嫉妬
いつものおにぎりセットを頼んで歩きながら食べる。
俺は特に要らないので荷物役。
『エム、コノハの容態を見た』
「シンスに連れられて?」
「終わった後、こっそり」
白い三角の山がカゲの口に隠されて消える。
「どうだったんだ?」
「起きてなかった、それから、片腕がなかった」
両手の指で支えられたおにぎりは三分の一となった。
「大変だな」
「片腕くらい、人望で作れるだろう」
「失うこと自体は辛いと思うぞ」
「……カゲは、羨ましい」
最後の一口をパクリと食べるとおにぎりの抜け殻をその場にポイ。
「なにやってるんだ」
街が汚れないようにカゲの不手際を代わりに拾っておく。
「すまない」
「衝動のままに動くのは良くないな」
「自分勝手の癖が」
このミスが戦場なら不利を招く。
「代わりに持って反省するんだぞ」
おにぎりが潜むボックスをカゲに渡し、中身をルビーにシェア。
「にゃあ!」
カゲを見向きもせずにおにぎりをもぐもぐしている。
「にゃまい!」
「良かったなー」
チラッとカゲを見てみる。
「おもい……」
「そうか?」
クエストワークに入って依頼を一つ手に取る。
前はドラゴン。今回は商人の護衛。
『エム、護衛とは?』
「今回はここからナタリアという国まで馬車で行くそうだが、安全の為に適当な人間を構えたいんだろうな」
「…………」
「どうした?」
「なんでもない」
カゲにとって期待通りの答えじゃなかったようだ。
「そうか」
紙に書かれた集合場所に俺達は向かった。
草原の中で草木が最も深い場所。
途中でヒヒンと馬の声。
草を掻き分けて侵入してみる。
『誰だ!?』
「依頼の通り、護衛に来た」
紙をペラペラ見せると分かってくれた。
「頼もう、酷く疲れた」
依頼主の太った商人と馬を操れるムチを持つ男。
商人と男が馬に近づいて乗り込む。
『お前達は後ろの小屋で待機してくれ』
商人が乗り込んだ場所は壁どころか屋根もない。
対して、俺達が乗る場所は完全に個室だ。
「良いのか? 護衛が前に出るべきだろ?」
「馬操るし」
商人も馬を操る人間だった。
「分かった」
小屋に入ってみるとそれなりの空間。
特に問題はない。
カゲが入ってきて、続くようにルビー。
「エム、座ってもいいか?」
「聞く必要あるのか」
「……遠慮なく」
ちょこんと俺の膝上にカゲは座ってきた。
「遠慮ないな」
「物を持って、カゲは疲れた」
ルビーにボックスをパスしたカゲ。
俺を背もたれのように遠慮なく体重を預けてくる。
「自重して欲しいな」
パシンと音が鳴り、馬も鳴く。
馬車は軋みながら走り始めた。




