バカみたいな話
歩きながらシュッシュと繰り出される拳。
紙が揺れてさらにルビーは陽動される。
『うーー』
文句ありげに唸ると、飛び込んできた!
「ぐあっ」
受け止めて反動によろける。
「にゃー!」
ギュッと引っ付いて離れないルビーを抱えながら歩きを再開する。
「……なんで平然と歩けるの?」
「重いわけじゃない」
「変なの」
首元に歯を当てられながらしばらく歩くと。
「にゃ、にゃ……」
冷静になったルビーが離れていった。
バツが悪そうに顔を逸らされる。
「怒ってないぞ」
猫耳に触れると珍しく文句を言われなかった。
「触り心地は良いな……」
クレアがそんなに好きなのって聞いてくる。
「好きだな、怒られる価値はある」
「そう」
俺の熱意とは裏腹に、淡白な返事。
ギルドに入るとクレアは美女に報告していた。
『はい、シンス様に報告しておきますわね』
報告後、約束の冒険。
クエストワークに寄った俺達は手頃な依頼を探していた。
特に良いのはなかったが、普通のドラゴンを倒すことになった。
「今ならルビーも居るからな!」
「にゃ?」
腹ごしらえで士気を高めてから目標の草原に向かった!
しばらく歩いてクレアが腹を撫でる。
「どうした?」
「ちょっと、食べすぎたかも」
食べたご飯はブランドの酒場で日替わり定食。
パン一切れと焼いた肉と簡単な野菜、クレアはブランドに煽られてパンを五枚も胃に収めていた。
そんなに食えば、歩くだけで横腹が痛くなるのもおかしくない。
「助けは必要か?」
「……うん」
クレアの前にしゃがむと素早く乗ってきた。
「ちょっと安心する」
「そうか?」
「変なこと、しなさそうだから」
「そうだな」
しかし、しなさそうと言われたらしてみたくなるのが男。
俺は変なことをしてみることにした。
「クレア、変なことしてもいいか?」
「ダメでしょ」
「いや、させてもらう」
胸の前でだらしなく揺れるクレアの手に触れ、編むように繋ぎ上げる。
「させてもらった」
「変なの」
「そうだろうな」
「変なのはあんただから」
「そうなのか」
よく考えてみると、酷いことを言われたことに気づく。
「カルチャーショックだな」
「どこが?」
「どこでもいいだろ」
「ボケてるつもり?」
「そうだ」
「あんまり、面白くないから」
鋭利な真実がグッサリ刺さって気持ち良く引き抜かれる。
「鋭いな!」
「なんで嬉しそうにするの?」
途中でクレアが「もう歩けそう」と言って降りた。
「手は、このままでも良いけど」
「いや、離そう」
指を抜こうとするが、変な力が加わっていて離れない。
「なんで?」
「もしもの時、クレアを守れないからな」
『……離す』
スッと抜けた手を鞘に添えてクレアと並ぶ。
「顔が赤いが、本当に歩けるのか?」
「お腹じゃなくてあんたのせいだから大丈夫」
「気に食わないことをしたのは確かだ、謝ろう」
頭を下げるとクレアに『バカじゃないの』って言われた。
「ルビー、俺ってバカだと思うか?」
肯定するようにコクコクと頷かれ。
「これが本当のカルチャーショックだ」
猫耳族だけに!
『あっそ』
カゲだったら……いや、アホエムって言ってくるか?
仲間が居ないことを知った。
「面白いと思ったんだが」
今度、俺がバカなのか聞いてみよう。




