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全てを受け止めていたら最強になっていた。  作者: 無双五割、最強にかわいい美少女五割の作品
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ウルフファング








 肩に向けて突き立てられるダガー。


 貫かれないように左腕でガードすると。


 鉄同士がカチンとぶつかった。


 相手がそのまま突き刺そうと力を込めてくる。


『お前が亡霊か?』


『……』


 答えてくれない。


 もしかしたら亡霊じゃないかもしれない。



『じゃあ殺してもいいよな』



 右手の剣で素早く突きを繰り出す。


 相手は距離を取って避けると短剣を振りかざした。


「……!」


 単調な動きに剣で応えて弾く。


 キンッ――



 相手の手から離れた短剣はクルクルと回転しながら打ち上がる。


 タックルで押し飛ばして先に奪い取った俺は、遠くに投げた。


 木に刺さった短剣は『トンッ』という良い音を残す。


「こんな良いダガーで悪事か?」


 武器を失った相手が距離を取ろうとする。


「金欲しいんだろ」


 剣を鞘に収めて金の袋を見せた。


「分けてやってもいい」


 ジャラジャラと金の音を聞かせると。


 亡霊がとぼとぼ近づいてくる。


 素直じゃないのか、飛んできた拳をパシッと抑えると抵抗しなくなった。


「とりあえず話すか」


 毛皮の処理をして残った肉。


 細い木を組んで火を付け、暖を取った。


 剣で切った肉を枝に刺して炎に傾けていると。


「……」


 隣に鎧の奴が座ってきた。



「金の為にしてたのか?」


 コクリと頷き、肉を一枚手に取る。



 火の中に鉄の手ごと肉を突っ込んで焼き始めた。


「俺もなんだ、一緒だな」


 こいつは金に取り憑かれた亡霊なのかもしれない。


「……」


 焼けた肉を噛みちぎる。


 筋肉がついた獣の肉は美味いが、食いにくい。


 本来なら調理道具で処理を施してから食う。


「どうやって食ってるんだ」


 鎧の隙間に肉を差し込んだ亡霊はモッサモッサと体を揺らし、肉が帰ってくることはなかった。



「……」


 秘密だと言わんばかりに人差し指を立ててきた。



 肉を食べ終えた俺達は、夜が明けるまで狩りをすることにした。


 途中でダガーを回収。


「これは、返す」


 効率を重視して獣の皮を集める。


 短時間で沢山集める方法はただ一つ。


「走れ! 逃がすな!」


 見つけたら全力で倒すことだ!


「うおおお!」


「……!!」


 獣より早く走り、飛び込みながら剣で貫く。


「……、……、……」


 亡霊が遅れてやってきた。


「鎧着てるしな」


 毛皮は剥いで集める。


 肉は生で亡霊が鎧の中に収めていく。


 それから獣を追いかけ続け、夜が明けていた。



「俺は街に戻る、お前もだ」


 街に戻ると。




『あんた! なんで宿取ってないの!』




 クレアに見つかった!


 近づいてくるクレアはお怒りモードだ。


「わ、悪かった」


 頭を下げて許しを求める。


「……こいつなに?」


 亡霊のおかげで話が逸れたぞ! 助かった!


「そのうち分かる」


 クエストワークに向かいながら、亡霊に状況を説明する。


「俺は依頼でお前を捕らえに来た」


「……」


「だが、国に持っていかれることはないはずだ」


 説得してクエストワークに入る。


「隣の方は?」


「亡霊」


「まあ! 少女の自宅はですね……」


 受付の人が教えてくれた家を尋ねた。


「あんた、こいつが噂の奴とは限らないけど?」


「それを確かめる為でもある」


「バカみたい」


「ありがとう」


「はあ?」


 コンコンとノックして数分。


 出てきたのは白ヒゲを蓄えた屈強な男だった。


 頬に若い切り傷を負っている。



『どちら様でしょう?』



「依頼で亡霊を連れて来ました」


「この鎧、どっかで見たような」


 男がヒゲを撫でながら亡霊を見て、家の中を覗き込む。


「メイ! クエストワークでまた何かを頼んだのか!」


 メイと呼ばれた女の子がドタバタと出てくる。


「た、頼んだ……」


「お金かかるんだぞ、勝手に出すんじゃない」


「でも亡霊に斬られたんでしょ! お父さんに、酷いことしたことを、謝って欲しくて……」


 そう言って瞳を潤ませるメイ。


「ああ、攻撃してきたのはこいつなのか!」


 納得した男が手を叩く。


「薄暗くてね、娘には亡霊だよって言いましたが」


 その亡霊が、父子の前でカチャカチャと鎧を揺らして謝った。


「……」


「この頬だけなんだ、君とは限らないし土下座までしないでくれ」


 鎧がそれに対して何度も頭を下げ、数歩下がっていく。



「喋れないの?」


「……」


 メイの問いに亡霊がコクリと頷く。


「そっか、大変なんだね」


 声を出せない人間の仕事は限られるだろう。



「……お兄さん、ありがとう」


 メイはかわいい声でお礼を言ってくれた。


『報酬の件だが、おじょうちゃん。お父さんのへそくりを半分頂こうか』


「いい男がなにしてんの!」


 クレアにガツンと頭を殴られた、痛い。


「じょ、冗談だ」


「メイは色々できるから、メイがへそくり分がんばる!」


「そうだな……もしかして! へそくりを取ってくるとか、できたりするんじゃないか?」



 クレアが『言い方を変えても無駄よ、子供にたかるなんてバカなんじゃないの』と罵倒してくる。



『……君が元気なら、俺達にとって最高の報酬だ』


 俺はクルリと背を向けると心のマントがバサァッと揺れた気がした。


「か、かっこいいー!」


 ふ、決まったな。


『……へそくりねだってる時点でだっさいんだけど』


 クレアがポツリと呟いた。


「ありがとうございました」


 お父さんはドアを閉め、一件落着。



「忘れるところだった」


 亡霊に獣の皮を半分に切って渡す。


「……!」


「一緒に狩ったから、半分だ」


 クレアが「ちょっと待って」と口を挟んでくる。


「こいつってやばい奴でしょ? なんで渡すの」


「一緒に頑張ったからだ」


 俺は亡霊に毛皮を握らせた。


「じゃ、またな」



『……、………』



 亡霊は頭を下げると俺のように手を振って下がっていった。


「本当によかったわけ? ウルフファングの皮って高いのよ?」


「それは良くないな」


「でしょ」



『さっき切り分けたから、正確に半分こできてないかもしれない』





『そういう意味じゃない!!』









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