錯誤
『墓に案内しようか』
「いや、そんな関係じゃない」
遠慮してその場を去る。
死んでいた人物を殺す方法は存在しない。
家に戻って幽霊さんに報告すると。
『あれ? 昨日のことみたいに思い出せるのに』
頭に人差し指を立てて不思議そうにしていた。
「望み通り死んでてよかったじゃないか」
「仲間が増えると思ってたのに」
少し、部屋が冷えた気がした。
「やっぱり寂しい、人が恋しい、虚しい」
空中で寒そうに膝を丸める幽霊さん。
「成仏って概念はないのか? 本ではよく聞く展開だが」
「新しい未練ができたから、まだいけない」
「お望みはなんだ」
「秘密!」
「未練タラタラの幽霊が未練を言わないなんてありえるか?」
「とにかく、その未練を何とかするために外に出る方法考えて」
唐突な無茶振り。
俺は幽霊でもなければ、本と人から聞く程度なんだが。
「外出したいのか」
「うん!」
当たり前と言うような頷き。
一緒に考えてみたが、大して浮かばない。
俺は幽霊じゃないからな。
「死んだ時、物に憑依するとは聞いたことあるんだが」
「ひょーい?」
「依存するってことだ、それに縛られているから動けない」
「何に依存してるんだろう……?」
「身につけていた物、大切な物、色々ある」
「来て」
ふわふわと移動する幽霊についていく。
カゲ達が寝ている部屋を出て、別の部屋に入る。
「……臭うな」
「ここで、死んだから」
乱雑に散らかった衣類と家具。
赤は見えないが、赤い臭いが微かに残っている。
「そうか」
「死んだ話、聞きたい?」
「勝手にしてくれ」
「ここで背後からグサッてやられて、咄嗟に魔法道具を……この下に隠した」
シワとホコリにまみれた赤い服。
「見てもいいか?」
「うん」
服を広げてみると綺麗なドレス。
隠すようにキラキラと光る青い物が見える。
手に取ると紐がついてきた。
「これは違うな」
「違わないよ」
「赤い魔法道具の方が、威力は優れている」
「魔法道具って青しかないよ?」
「えっ?」
「え?」
幽霊さんに赤い物が主流だと言ってみる。
「そうなんだ……青はもうダメ?」
「青のメリットはとても燃費が良いこと、鉄板を熱する料理程度なら火力も充分。あとは武具に使うくらいだな」
俺の剣が赤い鉱石なのはどう考えても設計ミス。
『火力、高かったけどなあ……』
不満そうな幽霊さん。
「それより、この石がどうした?」
「特別な気がする、気のせいかもだけど外に出れる気がする」
「そうか」
玄関の前に移動して試してみる。
「これ持って外に出るぞ」
「うん」
古臭いドアを開くと月明かりが差し込んだ。
出る前に右手の青いメナスを月に晒すと。
キラキラ、特別感を反射した。




