美味しい夢
「――人間は記憶に縛られやすい、正しい判断が鈍るって話だ」
「当然の事じゃないかな……?」
「幽霊なら分かるんじゃないか、助けるか否かの線引きに昨日の思い出なんて」
「大事だと、思うけど」
「そうか?」
「明日はリュウキの為に見るもん!」
「そうなのか」
リドルは不思議そうに俺を見てくる。
『そっちの方が、幽霊みたい』
「……かもな」
幽霊に言われるとは思わなかった。
「他にも色々聞かせて」
「そんな良い話はないが……」
できる限りの話を広げてみた。
夜が開けるまで風呂敷を開くというのはきついもので、限界を感じた。
「あ! 向こうの空が赤くなってきた!」
「そうだな」
「やっぱり、夜より朝が好きだな〜」
昇ってきた光がピシャリとリドルを掠める。
ほんのりと暖色に当てられた頬に白さは残らない。
人肌の化粧を見た気がした。
「綺麗、だな」
「分かる!」
飲み終えた酒を元の場所に戻し、金を置く。
「もう少しでリハーサルか」
「うん! 起こしてあげないとご飯食べる時間もないよ!」
リドルに連れられて家に戻り、二人を起こす。
「美味しいお店あるから、行って欲しいな〜」
「それはまだ続いてるのか?」
「夜中に見た時はあったし」
場所は分からないが、行ってみたいな。
「任せて」
リドルに案内してもらうことにした!
「曲がってー進んでー」
ホイホイついて行くとこじんまりとした店の前。
「ここが美味しいらしいぞ」
「にゃ?」
「にゃまいらしい」
「にゃまい!」
入ってすぐ、古い匂いがした。
『これが、メニューとなります』
店の人が指差す一覧に目をやる。
分からないのでリドルに目をやると。
お肉が美味しいらしい。
「美味しいお肉が食いたい気分だ」
「はいはい!」
忙しなく動く店の中、俺達はカウンターの椅子に座って動きを見届けることにした。
「エム、手を貸してくれ」
「貸そう」
左側に座っているカゲの為に左腕を提供する。
「少し、眠い」
そう言って俺の手の甲に頬を乗せ、己の両腕をだらんとだらしなく落とした。
「…………」
しばらくして美味しそうな肉が届き、男の人が置いた更に素早く起き上がる。
周りを何度も見たカゲがフッと一息。
「どうした? 悪い夢でも見てたのか?」
「それは、ない」
「ヨダレが……」
「むっ」
カゲは素早く口元をゴシゴシ拭っていた。
「美味しい夢でも見てたな」
「むむむ……」
図星だったのか、恥ずかしそうに頬を赤くしていた。
「にゃまい!」
その間にルビーが肉を手づかみで頬張っていた!
「お、怒られるぞ」
「素晴らしい食いっぷりだ、作った甲斐があったよ……」
世界はルビーを中心に回っているのかもしれない。




