美しく見えそうになる
『そろそろ着くぞ』
「降りる」
カゲはパッと俺から離れ、ホウセンカに入ると報酬が渡される。
『報酬は三人分で良い』
「四人って言ってたくせに……どこにいるか知らないんですがね」
「すまないな、現れなかったんだ」
俺の隣に居るが、言わないでおく。
俺の報酬を割ればあるようなもんだしな!
「そう……さて」
女性がルビーに別の袋を手渡していた。
「かわいいから蜂蜜あげる」
袋を受け取ったルビーは嬉しそうに足踏み。
「ありがとう!」
「喋れるなんて……!」
「にゃー!」
女性達に「こんなかわい子ちゃんの報酬取ったら許さないから」と釘を刺され。
手を繋いだ二人はスタスタと去っていった。
「俺ってそんなに悪人面してるのか?」
「エム、背負え」
「嫌だな」
「……悪人め」
ひどい言われようだ。
「真剣な話をするなら、男の印象はここだと悪いと聞く」
「ああ、そうだったな」
陽も落ちそうということで、腹ごしらえにブランドの酒場に寄る。
クレアがいることに気づいた俺はドラゴンを被って近づくことにした!
「エム、なにを……?」
「これは被り物の使い道を探る為でもあるんだ」
リドルに「そんなわけ」と言われたが、気にしない!
揺れる銀髪にルビーは手を出してこない。
不思議に思って見ていると両手で目を隠していた!
確かにこれなら手は出ない、失敗から学べたと言うのか。
『ほう、経験が生きたな』
とても偉いと思った俺はその場でヨシヨシと撫でる。
「凄いぞ、成長したな」
「だ、誰!?」
声でクレアにバレてしまった。
この失敗は次に生かそう。
「このドラゴン、どう思う?」
「……かっこいいんじゃない?」
「だよな! それが聞きたかったんだ」
「ドラゴンは良いけど、あんたはそんなに良くない」
「な、な、なんだと……」
真剣な顔で言われるとショック。
「鎧とか付けて人肌をもっと隠せば?」
「防具に金をかける余裕はない」
「確かに」
その間にカゲとルビーはブランドに注文を付けている。
「クレアが付けたらどうだ」
「いやあ……加工する過程で飽きるほどつけたから」
「他人の視点でドラゴンを見てみたいんだ」
頼むとコップを置いたクレアが渋々、被ってくれた。
確かに、酒場でドラゴンは場違いだと感じる。
「満足した?」
「ああ、助かった」
ドラゴンを外すと髪が微かに乱れる。
「……良いな、それ」
「何が?」
「物騒な被り物から美人が出てくると、余計に美しく見えそうになる」
「それ褒めてる?」
「褒めてるぞ」
「なら良いけど」
先に飲んでいたクレアは一足先にフラフラ帰っていく。
「カゲも被りたい」
「酔ってるのか?」
カゲの近くを嗅いでみるが酒の匂いはしない。
「とにかく、被りたい」
ドラゴンを渡すとすっぽり被ってしまった。
「エム、見てて」
そう言ってドラゴンが脱がれる。
カゲの黒い髪は寝起きのようにピコピコ跳ね上がっていた。
「ふっ」
「む、なにを笑っている」
「見てみろ」
近くの鏡をカゲに向けて、今の姿を見せてみる。
『な、なな……』
カゲは恥ずかしそうにドラゴンを深く被り直してしまった。




