポタ。
手が熱い、肩が熱い、血が熱い。
「こ、殺さなきゃ!」
肩から剣が抜かれる。痛え。
「……ッ!」
死んだ。
『そんなわけないでしょ』
遠くからやってきた不死鳥が男達を焼いていく。
「ぎゃああ!」
「あつい!」
擦り傷を負ったクレアが近づいてくる。
「危ないわ」
女を処理したらしく、邪魔はされなかった。
ホウセンカに所属しているだけある。
「凄いな、クレアは」
氷に染まった足を残して俺は膝をついた。
「当然じゃない」
当たり前だと言わんばかりな態度。
俺の左足を縛る氷を魔法で溶かしてくれる。
「怪我、してるな」
近くで見ると頬を切っている。
短時間の魔法合戦で風の魔法を食らったのかもしれない。
「薬をやろう」
ホウセンカは美女でなければいけないらしい、早めに飲めば傷は残らない。
「あんたの方が重症よ、要らない」
「飲んでくれ」
「血が出てるよ……?」
「ああ、そうだな」
言われてハッとする。俺の手は血だらけだ。
血がつかないように飲み薬(1000ヘル)を開封してクレアの口元に近づけた。
「ふ、震えてるじゃない」
「そりゃな」
嫌そうにしながら飲んでくれた。
すぐに効果が出るわけじゃないが、これで大丈夫だ。
「あ、あんたは?」
「……死に時は把握している」
「嘘でしょ?」
数歩だけ歩いて、採取した花の根で仰向けになる。
「はあ、はあ」
クレアが近くで心配そうに見てくる。
「あんたが飲めばよかったのに」
「やば、後悔してきた」
不味いのに。
「……」
クレアが涙を見せてくる。
「泣かないでくれよ」
「だって……!」
ポロポロ、ポロポロって。
俺はそんな姿を見ながら花の根に手を伸ばした。
ムシャムシャ。
「――え?」
薬の元である花の根。
ある程度食えば薬として効果が出る。
問題は土がついててジャリジャリするし、不味いのに噛まなきゃ行けないことだった。
さらにムシャムシャ。
掴んだ束をまるごと食べると痛みが引いてポカポカ暖かくなってくる。
「薬になるんだから、これでも薬みたいなもんだろ」
死にそうだった俺はサッと立ち上がることができるように。
剣を拾いに行かないとな!
『……本当に死んでほしい』
最上級の罵倒、感謝します。